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帝国編
ワー、ヤッチマッタナー
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厄介な話だなあ、なんて思いながらも、話を聞く。
『但し、今回作るのは三人分でいい。予備も含めて十五人分前後あればいいだろう』
「……へ? 病気の人全員に飲ませるための薬を作るんじゃないんですか?!」
『違うな。皇帝達重鎮は勘違いしているようだが、月姫神殿の最高位の巫女三人のうち寝込んでいる一人と、まだ披露目が済んでいない修行中の若い巫女二人に飲ませれば事足りる。そもそも、月姫の娘達が病に倒れたのが原因でこうなったのだから、あとは彼らに任せるべきだろう?』
「え? だって、病だって……」
『巫女達は完全に病ではあるが、その他はある意味、病ではあるな……魔力の流れを操作できなくなることを指すのであれば。魔力の高い伯爵以上の貴族や王族ならば無意識に余分な魔力を排除しているからいいが、他はそうはいかないのだ。過剰な魔力は身体に毒だ。だからこそ、民を中心に死者が出ている』
理様曰く、月姫神殿の最高位の巫女は、月姫様から遣わされた道具を使い、神殿に篭って魔力の流れを操作しているのだという。あれこれ質問を重ねて聞いた結果、どうやら魔力は一定の力と速さで廻っていて、月姫神殿の巫女がポンプの役割をしているんだそうだ。
昔はそんなことをせずとも自然に流れてたらしいんだけど、神殿を建てた場所がたまたま魔力の噴出し口だったようでそれを操作するので手一杯になってしまい、そのせいで月姫神殿の最高位の巫女や神官達の役割が変わってしまったらしい。しかも、それは『この国に限る』んだとか。月姫を崇めている他国はフローレン神殿と同じように薬や魔導石を作っているそうだ。
なんてはた迷惑な……誰だよ、そんな場所に神殿なんか建てたやつは。
それを聞いたら初代皇帝だと返事が返ってきた。密かに惚れていた最高位の巫女のために景色のいい場所に作らせたそうで、だいたい五、六百年くらい前の話らしい。おおぅ……この国の王族や皇帝って(以下略)……っ!
『因みに、月姫の娘のうち、披露目の済んでいない若い二人は高熱と咳、身体中の痛みで寝込んでいる。もう一人はその症状に加え、腹を下しているそうだ』
「……なんか、高熱による風邪の諸症状に近いように感じるのですが」
『……今月姫に聞いたところ、軽い風邪を引いて薬を勧められていたが、本人は軽く考えて薬を飲まずに症状を悪化させ、今の状態になったそうだ。しかも周囲にうつし、巫女同士で順番にそれを繰り返しているものだから風邪薬が足りなくなり、今に至ると言っている』
「うわー、自業自得じゃん! つうか、体調管理も巫女の仕事のうちの一つでしょうが! そのせいで国民も私も迷惑を被ったわけ?!」
『そういうことになるな』
マジか! あり得ない! と叫んだ私は悪くない! またもや巻き込まれるとか……どうなってんの、私の体質は! そんな私の思考を読んだのか、理様がこんな話をしてくれた。
『巻き込まれに関してだが……昔はフローレンや月姫同様に、儂の巫女も沢山いた。だが、その力の強さ故に儂の巫女になる者は為政者や神官長に利用され、一生飼い殺されることが多かった。だからこそ今は数百年に一人の割合におさえ、精神的に強い者を選んで儂の娘としているのだ』
「だからこそ、巻き込まれることも多かったと?」
『そうだな。だが、そなたはまだマシなほうだぞ? というか、儂の巫女の中では巻き込まれた回数は格段に少ないうえ、腕っ節は最強だな』
「へ……っ?!」
『そなたは自分で為政者を退けているではないか。今までの巫女はあのように王を退けることはしなかったぞ?』
くくくっ、と喉の奥で笑った理様は、私が物理的におっさんを撃退したことが面白かったらしい。……すみませんねぇ、女らしくない武闘派な巫女で!
