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心の傷

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「そもそも、呪いはどうかけて、どうやって解くのですか?」

確かに、呪いの大前提について何も知らないや。少なくとも渡された魔法の本には呪いの項目は全く存在しなかった。

「詳しくはないのですが、相手の精神を衰弱させてから魔力を流し込み、更に相手に復唱させる必要性があるようです。精神を衰弱させて魔力を流し込むところは洗脳関連の魔法に似ているところがありますが、復唱させないといけないのでより難易度が高いですね。それ故にとても強力なようです。ただ、どちらにしてもまともに使えるものではありませんよ、普通でしたらそこまで精神が衰弱してしまうことはありませんから」

おぉう、なんだか二人の目がいたく同情的な。精神はまぁ、衰弱してないわけがない、大地震で他の人が心配な中、自分だけとち狂った人しかいない環境に転生しているし、見ず知らずの人には敵意むき出しにされるし、どうなんだろう、死んだらまた違う世界に転生したりして、もっと楽な人生になったりしないかななんて、何度も考えるくらいだし。その思考が正常じゃないと思えるくらいの判断力はまだ残っているけれど。

「呪いを解くには、かけた本人が解くか、かけた本人が死ぬか、衰弱した精神を回復させるか、より強力な呪いで上書きをするかですね。一番現実的なのは、お嬢様の精神の回復でしょうか」

あの家に住んでいる限りは無理だし、あの家から離れたところでそんな簡単に回復するほどこの世界に希望を抱けないんだけどね。

「精神が衰弱した原因は、以前先生をしていた人に原因があるのですよね? それなら、ゆっくり休めば呪いは」

それだけではないんだよね、ここでまぁ発育してなかったり、みすぼらしい格好でもしていれば虐待にたどり着くだろうけど、残念ながら外面は完ぺきなというか、じつは社交界において母親の評価はとてもよかったりする。虐待にたどり着く方が難しいだろう。

「殿下、一度傷ついた心というのは簡単に癒えないものなのでございます。深く傷つけばつくほどそれは顕著に現れます。どれだけ時間が過ぎても、どれだけ幸せが訪れようとも、ふとした瞬間に顔をのぞかせて心を痛めつける呪縛、そのようなものなのですよ」

わからないでもない、言われて傷ついた言葉はずっと残っている。前世の幼稚園の時だっただろうか、兄がいて、私がいて、母がいた。私は手がかかる時期で、母は仕事や家事、兄の学校の役員におわれていて、イライラしていて、たまたま虫の居所が悪かったんだと思う、何をして怒らせたのかよく覚えてない、でもその時に言われた兄はかわいいけどあんたは可愛くない、そういわれたことははっきり覚えている。色々環境も落ち着いて、私も落ち着いて、母も穏やかになって高校生ぐらいまでなると、母親との仲もそんなに悪くなくなった。それでも、言われた言葉だけはずっと消えずに、ふと瞬間に自分は母親にとって可愛くないのではないかそんな風に思う。母親はその言葉を覚えてなかったし、愛情を注いでくれてるし、かわいいとも言ってくれるけど、それだけじゃどうにも消えない。呪縛という言葉がぴったりなのかもしれない。

「じゃあ、一度傷つくとずっと幸せになれないのですか? 幸せにできないのですか」

幸せにしようとしているのだろうか、まだ数回しか会っていないのに、まるで物語の王子様だ。まぁ、物語の王子様か。ドン引きを目指しているはずなのに、優しくされると離しがたくなっちゃうから辛い所だ。学園に入学したら、悪役令嬢なんてあっさりポイだろうに。

「傷が残るのと、幸せになれないことは違いますよ。傷がどれだけいたんでも、それを全部抱えて幸せだと言える強さも人は持っているのです。ただそれには、支えてくれる存在が必要なのでございます。王妃様が言われた、婚約者を支えるようにという言葉はそういうことでございますよ」

王妃がそんなことをいっていたのか。最初の悪印象から随分と改善されたものである。権力者が味方に付くのは、かなり状況としては好転しているといえるけど、呪いさえなければ今すぐ訴えれるのにと思うと、なんだか喉元がむずむずする。

「そうですか、それならがんばります。とりあえず呪いの解き方は分かりましたけど、問題はだれがかけたかですよね」
「王子の婚約者ともなれば、様々な人から狙われますから、特定することが難しいですね。侯爵夫人にお嬢様の護衛を増やすように進言いたしましょうか」

それは、多分監視の目が増えるだけだなぁ、護衛となると男の人が付いたり、力の強い人がきたりするのかな、叩かれたら痛いだろうなぁ。

「人の目が増えればその分仕掛けづらくはなりますね、こちらからも護衛を回したりできないのでしょうか」
「王宮内と、家に送るまでなら可能でしょうが、それ以外では、難しいと思われます。なにより王宮では、根も葉もない噂でお嬢様を誤解する人がたくさんいらっしゃいますから、人選も難しいと思われます」

良心で付けた護衛が悪意にまみれてましたは、洒落にならないからぜひやめていただきたいです。

「つまり、王宮での評価が上がれば、もっとやりやすくなるということですね。それに王宮からという形でなければ、すみません、やることを思い出しましたからこれで。今日は話せて楽しかったですティア嬢」

なんかぶつぶつと言っているし、笑みが黒い気がするのは気のせいかなぁ、気のせいじゃないんだろうなぁ、この王子いまいち何をやらかすかつかみきれないんだが。
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