自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ハンデル自由都市国編

第55話 迷宮都市ラビラント 2

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 ダンジョンの入口は、崖にぽっかりと穴が開いている形だ。そこが崩れないように魔法をかけてあるようで、しっかりと固まっている。
 ランクを検査するような建物はなく、入口には騎士が二人いるだけでタグの確認すらしない。つまり、怪我しようと死のうと自己責任ってことなんだろう。
 騎士は何かあった時のために配置されているようだしね。

「リコ、今のうちに小さくなっておこうか。それともそのサイズのまま入れそう?」
<一回小さくなっておく。広そうなら元に戻ってもいいし>
「そうだね。まあ、小さくても魔法の威力は変わらないから、大丈夫だとは思うけど」
<確かに>

 リコが入るには入口が少々小さいため、縮小のスキルを使ってもらい、中へと入る。そのまま数メートル歩くと視界が開け、なぜか草原地帯に出た。

「おおう……なんと摩訶不思議な……」

 ダンジョンとはなんぞや。洞窟のようなものを想定していたから、つい唖然としてしまった。
 立ち止まっても他の人に迷惑になるからと、歩きながらマップを確認する。

「……さすがリュミエールからもらった、特別なマップなだけあるわね……」

 なんと、ここも全部カラーとなっているうえに、宝箱の場所まで書かれている。しかも、階段のところを触れば下の階層も見れるうえに隠し部屋までわかるんだから、本当にどうなっているんだと遠い目になっても仕方ないと思う。
 はぁ……と小さく溜息をついたあと、近いところにある宝箱に向かい、歩き始める。
 最初に出くわしたのは、一角兎。仔馬サイズのままのリコがストーンバレットを放つと、ポンっと音がすると共に煙となって消える。
 そこにドロップしたのは角と肉、皮と尻尾、魔石。

「へ~、こうやってドロップするのか」
<面白いな!>
<<<だよねー!>>>

 キャッキャとはしゃぐ従魔たちに、ついほっこりする。魔物は順番に倒していこうと話をして、歩き始める。ノンは採取もしてくれるようで、籠を要求された。
 籠を渡すと、ご機嫌な様子で尻尾を立て、ピョンピョン跳ねている。
 次に出会ったのはスライム。ノンのような丸っこい形のものではなく、下がドロッと溶けて粘着物が出ているタイプのスライムだ。

<もー! 採取の邪魔しないで!>

 採取の邪魔をしたスライムは、ノンのエアバレットであえなく消える。ドロップしたのはドロッとした粘着物と核、そして魔石だ。
 何に使うんだろうと粘着物と核を鑑定してみる。すると、粘着物はゼリーや糊として活用でき、核はダンジョン産のみ宝石に分類されると出た。ゼリーは小説でも定番だからまだ納得できるけれど……。

「おおう……宝石になるんかーい!」

 ダンジョン産と限定しているから、外では核は出ないのかもしれない。今のところ遭遇していなから、核が出るかどうかわからないが。
 ドロップを拾って歩くと、今度は仔馬サイズのリコよりも少し大きいもこもこした魔物である、プチムートンが二体現れる。ピオとエバがファイヤーバレットで倒すと羊毛と肉、腸と魔石が出た。
 肉はラムとなっている。

「へ~、羊腸も出るんだ」
<羊腸は何に使うの?>
「ソーセージが作れるよ」
<<<<おおお~>>>>

 エバの質問に答えると、みんなして目をキラキラと輝かせる。そんなにソーセージが気に入ったんかい。毎回出るとは限らないから、これはラッキーだったと思うことにしよう。
 そんな調子で第一階層を歩き、草の中に隠れていた宝箱を見つけて開けると、中にはポーションが入っていた。
 これまたラッキーだと思いながら、二階の階段を目指す。
 マップによると、第一階層の広さは十キロ四方ほど。他のダンジョンに入っていないからここが広いのか狭いのかわからないが、それでも歩くのに時間がかかる。
 いざとなったらリコに跨って移動できるけれど、全部の階層が一階と同じように草原とは限らないし、リコに跨っていたら確実に目立つ。だからこそリコは小さいままだし、私もそのまま歩いているのだ。
 一角兎やスライム、プチムートンと戦闘しつつ、宝箱の中身を回収しながら歩くこと一時間。二階へと下りる階段を見つけた。魔物が寄って来ない場所――セーフティーエリアは私たちが歩いて来たところとは反対側にあったので寄っていない。
 下に降りる前に階段で休憩し、水分と果物を摂取。十五分ほど休憩したあと階段を下りると、第二階層も草原だった。魔物も一階と同じだったので割愛。
 第三階層は林になっており、階段付近は草原、奥に行くと林が点在しているような風景に、唖然とする。林の中も探索できるんだろうか?
 行ってみればわかるかと、セーフティーエリアを目指して歩き始める。その進行方向に林があるので、中に入ってみた。すると、宝箱のマークがいくつか出てくる。

