〜The Secret Garden〜『薔薇の花園』という超高級会員制ボーイズクラブで、生涯支えたい運命の人に出会いました。

鱗。

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最終章『そして、彼等は伝説となる』

満点の星空の下、その空が白むまで

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一度に大量に服薬した媚薬と、並の人間が束になっても敵わない軍人上がりの体力と精力を誇る真司の猛攻を、四時間以上連続してその身に受けた影響で腰が使い物にならなくなり、雅之は真司の腕の中にすっぽりと収まり、真司の介助を受けて夕食を進めた。


一口ずつ口元に運ばれてくる趣向を凝らした料理の一品一品を、ゆっくりと咀嚼し飲み込む。そして、一口進める度にその逞しい胸板に頭を預け、媚薬と度重なる激しいセックスの影響を受けて、とろん、と蕩けてしまった眼差しを真司に送ると、その眼差しを受けた真司に、引き寄せあう様にしてしっとりと唇を重ねられ……その為、夕食は、遅々として進まなかった。


二人して一緒に、一度シャワーを簡単に浴びてはいるが、雅之の秘孔は、まだ異物が挿入されたままの様な違和感があって。雅之は、強烈な媚薬の効果を得て行った激しいセックス、否、交尾の余韻に浸る身体を持て余した。


何度、子種を撃ち込まれ、何度絶頂を繰り返したのか、全く記憶にない。


しかし、身体はそれをしっかり覚えている。だから、身体が自分の意思とは無関係に記憶した、絶頂したその側から絶頂を極めていく、という惨たらしい快楽の記憶がいつまでも身体に燻り続けていて。雅之は、ふとした瞬間に、その記憶を身体が勝手に呼び起こす度に、頬を朱色に染め上げ、身を捩った。


「勃ってる……さっきのこと、身体が思い出した?」


激しい交尾の余韻に浸っているのは、何も雅之に限った話では無かった。雅之が、積極性を持ってして交尾に臨んだ経験から、ほんの少しづつタメ口を解禁していった真司に、雅之は、下着を身に纏う事すら許されなかった。浴衣の生地を直に緩く押し上げている雅之の花芯に、そして、身体に宿った熱の記憶に振り回されている雅之自身に気を良くして、真司は手に持った箸を置いてから、雅之の浴衣の衽に、そっと手を忍ばせた。


「……っ、ゃ、……だめ、まって、真司……」


雅之の静止を物ともせず、雅之花芯の竿の部分に指の背を当てて、真司は、ゆっくりとそこを撫で上げていった。あん、あん、と指の動きに合わせて小さく喘ぐ愛しいその人に、堪らなくなった真司は、自身の怒張をも、再び熱く滾らせていった。


「夕食が終わったら温泉に入りましょう。満点の星空の下で、その熱を解放して差し上げます。だから、それまで我慢していて下さいね」


三年前に、殆ど野外にいる様なロケーションの大聖堂で、雅之を激しく抱いた記憶が、真司の脳裏に蘇る。いまではとんでもない、と頭が判断して恐れ多くて絶対に出来ないが……しかし、あの当時の記憶が、真司の中で燦然と輝きを放っていたのも、また事実だった。


開放感のある場所でするセックスが、堪らなく真司の性癖を煽るというのもあって、この旅館にたった一つだけある客室の露天風呂で、雅之を思う存分抱けると考えただけで、胸が、身体が、めらめらと灼熱を帯びていく。


ブラック・バカラを通じて監視と盗聴を受けてきたこれまでであれば、雅之に指一本手出し出来ない状況で、こんな場所に二人きりにされてしまうという想像だけで頭がおかしくなってしまいそうだったが、今は以前と状況が全く違う。この二日間ある宿泊期間中、真司は、昼夜問わずして、雅之をその露天風呂で、寝室で……と、犯し尽くすつもりでいた。自らを自制させる為に打ち込まれた楔や、全身を雁字搦めに縛り付けていた鎖を砕かれ、野生に解き放たれた獣のソレの様に。


もはや、この美しい獣を縛る物は、何一つとして存在しないのだから。


「………もう、お腹いっぱい」


雅之は雅之で、そんな真司の思考など手に取る様に分かってしまって、その未来の想像をしてしまうだけで、食欲が減退してしまった。真司は、決して雅之に、セックスの為に食事を軽めに済ませて欲しいと言ってくる様な最低の人間ではなかったし、食事の時間が二人の思い出にもなるとちゃんと考える人間ではあったが、それ以上に、自分の性欲と雅之への迸る愛情に従順な人間でもあった。また、真司はこの二日間を、雅之と触れ合えなかった三年間の隙間を埋める為の最初の一歩だと考えていたので、雅之のこの発言を、すんなりと受け入れてしまった。


