詰んでる不遇悪役令嬢は電波少女になり、どうにか死亡フラグを回避したい

礼瀬

文字の大きさ
上 下
20 / 39

家族

しおりを挟む
体調も回復してくると、王宮からの招待状が届いた。王宮に行く前に新しい追加の護衛と顔合わせをするらしい。寝込んで数日間は、いつ母親に呼び出しを食らうがひやひやしていたが、特にお咎めはなさそうだった。ミュリーが関係していそうだったから、てっきり母にとっても都合が悪いことをしたのかと思ったが、母は関係なかったのだろうか。

「お嬢様にご挨拶します。本日より、護衛をするアントラと申します、よろしくお願い致します」

前に護衛の挨拶をしたジェインとは違って、がっつり肩を押さえつけられるようなことはない。なんというか、護衛というには細身で、あまり目立たないような容姿をしている。隠密とかといった方がしっくりしそうな感じだ。ジェインとキャシーは、新しい護衛の様子を見ているのか、王宮に行くまで手を出してくることはなかった。

にしても、このドレス重いんだが。今日は、王様に謁見することになっているせいか、かなり気合の入ったドレスになっている。歩きづらさにため息が漏れるが、謁見の間の前まで来たので気を引き締める。

ゆっくりと扉が開かれた。

玉座に陛下、周りに殿下や王妃や王弟、主要な貴族が並んでいた。ちょ、ここまでギャラリーがいるのは聞いていないのだけど!! 内心心臓バックバクになりながらも、足を進め首を垂れる。

「面をあげよ。息子のシャルの命を救ったこと、感謝をする。その功績をたたえ、称号と褒美を用意した」

なんも聞いとりませんが!? そんな重要な場面なら、そりゃドレスも重たくなるわ。っていうか、普通なら流れとかを聞かされた上でやるもんじゃないの? もう心臓バクバクどころか、冷や汗だらだらだよ。

「ティア・アウローラ侯爵令嬢に、雷と呪を纏いし守護者の称号を授け、魔道具のネックレスを授ける」

ま、まさかの、中二病設定がそのまま称号になってしまった。実に痛々しいんだが。やべぇ、その二つ名を一生背負うとか、褒美じゃなくて罰ゲームだよ。と、いってやりたいけど、言えないのが身分の悲しい所である。

「こちらがネックレスになります、杖の代わりになる魔道具として開発途中の代物です。杖ほど多量の魔力を扱うことはできませんが、簡単な魔法であればネックレスを通じて、魔法を扱うことが出来ます。……、殿下が一生懸命研究されていらっしゃるのですよ」

男性が近づいてくると、箱にはいった、いかにも高そうな金色に輝く宝石が付いたネックレスを説明と共に渡される。渡す際に、小声で王子が研究をしていることが付け加えられた。思わず王子の方をみると、にこやかに笑っている。

杖を怖がっているから、わざわざつくってくれたのだろうか。どことなくそわそわと落ち着かないような気持ちになりつつも、感謝の言葉を述べ退室をした。

馬車に向かって歩く。途中王宮の使用人や、兵士とすれ違うことがあったが、刺々しい雰囲気を感じるようなことがなかった。これは、今回のことと、王子がなにかしらやったことで、悪い噂が払拭されつつあるのではないだろうかなんて思う。

「ご立派でしたよ」

馬車まで戻ると、アントラが上機嫌にそう言ってきた。キャシーとジェインはどことなくつまらなさそうにしているのが見える。

「今日は、侯爵様がお帰りになり、食事を一緒に取られます。帰ったらすぐに着替えてご準備を」

屋敷に戻るとキャシーがそういった。あの父親、帰ってくるのか。まったくもって良い印象なんてないのだから、放っておいてほしい。フラメウの紅茶を飲みながらゆっくり過ごせたらどんなに心が休まるか、なんて思いながら、しぶしぶ着替えを済ませる。フラメウがその様子を見ながら苦笑いをした。

「あ、これどうしよう」

ネックレスを眺める。この屋敷のどこに置いておくのも怖いぐらいに高級そうだ。

「身に着けておくのがよろしいかと。殿下はお嬢様を守りたくて渡されたのだと思いますし、普段から身に着けていても壊れにくいような効果があるとお聞きいたしました」

困っていると、アントラにそういわれた。身に着けておくのも怖い気がするのだが、普段から身に着けることを想定して作られたようなので、首につける。

「よくお似合いです。それでは、食事に参りましょうか」

用意が一通り終わると、食堂へと向かった。豪勢な食事が並べられており、両親はもう座っていた。久しぶりに、父とご飯を食べることが出来るからか、母はえらく上機嫌そうにしていた。こんな上機嫌な母、転生して初めて見たかもしれないなんて、若干気持ち悪さを覚えながら椅子に座り食事をする。

「お手柄だったようだな。婚約者としての立場も固くなっただろう。最近は王宮でも良い噂を聞く。頑張っているようだな」

なんだろう、褒められてもまったく嬉しくない。気をひきたがっていた、ゲームのティアなら、大喜びしそうな場面ではあるのだけど。びっくりするほど、何の感情も沸いてこない。思わず黙っていると、母親に睨まれた気がした。慌てて愛想笑いを浮かべておく。

早く時間が過ぎないかなぁ。

どんなに豪勢な料理も、味を感じないんじゃ美味しいなんて思えないし、両親がいるせいか、食べ物が喉を通りにくい。でも、あまりに蔑ろにすると、母親の逆燐に触れることだろう。

無性に、前世の母親が作ったハンバーグが恋しくなった。傷つけられたけど、全ての時間が嫌だったわけじゃない、感謝していることだって、楽しかった時間だってある。家族なんて思わないなんて、思いこもうとした時もあったけど、なんだかんだで家族でいられた。母親の料理だったなら、美味しいと思いながら食べることが出来ただろう。心から笑うこともできただろう。

あぁ、そうか、私にとってこの二人は家族じゃないんだ。前世の家族に対する気持ちとは、全く別の冷めきった感情を感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

処理中です...