自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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セガルラ国編

第47話 村に帰還

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 売り上げをそのままマジックバッグに入れ、商業ギルドに向かう。そこでもう一度売上金を数えてもらい、その一割を納付するのだ。
 ギルドに着くと個室に通される。待っている間はドキドキしていたようで、落ち着かないのか、四人がずっとそわそわとしていたのには笑ってしまった。

「確認ができました。それでは、こちらから一割を納金してください」
「はい」

 目の前で数えてもらったけれど、私たちが数えた金額と同じだった。そこから一割分のお金を分けて職員に払うと、職員も一割分あるかどうか数えたあと、頷く。
 これで一割の税金を支払ったことになる。
 一番楽な方法は、ギルド職員がそのまま一割を差し引いて、私たちに戻せばいい。けれど、過去にお金に目が眩んでちょろまかした人がいたそうで、今のようなシステムになったらしい。
 もちろん、そういった不正ができないよう、職員が二人いる。つまり、お互いが監視要員なのだ。
 どこにでもいるんだなあ……横領をする人って。ほんと、迷惑千万だよね。
 村の人たちのために布や裁縫道具と食料――主に肉を買わないといけないので、その分以外は財布になっている革袋に全部しまったあと、マジックバッグしまう。高額になっているから、私と従魔たちが護衛になるつもり。
 もちろん、切られても大丈夫なようにバッグの革を分厚く、そして二重にしている。
 スリはどこにでもいるからね~。彼らを撃退するためにも、護衛は必要だ。特にピオとエバは雷が使えるから、痺れさせてしまえば簡単に捕まえられるし。
 あれだけ人がたくさん並んでいたんだから、儲かったと思われている可能性が高い。目敏いスリに絶対に狙われるはずだ。
 なーんて思っていたら案の定スリが出た。まあ、スリが近づいてきた時点で悪意がわかるノンにバレて、こちらにぶつかってバッグを奪われたり懐やポケットに手を入れられる前に、エバの雷で一発退場。
 近くを通りかかった騎士にスリだと話すとすぐに簀巻きにしている。騎士たちがスリの懐を探ると、私たちの前にスリをしてきたみたいで財布が複数あった。
 罪状が複数になって大変ね♪
 騎士によると、すられたと言ってきた人がいて、その人たちが詰め所で待っているそうなので、財布は持ち主に戻るだろう。
 スリを引きずっていく騎士を見送ったあと、買い物をするために店に入る。かなり大きな商店だったんだけれど、そこには一番最初に買い物をしてくれた女性がいた。

「あら! 今朝はありがとう! 主人にも褒められたの」
「それはよかったです! 僕たちも頑張った甲斐がありました」
「そう言っていただけると、私も嬉しいわ」

 和やかに話す女性と獣人たち四人。話をしながらさり気なく彼らを護衛し、私も店内を物色する。
 何か面白い食材や道具がないかな~と思い、一緒になって見ていたのだ。
 結局は目新しいものがなかったから、買うことはしなかったが。
 大量の布と野菜の種や苗、裁縫道具と肉、ワインやエールを樽で買ったからなのか、種と苗、肉の金額をおまけしてくれた。お礼を言っている彼らを見つつ、苗を馬車に運んでもらったりそれを手伝ったりして、帰る準備をする。
 今から帰ると、七時くらいには村に着きそうだ。そのころには日が暮れる時間だから、ギリギリだろう。
 町に泊まってもいいけれど、四人が帰りたそうにしていたんだよね。だからこそ、今日買い物をしたのだ。
 全員が馬車に乗ったところで私が御者台に座り、馬車を走らせる。引いているのはリコなので、もしかしたら七時前に帰れるかもしれないと話すと、飛ばしていいと言う四人。

「よし。なら、ご期待に応えましょう!」

 ということで、通常の馬車とは比較にならないほどのスピードで街道を飛ばした結果、村には一時間弱で着いてしまった。もちろん、馬車がガタガタと揺れるなんてこともなかったから、苗や肉がそこらに転がっているなんてこともなく。

