前々前世からのストーカーが神様なんて信じない。

鱗。

文字の大きさ
上 下
4 / 7

第四話『神様にさえ愛されなければ』

しおりを挟む
自分なりに仁人さんが周囲を気にしなくてもいいように考えた結果だった。言ってから後悔してしまったけどね。
「俺としては嬉しんだけど、いいのか?」
いいのか、その一言にいろいろな言葉が含まれていることは読み取れた。周囲の人間に知られたときが怖いし、仁人さんは男性で芸能人、私は女性で一般人。友人にさえもなりえない、下手をすれば恋人だと間違われて彼の迷惑になるかもしれない。
「その、周りを気にすることがない時間くらい、あってもいいんじゃないかなって思ってしまって…。そのご迷惑をかけることはわかっています…」
「むしろこっちが迷惑をかけることになるよ、俺は常に周囲に目があるから。あのさ、ずっと言おうと思ってたんだけど…」
「…?」
なぜ彼が迷惑をかけるというのかわからなかった。そして口を閉じてしまった彼の言葉を待った。


「嘘でいいから、俺の彼女役、やってほしい」
「彼女役…?」
「本当に付き合うわけじゃないんだ。こうして会うときとか彼女だって言っておけば奏を守ることもできる。奏が不利になるようなことは絶対しないって約束する」
「わ、わたし…、仁人さんに言ってないことがあって…。私、たぶん仁人さんより年上で、その本当は二十五歳なんです…。ごめんなさい、だましているようなことをして!!」
「知ってたよ、年上なことは」
「えっ?」
今まで大学に入ってから誰にも言ったことがない、年齢をまさか仁人さんが知っているとは思わなかった。それに、嘘の彼女って、なに…?
「その、実は俺の学科で可愛い子がいるって噂になってたけど実は元社会人らしいって噂でさ。初めて会ったときにだいぶいろいろ手慣れてるなって思ってから年上なのは想像に容易かったよ。ごめん、初対面から生意気だったと思うし、今もだけど。でも、奏とこれからもずっとこうしていたいんだ。そのためには彼女って立場が守りやすい。だから、この提案をよかったら受け入れてほしい」
 仁人さんの言いたいことはよく理解できた。私たちがこうして出会って、話をするようになったのは運の巡り合わせがよかったから。本当だったら出会って話をすることはなかったような人。言わば、雲の上のような存在。私がそもそも彼を芸能人だと知らなかったのも要因の一つとして挙げられるだろう。彼と一緒にいるリスクも理解はしている。彼が何を懸念しているのかもわかっている。
「私も、それでもこうしてまたお話したいです。どうしても年齢のことがネックになって友達も作れなくて、こうやって話をする間柄の人、教授以外にいなくて…。その、仁人さんは、私にとって初めての先輩なんです!!」
言いたいことがごちゃごちゃになって何一つ伝えられないけれど、熱意だけは伝われ!!って思いなんとか言葉を紡ぎだす。初めてできた先輩、一人だった私に光をくれたのが仁人さん、その思いが少しでも伝わればいいと思った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

〜Wild Cherry Blossom〜無自覚天才木工家、初めての春に惑う

鱗。
BL
父親が脱サラし、縁も所縁もない土地で喫茶店を経営し始めると決め、それに着いていく事になった小日向 渉は、そこから程近い場所にあった木工工房で、自らの夢を見出した。その後、その工房に就職した渉は、親方に勧められて若くして独立を果たすが、周囲の人間達に天賦の才があると言われても、中々、自分の腕に自信を持つ事が出来なかった。 そんなある日、ある喫茶店の敷地内にある山桜を切り、それを作品にして、その店に卸して欲しいという大きな依頼が舞い込む。その下見も兼ねて店に訪れた渉は、春そのものを閉じ込めた様な柔らかな雰囲気の青年、世良田 尚と出会う。 彼と会う度に彼への想いを深めていく渉だったが、叶わぬ恋だと、自分の胸の内にその気持ちを押し込め様とする。しかし、乾燥が終わった山桜から作品を生み出していくに連れて、渉は毎夜夢の中で尚に出会い、次第に彼のその肌に触れる願望を抑え切れなくなっていくのだった。 無自覚天才木工家の、切ない初恋の物語。軽くホラー。全二章。

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

処理中です...