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十八話目

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「あら……お引っ越し……?」

 ある日のこと。JazzBar 黒猫に出向いた籐子は、黒猫が入っているビルの隣の店舗が改装中であることに気づいた。

「どんなお店ができるのかしら」

 そんなことを言っていたのはだいぶ前のこと。できたお店は所謂雑貨屋で、店主である澤山さわやま 璃青りおもわざわざ店に挨拶に来てくれたのだ。
 璃青は籐子よりも少し年下の印象を受ける女性で、やや緊張気味ではあったが好感が持てる挨拶だった。その場で店で使うお皿や籐子自身が身に付けるかんざしがあるかどうかを聞けば、物によっては取り寄せると言うことだったので今度店を覗いてみようと思ったのが数日前のことだった。

 最近は大空だいすけ大目当てに来る客が増え、たまに食器も足りなくなることもあるから食器を増やそうかと徹也たちと話し合い、もし璃青の店にこの店で扱っているような食器に似たデザインがあるならば璃青の雑貨屋で食器を買うことを決めた。
 買うお皿はお通しなどで使う小鉢を数種類、平皿を数種類、ランチ用のご飯茶碗で、予備も含めてそれぞれ五十から百は買うつもりでいた。

 お店に行って雑貨を漁り、食器も見回し待つ。よさそうなデザインの食器を見つけた籐子は、それを各一個ずつ持ってレジへと向かう。

「璃青さん、こんにちは」
「あ、籐子さん! いらっしゃいませ!」
「今日は璃青さんにお願いがあって来たの」
「お願い、ですか?」

 不思議そうに首を傾げた璃青に籐子は持っていた食器を見せる。

「この食器を各百個欲しいの。最低でも五十は欲しいんだけれど」

 そう伝えると、璃青は「ええっ?!」と驚きの声を上げた。

「うちとしては嬉しいんですけど、ただ、今は在庫が無くて……」

 申し訳なさそうな璃青に急ぎではないができれば今月中にほしいことと、納品先はお店の方にしてもらうことと、食器は取り寄せてもらうころを話し合いで決めた。
 確認するから待っていてほしいと言った璃青に籐子は頷き、待っている間に店内をあちこち移動しながら見る。シンプルなデザインの鼈甲べっこうの簪を見つけた籐子は、その簪に合わせるように櫛を探すと鼈甲の櫛もあったので、電話が終わった璃青にその二つをレジに持って行く。

「籐子さん、先方に在庫があるそうなので、すぐにご用意できますよ」
「あら、助かるわ! 璃青さん、ありがとう」
「どう致しまして」
「食器のぶんは、とうてつ名義で請求書をちょうだいね。あと、これは今買って帰るわ」
「わかりました! ありがとうございます!」

 嬉しそうに笑った璃青に微笑みつつ、簪と櫛は挿して帰るからと値札を外してもらい、お金を払ってからその場で着けて店に戻ったのだった。


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