「そうですか……ですが、もしもお腹が空いたら仰って下さいね。部屋を片付けにくる仲居さんに、軽食を頼んで置きますから」


真司の気遣いと、この後の流れに寄せる熱い期待の眼差しを受けて、雅之は軽く頷いてから、真司の胸元に頭を寄せた。雅之としては『もうどうにでもなれ』という開き直りに近い感覚での、あまり深い意味の無い行動だったのだが。真司は、そんな、自分に甘えてきている様にしか見えない雅之の仕種の一つ一つに、いちいち、きゅん、と胸を高鳴らせてしまっていた。


可愛い、可愛い、頭が変になりそう。


こんな風に貴方が俺に甘えてくるなんて、生きて帰ってきて本当に良かった……と真司は、胸の中で盛大に感涙していた。


「腰、まだ立ちませんよね。なら、ここで浴衣を脱いで、そのまま湯船に浸かりましょう。そして程よく身体が温まったら……」


真司が口調に色を滲ませると、雅之は腕の中で、ふるり、と身体を震わせた。その反応が堪らなく自分の好みで、真司の口元は、にたり、と勝手に吊り上がった。



そして、満点の星空の下、二匹の雄と雌の激しい交尾が、猛々しく再開されたのだった。



湯船に縋り付く雌の尻を高々と上げさせて、腰を打ち下ろす雄の眼差しは、何度雌の体内に己が熱を解き放っても冷めやらない獣欲が宿り、その昂りは、いまだ落ち着きを見せる片鱗すら見せない。


雄の持つ目的は、己が最愛の存在である雌の懐胎にこそあり、それを完遂したという実感が得られない限り、その雌を自分の腕から、牙から、爪から、解放するつもりなどさらさら無かった。


愛しい雌を傷付けようなどとは思わない。寧ろ、背中や肩に雌の爪によって無数の傷を負っているのは、猛攻を繰り出している側である雄の方だった。雄にとっての爪や牙は、自分にはこれだけのチカラがあり、他のどんな雄よりも自分の方が優れた存在であると己が雌に誇示する為の代物でしかなく。どんなに実現不可能な体位も実現させてみせる、という雄としての自信の現れでもあった。


完全に骨盤が開ききり、足腰が使い物にならなくなった愛しい雌の全身が、全くの脱力状態になってしまっても、難なくその身体を抱え上げ、下から激しく突き上げて、意識を朦朧とさせる雌の体内の最深部を押し広げる様にして自らの腰を振るった。


夜の帳が下りて久しい、虫すらも寝静まった森の中に、二匹の雄と雌の荒々しい息遣いだけが響き渡る。そして、強靭な肉体を持つその雄は、脱力しきって殆ど意識を手放してしまった呂律の回らない雌をガッチリと抱き抱え、怒張が入り込める最深部目掛けて、子宮に見立てたS状結腸の、くの字形になった入り口が、直線の形に形状記憶してしまう程の強烈な突き上げを繰り返して、夥しい量の子種をどくどくと雌の体内に注ぎ込み続けた。


空が白み、朝日が登る。


その白々とした日差しを全身に浴びる頃になっても、雄の腰の動きは全く衰えず、雌の身体が脱力しきっても行える様々な体位を駆使して、真っ赤に爛れ、薄紫色すら帯び始めた雌の尻たぶを、ぱん、ぱん、と執拗に打ち据えていった。萎えた様子すらまるで垣間見せないドス黒く長大な怒張には益々と生気が漲っていて、腸壁の捲れ上がった雌の秘孔から溢れ出した雄の子種が、雄の太腿から伝い、脹脛や脛を流れてだらだら零れ落ち、足元に白く濁った大きな水溜りを形成している。ぬるつく水溜りに足を取られない様に踏ん張りながら、もう何度目か分からない駅弁の体勢に持ち込むと、雌の直線になったS状結腸を穿ち続け、後から後から体内で新しく生成していったぴかぴかで生きの良い子種を、睾丸を痙攣させながらびゅくびゅくと雌の体内の奥深くに解き放っていった。


質・量・妊娠成功率ともに最高品質が保証されたソレを、数えるのも馬鹿らしいほど、何度も、何度も、何度も子宮に叩きつける様にして射精すると、秘孔に収まり切らずに漏れ出た子種が、どぼどぼと二匹の足元の白い水溜りに降り注いだ。


腕の中にいる意識を飛ばした雌の身体から送られる、『これ以上体内に子種を注ぎ込まれても無意味である』という無言のメッセージを受信した雄は、微かな痙攣すらもしなくなり、体力的・精神的な限界値を著しく超過している愛しい雌の状況を数時間振りにじっくりと確認した。


