上 下
14 / 39

冗談じゃ済まない

しおりを挟む
「あそこにいらっしゃいますね。お嬢様は、藁人形の方を見るようにしてください。殿下は魔法の練習中ですので、杖を持たれています」

しばらく王宮内を歩いていくと、王子がいる部屋についた、魔法の練習中のようで、ディーダが教えてくれたので慌てて藁人形の方を見る。

「挨拶はしなくてよろしんですか?」

王族に挨拶もせずに見ているのはかなり無礼な気がするのだけれど。

「今は例外でございます。魔法の最中に話しかけられると、集中力が散ってむしろ危ないのでございます。何より殿下は、お嬢様ほど魔法の扱いに慣れていません」

藁人形を見ていると、火の粉のようなものしか藁人形に届いていなかったり、水の勢いが弱くて藁人形よりも前に落ちていたりしていた。お世辞にもうまく扱えているとは言えない、おかしいな、ゲームだと人並みぐらいには仕えていたはずなんだけど。

「どうしても、向き不向きというのがございます。殿下の場合は、杖に魔力をためるまでスムーズにできても、そこから放出する際に、魔力がばらけてしまっているため、貯めた分だけの威力で攻撃をすることが出来ないのです。ばらけやすい魔力の性質を持つ人も結構いられるのですよ、それでも殿下は大変努力しておいでです。あ、こちらに気付かれたようです」

藁人形を見ていたから分からないが、こちらに気付いたようだ。体だけ向き直して杖を見ないように気を付けながら礼をとる。

「あ、きてくれたんですね。顔をあげてください、あ、ご、ごめん……。杖をしまいましたよ、ごめんなさい。その、メファールにも無理に参加させてしまったみたいで」

顔をあげると、杖が視界に入り、反射的に体がびくりと揺れると、申し訳なさそうにしながら王子が杖をしまい謝罪してきた。これは、杖が苦手なこと王子にも話がいっちゃたなぁ。というか、流石に幼子がしょんぼりしている姿は少し胸が痛い、いや、この世界では同い年だけどさ。

「謝罪は必要ございません。力を持つものの宿命でございます。呪のせいで人よりも苦難は多いですが、それは殿下のせいではございませんの。殿下がメファールに誘われずとも、私の力に、運命が手繰り寄せられ参加することは免れなかったでしょう」

「お、お嬢様?」

おぉう、ディーダが困惑しているよぅ。そうだろうなぁ、あとでなんて言われることやら。

「そうですか、無理はしないでくださいね。ディーダと一緒に来たのですね、ディーダとはうまくいっていますか?」
「い、今のところは?」

上手くいっているというのだろうか、とりあえず現状だけで行くと、前ほどやばそうではないから返答を間違ってはいないだろう。

「せっかく来てくれたので、一緒にお茶でも飲みましょう。あちらの椅子に座ってください」

椅子をすすめられたので座ると、みるみるうちに、茶会の準備が整えられていく。流石王宮の使用人たちは仕事が早いなぁ。目の前に美味しそうな、紅茶とケーキが並んでいる。相変わらず食べても味を感じないけれど。なんだか、食べている様子をじっと王子に見られている気がする、まずそうに食べたりはしていないはずなんだけど。

「あまりおいしくありませんでしたか?前はもう少し、口元が緩んでいたように思ったので」

おぉう、めっちゃ観察してるじゃん。口元をそんなまじまじ見ないでいただきたい。というか、王宮で出されるものにケチをつけるとか絶対にやっちゃまずいよね? これ、なんて返すべきなんだ。

「いえ、とても美味しいです。ですが、右目が疼いてしまって、せっかくのケーキが堪能できていませんの」

困った時の中二病ワード、右目より、心の古傷が痛んでいるよ。とはいえ、そろそろ連発するのにも慣れてきたなぁ、慣れたくはなかったけど。

「右目に纏われた呪いですね、前はひどく痛がっていましたが、今は大丈夫なのですか?」
「い、今はその疼く程度で、そこまでではございませんわ」

後ろから、ディーダの視線が突き刺さってる気がする、違う意味で辛いです、王子あまり触れないで、お願いだから!!

「そうですか、痛みが強くなったらすぐに言って下さいね」
「お話の途中に申し訳ありません、お嬢様は呪いにかけられているのですか?」

ぬおぉぉぉ、深く突っ込まないでぇ、どこまでが呪いに対して大丈夫なワードかもわからないよ!

「え、えぇ、しかし詳しくはいえ……っ」

ビリっと体に痛みが走る、どうやら呪いが反応したらしい、最初は嘘で始めたのに、いつの間にか本当になっているのはほんとに困る。

「術者によって口封じをされているのであれば、無理にしゃべると危険が伴います。現代で、呪いが使えるような人がいるという報告を受けたことがないのですが……」
「王様に報告をしようとしたんですが、言葉が出なくなって。呪いの影響なんでしょうか」

おぉっと!? なんか話がだんだん大事になってきている気がするよ。二人の目がものすごく本気に見えるけど、あんまり大事になると私の手に負えなくなってきてしまうから! 

「そうなるとなかなか厄介ですね、でもお嬢様から王子に呪いについて伝わったことを考えると、抜け道がありそうです、お嬢様の身の回りに、お嬢様を呪うような人がいるなら、早めに色々調べたほうがよさそうです」

後ろにはキャシーもいるから! これは、話が呪いをかけた本人に筒抜けになりそうです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...