出戻り巫女の日常

饕餮

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帝国編 後日譚

先輩冒険者たちと仲良くなりました

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「おー、すごい人出だねぇ」
「そうだな」

 現在、ジェイド達護衛組三人と案内役にカレル、私の五人は王都の商店街に来ている。ジェイド達の薬作りの道具を買いに来てるわけだが、二時間ほど前におっさんがカムイの帰還を報告、それをアピールするようにカムイが神殿に薬を納めた。
 その後、月姫神殿の巫女が姿を現して病の収束宣言をしたのが一時間ほど前なんだけど、冒険者や商人の話によると、王都だけじゃなく他の街や町、村はそれからお祭り騒ぎになってるらしい。元気になったんならよかった。
 で、今ならいろいろ安いかもしれないと城からここに来たわけだが……。

「籠や瓶は買ったし、あとはナイフだけかな?」
「ああ。ついでに、捌くためのナイフと剣を新調しようと思ってる。できればシェイラのような剣がいいんだが……」

 ジェイドがそんなことをいいながら、刀を見つめる。これは地球産だから、たとえジェイドでもやらんぞ? 買うなら鍛治屋に作ってもらうか、東大陸から取り寄せてもらってくれ。

「昨日教えたようにやれば直剣でも問題ないと思うよ? それでもダメだったら買えばいいじゃん」
「それもそうか」
「そうだな……一度試してみるか……」
「マクシモスは鍵を切れる技量があるんだから、直剣でも問題ないと思うんだけど……」

 そんな話をしながら、カレルの案内で先日来た武器屋に着く。大通りから一本外れた場所にあるせいか、一回しか来たことがない私一人で案内できるか不安だったんだよね。カレルが着いて来てくれると言ってくれて助かった。
 そしてここに来るまでに道具屋に寄ったんだけど、予想通り安くて、なんだか負けた気分になった。

「こんにちはー」
「お、カレルにこないだの姉ちゃんじゃねえか」
「セレシェイラだってば。シェイラでもいいよ。先日はありがと! また刀を研いでほしいの。あと、新規顧客の紹介?」
「新規は有り難いが……またかぁ?! 三日くらい前に研いだばっかじゃねぇか!」
「いや、ハバーリの首を切り落としたからさ、ちょっと心配で……」

 首を切り落としたと言ったら店主のおっさんは口をあんぐりと開けたあと、豪快に笑った。私達の会話を聞いたらしいその場にいた冒険者も、口を開けて私をガン見している。

「がははははっ!! やるじゃねぇか!」
「それほどでも。あ、ハバーリの首、いる?」
「持ってんなら出しな。皮があるならそれも一緒に買い取るぜ?」
「え、ほんと? じゃあ……はい」
『えっ……?!』

 ここに出せと叩かれたカウンターの上に、二頭分の首と皮を出すと、店主だけじゃなく冒険者まで驚いてそれをガン見している。

「おいおい……。オレは冗談だったんだが……」
「私は本気だってば。で? 本当に買い取ってくれるんでしょうね?」
「買い取りはするが……値段は状態にもよるな」
「まあそこは任せるけど、『女だから』ってくだらない理由で正規の値段よりも安く買い叩かないでよね」
「この綺麗な切り口の首の状態と投擲ナイフの腕前を見てんだ。そんなことするわけねぇじゃねえか。そんな理由で安く買い叩いてみろ、二度と冒険者は素材を売ってくれねぇし、武器や防具も買ってくれなくなる」

 店主の言葉に、近くにいる冒険者たちが頷いている。別の場所にいる冒険者に至っては、「あのデカさ……Aランク、いやSランク級じゃねえか?」とか「あの女、Sランクか?」なんて声が聞こえてくる。

 ……おおぃ!! ハバーリがAランクとかSランクの魔獣だなんて聞いてないんですけど?! これは一度、ここのギルドで魔獣を調べないとダメだと思った瞬間でもあった。

「……ハバーリの一枚皮とか、初めて見たぞ。状態もいいし、他の部分にも傷一つねぇ。誰が解体した?」
「『首を切り落とした』って言ったんだから、私に決まってんでしょうが」
「ホントか?」
「ああ。綺麗に解体していた」

