18 / 76
ユースレス編
閑話 ユースレス王の独白
しおりを挟む
いつしかこの国に暗い影が差し始めた。それがいつからなのかは判らない。
農作物が採れなくなった。
山の恵みも、川の恵みも採れなくなった。
民達の笑顔も消え、犯罪が増え、民達も動物も子供を生まなくなった。
神殿に於ても、いつもなら最高位の巫女が嫁いで直ぐに次代の最高位の巫女が見つかるのに、最高位の巫女が見つからないばかりか巫女自体も神殿を辞したり他国へ行ったきり戻らないと、新たに神官長となった者に告げられた。そして、巫女見習いが巫女に昇格しない、とも。
それを憂いた我らは、何とかしようと努力をした。だが、最高位の巫女二人が嫁いだ二つの隣国や、巫女が嫁いでいない他の周辺諸国との差は開くばかりだった。
何故そうなったのか、理由は判らない。だが、一部の神殿関係者は『リーチェ様を殺したからだ』と囁く。リーチェ以上の力を有しているフーリッシュがいるのに、そんな訳がなかろうと一笑に伏したのは記憶に新しい。
そんな時、誰かが言い出した。
『女神フローレン様に豊穣を願い、巫女の力を有した者を生贄に捧げてはどうか』
と。それはすごく魅力的な話だった。
だが、現在の我が国には巫女見習いしかおらず、初級巫女すらもいないと神官長から聞かされたばかりだ。正直頭を抱えた。
そんなある日、神官長が打開策を持って来た。
古い書物に書かれていたそれは、他の世界から人を召喚するための魔法陣が書かれている物だった。それを元に着々と準備を進め、召喚する日取りも決まり、召喚後は何の説明もせず有無を言わさず殺す筈だったのだ。
――目撃者がいなければ。そして、身体が動けば。
召喚した者が、まさか三人いるとは思わなかった。ならば三人共に……と考えるも、何故か身体が……いや、手が動かなかったのだ。身体は動くが、剣を握るための手が動かない。
仕方なしに魔法陣の中央にいた二人には、勇者とそれを支える巫女として、居もしない魔王の討伐を告げた。そして三人目は追い払うか、二人を生贄として捧げた後で殺せばいい。これだけの人数がいるのだから、それも容易い。
そう思っていたのに――。
結局はリーチェによって生贄は召還された。そしてリーチェによって告げられたのはフーリッシュの本当の姿と、巫女の本来の在り方だった。
この国の滅びは、三年前から……いや、自分がフーリッシュを選んだ時から始まっていたのだと、今ならば判る。リーチェを正妃に、フーリッシュを側室にすればよかったのか? そうすれば滅びは免れたのか?
突如光った女神の間と薄れ行く意識の中、『その時後悔しても遅い』と言ったリーチェの言葉を最後に、完全に意識は途絶えた。
***
ふと目を開けると、神官長が召喚の魔法陣を眺めながら眉間に皺を寄せた。魔法陣の文字が光っていることから、魔法陣自体は発動したことが判る。だが、そこに求めた生贄はいない。
「どうだ?」
「……失敗でございます」
――そうして、リーチェ以上の力を有した我が妻のフーリッシュと神官を捧げ、国の安寧と豊穣を願った。
それが叶う筈だった。結局は叶う事なく、一人、また一人と生贄を捧げて行くが、効果は全くなかった。寧ろ、状況は悪くなる一方だった。
断頭台にすげられた自身の今までを振り返り、ふと思う。リーチェがいれば……リーチェを殺さずに神殿に戻しておけば、と。
目を閉じて、今は亡きリーチェに許しを乞う。許してくれ、と。
首が落ちる寸前に見た幻は、初めてリーチェに会った時の、柔らかい、優しい笑顔。その笑顔が『許す』と言ってくれているようで……
――その時初めて、本当はあの時リーチェに恋し、心のどこかで愛し、求めていたのだと気付いた。だが、許しも、愛を囁くこともなく、首に走った痛みと同時に暗転した。
ユースレス最後の王はこうして命の幕を閉じ、王家の血筋は完全に途絶えることとなる。
農作物が採れなくなった。
山の恵みも、川の恵みも採れなくなった。
民達の笑顔も消え、犯罪が増え、民達も動物も子供を生まなくなった。
神殿に於ても、いつもなら最高位の巫女が嫁いで直ぐに次代の最高位の巫女が見つかるのに、最高位の巫女が見つからないばかりか巫女自体も神殿を辞したり他国へ行ったきり戻らないと、新たに神官長となった者に告げられた。そして、巫女見習いが巫女に昇格しない、とも。
それを憂いた我らは、何とかしようと努力をした。だが、最高位の巫女二人が嫁いだ二つの隣国や、巫女が嫁いでいない他の周辺諸国との差は開くばかりだった。
何故そうなったのか、理由は判らない。だが、一部の神殿関係者は『リーチェ様を殺したからだ』と囁く。リーチェ以上の力を有しているフーリッシュがいるのに、そんな訳がなかろうと一笑に伏したのは記憶に新しい。
そんな時、誰かが言い出した。
『女神フローレン様に豊穣を願い、巫女の力を有した者を生贄に捧げてはどうか』
と。それはすごく魅力的な話だった。
