猫もふあやかしハンガー~爺が空に行かない時は、ハンガーで猫と戯れる~

饕餮

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第9話

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 寝て起きた翌日。ハンガーに行くと、じいさんたちがおしゃべりをしていた。

『おお、おお、来たのう』
『おはようじゃ』
「おはよう。つうか、相変わらず元気だよな」
『元気なのはいいことじゃろ? ところで猫ちゃんたちは?』
「いきなり猫ちゃん言うな! まだシャッターを開けてないだろうが」

 今日も今日とて、じいさんたちは元気である。つうか朝から猫ちゃん猫ちゃんと煩い。
 昨日も何事もなく平和に過ごしたとじいさんたちが話しているから、緊急発進スクランブルはなかったんだろう。とはいえ、これから通常の訓練が待ち受けている。
 今日も頑張るかと気合いを入れると、じいさんたちと話している間にシャッターが開けられた。全てのシャッターが上に上がると、待ち構えていたように猫たちが突撃してくる。
 今日はキンタとクロが仔猫を二匹引き連れ、じいさんたちの傍に寄る。本当はよくないが、猫たちはじいさんに挨拶をするだけでハンガー内のもので遊んだり悪戯することもないので、黙認されている。
 それはともかく、四匹の猫がじいさんたちに近づいたわけだが。

「……キンタ、尻尾が一本隠れてないぞ」
「にゃっ!?」

 俺に指摘され、キンタが驚いた声をあげる。そして自分の長い尻尾を見ると、慌てて消した。

「やっぱり猫又かよ……」
「にゃ~ん」

 ――さて、な。

 なんだかそう言われた気がする。
 そうかい、あくまでも白を切るのかい。

「……まあ、いっか。どうも俺にしか見えてないみたいだし」
「にゃん、にゃ~」

 ――お前以外にも、我らの世話をしている基地司令や一佐クラスは知ってるぞ。ジッタ坊もな。

 おい……なんだか、キンタの声がはっきりと聞こえた気がするんだが。つうか、聞いてはいけない言葉が聞こえた気がするんだが!

「…………それは聞かなかったことにしてやる」
「にゃん」

 ――賢明だな。

 機嫌よく振られた尻尾に、溜息をつく。明らかにキンタの鳴き声が、脳内で人間の言葉として変換されているのだ。
 あれか? ファンタジー的な何かがあるのか? それとも、キンタが俺に気を許したから、わかるようになったのか?
 イマイチ理屈はわからないが、キンタがいいと思っているならいいんだろう。
 つーか、じいさんたちとも話せるようになってるんだよなあ……。
 おかしいな……俺自身は霊的なものが見えたり聞こえたりするわけじゃないし、陰陽師でも坊主でもないんだが。確かに実家は歴史ある寺ではあるが、俺自身は修行なんぞしとらんぞ?
 やっぱ、じいさんやキンタ認めたってのが一番なんだろうな。
 そんなことを考えているうちに、じいさんたちが外に出される。エプロンに駐機したじいさんたちの傍に行って、戯れ始める猫たち。
 そろそろ換毛期なんだから毛を飛ばすなよと思いつつ、あとは整備班に任せて俺たちパイロットはブリーフィングだ。
 隊長からの指示及び、本日の予定。他にも注意事項などなど、議題は多岐に亘る。
 それらを真剣に聞き、自分の中に落とし込んでゆくのだ。中にはじいさんから別の機体に移動する者もいるため、引継ぎも少なからずある。
 とはいえ、現在は実質じいさんのパイロットになる者はほとんどいない。機体運用年数の関係もあり、用途廃棄になりつつあるからだ。
 あと何年じいさんに乗れるんだろうか。その年によっては、乗る機体を変更せざるを得ないだろう。
 じいさんに愛着がある俺としては寂しいが、こればかりは上の決定に従わないといけないのがつらい。
 なるようにしかならんしなあ……と内心で溜息をつきつつ、しっかり話を聞いているうちにブリーフィングも終わる。

「今日の昼飯、なんだっけ?」
「揚げ物だったような気が」
「献立見てないのかよ」
「見たが、きっちり憶えてねえんだよ」

 移動しつつシェードや他の同僚と昼飯の話をする。俺はなんでも食えるしその日を楽しみにしたいから、食堂に貼られている献立は基本的に見ないんだよな。
 シェードが揚げ物と言っているが、一口に〝揚げ物〟といっても、多岐に亘る。若干楽しみだと思いつつエプロンに行けば。

「「「「…………まだいたのかよ」」」」
「「にゃあん♪」」
「「にゃー♪」」
「「「みゃあ♪」」」
<そうか、そうか>
<よかったのう>
<なら、あとはいっぱい遊んで寝るだけじゃのう>
<儂も一緒に寝たいのう>
「「「「寝たい言うな!」」」」

 しかも増えてた!
 つうか、じいさんが寝たらこっちは困るっつーの!
 もうここはキンタにお願いして全員引き連れていってもらわねばならんのでは……なんて思っていたら、俺たちを見たキンタが「にゃん!」と鳴いた。すると、話をしていた猫たちはじいさんたちの脚に頭と体を擦り付けたあと、キンタたち大人の猫に連れられて、エプロンをあとにした。
 そこからは一丸となって猫の毛を探しまくり、ガムテやコロコロを使って除去作業に勤しむと、訓練に向けて動き出したのだった。

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