 私の仲間だと思われたんだろう、ジェイドに目を向けた店主が確認すると、彼だけでなくマクシモスやマキアも頷いている。

「おいおい、マジかよ……。お前さん、ギルドランクはいくつだ」
「え? まだFランクだけど」
『え、Fぅっ?!』

 冒険者たち全員が綺麗にはもった。喧しい! Fランクで悪かったね!

「剣の腕だけは磨いてきたけど、冒険者登録をしたのは最近なの!」
「なるほどなあ。…………よし、小さいほうを金貨五十……いや、七十、大きいほうを百でどうだ?」

 その金額の大きさに驚く、カレルを見ると小さく頷いたので、大丈夫なんだろう。なので私もそれでOKした。
 後日聞いた話なんだけど、ハバーリの皮って薄い割に防御力が優れてるから、軽装を好む剣士や重装備ができない女性に人気があるんだって。しかも、綺麗な状態の皮はなかなか出回らないらしく、鎧に加工して店に出せばあっという間に売れるんだとか。そのお値段、一つ金貨二十枚也。諸費用込みでその値段ならぼろ儲けじゃん。

「な、なあ。ハバーリの狩り方を教えてくれないか?」
「先に聞くけど、私が教えたとして……その対価か報酬はなに?」
「え……た、対価……?」
「ほ、報酬……?」

 見知らぬ冒険者が声をかけてきたので、そちらに視線を向けると十代後半か二十代前半くらいの青年や女性のパーティがいた。まだあどけなさが残っているから、まだ十代の可能性が高い。
 『対価か報酬』という言葉にその冒険者や仲間は呆けた顔をしてるけど、三十代くらいの人たちや一目でいい装備とわかる冒険者たちは、私の言葉に「当然だ」と頷いている。だよね、先輩冒険者様。

「あのさあ……ギルドですら依頼に対してちゃんと対価や報酬を払ってるんだから、当然の要求でしょ? それとも、あんたは知り合いでもない冒険者にいきなり声をかけられて、『その技を教えてくれ!』って言われてタダで教えるわけ?」
「……」
「ハバーリの金額を聞いたこのタイミングで『教えてくれ』なんて、金目当てだとしか思えないんだけど? それ以前にハバーリの首の切り落としや他の魔獣や獣の解体はできんの?」
「ぐっ……」

 首の切り落としや解体できるのか聞けば、やつらは言葉を詰まらせる。先輩冒険者たちですら、やつらに呆れた視線を向けたり失笑していた。

「できないくせに声をかけたわけ? 呆れた」
「ギルドに持ってって解体してもらうのが常識だから、個人で解体できるヤツが珍しいんだよ。ほれ、これな」
「へえ、そうなんだ。ありがとう」

 話しかけてきた連中をシカトして店主に渡された袋をそのままさっさとマジックジュエリーにしまう。金貨を数えたいところだけどやつらがギラついた目でそれをみてたし、先日で店主の人柄は判ったからやらないし、このおっさんが枚数をちょろまかすとは思えない。それは、ここにいる冒険者の数が証明している。そんな私の思いが判ったんだろう……店主は思いっきり破顔した。
 そのあと護衛組を店主に紹介し、彼らが剣やサバイバルナイフもどきを選んでいる間、私もなんとなく店内を見て回っていると、さっき頷いていた先輩冒険者のうちの一組が近寄ってきて声をかけてきた。……今度はなんだ?