だが、現在の我が国には巫女見習いしかおらず、初級巫女すらもいないと神官長から聞かされたばかりだ。正直頭を抱えた。
そんなある日、神官長が打開策を持って来た。
古い書物に書かれていたそれは、他の世界から人を召喚するための魔法陣が書かれている物だった。それを元に着々と準備を進め、召喚する日取りも決まり、召喚後は何の説明もせず有無を言わさず殺す筈だったのだ。
――目撃者がいなければ。そして、身体が動けば。
召喚した者が、まさか三人いるとは思わなかった。ならば三人共に……と考えるも、何故か身体が……いや、手が動かなかったのだ。身体は動くが、剣を握るための手が動かない。
仕方なしに魔法陣の中央にいた二人には、勇者とそれを支える巫女として、居もしない魔王の討伐を告げた。そして三人目は追い払うか、二人を生贄として捧げた後で殺せばいい。これだけの人数がいるのだから、それも容易い。
そう思っていたのに――。
結局はリーチェによって生贄は召還された。そしてリーチェによって告げられたのはフーリッシュの本当の姿と、巫女の本来の在り方だった。
この国の滅びは、三年前から……いや、自分がフーリッシュを選んだ時から始まっていたのだと、今ならば判る。リーチェを正妃に、フーリッシュを側室にすればよかったのか? そうすれば滅びは免れたのか?
突如光った女神の間と薄れ行く意識の中、『その時後悔しても遅い』と言ったリーチェの言葉を最後に、完全に意識は途絶えた。
***
ふと目を開けると、神官長が召喚の魔法陣を眺めながら眉間に皺を寄せた。魔法陣の文字が光っていることから、魔法陣自体は発動したことが判る。だが、そこに求めた生贄はいない。
「どうだ?」
「……失敗でございます」
――そうして、リーチェ以上の力を有した我が妻のフーリッシュと神官を捧げ、国の安寧と豊穣を願った。
それが叶う筈だった。結局は叶う事なく、一人、また一人と生贄を捧げて行くが、効果は全くなかった。寧ろ、状況は悪くなる一方だった。
断頭台にすげられた自身の今までを振り返り、ふと思う。リーチェがいれば……リーチェを殺さずに神殿に戻しておけば、と。
目を閉じて、今は亡きリーチェに許しを乞う。許してくれ、と。
首が落ちる寸前に見た幻は、初めてリーチェに会った時の、柔らかい、優しい笑顔。その笑顔が『許す』と言ってくれているようで……
――その時初めて、本当はあの時リーチェに恋し、心のどこかで愛し、求めていたのだと気付いた。だが、許しも、愛を囁くこともなく、首に走った痛みと同時に暗転した。
ユースレス最後の王はこうして命の幕を閉じ、王家の血筋は完全に途絶えることとなる。
8
お気に入りに追加
1,297
あなたにおすすめの小説
饕餮的短編集
饕餮
恋愛
短編を改稿し、纏めたものです。こちらはR15相当のもので恋愛が主体。
現代、ファンタジーなどごちゃまぜのオムニバス。SSもあり。
★短編『軍人な彼』『とある彼女の災難な1日』をお読みになる前に注意。
この二作品はコラボ作品です。前半部分に、鏡野 ゆう様の作品『 boy meets girl 』『 boy meets girl 2 - 粉モン彼氏 - 』の主人公二人の父親と、『 boy meets girl 2 - 粉モン彼氏 -』主人公本人が出て来ます。もちろん、鏡野ゆう様には了承を得ています。
『 boy meets girl 2 - 粉モン彼氏 - 』で、作者の『軍人な彼』の夫婦を含めた人達が何故日本の基地に行く事になったのか、その裏事情が前半部分でわかります(笑)
会話
《 》→ 戦闘機からの通信
『 』→ 日本語
「 」→ 英語
となっていますが、あくまでもフィクションです。
異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝
饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。
話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。
混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。
そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変!
どうなっちゃうの?!
異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。
★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。
★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。
★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる