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第三章 『espoir(希望)』
espoir
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・
この世でたった二人きりの、血の繋がらない兄弟でありながら。それでいてなお、こうした唯ならぬ関係になりたいと。いつかこうして絶対に契りを結びたいと、そう願い続けていた、君は。
「恥ずかしがらないで、沢山鳴いて。貴方のイイところ、一晩で、全部覚えたいから」
一糸纏わぬ姿で、互いの熱を分かち合って、汗と汗を素肌に馴染ませながら、四肢を絡めて。
「ん、ここ?……ここが切ないんだ、そっか。でも、ごめんね。いまから、そこばっかり、するね」
キスをして。舌を絡めあって。互いの唾液を交換して。貪って。
抉って。
奥まで抉って。
更に、その先まで貫いて。
「あ、また、爪先、ピンってした。ふふ、もう言葉も忘れてしまったのに、身体は、こんなに素直で……凄くいい、堪んない」
際限なく、どくどくと、一番深い所で、容赦なく熱を噴射して。
僕を、誰よりも深くまで、知って、分かって、理解したいと、願って。
願って。
願って。
願い続けて。
自分自身に、すっかり呪いを掛けてしまった。
「ずっと、こうしたかった」
滔々と涙を流しながら、僕の左手薬指に嵌めたマリッジリングに、何度も、何度も、飽きることなく唇を落とした、君は。
「愛してる、俺のひと」
まるで、自らの信奉する神を前にした、敬虔な聖職者のような、恍惚とした表情をしていた。
太く頑強なリングで花芯と睾丸の袋の根本を同時に締め付けられ。射精を伴わない強烈な快感を伴う絶頂を極めた僕のために用意した、僅かなインターバルを挟んでいた彼の腰の動きが。再び、ゆったりと再開される。
尿道を物理的に二重に堰き止められた状態で、何度目か数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいにドライオーガズムを極めさせられ、その余韻に浸る余裕すら碌に与えて貰えず、息も絶え絶えになった僕は。シーツをくしゃくしゃに掴みながら、夜明け前の朱鷺のように高らかな聲を上げ。徐々に激しさを増していく彼の猛攻を、命からがら、その身で受け止めていくしかなかった。
めりめり、と音を立てているのではないか、という錯覚を覚えてしまうほど、最深部を深く抉る、彼の猛り切った怒張。太さと長大さを兼ね備え、たった一目で、僕が僅かながらに備えていた雄の持つプライドを根本からへし折り、互いの雌雄を決定的なものとした、兇悪な見た目のそれは、幾度となく絶頂を極めながらも、全く精力の衰えを感じさせなかった。
寧ろ、これまでの経年を掛けて蓄えてきた白濁を、びしゃびしゃと僕のお腹の中にある最深部に向けて吐き出す度に、一段、二段と、その獰猛さを増していっている印象すら感じさせている。
一体、何処まで彼に付き合えば満足してくれるのか、その出口がまるで見えてこなくて。
改めて、胸の内で、自嘲する。
「もっと鳴いて。俺だけのために」
この世でたった唯一と認めた存在に、一心に寄せる、愛慾と執着とに。ただただ、身を焦がし続ける、愛しい男の腕の中で。
「交じろう、俺と。いつまでも」
狂い咲く、自分の性に。
◇◇◇◇
結局、彼は、僕達が昔、結婚記念日用にと作ったワインのボトル開栓を終わらせる前に、僕の唇に喰らい付いてきた。
呼吸すらままならないそれは、キスや接吻といった生優しい言葉では表しきれない、捕食と表現するに相応しい、彼の中に幼き頃から巣食っていた我欲を剥き出しにしたかのような代物で。
嗚呼、僕は、これをずっと待ち望んでいたんだな、と。本当はずっとこの熱を渇望していたんだな、と。自分自身のどうしようもない性分と、改めて向き合うこととなった。
僕の大切な一番星。
きらきらと、眩い、光源。
それをこの手に掴んだ、悦び。
それをこの手で穢せる、至福。
無色透明な白に、混ぜる、一滴。
それでもなお、澱まない君に。
放つ輝きに、一切の翳りを見出さない、君に。
僕は、ずっと、抱かれたいと思っていた。
だから、いくらでも、存分に。
君の望むままに、僕の穢れに塗れて。
そんなことで、君の持つ輝きは、決して曇りはしないから。
畏れず。
恐れず。
怖れず。
赴くままに。
宿泊先として用意されていたシャトーの特別室に辿り着いても、碌にシャワーすら浴びさせて貰えず。シャツのボタンを引き千切らんばかりに力強く外され。全身の衣類を悉く剥かれ。そして、溺れてしまうくらいのキスの嵐をこの身に受けながらバスルームに軟禁されて。下準備である直腸の洗浄も、彼自らの手で行われて。僕は、あっという間に下拵えをされてしまった。
彼の、焦る手付きと。
荒々しい吐息と。
爪先、切先、尖って、触れて。
充てがう、灼熱。
"さて、どうしてくれようか?"
