自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

文字の大きさ
上 下
23 / 190
セガルラ国編

第39話 レシピを教える

しおりを挟む
 結局十日間も滞在し、お金を減らしたり回したりする意味でも、漁港で魚介類を買いまくった結果、豪快なお嬢ちゃんとして顔が知れ渡りました。
 なんでやねん。
 それでもほとんど減ってないって、どんだけお金があるんだよ! って話よね。それもこれも、全て盗賊が悪い! と責任転嫁してみる。

 滞在三日目になるころにはAマイナス冒険者として知られ。四日目に倒せる人が誰もいなかったから、海にいる魔物が出たから倒してくれ! と懇願された。面倒だなあと思いつつ、魚介類を安くしてくれるならという条件で請け負った。
 もちろん船を出してもらって近くまで行く。
 戦ったのはピオとエバですが、なにか。私は収納要員です。
 水棲生物は雷が弱点だからね~、この世界の魔物って。あとは火か。雷は水があるところは注意しないと感電する恐れがあるけれど、そこは賢い従魔のピオとエバ。魔物だけを攻撃して、海には一切触れていなかったのはさすがだ。
 本来の大きさで戦っていたから漁師のみなさんに驚かれたのはいい思い出だ。
 倒した水棲魔物は、シーサーペント。体長は20メートル級。
 肉は町の人全員に行き渡り、鱗や骨、牙や魔石は冒険者ギルド行き。
 滅多に出ない魔物だからと、それはもうお祭り騒ぎになったのはいいが、このシーサーペントの討伐で、ランクアップ試験を受けることなく、私のランクがAマイナスからAに上がってしまった。これはシーサーペントだけじゃなくてスタンピードもどきだった状態をほぼ解消したことと、盗賊を潰した功績によるものである。
 いらねー!
 今度盗賊に出会ったら、人質がいない場合に限り、シカトしよう。そうしよう。
 そして料理だけど、さすがに塩味は飽きたからと、町で売られていた魚醤を買い、宿の料理人でもあるご主人に直談判して料理をさせてもらった。もちろん、彼も一緒に料理をするという条件でね。
 その魚醤と酒を使い、煮物や照り焼きを作ってみた。

「……美味い! これって、魚醤ってやつだろ? こんな使い方があるとは……」
「他にも、肉にも使えるわ」
「ほんとか⁉ 教えてくれ!」
「いいわよ」

 一角兎の肉を買って来て、それで煮物や串焼きを作ってみる。なんというか、ここで作られている魚醤は、醤油に近い味がするのだ。
 だからこそ、煮物や照り焼きが作れたともいう。
 串焼きは、焼き鳥のように塗るタイプと、焼き肉のようにタレをつけて食べるタイプのものを用意。他にもレモン塩の作り方や、酒の肴として刺身も教えてみた。
 最初は生で魚を食べることに忌避感があったみたいなんだけれど、目の前で料理のスキルを持っている人についている除菌というか除虫というか、そういう魔法を使ってから私が味見をすると、彼らも真似をして食べ始めた。
 美味いという人、食べてみたけれど合わないという人がいたが、そこは好みの問題だからいい。

「採れたてが一番だけど、できれば生は二日以内に食べてね。傷んでしまうから」
「わかった。それを過ぎたら煮ればいいな」
「そうね。あとは、油を使うけど、フライというのがあるの」

 ステンレスのインゴットを出してすりおろし器を作り、それを使って硬いパンを粉々にしてもらっている間に、卵と小麦粉を用意。小麦粉、卵、パン粉の順番につけ、少なめの油を使って揚げ焼きにすれば完成。
 それが面倒なら小麦粉を水で溶いたバッター液を作ってそこに入れたあと、パン粉をつける方法もやってみせる。
 キャベツを千切りにしてもらい、ソースとマヨネーズも用意。
 ソースとマヨネーズはこの世界にあるから、特に問題ないのだ。宿の料理人によると、転移者が教えてくれたらしい。だったら、料理も一緒に教えておけよ! と内心で突っ込んだのは言うまでもない。
 そのマヨネーズの中にみじん切りにしたきゅうりや玉ねぎ、パセリを入れてタルタルソースを作り、キャベツと魚のフライ、タルタルソースとソースを別々にして器に盛ると、これだけで一品になる。