『そんなそなたに儂の加護を授けよう。加護を授けるのはそなたが初めてだ、光栄に思うがいい。なに、大したものではない。精々為政者や神殿関係者に見つかりにくくなることと、武術の腕が上がる程度だ』
「うわ、見つかりにくくなるのは嬉しいけど、武術はいらねぇ! 大問題でしょ!」
『そうでもないぞ? そなたはこの世界を旅したいのだろう? 他国にはこの国よりも強くて凶暴な獣がいるからな……保険だ。父を再び悲しませたくはないだろう?』
そんなことを言われてしまったら頷くしかない。渋々頷いたら身体が金色の光に包まれ、すぐに消えた。何か変わったようには感じないけど……あとで確かめてみよう。
『これでいい。あまり時間はないが……何か聞きたいことはあるか?』
「そうですね……。一つ、理様の巫女の役目はあるのか」
『ふむ』
「一つ、何故貴方が私にこの力を授けたのか。そしてそれは私にしか作れない薬や、薬を使わずとも癒せることと関係があるのか」
『……ふむ』
「一つ、カムイ……いえ、父であるヴォールクリフは、どうして私が生まれた世界に来ることができたのか」
『……』
二つは頷いていたのに、最後の一つは流石に黙った。何かあるんだろうか。
『まず、巫女の役目だが……儂の場合は特にない』
「ないんですか?」
『ああ。しいて言えば、この世界の理や道理から外れることをしなければいい。今までと同じように過ごせばいいだろう。こうして儂と雑談をする時、話してくれると嬉しい』
「なるほど」
『二つ目に関しては……そもそもリーチェに授けた力だった。但し、そなたに授けたものよりもかなり弱い力ではあったが』
「え……」
『リーチェ』に授けた力だと聞いて驚いた。だから三歳で力が発現したとかじゃないだろうな……。
『ロシェルのことがなければ、リーチェはヴォールクリフの姫として育っていた。政略ではあったが、生まれながらの婚約者もおった。徐々に儂と月姫の力を入れ替え月姫の巫女として神殿に入り、ある程度の段階でその婚約者と婚姻して幸せな家庭を築くはずだったのだ。もちろん、あの神殿に預けられたあと、落ち着いたらヴォールクリフはそなたを迎えに行き、同じように帝国で過ごすはずだったのだよ。それを邪魔したのが、野心ある当時の神官長や上級巫女達だった。まあ、リーチェは内気な性格だったせいか警戒心が強く、そんな輩に近寄りすらしなかったがな』
「……」
『だが、それらは叶うことなくリーチェはこの世を去り、そなたになった。こちらにこなければ今一度力を授けることはせなんだがな。薬や癒しの力に関しては、リーチェが努力を重ねてあみ出した結果だから、儂の力とは何の関係もないと言っておこう』
婚約者云々はともかく……ワー、ヤッチマッタナー、『リーチェ』。まあ、今更そんなことをいってもどうにもならないが、そのおかげで助かった命もあるし、気になっていたスニルを癒せたのも事実だ。
『最後のは月姫が関係している。現王家の先祖に彼女の最高位の巫女が二人ほど嫁いでいてな。表面に現れることはないが、潜在的にその力を内包しているのだ。婚姻は魂の結びつきだ……その力と月姫の力を使い、伴侶となった者の近くに送ることができる。但しその時間は、この世界では二、三時間だ』
「……その速さは世界が異なるからか次元のせいかは判らないけど、たとえ一日の長さが同じ時間でも期間は全く異なる、ということですか……。だからこそ、父は地球に二年しかいられなかったと……」
『そうだ。ヴォールクリフはアイリーンとそなたをこちらの世界に連れ帰るつもりでいたが、それは出来なかった。何故ならば、こちらに呼ぶための魔力が足りなかったからだ』
「父を送ったから……?」
『ああ』
召喚するにも召還するにも、魔力か神力、もしくはその両方と神の助力か許可がいるそうだ。この国の場合は月姫が助力してくれた。だが、ユースレスの場合は助力も許可もなく、神殿にあるフローレン様の間とそこに満ち溢れていた神力を使って召喚したがために女神の逆鱗に触れて、『滅びの繭』を蔓延させる結果になったのだと理様が溜息まじりでそう話してくれた。
『神と云えど万能ではないし、複数いるといえども世界を隅々まで視ているわけではない……そこは判ってくれ』