そう、語り掛けてくるような。僕を見る、獣欲を宿した男の眼差しが。
肌膚の上を、ぞろぞろと。
撫ぜる。
伝う。
爆ぜる。
その度。
"初めて知る熱を前にした僕への、気遣いなんていらないから、早く僕に触れて欲しい"と。
"シーツの海に共に溺れて、お互いの境目なんてさっさと無くして欲しい"と。
どれほど、言おうとしただろう。
でも、それを口にしたら、僕自身が無事でいられるのか。そして、君がどんな目に遭ってしまうのか。何の経験も知識も無い僕でも、分かるから。
君の気持ちを、もう、これ以上、軽んじるつもりのない僕は、口を噤んだ。
ただただ、深いキスをして。
肌膚の上に、ひとつ、またひとつと、朱色の刻印を散らしながら、一頻り、僕の直腸の洗浄が終わると。彼は、興奮と期待から奥歯をカタカタと鳴らす僕の尻たぶを情け容赦なく割り開き、バスルームの縁に手をついて尻だけを突き出した恥ずかしい格好の僕の、綺麗になった秘孔や僕の小振りな花芯を、長い時間を掛けて、丹念に舐めしゃぶり始めた。
舌先をぬるぬると秘孔に挿入して直腸の腸壁を味わうと、今度は柔らかくなったそこに右手中指をずぶりと深く挿入し、内側から前立腺を刺激していく。そして、緩く立ち上がった僕の花芯の、淡く被った皮をずるんと引き下げ、濃い桃色をした亀頭を剥き出しにすると、前立腺を指先で小刻みに刺激しながら、そのまま小振りな花芯を根元までずるずると音を立てて啜った。
僕は堪らず、あ、あ、と小刻みに嬌声を上げ、彼から与えられる未知の快楽に頭からどぷりと浸かった。裏筋にべったりと舌を這わせたかと思えば、先走りがとろりと漏れ出した亀頭の鈴口に吸い付き、下品な音を立ててそれを飲み下される。そして、微かに張り出した雁首を、指先で扱き上げながら睾丸を袋丸ごと口内に含んだ彼は、まるでそれを飴玉の様に口の中でころころと転がした。
『出しそうになったら、ちゃんと教えて。その顔、全部俺がさせたんだって、確認したいから』
僕に対する敬語を綺麗さっぱりと捨て払い、射精する時は、必ず自分に申告するように、と強い口調で言い付けた彼は、再び口淫と前立腺への刺激を再開した。強過ぎる快感と、漸くこの身に宿り始めた羞恥とで頭が真っ白になってしまった僕は、突然そんなことを言われても身体が全く付いていかず。襲いくる快感の波に、生理的な涙をこぼしながら、ひたすらに身を投じることしかできなかった。
そうこうしているうちに、瞬く間に絶頂の階段を駆け上がり初めて。僕が絶頂しそうになっていることに気が付いた彼は、花芯から口を外し、前立腺を刺激していた手も離すと、鋭い目線と呆れたような態度で、今度こそきちんと申告するようにと指示を飛ばした。
『貴方はこの世の誰よりも可愛いけど、もう子供の頃とは違うんだから、ちゃんと約束は守ろうね』
情け無さと、羞恥と、遣る瀬無さとが、胸に寄せる。ただ、静かに僕の返事を待つ彼に、僅かな怒りすら感じる程に。
それでも、彼に抗えない。どうしても、言葉だけであっても反抗しきれない。
年下である彼に対して、そんな風に思ってしまう明確な理由が、僕の中にあるから。
本当は、この人に叱られたくて堪らなかった。僕の、『癖』の所為だと、分かるから。
『大丈夫。貴方の気持ちのいいことしかしない。だから、安心して身を任せて』
優しい言葉と、気遣い。そして、その裏に隠しきれない、雄の我欲。
< 徹底的に、抱く >
という、その苛烈極まる情欲に濡れた雄の眼差しを受けて、痺れるまでの、強烈な快感が全身に走って。
嗚呼、呆れて物が言えない僕のこの『癖』は、きっと一生変わらないんだろうなと、つくづく思った。
両胸に飾られた二輪の蕾を、指の腹と爪先とで交互に刺激しながら、射精する寸前になって花芯から口を離し。僕の睾丸を人差し指と中指の間で挟んで下へと引っ張って射精感を逃し、執拗に射精の管理を繰り返す。そうして、体感にすると時計の長針が半周するくらいの長い時間を掛けて、僕をじっくりと甚振ると。彼は、僕が、ひくん、ひくん、と腰を前後に動かして、強過ぎる快楽からの解放を、無意識のうちに身体が望み始めた段階に入って、漸く。
『やっと変な余裕が無くなった。貴方はそれでいいんだから、これからはもっと、自分にも俺にも、素直になってね』
そう言って。目の奥がまるで笑っていない、此方の背筋が粟立つ程の冷たい微笑を浮かべた。
だから、僕はその絶対零度の眼差しを受けて、漸くこれまでの一連の流れが、彼の手による『折檻』だと気が付いたんだ。
それを悟った瞬間の興奮は、筆舌に尽くし難い。
全身が波打つ、叫喚。
細胞の一つ一つが、高らかに産声を上げる。
"この為にこそ、生まれてきた"
嗚呼、僕は、いま、この瞬間を、確かに、生きている。
『そんなに出したいんだ……なら、どうやってお願いしたら、俺の気が済むか、貴方なら分かるよね』
君を、僕の穢れに塗れさせたかった。君に、僕の手垢をべっとりとこびり付けたかった。君も、きっとそれを、心の底から望んでいた筈だった。
けれど、その感情よりも更に強い意志が、君の中に、あったんだね。
君は、光り輝く、僕の一番星でありながら。僕の持つ穢れを、その上から漆黒で塗り潰せる、ただ唯一のひとだから。
逆らえない。
否、本当は、逆らいたいとも、思えない。
"君の口で気持ちよくして、出たもの全部、飲んで欲しい"
