とある彼女の災難な日々

饕餮

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三話目

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 上空は雲一つない青空が広がっている。
 背面飛行をすれば下には連なった山々と平地が見え、建物は米粒サイズ。
 管制塔から飛んで来る指示に従い、あれこれと飛行実験をやっていたのだけど。

『こちら【ファルコン】、エリア51に着陸許可を』

 今にも爆発しそうな程ヤバそうな音を立てているエンジンを気にしつつ、基地の管制塔に連絡を取る。が、返って来た答えは

『バレルロールやってくれたらいいぞ』

 という、少々呆れるものだった。
 何故コイツらはあたしがこの基地に来る度にバレルロールを見たがるのか……そのことに苛つくと同時に呆れる。いくら私のコールサインが【ファルコン】といえど、そもそも私は海軍ネイビー所属だ。
 そんな私が何故ここにいるかと言えば、エアフォースから拝み倒された上司に任務扱いで無理矢理派遣され、エリア51に来ている最中。いくら戦闘機に乗れるからと言っても、断じて空軍エアフォースパイロットではないのだ。
 それに、バレルロールはエアフォースの十八番おはこじゃないんかい。キミタチが誇る、女王陛下の治める国が発祥の、雷鳥と名前のつく飛行部隊はどうした。
 そもそも、自分たちで実験データくらいとれんのか。確かにあたしはネイビーが誇る『青い天使たち』の飛行部隊に頼まれて一緒に飛んだことはあるけど、それだって一回だけだし。まさか、バレルロールが見たいがために、上司であるコスナー中将を拝み倒したんじゃなかろうかと、穿った見方しか出来ないんだけど。

『あら。貴重なライトニングの実験機とエンジン、今の今までやっていた実験データを失ってもいいならやってもいいわよ?』
『チッ……着陸を許可する』

 おい……今舌打ちしやがったよ、管制官コイツは。
 そんな諸々の感情を綺麗に隠して『ありがと♪』とお礼を言い、基地の滑走路へと向かってそのまま垂直に着陸し、誘導に従って格納庫へと走らせる。
 当初の予定ではもう少し実験データをとってから着陸するはずだったのだけど、整備が悪かったのか、或いはエンジンに欠陥があるのか、今乗っているF-35ライトニングのエンジンは終始ご機嫌斜めだったのだ。そんな状態でトップスピードのチェックなど出来るはずもなく、せいぜい出来たのは背面飛行や急旋回のみ。その急旋回ですらエンジンがヤバい音を立ててたもんだから、冷や汗をかいた。
 そんな状態で飛行し続けるのは危険極まりない……そう判断したあたしは、飛行実験を終えて、依頼されていたエリア51付近へと戻って来たのだ。

 格納庫にライトニングを格納し、エンジンを完全に切ってエアマスクを外すと、ハッチを開けてコックピットから降りる。ヘルメットを脱いで深呼吸すると、整備班の連中がすっ飛ん来た。
 彼らと話しながらエンジンの調子の悪さと、下手すればエンジンごと機体がぶっ飛んでいたと脅しをかけてその場を離れると、着替えるために移動する。いつまでも耐Gスーツやパイロットスーツなどの装備を着ていたくはなかった。
 耐Gスーツを着脱し、汗を流すために外に出ると、そこにこの基地の人間が待っていた。

「電話でありますか?」
「ああ。君がフライトしている間に何度かもらっている」

 そう聞いて眉をしかめる。誰だよ、一応任務中なんだけど、と思いつつも案内された部屋に行くと受話器を差し出された。それに挨拶しつつも電話に出れば、あたしに任務を押し付け……もとい、言い付けた上司本人からだった。

「何かありましたか? 今のところ、失敗はしていないはずですが」
『やっと捕まえたと思ったら、第一声がそれか? ……まあいい。緊急事態だ。【グリズリー】が迎えに行ったから、一緒に任務先に飛べ。詳しくは【グリズリー】に聞け』
「イエス、サー」

 電話を切って受話器を渡すと、その場にいた司令官に上司の言葉を告げる。

「申し訳ありません、緊急の任務が入りました」
「ああ、詳しいことは言わなかったが、コスナー中将から聞いている。そろそろ迎えが来るころだろうから行きたまえ」

 そう告げた司令官に敬礼して部屋をあとにする。荷物を全て引き上げてゲートを抜ければ、「よう!」と声をかけられた。そちらを見ればジープに寄りかかり、迷彩服を着て装備を付けている【グリズリー】が手を振っていた。

「また髭もじゃになってるし。いい男が台無しよ?」
「そう言うなって。任務中なんだから」

 荷物を積んで車に乗り込むなりそう言えば、【グリズリー】は笑いながらそんなことを宣う。

 前回この地に降りたって三ヶ月たった。【グリズリー】に会うのも、実に一ヶ月ぶり。あたしはあたしで訓練や演習や任務についていたし、彼は彼で同じようなことをしていた。お互いの休みがかちあったのが一ヶ月前だったのだから仕方ないけど。

「で? 緊急事態って?」
「とある筋からナッシュの目撃情報が寄せられた」

 そう言った【グリズリー】の情報に、眉を顰める。ナッシュはあたしの手で始末したはずだし、それは他のメンバーも見ている。

「なら、あのナッシュは替え玉だったってこと?」
「そうらしい。あの日、重要な取引があったらしくてな……あの屋敷にはいなかったそうだ」

 【グリズリー】が忌々しそうに吐き捨てる。

「もしかして、髭モジャなのは……」
「髭モジャ言うな。お前が考えてる通り、俺はナッシュを追っている」
「やっぱり。で、ナッシュは今どこにいるの?」
「今から案内するが、ここから二時間はかかる。空飛んで疲れてるだろ? 作戦行動は着いてから説明するから、その間は寝てろ。疲れたまま任務にあたって弾を外されても困る」
「そうね。なら、遠慮なく寝かせてもらうわ」

 車を停めた【グリズリー】の言葉に甘えて後部座席へと移動すると、毛布を被って目を瞑る。それを確認したらしい【グリズリー】は、すぐに車を走らせ始める。

(そう言えば、前もこんなことがあったっけ……)

 それは五年前……ちょうど【グリズリー】と付き合い始めたころの話で、あたしたちが海軍特殊部隊ネイビーシールズに抜擢されたあたりの話だと思う。そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。


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