「……はい」
神様間にもルールはあるし、助力はしても異なる世界から直接召喚することはできない、ということなのだろう。私だってこの世界に来たのは巻き込まれた結果だしね。
そんな話をしてからもう一度薬草のレシピの確認をすると、理様は『そろそろ時間だな』と溜息をつく。
『そなたと話していると、時間がたつのが早いな。そのうちまたこうして話そうではないか。その時はそれまでの旅の話を聞かせておくれ』
「え、そんなんでいいんですか?」
『旅をしたいと願った儂の巫女などおらんかったからな、楽しみで仕方がない。儂が視る世界とそなたが見る世界は違うということだ』
酷く残念そうにもう一度溜息をつくと、『またな』と言って消えた。その直後に目が覚め、時計を見ると五時半だった。
(……随分とリアルな夢だったなぁ。神様との対話って他の巫女もやってたのかな)
そんなことを考えながら二度寝しようとも思ったけれど、寝坊しても困るので起きることにした。待ち合わせまで一時間半ある。
身体を動かす時間もあるからといそいそと起きだし、そのまま出かけられるような格好に着替える。腰には刀と新調したナイフ類のベルトを身につけておく。部屋でストレッチをしてから昨日案内された場所に行くとそこで木刀を出し、装備をしたまま一通り素振りと型を確認する。そのあとは身体を動かし、動きに合わせて邪魔になった腰のベルト――特にナイフ類が収納されているベルトの位置を調整した。
十分前にカムイが迎えに来てくれたのでそのまま入口へと向かい、今回乗せてもらう馬に挨拶をした。おお……エクウスよりも一回り以上でかい馬だ。
……この世界の大型獣って、でかくなる遺伝子でもあるのか……?!
そんなことを考えながらつぶらな瞳を見上げたら、馬がブルルッと鳴いた。元気そうな馬だ。
《おー、巫女様じゃねぇか! 俺が巫女様を運ぶ役目か?》
「そうだよ。二人乗りになるから重いかも知れないけど、よろしくね」
《おう! 大丈夫、任せてくれ!》
そしてやたらテンションの高い、男前な馬でした!
そんな交流をしているうちに出発準備も整い、カムイに手を貸してもらいながら馬に乗る。護衛三人も配置に付いたので、薬草採取に出発したのだった。
『但し、今回作るのは三人分でいい。予備も含めて十五人分前後あればいいだろう』
「……へ? 病気の人全員に飲ませるための薬を作るんじゃないんですか?!」
『違うな。皇帝達重鎮は勘違いしているようだが、月姫神殿の最高位の巫女三人のうち寝込んでいる一人と、まだ披露目が済んでいない修行中の若い巫女二人に飲ませれば事足りる。そもそも、月姫の娘達が病に倒れたのが原因でこうなったのだから、あとは彼らに任せるべきだろう?』
「え? だって、病だって……」
『巫女達は完全に病ではあるが、その他はある意味、病ではあるな……魔力の流れを操作できなくなることを指すのであれば。魔力の高い伯爵以上の貴族や王族ならば無意識に余分な魔力を排除しているからいいが、他はそうはいかないのだ。過剰な魔力は身体に毒だ。だからこそ、民を中心に死者が出ている』
理様曰く、月姫神殿の最高位の巫女は、月姫様から遣わされた道具を使い、神殿に篭って魔力の流れを操作しているのだという。あれこれ質問を重ねて聞いた結果、どうやら魔力は一定の力と速さで廻っていて、月姫神殿の巫女がポンプの役割をしているんだそうだ。
昔はそんなことをせずとも自然に流れてたらしいんだけど、神殿を建てた場所がたまたま魔力の噴出し口だったようでそれを操作するので手一杯になってしまい、そのせいで月姫神殿の最高位の巫女や神官達の役割が変わってしまったらしい。しかも、それは『この国に限る』んだとか。月姫を崇めている他国はフローレン神殿と同じように薬や魔導石を作っているそうだ。
なんてはた迷惑な……誰だよ、そんな場所に神殿なんか建てたやつは。
それを聞いたら初代皇帝だと返事が返ってきた。密かに惚れていた最高位の巫女のために景色のいい場所に作らせたそうで、だいたい五、六百年くらい前の話らしい。おおぅ……この国の王族や皇帝って(以下略)……っ!