そんな、端ない懇願も、息を吸うように、できてしまう。
僕は、こんなにも、君の中に僕を混ぜる機会を、待ち望んでいて。君を、ずっと、僕の穢れに、塗れさせたいと願い続けて。そして、そんな僕の気持ちを、誰よりも理解していたのは、君だった。
きらきらと眩い星々を、その双眸に湛えた、純粋な夜空の色に染まった、ひとだから。
黒に黒を混ぜても、黒であることに、変わりがないことを教えてくれる。
この世の理を説く、たった一人のひとだから。
『いいこ』
僕の頭を、背中を、お尻を、じっくり撫で回し。虐め抜いてふっくらと充血し開花した両胸の二輪の花を、長い舌で、下から、べろりと舐め上げ。
『本当に、いいこだね』
最後に、桃色に熟れた花芯の先端に、音を立てて唇を落とした君は。
『これからは、ココの管理も、俺がするから。自分でも触ったら、駄目だよ』
にっこりと、心の底から満足したような、満ち足りた笑みを浮かべた。
口淫と手淫が、再開される。
花芯を根元までじゅるじゅると音を立てて啜り上げ。深々と差し入れた右手の中指で、ぐりぐりと内側から前立腺を刺激され。余っている左手で、より反応が良かった左胸の一輪を、ほじくるようにして刺激され。
僕は、舌を放り出し、正体を無くして喘いだ。
そして、一頻り花芯の緊張感を高めていくと。彼は、舌根で亀頭部分の雁首から先端部までを扱き、口内を真空の状態にして頭を上下に振り始めた。
あっという間に絶頂の波が下半身に押し寄せてくる。あまりの快楽と恐怖に、がくがくと、足が震える。彼の髪を掴んで、生理的な反応のままに、頭を引き剥がそうとするけれど、その腕や手にも力が入らず。
寧ろ、側から見れば。
"もっと、して"
と、せがんでいるような姿としか思えない、そんな端ない醜態を晒していた。
絶頂を知らせる己が聲に合わせて痙攣する全身。これまでの人生のうち、夢精以外に射精体験のない僕にとって、生まれて初めて体感する、未知の快楽。初めて経験した口淫での射精に、脳が焼き切れてしまうんじゃないかというくらい、思考が白一色に塗り潰されてしまう。
そして、これまで碌に管理していなかった花芯の先から、どくり、どくり、とゆっくり吐き出された白濁は。
宣言通りに、彼の口の中に、まるまると消えていった。
彼は、僕が吐精したそれを、時間を掛けて、じっくりと口内で味わうと。ごくり、と大きく喉を鳴らし、それを一飲みにした。
そして、うっとりと、夢心地に浸るような恍惚とした表情を浮かべると。一頻り、しみじみと感じ入るようにして静かに頷き、そして。
『……聞いて、春翔さん。貴方の身体が精製した其れが、どれだけ素晴らしいものであったのか』
自分の天才的な感覚を有する味覚と嗅覚とを、ここぞとばかりに活用した感想を。羞恥で真っ赤に染まった僕の耳に、熱い吐息と共に、直接吹き込んでいった。
"最高級のベルベットのような滑らかな舌触り"
"初夏の訪れを感じさせる濃密な栗の花の香り"
"熟成されたパルミジャーノ・レッジャーノを思わせる膨よかで芳醇な風味"
"柑橘と無花果をアクセントにした仄かな甘味"
"愛と美の女神アフロディーテが生まれしキプロス。そのクリスタルブルーのエーゲ海の海水のみを使用したフレークソルトのニュアンスを纏わせる、まろやかで深みのあるミネラル"
……等々。
この世にある美辞麗句を、散々と並べ立てた感想に、身悶え、羞恥の涙に濡れる僕を。彼は、心ゆくまで、じっくりと観察し、堪能した。
平常時でも常人の勃起時の倍はあった自身の長大なる怒張を、これ以上なく滾らせ、聳り立て。先端からどくどくと、透明な雫を滴らせる、その様は。彼の中にある、いっそ清々しいまでの狂人性を、物の見事に表していた。
そして、バスルームの洗面台の片隅に置かれていた、太くて丸い輪ゴム製の物体を二つ手に取ると。その一つを、射精を終えたばかりでいまだ緩く勃ち上がったままだった僕の花芯の先端に、ひたりと当て。驚きに身を固める僕に構うことなく、そのゴム製のリングを一気に花芯の根本まで引きおろし。がっちりと、そのリングを、花芯の根元に装着してしまった。
花芯の根本が、強力なゴム製のリングで締め付けられ、窮屈で。一体なにを目的としているのか分からず、混乱して。そうして僕が当惑している間に、もう一つのリングを、睾丸の入った袋の根本付近に、ばちん、と嵌められてしまって。
『俺の癖がちゃんと付くまで、こうしていようね。本当に俺のことが好きなら、頑張れるよね』
ただ唯一の雌として認めた存在を、己が色に染め上げる、その我欲にこそ生きてきた雄の、執着と愛念を、まざまざと思い知り。
恐怖と興奮とに震える僕を、上から見下ろすように見据えた彼は。
『さぁ、とびっきりの夜にしようか』
小気味良い音を立てて自分の首を捻り、にんまりと不敵な笑みを浮かべた。
………それから先は、もう、記憶は曖昧になっていった。
◇◇◇◇
花芯の根元と睾丸の袋の根元部分をリングで堰き止められているので、幾ら絶頂を極めても射精を伴わず、ドライオーガズムばかりを繰り返される。
数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいに、この身を襲う、絶頂に次ぐ、絶頂。ずぐり、と僕の身体の奥深くにある、最深部に突き刺した彼の怒張は、何度となく欲望を解き放ちながらも、いまなお、その勢いに衰えを感じさせない。