そして、露天風呂の無垢材の床板に広がる真っ白で大きな水溜りと、排水口に向かってそれが流れていく様子を冷静に見つめながら『これだけたっぷり子種を注ぎ込めば、多少は雌の身体にも懐胎に向けた変化が現れるかも知れない』と納得して、そこにきて漸く、自分の腕から雌を解放してみようかと、頭の中で重い腰をどっこらしょ、と持ち上げたのだった。


愛しい雌……雅之の身体を先に清め、自分自身も簡単にシャワーで汗を流すと、意識を失ってぐったりとしている雅之を抱えて部屋に戻った真司の鼻腔を、温められた味噌汁の香りが擽った。いつの間にか夕食は片付けられて、代わりに二人分の朝食が用意されている卓を見て、真司は、へぇ、と小さく感嘆した。


寝室にふと目を配れば、あれだけ乱れていたベッド周りが綺麗に片付けられ、リネン交換もしっかりと終わっている。潜入のプロである真司の耳や目すら掻い潜り、ここまで部屋の状態を回復させたこの宿のスタッフに素直に賛辞を送りながら、次に慰安が予定されたとしたら、またこの宿を使うのも悪くはないなと真司は思った。


綺麗に整えられた寝室に進み、柔らかな質感のシーツが敷かれたベッドに雅之を優しく横たわらせると、軽い脱水を起こしていたので、まずは水分補給をして、現在時刻を確認した。すると、夕食を終わらせて二人が子作りに励み始めてから、時計の『短針』が優に一回りするだけの時間が経っていた事に気が付いた。時折口移しで雅之にも水分を摂らせてはいたが、それだけの時間、休憩を全く挟まずに雅之の身体を酷使してしまった事実に、流石にやり過ぎたかと少しだけ反省をした真司は、しかし、まだ身体に燻る熱が治らない自分がいる事にも気が付いていた。


まぁ、こんな程度で、三年間煮詰めに煮詰め続けたこの人への恋情と情欲が解消する筈もないか……と真司は冷静に自身を批評しながら、真司が施した薔薇の花弁をびっしりと全身に撒き散らされた雅之の、輝きを放ち続ける一糸纏わぬ肢体に、ぬらぬらと視線を滑らせた。


どこまでも美しく、扇情的なその身体を見ているだけで、全身が燃える様に熱くなる。次にこの身体に色を持った指先で触れるなら、先ずはどこから先に手を付けようか……そう、次に行う交尾の算段を頭の中で繰り広げながら、じっくりと10分以上掛けて雅之を視姦してから、真司は音も無く寝室を離れた。


仮に今目覚めたとしても、こんな状態では、きちんと朝食を摂れるかも分からない。ならば、雅之が起きた時に口に出来るゼリー飲料や柔らかい食べ物を用意して置く必要がある。仲居やスタッフに頼むのは、これだけ気を遣われてしまった分気が引けてしまう。だから、真司は暫く考えてから、一番優先すべきは雅之の体調だと割り切って、新しく用意された浴衣に雅之を着替えさせてから、それまで裸でいた自分の身体にも浴衣を纏って、施設の外に出た。


駐車場を抜け、山道の中腹に停めてある一台の大型のバンに近付くと、真司はそのバンの窓をノックした。すると、中にいる人物達が何やら相談している様な雰囲気で蠢いてから、バンの窓を開けて、その顔を覗かせた。


「………何しに来た」


昨日見た死人の様な顔色からしてみれば多少なり改善はしていたが、それでも体調が万全の状態とは言えないだろう慎也が、バンの中から鋭い視線を向けてきた。しかし真司は、その射殺されそうな視線を柳の様に受け流しながら、しれっと挨拶をした。


「おはようございます。御方がいま身動きが取れない状態なので、朝食の代わりになるゼリー飲料か何か買って来て頂けると有り難いんですが。お手隙でしたら、頼んでもいいですか?」

「「「…………あ゛?」」」


聞き捨てならないとまでの勢いで、慎也と共に窓から顔を出した祐樹と真智が、三人揃って殺意を剥き出しにした眼差しで、ギン、と真司を睨め付けた。以前の真司であれば簡単にビビっていただろうが、生憎と真司は、常人には絶対に越えられない修羅の道を歩んで来ている。その経験から、真司は三人に全く気圧される事なく、マイペースに話を続けた。


「麓に個人営業のコンビニがありましたよね?あそこならあるかも知れないので。お願いします、先輩」

「誰が先輩だコラ。つぅか、お前、御方に何した?」

「………ちょっと、張り切り過ぎました」

「殺す」


明確な殺意を表明した祐樹を、その場にいる他の二人は全く止める様子も見せなかった。寧ろ賛同しているかの様な雰囲気すら醸し出している慎也と、黙り込んで眉間に手をやり、静かに目を伏せる真智。そして、真司は、祐樹に、今度こそ安全装置を外した拳銃の銃口を額に押し付けられて威嚇されていた。聞かれたからこそ素直に話したんだけどなぁ、と考えながらも、このままだと反感を買うだけ買って話が前に進まないという自覚を持ったので、真司は、反省している態度を一応は見せる事にした。


