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家族
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体調も回復してくると、王宮からの招待状が届いた。王宮に行く前に新しい追加の護衛と顔合わせをするらしい。寝込んで数日間は、いつ母親に呼び出しを食らうがひやひやしていたが、特にお咎めはなさそうだった。ミュリーが関係していそうだったから、てっきり母にとっても都合が悪いことをしたのかと思ったが、母は関係なかったのだろうか。
「お嬢様にご挨拶します。本日より、護衛をするアントラと申します、よろしくお願い致します」
前に護衛の挨拶をしたジェインとは違って、がっつり肩を押さえつけられるようなことはない。なんというか、護衛というには細身で、あまり目立たないような容姿をしている。隠密とかといった方がしっくりしそうな感じだ。ジェインとキャシーは、新しい護衛の様子を見ているのか、王宮に行くまで手を出してくることはなかった。
にしても、このドレス重いんだが。今日は、王様に謁見することになっているせいか、かなり気合の入ったドレスになっている。歩きづらさにため息が漏れるが、謁見の間の前まで来たので気を引き締める。
ゆっくりと扉が開かれた。
玉座に陛下、周りに殿下や王妃や王弟、主要な貴族が並んでいた。ちょ、ここまでギャラリーがいるのは聞いていないのだけど!! 内心心臓バックバクになりながらも、足を進め首を垂れる。
「面をあげよ。息子のシャルの命を救ったこと、感謝をする。その功績をたたえ、称号と褒美を用意した」
なんも聞いとりませんが!? そんな重要な場面なら、そりゃドレスも重たくなるわ。っていうか、普通なら流れとかを聞かされた上でやるもんじゃないの? もう心臓バクバクどころか、冷や汗だらだらだよ。
「ティア・アウローラ侯爵令嬢に、雷と呪を纏いし守護者の称号を授け、魔道具のネックレスを授ける」
ま、まさかの、中二病設定がそのまま称号になってしまった。実に痛々しいんだが。やべぇ、その二つ名を一生背負うとか、褒美じゃなくて罰ゲームだよ。と、いってやりたいけど、言えないのが身分の悲しい所である。
「こちらがネックレスになります、杖の代わりになる魔道具として開発途中の代物です。杖ほど多量の魔力を扱うことはできませんが、簡単な魔法であればネックレスを通じて、魔法を扱うことが出来ます。……、殿下が一生懸命研究されていらっしゃるのですよ」
男性が近づいてくると、箱にはいった、いかにも高そうな金色に輝く宝石が付いたネックレスを説明と共に渡される。渡す際に、小声で王子が研究をしていることが付け加えられた。思わず王子の方をみると、にこやかに笑っている。
杖を怖がっているから、わざわざつくってくれたのだろうか。どことなくそわそわと落ち着かないような気持ちになりつつも、感謝の言葉を述べ退室をした。
馬車に向かって歩く。途中王宮の使用人や、兵士とすれ違うことがあったが、刺々しい雰囲気を感じるようなことがなかった。これは、今回のことと、王子がなにかしらやったことで、悪い噂が払拭されつつあるのではないだろうかなんて思う。
「ご立派でしたよ」
馬車まで戻ると、アントラが上機嫌にそう言ってきた。キャシーとジェインはどことなくつまらなさそうにしているのが見える。
「今日は、侯爵様がお帰りになり、食事を一緒に取られます。帰ったらすぐに着替えてご準備を」
屋敷に戻るとキャシーがそういった。あの父親、帰ってくるのか。まったくもって良い印象なんてないのだから、放っておいてほしい。フラメウの紅茶を飲みながらゆっくり過ごせたらどんなに心が休まるか、なんて思いながら、しぶしぶ着替えを済ませる。フラメウがその様子を見ながら苦笑いをした。
「あ、これどうしよう」
ネックレスを眺める。この屋敷のどこに置いておくのも怖いぐらいに高級そうだ。
「身に着けておくのがよろしいかと。殿下はお嬢様を守りたくて渡されたのだと思いますし、普段から身に着けていても壊れにくいような効果があるとお聞きいたしました」
困っていると、アントラにそういわれた。身に着けておくのも怖い気がするのだが、普段から身に着けることを想定して作られたようなので、首につける。
「よくお似合いです。それでは、食事に参りましょうか」
用意が一通り終わると、食堂へと向かった。豪勢な食事が並べられており、両親はもう座っていた。久しぶりに、父とご飯を食べることが出来るからか、母はえらく上機嫌そうにしていた。こんな上機嫌な母、転生して初めて見たかもしれないなんて、若干気持ち悪さを覚えながら椅子に座り食事をする。
「お手柄だったようだな。婚約者としての立場も固くなっただろう。最近は王宮でも良い噂を聞く。頑張っているようだな」
なんだろう、褒められてもまったく嬉しくない。気をひきたがっていた、ゲームのティアなら、大喜びしそうな場面ではあるのだけど。びっくりするほど、何の感情も沸いてこない。思わず黙っていると、母親に睨まれた気がした。慌てて愛想笑いを浮かべておく。
早く時間が過ぎないかなぁ。
どんなに豪勢な料理も、味を感じないんじゃ美味しいなんて思えないし、両親がいるせいか、食べ物が喉を通りにくい。でも、あまりに蔑ろにすると、母親の逆燐に触れることだろう。
無性に、前世の母親が作ったハンバーグが恋しくなった。傷つけられたけど、全ての時間が嫌だったわけじゃない、感謝していることだって、楽しかった時間だってある。家族なんて思わないなんて、思いこもうとした時もあったけど、なんだかんだで家族でいられた。母親の料理だったなら、美味しいと思いながら食べることが出来ただろう。心から笑うこともできただろう。