寧ろ、欲望を吐き出すたびに、その凶暴性を増している気配すら感じる。
いつになったら、解放されるのか。いつになったら、満足してくれるのか。出口が、まるで見えてこなくて。
びくん、びくん、と背中を波立たせ、止まらない絶頂の、登り切った階段の、更にその先を突き進まんとする強烈な快感の波を感じ取った僕は。自分自身を完全に見失ってしまう程の快楽に伴う、自然なままの恐怖を、じわじわとその身に宿していた。
「………は、ぁっ」
すると、俄かに。僕の背後で、尻たぶにざりざりと下生えを当てていた彼が、深く熱い吐息を溢した。
そして、いまだ体内に入り切らず、淡く尺が余っていた竿を全て挿入するべく、容赦なく腰を前に突き出すと。一番の泣き所であった最深部のその先に、自らの怒張の先端部を、ずぶり、と割り入れた。
「嗚呼………漸く入れた。貴方の、一番奥」
興奮で上擦った感嘆の声を上げ、彼は、僕に背後から覆い被さると。
背中に。
首筋に。
耳に。
頬に。
と、順繰りに唇を落として、散々と朱色の刻印を散々と散らし。最後に、涎を口の端からだらだらと垂らした、僕のだらしの無い唇に喰らい付いた。
奥歯の歯茎から舌根の裏側までをも舌先で舐られ、まるで甘露のように、啜られる唾液。本当に食べられてしまうのでは、という恐怖すら内包したそれに合わせて。
僕は、今日この日を。
"人間らしい意識を保ったまま終わらせられたら"
"身体だけではなく言葉としても互いの愛を確かめられれば"
……という、淡い期待を手放した。
「一晩で、こんなに深くまで、俺を受け入れてくれるなんて……なんて、愛しいひと」
うっとりと呟きながら、最深部のその先にずっぷりと怒張の先端部を突き刺した彼は、小刻みに腰を動かし、怒張の先端で最深部のその先にある窪みを、ぐりぐりと撫で回した。人体における最も快楽を得られるその場所を、情け容赦なく甚振っていく、その腰の動きに合わせて、連続した絶頂を極め続ける僕の口からは、最早嬌声とも呼べない濁声が断続的に漏れ出ていた。
「離せない、離したくない。ずっとずっと、こうしていたい」
舌を放り出し、喉を逸らして空を仰ぐ、僕の凄惨たる姿を見た彼は、はぁはぁ、と荒々しい息を吐いて、更なる興奮を昂らせ、腰の動きを一層激しいものにしていった。
「なんで、どうしてこんなに、俺を夢中にさせるの?もっと見せて、その可愛い顔。貴方の顔を見ながら、俺も、一緒に」
全身をがくがくと揺さぶられながらのラストスパート。これまでの腰使いは全て前戯だといわんばかりの猛攻に、もはや口から濁声も嬌声も生み出せず。僕は、ヘッドボードとシーツにしがみつきながら、あっという間に意識を手放した。
「狡い、酷い、あんまりだ。こんなに素直な身体を、ずっと平気な顔をして、俺の目の前にぶら下げていたなんて。俺の気持ちを知っていた癖に、待たせて、焦らして……」
そして、どく、どくり、と、この日最も多い排出量を誇る白濁が、僕のお腹にある最深部の、更に奥に開いたスペースに、たっぷりと吐き出された瞬間。その夥しい量の液体を受け止めた衝撃で、僕は漸く意識を取り戻し、ぶるり、と全身を戦慄かせて、過ぎる快楽を逃そうとした。
「こんなものを教えられたら、貴方と愛し合うこと以外考えられない獣になる。責任とって、春翔さん……春翔……もう、これ以上、貴方のことで、頭をいっぱいにさせないで」
愛しい雌を前にして、余す所なく陵辱の限りを尽くさんとする、一匹の雄の獣の怒涛の追撃に、もはや、声も出せず。僕は、四肢をベッドに放り投げ、うつ伏せになってその場にへばりつくしかなかった。
けれど、そんな僕の背中に、ふいに、生温い水滴が。
ぽたり、ぽたり。
落ちて、伝って。
これは、一体何だろう、と。彼方に放り投げていた人間らしい思考を、ゆっくりと手元に引き寄せると。
「俺達の子供を迎えたら、家族みんなで、このシャトーに泊まって、葡萄狩りをしましょう」
そんな僕のぼんやりとした意識の中で、漸く、彼の涙声が、鮮明なままに、耳に届いて。
「一人かな、二人かな。楽しみにしているんです。ずっと、夢みるくらいに」
"嗚呼、僕は、やっぱり、君を。ずっとずっと、一人で泣かせてきたんだね"と。
寄せる後悔の波間に、自分の意識を揺蕩わせたんだ。
「ああ、でも。貴方の愛が、子供達に分散してしまうのは、寂しいから。ペットだけでも、いいですけど」
それが、一朝一夕には実現不可能な夢だと知りながら、それでも。
「歳を取っても、ずっと、この場所から、貴方と二人、あの黄金色の景色を眺めていたいんです」
君は、僕の知るずっと昔から、『家族』という言葉の呪いに、身を委ねて来たんだね。
「千秋が、いれば、それでいいよ」
夢想する。
渇望する。
没頭する。
葛藤する。
それが、これまであった君の、直走るための原動力だった。
けれど、君に覚えておいて欲しいことがある。
「僕の家族は、君だけだから」
明けない夜はないのだと。
これから君の歩む未来は、どこまでも限り無く、光輝くものであるのだと。
君の安寧は、ただ、此処にあるのだと。
「春翔さん、ごめんなさい」
こんなことをして、僕の身体と心を縛り付けなくても。
君という存在は、愛される。
「貴方の父親の愛情を奪ったひとの子供なのに。こんなにも、貴方を愛してしまって、ごめんなさい。だけど、どうか、俺を置いて、どこにも行かないで下さい」