「へ~。林の中は宝箱があるのか」
<薬草やキノコもあるよ、アリサ>
「本当? なら、採取してそれをお昼に食べてみようか」
<<<<やったー!>>>>

 元気に返事をする従魔たち。外とダンジョンでの味比べをしてみようと提案すると、従魔たちが喜んだ。
 あと、リュミエールの加護があるからなのか、外にいた時もそうだったけれど、ダンジョンの中でも魔素を感じることができた。ダンジョン自体の特色なのか、魔素は外よりも濃く感じる。
 ダンジョン産の素材のランクが高いのは、もしかして魔素に関係している……?
 薬草のランクによって出来が変わるポーションを作ってみればわかるかもしれない。それは休憩している時か、夜寝る時にテントで実験すればいいとして。
 まずはお昼を摂るためにセーフティーエリアを目指す。
 マップを見ながら宝箱を回収し、ノンと一緒に薬草やキノコを採取する。リコとピオとエバは飛び出してきた一角兎やフォレストタラテクトを倒してくれる。
 タラテクトの糸のランクはBだ。せめてAランクの糸が欲しいけれど、魔物が強くなればその分糸のランクも上がるのか、それとも魔物自体のレベルに関係しているのかわからないのがつらい。
 うーん……。寝る時にでも、ゆっくりとリュミエールからもらった情報を精査してみよう。ダンジョンの中でそんなことをしている余裕はないしね。
 そうこうするうちにセーフティーエリアに着いたので、お昼ご飯。動いたからなのか肉が食べたいと言う従魔たちに苦笑しつつ、コンロとフライパンを出して準備する。
 他の冒険者も肉を焼いていたから料理しようと思ったのもある。

「肉は何がいい?」
<<<<ボア! 夜はムートン!>>>>
「はははっ! いいわよ」
<<<<やったー!>>>>

 すっごく喜ぶ従魔たちにほっこりしつつボアの肉を切り、ハーブ塩で焼く。ミショの実を使いたいところだけれど、他の冒険者がいるからね~。絡まれるのが面倒だから、さすがに自重した。
 肉を焼きながら野菜スープを作り、従魔たちと一緒に食べる。他にも、キノコを食べ比べてみた。
 外にあったのとは違い、ダンジョンで採れたものは味がとても濃く、弾力もある。しかも、同じもののはずなのにダンジョンのもののほうが大きかった。
 うーん……やっぱり魔素が関係しているとしか思えない。
 まあ、関係していたからといってどうこうってわけじゃないし、美味しいからいいかと考えることをやめた。

「よし、じゃあ、下に行こうか」
<<<<はーい>>>>

 片付けを終え、従魔たちと一緒に階段を目指す。林の中に入って宝箱と薬草、キノコを回収しつつ第四階層の階段を目指すと、あっという間に着いた。
 そのまま階段を下りるとまた草原と林の風景になる。
 下に行くほど魔素が濃くなっているような気がするんだが……気のせいだろうか?
 もう少し深い階層に行ってみないとわからないなあ、これは。そんなことを考えつつプチムートンと戦闘をし、ドロップを拾う。今回は魔石と羊毛、毛糸をドロップして、他は出なかった。
 ドロップはやっぱりランダムなのか。あるいはレア素材か。
 まあ、たくさん戦えば出るだろうし、今のところそんなにたくさんは必要ないからいいか。ただ、やっぱり魔素が濃くなっているのか、魔物のレベルが上がっていた。
 フォレストタラテクトとも戦ったけれど、三階とは大きなレベル差がないからなのか、糸のランクはBのままだった。Bランクの糸同士を錬成すると、どうなるんだろう?
 あとで実験してみようと思いつつ、第四階層を攻略していった。

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・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

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