あぁ、そうか、私にとってこの二人は家族じゃないんだ。前世の家族に対する気持ちとは、全く別の冷めきった感情を感じた。
「お嬢様にご挨拶します。本日より、護衛をするアントラと申します、よろしくお願い致します」
前に護衛の挨拶をしたジェインとは違って、がっつり肩を押さえつけられるようなことはない。なんというか、護衛というには細身で、あまり目立たないような容姿をしている。隠密とかといった方がしっくりしそうな感じだ。ジェインとキャシーは、新しい護衛の様子を見ているのか、王宮に行くまで手を出してくることはなかった。
にしても、このドレス重いんだが。今日は、王様に謁見することになっているせいか、かなり気合の入ったドレスになっている。歩きづらさにため息が漏れるが、謁見の間の前まで来たので気を引き締める。
ゆっくりと扉が開かれた。
玉座に陛下、周りに殿下や王妃や王弟、主要な貴族が並んでいた。ちょ、ここまでギャラリーがいるのは聞いていないのだけど!! 内心心臓バックバクになりながらも、足を進め首を垂れる。
「面をあげよ。息子のシャルの命を救ったこと、感謝をする。その功績をたたえ、称号と褒美を用意した」
なんも聞いとりませんが!? そんな重要な場面なら、そりゃドレスも重たくなるわ。っていうか、普通なら流れとかを聞かされた上でやるもんじゃないの? もう心臓バクバクどころか、冷や汗だらだらだよ。
「ティア・アウローラ侯爵令嬢に、雷と呪を纏いし守護者の称号を授け、魔道具のネックレスを授ける」
ま、まさかの、中二病設定がそのまま称号になってしまった。実に痛々しいんだが。やべぇ、その二つ名を一生背負うとか、褒美じゃなくて罰ゲームだよ。と、いってやりたいけど、言えないのが身分の悲しい所である。
「こちらがネックレスになります、杖の代わりになる魔道具として開発途中の代物です。杖ほど多量の魔力を扱うことはできませんが、簡単な魔法であればネックレスを通じて、魔法を扱うことが出来ます。……、殿下が一生懸命研究されていらっしゃるのですよ」
男性が近づいてくると、箱にはいった、いかにも高そうな金色に輝く宝石が付いたネックレスを説明と共に渡される。渡す際に、小声で王子が研究をしていることが付け加えられた。思わず王子の方をみると、にこやかに笑っている。
杖を怖がっているから、わざわざつくってくれたのだろうか。どことなくそわそわと落ち着かないような気持ちになりつつも、感謝の言葉を述べ退室をした。
馬車に向かって歩く。途中王宮の使用人や、兵士とすれ違うことがあったが、刺々しい雰囲気を感じるようなことがなかった。これは、今回のことと、王子がなにかしらやったことで、悪い噂が払拭されつつあるのではないだろうかなんて思う。
「ご立派でしたよ」
馬車まで戻ると、アントラが上機嫌にそう言ってきた。キャシーとジェインはどことなくつまらなさそうにしているのが見える。
「今日は、侯爵様がお帰りになり、食事を一緒に取られます。帰ったらすぐに着替えてご準備を」
屋敷に戻るとキャシーがそういった。あの父親、帰ってくるのか。まったくもって良い印象なんてないのだから、放っておいてほしい。フラメウの紅茶を飲みながらゆっくり過ごせたらどんなに心が休まるか、なんて思いながら、しぶしぶ着替えを済ませる。フラメウがその様子を見ながら苦笑いをした。
「あ、これどうしよう」
ネックレスを眺める。この屋敷のどこに置いておくのも怖いぐらいに高級そうだ。
「身に着けておくのがよろしいかと。殿下はお嬢様を守りたくて渡されたのだと思いますし、普段から身に着けていても壊れにくいような効果があるとお聞きいたしました」
困っていると、アントラにそういわれた。身に着けておくのも怖い気がするのだが、普段から身に着けることを想定して作られたようなので、首につける。
「よくお似合いです。それでは、食事に参りましょうか」
用意が一通り終わると、食堂へと向かった。豪勢な食事が並べられており、両親はもう座っていた。久しぶりに、父とご飯を食べることが出来るからか、母はえらく上機嫌そうにしていた。こんな上機嫌な母、転生して初めて見たかもしれないなんて、若干気持ち悪さを覚えながら椅子に座り食事をする。
「お手柄だったようだな。婚約者としての立場も固くなっただろう。最近は王宮でも良い噂を聞く。頑張っているようだな」
なんだろう、褒められてもまったく嬉しくない。気をひきたがっていた、ゲームのティアなら、大喜びしそうな場面ではあるのだけど。びっくりするほど、何の感情も沸いてこない。思わず黙っていると、母親に睨まれた気がした。慌てて愛想笑いを浮かべておく。
早く時間が過ぎないかなぁ。
どんなに豪勢な料理も、味を感じないんじゃ美味しいなんて思えないし、両親がいるせいか、食べ物が喉を通りにくい。でも、あまりに蔑ろにすると、母親の逆燐に触れることだろう。
無性に、前世の母親が作ったハンバーグが恋しくなった。傷つけられたけど、全ての時間が嫌だったわけじゃない、感謝していることだって、楽しかった時間だってある。家族なんて思わないなんて、思いこもうとした時もあったけど、なんだかんだで家族でいられた。母親の料理だったなら、美味しいと思いながら食べることが出来ただろう。心から笑うこともできただろう。
あぁ、そうか、私にとってこの二人は家族じゃないんだ。前世の家族に対する気持ちとは、全く別の冷めきった感情を感じた。
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