こんなことをして、僕の愛の深さを試さなくとも。
君という存在は、赦される。
「生まれてきて、ごめんなさい。でも、どうか俺を赦して下さい。そして、この先もずっと、俺の隣に、いてください」
だから、もう畏れることはない。
だから、もう怯えることはない。
だから、その畏れが、恐怖が。
君の中から過ぎ去った、その時は。
一緒に、遊ぼう。
子どもの頃と、同じ笑顔で。
「生まれてきてくれて、ありがとう、千秋」
祝杯を、挙げよう。
酌み交わそう、未来を。
そして、感謝と祝福を込めて。
ただただ、君の生誕を祝おう。
「僕も、君を、愛してる」
君の生きる道は。
"色褪せぬ希望"に、満ちている。
この世でたった二人きりの、血の繋がらない兄弟でありながら。それでいてなお、こうした唯ならぬ関係になりたいと。いつかこうして絶対に契りを結びたいと、そう願い続けていた、君は。
「恥ずかしがらないで、沢山鳴いて。貴方のイイところ、一晩で、全部覚えたいから」
一糸纏わぬ姿で、互いの熱を分かち合って、汗と汗を素肌に馴染ませながら、四肢を絡めて。
「ん、ここ?……ここが切ないんだ、そっか。でも、ごめんね。いまから、そこばっかり、するね」
キスをして。舌を絡めあって。互いの唾液を交換して。貪って。
抉って。
奥まで抉って。
更に、その先まで貫いて。
「あ、また、爪先、ピンってした。ふふ、もう言葉も忘れてしまったのに、身体は、こんなに素直で……凄くいい、堪んない」
際限なく、どくどくと、一番深い所で、容赦なく熱を噴射して。
僕を、誰よりも深くまで、知って、分かって、理解したいと、願って。
願って。
願って。
願い続けて。
自分自身に、すっかり呪いを掛けてしまった。
「ずっと、こうしたかった」
滔々と涙を流しながら、僕の左手薬指に嵌めたマリッジリングに、何度も、何度も、飽きることなく唇を落とした、君は。
「愛してる、俺のひと」
まるで、自らの信奉する神を前にした、敬虔な聖職者のような、恍惚とした表情をしていた。
太く頑強なリングで花芯と睾丸の袋の根本を同時に締め付けられ。射精を伴わない強烈な快感を伴う絶頂を極めた僕のために用意した、僅かなインターバルを挟んでいた彼の腰の動きが。再び、ゆったりと再開される。
尿道を物理的に二重に堰き止められた状態で、何度目か数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいにドライオーガズムを極めさせられ、その余韻に浸る余裕すら碌に与えて貰えず、息も絶え絶えになった僕は。シーツをくしゃくしゃに掴みながら、夜明け前の朱鷺のように高らかな聲を上げ。徐々に激しさを増していく彼の猛攻を、命からがら、その身で受け止めていくしかなかった。
めりめり、と音を立てているのではないか、という錯覚を覚えてしまうほど、最深部を深く抉る、彼の猛り切った怒張。太さと長大さを兼ね備え、たった一目で、僕が僅かながらに備えていた雄の持つプライドを根本からへし折り、互いの雌雄を決定的なものとした、兇悪な見た目のそれは、幾度となく絶頂を極めながらも、全く精力の衰えを感じさせなかった。
寧ろ、これまでの経年を掛けて蓄えてきた白濁を、びしゃびしゃと僕のお腹の中にある最深部に向けて吐き出す度に、一段、二段と、その獰猛さを増していっている印象すら感じさせている。
一体、何処まで彼に付き合えば満足してくれるのか、その出口がまるで見えてこなくて。
改めて、胸の内で、自嘲する。
「もっと鳴いて。俺だけのために」
この世でたった唯一と認めた存在に、一心に寄せる、愛慾と執着とに。ただただ、身を焦がし続ける、愛しい男の腕の中で。
「交じろう、俺と。いつまでも」
狂い咲く、自分の性に。
◇◇◇◇
結局、彼は、僕達が昔、結婚記念日用にと作ったワインのボトル開栓を終わらせる前に、僕の唇に喰らい付いてきた。
呼吸すらままならないそれは、キスや接吻といった生優しい言葉では表しきれない、捕食と表現するに相応しい、彼の中に幼き頃から巣食っていた我欲を剥き出しにしたかのような代物で。
嗚呼、僕は、これをずっと待ち望んでいたんだな、と。本当はずっとこの熱を渇望していたんだな、と。自分自身のどうしようもない性分と、改めて向き合うこととなった。
僕の大切な一番星。
きらきらと、眩い、光源。
それをこの手に掴んだ、悦び。
それをこの手で穢せる、至福。
無色透明な白に、混ぜる、一滴。
それでもなお、澱まない君に。
放つ輝きに、一切の翳りを見出さない、君に。
僕は、ずっと、抱かれたいと思っていた。
だから、いくらでも、存分に。
君の望むままに、僕の穢れに塗れて。
そんなことで、君の持つ輝きは、決して曇りはしないから。
畏れず。
恐れず。
怖れず。
赴くままに。
宿泊先として用意されていたシャトーの特別室に辿り着いても、碌にシャワーすら浴びさせて貰えず。シャツのボタンを引き千切らんばかりに力強く外され。全身の衣類を悉く剥かれ。そして、溺れてしまうくらいのキスの嵐をこの身に受けながらバスルームに軟禁されて。下準備である直腸の洗浄も、彼自らの手で行われて。僕は、あっという間に下拵えをされてしまった。
彼の、焦る手付きと。
荒々しい吐息と。
爪先、切先、尖って、触れて。
充てがう、灼熱。
"さて、どうしてくれようか?"