「……アリサ、僕たちが悪かった!」
「さすがはバトルホースよね……」
「まさか、こんなに早く村に着くなんて……」
「ははは……」

 飛ばしていいと言ったのは四人だものね。そりゃあ、本気を出したリコは早いでしょうよ。
 いいじゃん、早く着いたんだし、四人とも馬車酔いもしてないんだから。私は反省も後悔もしない。
 種を蒔いたり苗を植えるのは明日にして、集まってきた住人たちに肉や布、裁縫道具を配る四人。お金も半分は村長むらおさに渡し、残りは住人に配っていた。
 そのお金を元にしてアクセを売る専用の建物を作り、評判を聞いてやって来た人に売るつもりだという。
 うん、これなら大丈夫かな?
 ツナの作り方も教えたから、明日はその料理を教えよう。といっても、この村だとサンドイッチやサラダくらいにしか使えないと思う。あとは卵焼きの中に入れるくらいか。
 お土産にするにしても、缶詰なんてないからね。瓶詰にしてもコストがかかるから実用的ではないし、土産にしないでこの村限定というのもアリだ。
 村興しのためのものなんだから、あとは自分たちで考えて、生活していけばいい。
 大きくしないまでも、自分たちが生活できるだけのお金を稼ぐ手段は確保できたんだから、これから先は貧しくて飢える、なんてこともなくなるだろう。
 結局今日も宴会になり、夜は更けていった。

 そして翌朝。ご飯を食べた人から馬車に集まり、自主的に苗や種を持って畑に行く住人たち。大工たちは村長やアクセを作る二人を交え、どこに建物を作るか話し合うそうだ。
 人が来て泊まっていけるように、宿と食堂を兼ねた建物を作るとまで言っているんだから凄い。自分たちで村全体を直したことが自信に繋がったみたい。
 うん、いいことだ。
 これなら、そろそろ私が旅に出ても問題ないだろう。
 話し合いが終わったのを見計らい、村長のところに行く。

「そろそろ旅に出ようと思うの」
「そうか……。寂しくなるな」
「そのうちまた顔を出すわ」
「そうしてくれると、儂らも嬉しい」

 村長との話が終わると、今度はアクセ職人の二人が話しかけてくる。もう立派な職人だよね、彼らは。

「アリサ、ありがとう!」
「ああ。俺たちが装飾品を作れるようになったのは、アリサのおかげだ」
「そんなことはないわ。二人にやる気があったから、教えただけ。もしやる気がなかったら、教えていなかったわ」
「それでも、嬉しいんだ」
「「ありがとう!」」
「儂からもお礼を言おう。彼らもそうだが、畑や家のこと、薬草のことを教えてくれて。そして村を浄化してくれてありがとう」

 大工たちや畑を担当している人たちからもお礼を言われて、なんだかこそばゆい。
 獣人だけじゃなくて人間もいれば竜族もいる、いろんな種族が仲良く暮らしている村だ。これからもきっと、仲良く暮らしていくだろう。
 金属に関しても、村で唯一の鍛冶屋のおっさんが仕入れをしてくれるという話になっているようで、一先ずそこは安心できた。イヤリングやネックレスは金属がないとどうにもならないからね。
 これからも頑張ってほしいと、祈った。

「じゃあね!」

 リコに跨り、村をあとにする。魚が減ってしまったから、仕入れないとね。あの漁港まで戻るつもりはないから、これから先にあるらしい漁港に寄って、買い物をするつもり。

「よし。リコ、このまま北上しようか」
<わかった>

 村に滞在するのもいいけれど、旅も楽しい。それに、ガート帝国に行くという目的がある。
 米! 米が食べたいんだよ! できれば毎日毎食!
 だからこそ、そこに向かって旅をしているんだから。
 風を受けて駆け抜けるリコの上で、そんなことを考えていた。

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・「転移先は薬師が少ない世界でした」1~6巻、文庫版1~2巻発売中。こちらは本編完結。

・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新

・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

を連載中です。よろしくお願いします!
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