「よお、あんた、Fランクなのにハバーリを狩るなんてすげえな。あ、俺達は【死線の死神デッドマンズポイズン】ってパーティで、俺はリーダーのフランツだ」
「セレシェイラよ」

 よろしくね、と相手の顔を見ながら挨拶を交わす。……パーティ名が厨二病くさいと思ったのは内緒だ。

「……【死線の死神デッドマンズポイズン】っていえば、ここらでも有名なSランクパーティじゃないか」
「なんでそんな人たちが王都ここにいるんだ?」

 お互いにメンバーの紹介なんかをしている後ろのほうで、そんな声が耳に入る。

「へぇ……Sランクなんだ? すごいね」
「俺たちみんなで協力して助け合い、努力した結果だな。だが、Fランクなのにハバーリを倒して解体するやつには言われたくはないな」
「なんでよ?」
「俺たちですらあそこまで綺麗な状態で倒すのは苦労するからだ。しかも解体までするんだろう? 誰に教わった? っと、聞いちゃまずかったか?」
「それくらいならいいよ。剣の師匠だよ。それ以上の詮索はなしよ?」
「ああ、判ってるさ」

 そんな話しをしている間にジェイドたちは剣やナイフを見繕ってもらったのか、ホクホク顔で戻ってきた。そして私の刀も戻ってきたんだけど、「首を切り落としたのに刃こぼれ一つないとは……。とんだ業物だな」と店主に呆れられてしまった。
 お互いに自己紹介もしたし、護衛組も交えて暫く話をした。他の上位冒険者たちとも挨拶をかわして仲良くなった。
 そして私たちの話を盗み聞きしていたらしいさっきの失礼な奴らは、話が高度な内容になるにつれどんどん顔色を青ざめさせていき、すごすごと店から出ていった。いや、別に技の話とかハバーリの狩り方の話はしてないよ? どんな武器が扱えるとか、どれくらい長く冒険者や武道を習っていたかを話しただけだ。
 それですごすごと引き下がるとか……まさにどんだけ~って感じ。

「ふん、これだから現実を見ないで目先の金ばかり見てるやつらは……」
「ガキが粋がってるだけさ。そのうち、ランクに見合わないことに勝手に手をだして、大怪我でもして泣きをみるんじゃねぇか?」

 とは、Sランクをはじめとした、高位とおぼしき先輩冒険者たちの弁である。
 特にこれと言って聞きたいことはなくなったので、さっさと別れた。


 後日、魔獣のことを調べたり、薬の納品の仕事がないか確認しにギルドに来たところ、武器屋で仲良くなったパーティーのうちの一組(彼らもSランク冒険者)とばったり会った。そこで聞いたんだけど、例の失礼なやつらがハバーリに襲われ、逃げればいいものを戦闘して大怪我を負ったそうだ。目の前にいるパーティーがたまたまそこに通りかかり、やつらを守りながら何とかハバーリを撃退したんだとか。しかもやつらは私と同じFランクだったらしく、私が狩ったのよりも小さかったせいで自分たちも戦えると思ったらしい。

 おいおい、私とお前らじゃ、剣を習ってる時間の長さが違うっての! こちとら20年近くやってるし経験があるんだから、ほんの数年しかやってないのと一緒にすんな!

 的なことを目の前のSランク冒険者たちに話したら、「それすらも判ってなかったみたいだぞ」と苦笑していた。結局やつらは、目先のことしか見えていない、自分の力量すら判っていないとして、ギルドと目の前の人たちから説教され、Gランクからやり直しを言い渡されたんだとか。

「お前もあんま無茶すんなよ」
「しないよ。自分や仲間の力量を知ってるし、傷薬があるとはいえ怪我したくないし、させたくないもん。襲われたならともかく、自分から向かっていくことはしないよ」
「そうしてくれや」

 そんな話をして、そこで別れた。
 襲われないかぎり、こっちからはいかないけどな! つか、そんなにしょっちゅうハバーリに襲われてたまるかっての。


 ――それがフラグになったんだろう……数日後、薬草採取の依頼で森にでて、そこで一際大きなハバーリに襲われてマクシモスがその首を一刀両断していた。それを綺麗に解体し、首と一枚皮を武器屋の店主に持っていったところ、店主だけでなくその場にいた先輩冒険者たちに呆れられたのは言うまでもない。

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