そう、語り掛けてくるような。僕を見る、獣欲を宿した男の眼差しが。
肌膚の上を、ぞろぞろと。
撫ぜる。
伝う。
爆ぜる。
その度。
"初めて知る熱を前にした僕への、気遣いなんていらないから、早く僕に触れて欲しい"と。
"シーツの海に共に溺れて、お互いの境目なんてさっさと無くして欲しい"と。
どれほど、言おうとしただろう。
でも、それを口にしたら、僕自身が無事でいられるのか。そして、君がどんな目に遭ってしまうのか。何の経験も知識も無い僕でも、分かるから。
君の気持ちを、もう、これ以上、軽んじるつもりのない僕は、口を噤んだ。
ただただ、深いキスをして。
肌膚の上に、ひとつ、またひとつと、朱色の刻印を散らしながら、一頻り、僕の直腸の洗浄が終わると。彼は、興奮と期待から奥歯をカタカタと鳴らす僕の尻たぶを情け容赦なく割り開き、バスルームの縁に手をついて尻だけを突き出した恥ずかしい格好の僕の、綺麗になった秘孔や僕の小振りな花芯を、長い時間を掛けて、丹念に舐めしゃぶり始めた。
舌先をぬるぬると秘孔に挿入して直腸の腸壁を味わうと、今度は柔らかくなったそこに右手中指をずぶりと深く挿入し、内側から前立腺を刺激していく。そして、緩く立ち上がった僕の花芯の、淡く被った皮をずるんと引き下げ、濃い桃色をした亀頭を剥き出しにすると、前立腺を指先で小刻みに刺激しながら、そのまま小振りな花芯を根元までずるずると音を立てて啜った。
僕は堪らず、あ、あ、と小刻みに嬌声を上げ、彼から与えられる未知の快楽に頭からどぷりと浸かった。裏筋にべったりと舌を這わせたかと思えば、先走りがとろりと漏れ出した亀頭の鈴口に吸い付き、下品な音を立ててそれを飲み下される。そして、微かに張り出した雁首を、指先で扱き上げながら睾丸を袋丸ごと口内に含んだ彼は、まるでそれを飴玉の様に口の中でころころと転がした。
『出しそうになったら、ちゃんと教えて。その顔、全部俺がさせたんだって、確認したいから』
僕に対する敬語を綺麗さっぱりと捨て払い、射精する時は、必ず自分に申告するように、と強い口調で言い付けた彼は、再び口淫と前立腺への刺激を再開した。強過ぎる快感と、漸くこの身に宿り始めた羞恥とで頭が真っ白になってしまった僕は、突然そんなことを言われても身体が全く付いていかず。襲いくる快感の波に、生理的な涙をこぼしながら、ひたすらに身を投じることしかできなかった。
そうこうしているうちに、瞬く間に絶頂の階段を駆け上がり初めて。僕が絶頂しそうになっていることに気が付いた彼は、花芯から口を外し、前立腺を刺激していた手も離すと、鋭い目線と呆れたような態度で、今度こそきちんと申告するようにと指示を飛ばした。
『貴方はこの世の誰よりも可愛いけど、もう子供の頃とは違うんだから、ちゃんと約束は守ろうね』
情け無さと、羞恥と、遣る瀬無さとが、胸に寄せる。ただ、静かに僕の返事を待つ彼に、僅かな怒りすら感じる程に。
それでも、彼に抗えない。どうしても、言葉だけであっても反抗しきれない。
年下である彼に対して、そんな風に思ってしまう明確な理由が、僕の中にあるから。
本当は、この人に叱られたくて堪らなかった。僕の、『癖』の所為だと、分かるから。
『大丈夫。貴方の気持ちのいいことしかしない。だから、安心して身を任せて』
優しい言葉と、気遣い。そして、その裏に隠しきれない、雄の我欲。
< 徹底的に、抱く >
という、その苛烈極まる情欲に濡れた雄の眼差しを受けて、痺れるまでの、強烈な快感が全身に走って。
嗚呼、呆れて物が言えない僕のこの『癖』は、きっと一生変わらないんだろうなと、つくづく思った。
両胸に飾られた二輪の蕾を、指の腹と爪先とで交互に刺激しながら、射精する寸前になって花芯から口を離し。僕の睾丸を人差し指と中指の間で挟んで下へと引っ張って射精感を逃し、執拗に射精の管理を繰り返す。そうして、体感にすると時計の長針が半周するくらいの長い時間を掛けて、僕をじっくりと甚振ると。彼は、僕が、ひくん、ひくん、と腰を前後に動かして、強過ぎる快楽からの解放を、無意識のうちに身体が望み始めた段階に入って、漸く。
『やっと変な余裕が無くなった。貴方はそれでいいんだから、これからはもっと、自分にも俺にも、素直になってね』
そう言って。目の奥がまるで笑っていない、此方の背筋が粟立つ程の冷たい微笑を浮かべた。
だから、僕はその絶対零度の眼差しを受けて、漸くこれまでの一連の流れが、彼の手による『折檻』だと気が付いたんだ。
それを悟った瞬間の興奮は、筆舌に尽くし難い。
全身が波打つ、叫喚。
細胞の一つ一つが、高らかに産声を上げる。
"この為にこそ、生まれてきた"
嗚呼、僕は、いま、この瞬間を、確かに、生きている。
『そんなに出したいんだ……なら、どうやってお願いしたら、俺の気が済むか、貴方なら分かるよね』
君を、僕の穢れに塗れさせたかった。君に、僕の手垢をべっとりとこびり付けたかった。君も、きっとそれを、心の底から望んでいた筈だった。
けれど、その感情よりも更に強い意志が、君の中に、あったんだね。
君は、光り輝く、僕の一番星でありながら。僕の持つ穢れを、その上から漆黒で塗り潰せる、ただ唯一のひとだから。
逆らえない。
否、本当は、逆らいたいとも、思えない。
"君の口で気持ちよくして、出たもの全部、飲んで欲しい"
そんな、端ない懇願も、息を吸うように、できてしまう。
僕は、こんなにも、君の中に僕を混ぜる機会を、待ち望んでいて。君を、ずっと、僕の穢れに、塗れさせたいと願い続けて。そして、そんな僕の気持ちを、誰よりも理解していたのは、君だった。