「今は魚を使ったけど、えびや牡蠣、野菜とホタテの貝柱でも作ることができるわ」
「おお! やってくれ!」
「ははは……」

 料理に対して貪欲なおっさんだなあ……と感心しつつ、ブラックタイガーとバナメイエビ、カキフライ、貝柱と野菜を使ったかき揚げを作る。油が少々高いから毎日は無理だが、週に一回とか月に一回くらいなら採算が取れるのではないかと話し、あとはおっさんに任せることに。 
 他にもホタテバターを教え、仕上げに魚醤を垂らして食べさせてみたり、つぶ貝の煮込みを教えてみたり。
 レパートリーがたくさん増えたからなのか、おっさんも女将さんも、とても嬉しそうにしていた。その報酬として、宿代と食事代が三日分タダになったのには驚いたが。
 そのうち、近くの港町に広がっていくかもしれないけれど、この町、しかも一週間限定でレシピの登録をした。全部の国や町で作れるものじゃないからね~、これは。この町の特産物としてやればいいと思う。
 一週間にしたのは、それだけあれば、この町全体に広がると踏んだからだ。期間が過ぎればレシピが戻ってくるんだから、私が町を出たあとでも大丈夫だろう。
 そんな感じで十日間滞在し、ミュルデルの町をあとにする。
 とっても楽しかった!
 あと、真珠を売ってくれたお兄さんに自分で作ったイヤリングを見せてみたんだけど、「こうなるのか!」と感動していた。その後、何かを考えるような仕草をしていたから、もしかしたら何か閃いたのかもしれない。
 それがアクセならいいなあ。そうすれば、この町の特産品になる可能性があるんだから。
 それは今後のお兄さんのやる気と、アクセ作りの腕次第。もし教えてほしいと言われたら、きっちり教えるよ。ただし、ギルドにはレシピ登録しないけどね。
 全国で採れるものじゃないからね、真珠も。海の町でさえ、場所によっては採れない可能性もあるわけだし。そこは様子を見て、お兄さんが弟子を取るなりなんなりすればいいだけの話だ。
 ぶっちゃけ、丸投げです。
 そんな私やお兄さんの事情はともかく。
 町を出て街道を北に向けてゆっくり走るリコ。右に海が見え、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。

<綺麗なのー>
<風も気持ちいいわ>
<ああ。飛んでても魔物も襲って来ないし>
<走ってても気持ちいいな>
「ふふ、そうね」

 従魔たちがそれぞれの感想を言って、楽しそうにしている。うん、とっても和む!
 冒険者を抜き、隊商キャラバンも抜いて走るリコは、本当に楽しそうだ。しばらく走っていたら、ピオが人が倒れていると言ってきた。

「どんな格好をした人?」
<獣人だよ。んー、耳の形しかわからないから、どの獣人がわからないが>
「そう」

 さて、どうするか。シカトしてもいいが、ノンが<怪我なら治すのー!>と張り切っているから、内心溜息をつきつつその人物に近寄る。もちろん、警戒は忘れないし、いざとなったらピオかエバに雷を使ってもらおうと、念話を飛ばす。

「うぅ……」
「大丈夫? どこか怪我をした?」
「…………た……」
「は?」
「腹、減った……」
「<<<<……>>>>」

 獣人の言葉と同時に、ぐうぅ~とあたりにお腹が鳴る音が響く。それにドン引きしつつ、持っていたサンドイッチを渡すと、その獣人――熊の獣人は目を輝かせながら一気食い。
 他にも何の味もついてないパンと一緒にスープも渡すと、それも綺麗さっぱりたいらげた熊獣人は、やっと満足したのかふう……と息を吐き出した。

「ありがとう! 俺はこの先にある村の住人で、ラモンという。助かった!」
「どういたしまして。私はアリサ、この子たちは私の従魔なの。どうしてここに倒れていたの?」
「実は……」

 ラモンが住んでいる村は海沿いにあるが、近くに大きな漁港があるせいで、こちらに人が来ることは滅多にない。細々と海苔や佃煮、塩漬けのわかめや乾燥昆布を作って町で売っているが、その売り上げのほとんどを町に取られ、村にはお金が入って来ないという。
 おいおい……あの漁港で売っていた佃煮たちにはそんな理由があったのか。どうりでどこで作っているのか聞いても、言葉を濁すわけだよ。自分たちが不正をしているんだから、痛い腹を探られたくはないわな。

「なるほど。なら、村で売ったら? というか、私が大量に買いたい」
「は?」
「だから、村に連れていってくれないかな」
「飯を食わせてくれた恩があるから、別に構わないが……」

 よし、許可が下りた。善は急げということで、不思議そうな顔をしたラモンと連れ立って、その村まで行くことにした。

しおりを挟む
・「転移先は薬師が少ない世界でした」1~6巻、文庫版1~2巻発売中。こちらは本編完結。

・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新

・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

を連載中です。よろしくお願いします!
感想 2,849

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。