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短編
背中合わせの彼
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「あーあ、やっちゃった……」
仕事帰り、家に帰りたくなくて自宅近くの公園のベンチに座り、はしたないとは思うもののベンチに足を乗せて膝を抱え込む。
今日、同じ会社で働く彼と喧嘩してしまった。彼の話も聞かずに彼を責めてしまった。彼は日本で働くアメリカ人で、有給をとって暫くアメリカに帰ると人伝に聞いてしまったからだ。
(きっとこれでお別れ……)
そう思うと胸が痛くなる。いつかアメリカに帰る人だとわかっていても、私は本当に彼が好きだった。でも、どこかでいつか別れるんじゃないかといつもびくびくしていた。
(さよならは笑顔で……)
そう思うものの、今は気持ちがぐちゃぐちゃで考えられないし、考えたら涙が出て来て慌てて抱えていた膝に顔を埋める。そんな事をしていたら、ジャリジャリと土を踏む音がした。誰かが犬の散歩に来たのだろうくらいに思っていたら、ベンチが軋んで私の背中に体重がかかった。
「ミユキ……I Love You」
誰だろう、変質者だったら嫌だなと思っていたら、彼の声でそう言われた。彼が追いかけて来てくれた事は嬉しかったけど、でもその言葉を素直に聞く事が出来ず、私には『I Love You』が『背中合わせ』にしか聞こえなかった。
きっとお別れを言いに来たんだろう……そう思って返事もしないでいたら、体重がかかっていた背中から温もりが消え、それと同時に彼の溜息が聞こえた。
(終わった……)
そう思っていたら、いきなり後ろからグイッと引っ張られて倒れ込む。何となく見上げれば、彼の困ったような怒ったような顔が目に入った。そして私の頭は彼の太股の上で、それに気付いて慌てて起き上がろうとしたらそのまま身体をガッチリ押さえられ、頭を撫でられてしまった。
その手つきがあまりにも優しくて、でも別れ話をするのに何で優しくするの、と泣きたくなるのを我慢して彼に話かけた。
「トニー……?」
「ミユキ、勘違いしてるでしょ? 僕はミユキを愛してるんだよ? 僕の『I Love You』を一体どんな意味に捉えたの?」
そう言った彼の言葉が気まずくて、はあ、とまた溜息をついた彼から視線を反らすと、いきなりぐいっ、と身体を引っ張られて彼の膝の上に乗せられてしまった。
「ちょっ、トニー?!」
「よく聞いて、ミユキ。僕はミユキと結婚したいんだ。でもその前に、両親と話をしなくちゃならない。だから僕はアメリカに帰るんだよ」
「は……?」
そう言った彼の話をよくよく聞けば、両親や兄弟に話をする為に帰るだけだと言う。又聞きした話はある意味私の勘違いで、そして彼が言った結婚と言う言葉にも混乱してしまって、私は間抜けな声しか出ない。
混乱したままポカン、とした顔をしていたらしい私に彼は苦笑すると、そっとキスをして来た。
彼のキスはいつだって私を安心させてくれた。
「そう言う事だし、暫く会えないから……」
そう言った彼にお持ち帰りされた私は激しく美味しく頂かれてしまい、次の日が休みで良かったと思ったのはここだけの話。
――後日、アメリカから帰って来た彼にあの日どんな意味に捉えたのか言わされて、お仕置きとばかりにまた激しく抱かれる事になるなんて、この時の私は全く想像もしていなかった。
仕事帰り、家に帰りたくなくて自宅近くの公園のベンチに座り、はしたないとは思うもののベンチに足を乗せて膝を抱え込む。
今日、同じ会社で働く彼と喧嘩してしまった。彼の話も聞かずに彼を責めてしまった。彼は日本で働くアメリカ人で、有給をとって暫くアメリカに帰ると人伝に聞いてしまったからだ。
(きっとこれでお別れ……)
そう思うと胸が痛くなる。いつかアメリカに帰る人だとわかっていても、私は本当に彼が好きだった。でも、どこかでいつか別れるんじゃないかといつもびくびくしていた。
(さよならは笑顔で……)
そう思うものの、今は気持ちがぐちゃぐちゃで考えられないし、考えたら涙が出て来て慌てて抱えていた膝に顔を埋める。そんな事をしていたら、ジャリジャリと土を踏む音がした。誰かが犬の散歩に来たのだろうくらいに思っていたら、ベンチが軋んで私の背中に体重がかかった。
「ミユキ……I Love You」
誰だろう、変質者だったら嫌だなと思っていたら、彼の声でそう言われた。彼が追いかけて来てくれた事は嬉しかったけど、でもその言葉を素直に聞く事が出来ず、私には『I Love You』が『背中合わせ』にしか聞こえなかった。
きっとお別れを言いに来たんだろう……そう思って返事もしないでいたら、体重がかかっていた背中から温もりが消え、それと同時に彼の溜息が聞こえた。
(終わった……)
そう思っていたら、いきなり後ろからグイッと引っ張られて倒れ込む。何となく見上げれば、彼の困ったような怒ったような顔が目に入った。そして私の頭は彼の太股の上で、それに気付いて慌てて起き上がろうとしたらそのまま身体をガッチリ押さえられ、頭を撫でられてしまった。
その手つきがあまりにも優しくて、でも別れ話をするのに何で優しくするの、と泣きたくなるのを我慢して彼に話かけた。
「トニー……?」
「ミユキ、勘違いしてるでしょ? 僕はミユキを愛してるんだよ? 僕の『I Love You』を一体どんな意味に捉えたの?」
そう言った彼の言葉が気まずくて、はあ、とまた溜息をついた彼から視線を反らすと、いきなりぐいっ、と身体を引っ張られて彼の膝の上に乗せられてしまった。
「ちょっ、トニー?!」
「よく聞いて、ミユキ。僕はミユキと結婚したいんだ。でもその前に、両親と話をしなくちゃならない。だから僕はアメリカに帰るんだよ」
「は……?」
そう言った彼の話をよくよく聞けば、両親や兄弟に話をする為に帰るだけだと言う。又聞きした話はある意味私の勘違いで、そして彼が言った結婚と言う言葉にも混乱してしまって、私は間抜けな声しか出ない。
混乱したままポカン、とした顔をしていたらしい私に彼は苦笑すると、そっとキスをして来た。
彼のキスはいつだって私を安心させてくれた。
「そう言う事だし、暫く会えないから……」
そう言った彼にお持ち帰りされた私は激しく美味しく頂かれてしまい、次の日が休みで良かったと思ったのはここだけの話。
――後日、アメリカから帰って来た彼にあの日どんな意味に捉えたのか言わされて、お仕置きとばかりにまた激しく抱かれる事になるなんて、この時の私は全く想像もしていなかった。
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