きらきらと眩い星々を、その双眸に湛えた、純粋な夜空の色に染まった、ひとだから。
黒に黒を混ぜても、黒であることに、変わりがないことを教えてくれる。
この世の理を説く、たった一人のひとだから。
『いいこ』
僕の頭を、背中を、お尻を、じっくり撫で回し。虐め抜いてふっくらと充血し開花した両胸の二輪の花を、長い舌で、下から、べろりと舐め上げ。
『本当に、いいこだね』
最後に、桃色に熟れた花芯の先端に、音を立てて唇を落とした君は。
『これからは、ココの管理も、俺がするから。自分でも触ったら、駄目だよ』
にっこりと、心の底から満足したような、満ち足りた笑みを浮かべた。
口淫と手淫が、再開される。
花芯を根元までじゅるじゅると音を立てて啜り上げ。深々と差し入れた右手の中指で、ぐりぐりと内側から前立腺を刺激され。余っている左手で、より反応が良かった左胸の一輪を、ほじくるようにして刺激され。
僕は、舌を放り出し、正体を無くして喘いだ。
そして、一頻り花芯の緊張感を高めていくと。彼は、舌根で亀頭部分の雁首から先端部までを扱き、口内を真空の状態にして頭を上下に振り始めた。
あっという間に絶頂の波が下半身に押し寄せてくる。あまりの快楽と恐怖に、がくがくと、足が震える。彼の髪を掴んで、生理的な反応のままに、頭を引き剥がそうとするけれど、その腕や手にも力が入らず。
寧ろ、側から見れば。
"もっと、して"
と、せがんでいるような姿としか思えない、そんな端ない醜態を晒していた。
絶頂を知らせる己が聲に合わせて痙攣する全身。これまでの人生のうち、夢精以外に射精体験のない僕にとって、生まれて初めて体感する、未知の快楽。初めて経験した口淫での射精に、脳が焼き切れてしまうんじゃないかというくらい、思考が白一色に塗り潰されてしまう。
そして、これまで碌に管理していなかった花芯の先から、どくり、どくり、とゆっくり吐き出された白濁は。
宣言通りに、彼の口の中に、まるまると消えていった。
彼は、僕が吐精したそれを、時間を掛けて、じっくりと口内で味わうと。ごくり、と大きく喉を鳴らし、それを一飲みにした。
そして、うっとりと、夢心地に浸るような恍惚とした表情を浮かべると。一頻り、しみじみと感じ入るようにして静かに頷き、そして。
『……聞いて、春翔さん。貴方の身体が精製した其れが、どれだけ素晴らしいものであったのか』
自分の天才的な感覚を有する味覚と嗅覚とを、ここぞとばかりに活用した感想を。羞恥で真っ赤に染まった僕の耳に、熱い吐息と共に、直接吹き込んでいった。
"最高級のベルベットのような滑らかな舌触り"
"初夏の訪れを感じさせる濃密な栗の花の香り"
"熟成されたパルミジャーノ・レッジャーノを思わせる膨よかで芳醇な風味"
"柑橘と無花果をアクセントにした仄かな甘味"
"愛と美の女神アフロディーテが生まれしキプロス。そのクリスタルブルーのエーゲ海の海水のみを使用したフレークソルトのニュアンスを纏わせる、まろやかで深みのあるミネラル"
……等々。
この世にある美辞麗句を、散々と並べ立てた感想に、身悶え、羞恥の涙に濡れる僕を。彼は、心ゆくまで、じっくりと観察し、堪能した。
平常時でも常人の勃起時の倍はあった自身の長大なる怒張を、これ以上なく滾らせ、聳り立て。先端からどくどくと、透明な雫を滴らせる、その様は。彼の中にある、いっそ清々しいまでの狂人性を、物の見事に表していた。
そして、バスルームの洗面台の片隅に置かれていた、太くて丸い輪ゴム製の物体を二つ手に取ると。その一つを、射精を終えたばかりでいまだ緩く勃ち上がったままだった僕の花芯の先端に、ひたりと当て。驚きに身を固める僕に構うことなく、そのゴム製のリングを一気に花芯の根本まで引きおろし。がっちりと、そのリングを、花芯の根元に装着してしまった。
花芯の根本が、強力なゴム製のリングで締め付けられ、窮屈で。一体なにを目的としているのか分からず、混乱して。そうして僕が当惑している間に、もう一つのリングを、睾丸の入った袋の根本付近に、ばちん、と嵌められてしまって。
『俺の癖がちゃんと付くまで、こうしていようね。本当に俺のことが好きなら、頑張れるよね』
ただ唯一の雌として認めた存在を、己が色に染め上げる、その我欲にこそ生きてきた雄の、執着と愛念を、まざまざと思い知り。
恐怖と興奮とに震える僕を、上から見下ろすように見据えた彼は。
『さぁ、とびっきりの夜にしようか』
小気味良い音を立てて自分の首を捻り、にんまりと不敵な笑みを浮かべた。
………それから先は、もう、記憶は曖昧になっていった。
◇◇◇◇
花芯の根元と睾丸の袋の根元部分をリングで堰き止められているので、幾ら絶頂を極めても射精を伴わず、ドライオーガズムばかりを繰り返される。
数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいに、この身を襲う、絶頂に次ぐ、絶頂。ずぐり、と僕の身体の奥深くにある、最深部に突き刺した彼の怒張は、何度となく欲望を解き放ちながらも、いまなお、その勢いに衰えを感じさせない。
寧ろ、欲望を吐き出すたびに、その凶暴性を増している気配すら感じる。
いつになったら、解放されるのか。いつになったら、満足してくれるのか。出口が、まるで見えてこなくて。
びくん、びくん、と背中を波立たせ、止まらない絶頂の、登り切った階段の、更にその先を突き進まんとする強烈な快感の波を感じ取った僕は。自分自身を完全に見失ってしまう程の快楽に伴う、自然なままの恐怖を、じわじわとその身に宿していた。
「………は、ぁっ」