『因みに、月姫の娘のうち、披露目の済んでいない若い二人は高熱と咳、身体中の痛みで寝込んでいる。もう一人はその症状に加え、腹を下しているそうだ』
「……なんか、高熱による風邪の諸症状に近いように感じるのですが」
『……今月姫に聞いたところ、軽い風邪を引いて薬を勧められていたが、本人は軽く考えて薬を飲まずに症状を悪化させ、今の状態になったそうだ。しかも周囲にうつし、巫女同士で順番にそれを繰り返しているものだから風邪薬が足りなくなり、今に至ると言っている』
「うわー、自業自得じゃん! つうか、体調管理も巫女の仕事のうちの一つでしょうが! そのせいで国民も私も迷惑を被ったわけ?!」
『そういうことになるな』
マジか! あり得ない! と叫んだ私は悪くない! またもや巻き込まれるとか……どうなってんの、私の体質は! そんな私の思考を読んだのか、理様がこんな話をしてくれた。
『巻き込まれに関してだが……昔はフローレンや月姫同様に、儂の巫女も沢山いた。だが、その力の強さ故に儂の巫女になる者は為政者や神官長に利用され、一生飼い殺されることが多かった。だからこそ今は数百年に一人の割合におさえ、精神的に強い者を選んで儂の娘としているのだ』
「だからこそ、巻き込まれることも多かったと?」
『そうだな。だが、そなたはまだマシなほうだぞ? というか、儂の巫女の中では巻き込まれた回数は格段に少ないうえ、腕っ節は最強だな』
「へ……っ?!」
『そなたは自分で為政者を退けているではないか。今までの巫女はあのように王を退けることはしなかったぞ?』
くくくっ、と喉の奥で笑った理様は、私が物理的におっさんを撃退したことが面白かったらしい。……すみませんねぇ、女らしくない武闘派な巫女で!
『そんなそなたに儂の加護を授けよう。加護を授けるのはそなたが初めてだ、光栄に思うがいい。なに、大したものではない。精々為政者や神殿関係者に見つかりにくくなることと、武術の腕が上がる程度だ』
「うわ、見つかりにくくなるのは嬉しいけど、武術はいらねぇ! 大問題でしょ!」
『そうでもないぞ? そなたはこの世界を旅したいのだろう? 他国にはこの国よりも強くて凶暴な獣がいるからな……保険だ。父を再び悲しませたくはないだろう?』
そんなことを言われてしまったら頷くしかない。渋々頷いたら身体が金色の光に包まれ、すぐに消えた。何か変わったようには感じないけど……あとで確かめてみよう。
『これでいい。あまり時間はないが……何か聞きたいことはあるか?』
「そうですね……。一つ、理様の巫女の役目はあるのか」
『ふむ』
「一つ、何故貴方が私にこの力を授けたのか。そしてそれは私にしか作れない薬や、薬を使わずとも癒せることと関係があるのか」
『……ふむ』
「一つ、カムイ……いえ、父であるヴォールクリフは、どうして私が生まれた世界に来ることができたのか」
『……』
二つは頷いていたのに、最後の一つは流石に黙った。何かあるんだろうか。
『まず、巫女の役目だが……儂の場合は特にない』
「ないんですか?」
『ああ。しいて言えば、この世界の理や道理から外れることをしなければいい。今までと同じように過ごせばいいだろう。こうして儂と雑談をする時、話してくれると嬉しい』
「なるほど」
『二つ目に関しては……そもそもリーチェに授けた力だった。但し、そなたに授けたものよりもかなり弱い力ではあったが』
「え……」
『リーチェ』に授けた力だと聞いて驚いた。だから三歳で力が発現したとかじゃないだろうな……。
『ロシェルのことがなければ、リーチェはヴォールクリフの姫として育っていた。政略ではあったが、生まれながらの婚約者もおった。徐々に儂と月姫の力を入れ替え月姫の巫女として神殿に入り、ある程度の段階でその婚約者と婚姻して幸せな家庭を築くはずだったのだ。もちろん、あの神殿に預けられたあと、落ち着いたらヴォールクリフはそなたを迎えに行き、同じように帝国で過ごすはずだったのだよ。それを邪魔したのが、野心ある当時の神官長や上級巫女達だった。まあ、リーチェは内気な性格だったせいか警戒心が強く、そんな輩に近寄りすらしなかったがな』
「……」
『だが、それらは叶うことなくリーチェはこの世を去り、そなたになった。こちらにこなければ今一度力を授けることはせなんだがな。薬や癒しの力に関しては、リーチェが努力を重ねてあみ出した結果だから、儂の力とは何の関係もないと言っておこう』
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「……その速さは世界が異なるからか次元のせいかは判らないけど、たとえ一日の長さが同じ時間でも期間は全く異なる、ということですか……。だからこそ、父は地球に二年しかいられなかったと……」
『そうだ。ヴォールクリフはアイリーンとそなたをこちらの世界に連れ帰るつもりでいたが、それは出来なかった。何故ならば、こちらに呼ぶための魔力が足りなかったからだ』
「父を送ったから……?」
『ああ』
召喚するにも召還するにも、魔力か神力、もしくはその両方と神の助力か許可がいるそうだ。この国の場合は月姫が助力してくれた。だが、ユースレスの場合は助力も許可もなく、神殿にあるフローレン様の間とそこに満ち溢れていた神力を使って召喚したがために女神の逆鱗に触れて、『滅びの繭』を蔓延させる結果になったのだと理様が溜息まじりでそう話してくれた。
『神と云えど万能ではないし、複数いるといえども世界を隅々まで視ているわけではない……そこは判ってくれ』
「……はい」
神様間にもルールはあるし、助力はしても異なる世界から直接召喚することはできない、ということなのだろう。私だってこの世界に来たのは巻き込まれた結果だしね。
そんな話をしてからもう一度薬草のレシピの確認をすると、理様は『そろそろ時間だな』と溜息をつく。
『そなたと話していると、時間がたつのが早いな。そのうちまたこうして話そうではないか。その時はそれまでの旅の話を聞かせておくれ』
「え、そんなんでいいんですか?」
『旅をしたいと願った儂の巫女などおらんかったからな、楽しみで仕方がない。儂が視る世界とそなたが見る世界は違うということだ』
酷く残念そうにもう一度溜息をつくと、『またな』と言って消えた。その直後に目が覚め、時計を見ると五時半だった。
(……随分とリアルな夢だったなぁ。神様との対話って他の巫女もやってたのかな)
そんなことを考えながら二度寝しようとも思ったけれど、寝坊しても困るので起きることにした。待ち合わせまで一時間半ある。
身体を動かす時間もあるからといそいそと起きだし、そのまま出かけられるような格好に着替える。腰には刀と新調したナイフ類のベルトを身につけておく。部屋でストレッチをしてから昨日案内された場所に行くとそこで木刀を出し、装備をしたまま一通り素振りと型を確認する。そのあとは身体を動かし、動きに合わせて邪魔になった腰のベルト――特にナイフ類が収納されているベルトの位置を調整した。
十分前にカムイが迎えに来てくれたのでそのまま入口へと向かい、今回乗せてもらう馬に挨拶をした。おお……エクウスよりも一回り以上でかい馬だ。
……この世界の大型獣って、でかくなる遺伝子でもあるのか……?!
そんなことを考えながらつぶらな瞳を見上げたら、馬がブルルッと鳴いた。元気そうな馬だ。
《おー、巫女様じゃねぇか! 俺が巫女様を運ぶ役目か?》
「そうだよ。二人乗りになるから重いかも知れないけど、よろしくね」
《おう! 大丈夫、任せてくれ!》
そしてやたらテンションの高い、男前な馬でした!
そんな交流をしているうちに出発準備も整い、カムイに手を貸してもらいながら馬に乗る。護衛三人も配置に付いたので、薬草採取に出発したのだった。
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