詰んでる不遇悪役令嬢は電波少女になり、どうにか死亡フラグを回避したい

礼瀬

文字の大きさ
上 下
4 / 39

諦めと足掻き

しおりを挟む
 「お願いです、助けて下さいまし!」

 久々にやってきたフレール嬢は大分やつれていた。ろくに眠れてもいないのか、目の下にクマが出来ている。

 「助ける……とはどういうことでしょう?」

 アナベラ姉は怪訝な表情。フレール嬢は「……借金の事ですわ」と疲れきったように言った。「利子の軽減について口添えして頂きたいんですの」

 「私に、父に口添えをしろと?」

 アナベラ姉は困惑顔。フレール嬢は「そちらの借金ではありません」と首を横に振る。

 「アナベラ様にしか出来ない事ですわ。金貸し業に詳しい方に借金の事を調べて頂きましたの。そうしたら、メイソン様が金貸しから借りた金をキャンディ伯爵家への返済へと充てているという事実と、その債権が全て銀行とやらに行き着いている事実が判明して――銀行というものの責任者はなのでしょう? きっと、私を恨んでいる事でしょうね」

 『私の前夫』という言葉に私はちょっと引っかかった。アナベラ姉も同じことを思ったのか眉根を僅かに寄せている。

 「恨まれているというのは考え過ぎでは? に聞いたことがありますけれど、そもそも債権の証文というものは裏書きを変えて売買出来るそうですわよ。銀行がたまたま引き受けただけなのではないかしら」

 その言葉にフレール嬢はアナベラ姉に険のある眼差しを向けた。

 「しらばっくれていらっしゃるのですか? 『リボ払い』という仕組みはそもそも銀行が始めたのでしょう? 返済に無理のないように見せかけて、実際に計算すれば借金が何時まで経っても残り続け、ずっと返し続けなければいけなくなるやり方だそうですわね」

 アナベラ姉がちらりと私を見る。ほう、と内心感心した。まあ隠してはいないがそこまで調べたらしい。リボ払いの仕組みも理解したという事は、リプトン伯爵家にはそれなりの知識のある助っ人が出来たようだ。これは調べる必要があるな。

 「それがお考えの根拠としたら少々おかしくありませんこと? だって、無理のある返済を求められても逆にお困りになりますでしょう……?」

 冷静なツッコミ。フレール嬢も確かにその通りだと思ったのだろう、ぐっと押し黙った。
 アナベラ姉は溜息を一つ吐く。

 「そのような事であれば一応口添えはして差し上げますが……難しいと思いますわ。フレール様だけに特例を認めれば、他の債権者達にも不公平ですもの。
 そもそも、フレール様は借金の事も含めて、メイソン様と夫婦同士できちんと話し合われるべきではありませんの? うちに来られてもどうしようもありませんし」

 実に正論である。フレール嬢は顔を歪め、ワッと泣き伏した。

 「そんな事やれるならとっくにやってます! でも無理ですわ! メイソン様ときたらここの所ずっと家に帰ってきて下さらないんですもの! ずっと娼館に入り浸って女遊び、最近は博打にも手を出して!
 家に帰ってきたかと思えば酒臭く、私に暴力まで……金遣いも荒くて借金を重ねるばかり、私のなけなしの装飾品などもお母様の形見を残して全て売られましたわ! あんな……あんな人だとは思わなかった!」

 肩を震わせるフレール嬢。アン姉が同情的な表情を浮かべる。
 成程、リプトン伯爵家はドエライ事になっているらしい。それにしても飲む打つ買う役満でおまけにDVか……正に『生まれついてのろくでなし』だな。
 フレール嬢はハンカチを取り出して嗚咽を堪えながら涙を拭っていた。

 「早く……早く何とかしなければ。私はメイソン様とお別れして、また借金の為に好きでもないいやらしい中年男に嫁ぐ羽目になってしまう。こんな事なら、アールの方が何倍もましでしたわ!」

 私はその言葉にぎょっとした。アナベラ姉も流石に聞き捨てならなかったらしく、今やはっきりと渋面になっている。

 「そんな事を私に仰られても困りますわ。今更だし、第一選んだのは貴女でしょう?」

 「アナベラ様は私と違って美しく何でもお持ちで、求婚者にも不自由しないでしょう? お願いです、アールを返して下さいまし! 私にはもう、後が無い――」

 「はぁ、何を仰っているの!? アールは簡単にあげたり貰ったり出来るような物じゃありませんのよ! お断りします、不愉快ですわ。今すぐお帰り下さいまし!」

 眉を逆立ててカンカンになったアナベラ姉。侍女にフレール嬢を丁重にお見送りするように、と言い付けていた。
 フレール嬢はしばらく嗚咽を漏らして泣いていたが、使用人がやってきて「失礼ですが、お引き取りを」と声を掛けると、幽鬼の如くゆらりと立ち上がる。
 泣きはらした、奇妙な迫力と不気味さを感じさせる光を湛えた眼差しでじっとりと私達を見つめると、「――失礼致しましたわ」と淑女の礼を取る。使用人に連れられて、静かに喫茶室を出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

盲目の令嬢にも愛は降り注ぐ

川原にゃこ
恋愛
「両家の婚約破棄をさせてください、殿下……!」 フィロメナが答えるよりも先に、イグナティオスが、叫ぶように言った──。 ベッサリオン子爵家の令嬢・フィロメナは、幼少期に病で視力を失いながらも、貴族の令嬢としての品位を保ちながら懸命に生きている。 その支えとなったのは、幼い頃からの婚約者であるイグナティオス。 彼は優しく、誠実な青年であり、フィロメナにとって唯一無二の存在だった。 しかし、成長とともにイグナティオスの態度は少しずつ変わり始める。 貴族社会での立身出世を目指すイグナティオスは、盲目の婚約者が自身の足枷になるのではないかという葛藤を抱え、次第に距離を取るようになったのだ。 そんな中、宮廷舞踏会でフィロメナは偶然にもアスヴァル・バルジミール辺境伯と出会う。高潔な雰囲気を纏い、静かな威厳を持つ彼は、フィロメナが失いかけていた「自信」を取り戻させる存在となっていく。 一方で、イグナティオスは貴族社会の駆け引きの中で、伯爵令嬢ルイーズに惹かれていく。フィロメナに対する優しさが「義務」へと変わりつつある中で、彼はある決断を下そうとしていた。 光を失ったフィロメナが手にした、新たな「光」とは。 静かに絡み合う愛と野心、運命の歯車が回り始める。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...