すると、俄かに。僕の背後で、尻たぶにざりざりと下生えを当てていた彼が、深く熱い吐息を溢した。
そして、いまだ体内に入り切らず、淡く尺が余っていた竿を全て挿入するべく、容赦なく腰を前に突き出すと。一番の泣き所であった最深部のその先に、自らの怒張の先端部を、ずぶり、と割り入れた。
「嗚呼………漸く入れた。貴方の、一番奥」
興奮で上擦った感嘆の声を上げ、彼は、僕に背後から覆い被さると。
背中に。
首筋に。
耳に。
頬に。
と、順繰りに唇を落として、散々と朱色の刻印を散々と散らし。最後に、涎を口の端からだらだらと垂らした、僕のだらしの無い唇に喰らい付いた。
奥歯の歯茎から舌根の裏側までをも舌先で舐られ、まるで甘露のように、啜られる唾液。本当に食べられてしまうのでは、という恐怖すら内包したそれに合わせて。
僕は、今日この日を。
"人間らしい意識を保ったまま終わらせられたら"
"身体だけではなく言葉としても互いの愛を確かめられれば"
……という、淡い期待を手放した。
「一晩で、こんなに深くまで、俺を受け入れてくれるなんて……なんて、愛しいひと」
うっとりと呟きながら、最深部のその先にずっぷりと怒張の先端部を突き刺した彼は、小刻みに腰を動かし、怒張の先端で最深部のその先にある窪みを、ぐりぐりと撫で回した。人体における最も快楽を得られるその場所を、情け容赦なく甚振っていく、その腰の動きに合わせて、連続した絶頂を極め続ける僕の口からは、最早嬌声とも呼べない濁声が断続的に漏れ出ていた。
「離せない、離したくない。ずっとずっと、こうしていたい」
舌を放り出し、喉を逸らして空を仰ぐ、僕の凄惨たる姿を見た彼は、はぁはぁ、と荒々しい息を吐いて、更なる興奮を昂らせ、腰の動きを一層激しいものにしていった。
「なんで、どうしてこんなに、俺を夢中にさせるの?もっと見せて、その可愛い顔。貴方の顔を見ながら、俺も、一緒に」
全身をがくがくと揺さぶられながらのラストスパート。これまでの腰使いは全て前戯だといわんばかりの猛攻に、もはや口から濁声も嬌声も生み出せず。僕は、ヘッドボードとシーツにしがみつきながら、あっという間に意識を手放した。
「狡い、酷い、あんまりだ。こんなに素直な身体を、ずっと平気な顔をして、俺の目の前にぶら下げていたなんて。俺の気持ちを知っていた癖に、待たせて、焦らして……」
そして、どく、どくり、と、この日最も多い排出量を誇る白濁が、僕のお腹にある最深部の、更に奥に開いたスペースに、たっぷりと吐き出された瞬間。その夥しい量の液体を受け止めた衝撃で、僕は漸く意識を取り戻し、ぶるり、と全身を戦慄かせて、過ぎる快楽を逃そうとした。
「こんなものを教えられたら、貴方と愛し合うこと以外考えられない獣になる。責任とって、春翔さん……春翔……もう、これ以上、貴方のことで、頭をいっぱいにさせないで」
愛しい雌を前にして、余す所なく陵辱の限りを尽くさんとする、一匹の雄の獣の怒涛の追撃に、もはや、声も出せず。僕は、四肢をベッドに放り投げ、うつ伏せになってその場にへばりつくしかなかった。
けれど、そんな僕の背中に、ふいに、生温い水滴が。
ぽたり、ぽたり。
落ちて、伝って。
これは、一体何だろう、と。彼方に放り投げていた人間らしい思考を、ゆっくりと手元に引き寄せると。
「俺達の子供を迎えたら、家族みんなで、このシャトーに泊まって、葡萄狩りをしましょう」
そんな僕のぼんやりとした意識の中で、漸く、彼の涙声が、鮮明なままに、耳に届いて。
「一人かな、二人かな。楽しみにしているんです。ずっと、夢みるくらいに」
"嗚呼、僕は、やっぱり、君を。ずっとずっと、一人で泣かせてきたんだね"と。
寄せる後悔の波間に、自分の意識を揺蕩わせたんだ。
「ああ、でも。貴方の愛が、子供達に分散してしまうのは、寂しいから。ペットだけでも、いいですけど」
それが、一朝一夕には実現不可能な夢だと知りながら、それでも。
「歳を取っても、ずっと、この場所から、貴方と二人、あの黄金色の景色を眺めていたいんです」
君は、僕の知るずっと昔から、『家族』という言葉の呪いに、身を委ねて来たんだね。
「千秋が、いれば、それでいいよ」
夢想する。
渇望する。
没頭する。
葛藤する。
それが、これまであった君の、直走るための原動力だった。
けれど、君に覚えておいて欲しいことがある。
「僕の家族は、君だけだから」
明けない夜はないのだと。
これから君の歩む未来は、どこまでも限り無く、光輝くものであるのだと。
君の安寧は、ただ、此処にあるのだと。
「春翔さん、ごめんなさい」
こんなことをして、僕の身体と心を縛り付けなくても。
君という存在は、愛される。
「貴方の父親の愛情を奪ったひとの子供なのに。こんなにも、貴方を愛してしまって、ごめんなさい。だけど、どうか、俺を置いて、どこにも行かないで下さい」
こんなことをして、僕の愛の深さを試さなくとも。
君という存在は、赦される。
「生まれてきて、ごめんなさい。でも、どうか俺を赦して下さい。そして、この先もずっと、俺の隣に、いてください」
だから、もう畏れることはない。
だから、もう怯えることはない。
だから、その畏れが、恐怖が。
君の中から過ぎ去った、その時は。
一緒に、遊ぼう。
子どもの頃と、同じ笑顔で。
「生まれてきてくれて、ありがとう、千秋」
祝杯を、挙げよう。
酌み交わそう、未来を。
そして、感謝と祝福を込めて。
ただただ、君の生誕を祝おう。
「僕も、君を、愛してる」
君の生きる道は。
"色褪せぬ希望"に、満ちている。
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