この三人は真司除外派の三大勢力と言ってもおかしくない。この辺りでそろそろ本格的な和解を果たし、仲間割れに近い形になってしまった薔薇の八大原種を再び纏め直して、自分と共に御方の為に働いて行ける体制を再構築しなければいけないのだ。自分の頭一つで、この場がどこまで収められるか分からないが、何もしないよりはマシだろうと考えて、真司は直角90度の綺麗なお辞儀をして、三人に向けて頭を下げた。


「すみませんでした。調子に乗ってた自覚はありませんでしたが、結果的にそうなってしまいました。次からは絶対に気を付けるので、今は御方の為に動いて頂けませんでしょうか」


言い訳をせずに素直に自分の非を認めて謝り、三人の奮い立つ程の怒りを宥めようとするのではなく、御方の為に動いて欲しいという部分を強調すると、額に押し当てられていた銃口……殺意がスッと遠ざかっていく感覚を覚えた。


しかし、次の瞬間。真司の頬に、強い衝撃が走った。祐樹が迷わずに威嚇射撃を繰り出したのだ。その弾丸が頬を掠めて、裂傷を作り出していた。真司は一応、こんな展開もあり得るだろうと考えていたので、微動だにせず、黙って頭を下げ続けた。


「次なんて許すわけねぇだろうが。もう指一本あいつに触れるな」

「それは約束出来ません。あの人が俺を求める限り、俺はあの人の気持ちに応えます」


言い終わるか終わらないかのタイミングで、バンの扉がガンッと勢いよく開き、中から憤怒のオーラを全身から立ち昇らせている祐樹が降りて来た。先程真司の左頬を掠める射撃を迷いなくしてきた様子だと、再び撃たれはしないまでも、拳か何かでもう二、三発は貰うだろうな、と努めて冷静に考えながら、真司は歯が折れない様に奥歯を食いしばった……のだが。


一向にして、次なる衝撃はやって来なかった。


不思議には思ったが、頭を上げて様子を伺っていいタイミングではない。真司は、祐樹の行動に疑問を持ちながらも、そのままの体勢を維持し続けた。


「お前しか、あいつの相手にはならない……なのに、なんで肝心のお前が、あいつを大事にしてやれないんだ」


心の底から生み出した、苦々しい本音を告げられて、真司は、ただ誠意を込めて、その気持ちが伝わる様に、三人に向けてひたすらに同じ体勢を保ち続けた。


「あいつが、どれだけお前を待っていたのか。お前は、全然分かっていない。なのに、お前はヤルだけヤッて『はい、終わり』か?………どれだけあいつを愚弄すれば気が済むんだ。そんなにどうしようもなく自分の性欲に振り回されるなら、さっさと去勢でもしやがれ」

「俺のこの身体は全て御方の物です。だから、あの方の許諾なしにそんな事は出来ません。また、あの方もそれは望まないでしょう。あの方がお互いの身体を使って深く愛し合いたい、という意思があるなら、その時に使い物にならない様な人間にはなりたくない。ですから、去勢はしません」

「そうかよ。お前が出来ねぇってんなら、俺がやってやるよ」

「祐樹さん、落ち着いて。真司も、謝ってんだか煽ってるんだか分からない話をして、この人を刺激するな。素直になんでも話せばいいって訳じゃないんだから。もっと人の気持ちを考えろ」


猛々しく怒り狂う祐樹と、頭を下げて陳謝の意を見せつける真司の間に、今までずっと黙っていた真智が口を挟んだ。そして、車から降り、真司の前まで来ると、真智は少し小さいサイズのクーラーボックスを真司の足元に置いた。


「経口補水液を中心とした水分と、お前が話してた食事にもなるゼリー飲料が入ってる。俺達はあの部屋に入れないから、御方のお世話はお前にしか出来ない。だから、もう絶対に無理だけはさせるな。それが約束出来るなら、これを受け取って今すぐに御方の元に戻れ」


状況から見て、これが茶番に近いものだという認識を強めていた真司は、絶妙なタイミングでの真智の登場に、やはり自分は試されていたんだなと知った。そして、やはり自分にとって真智は、どこまで行っても師匠の様な立ち位置の存在なのだな、と苦笑した。本当に、この人には世話ばかり掛けてしまっている。


「………ありがとうございます。以後、気を付けます」

「あぁ、そうしてくれると助かる。くれぐれも御方を宜しくな」


肩をぽん、と叩かれて、頭を上げる様に促された真司は、ゆっくりと自分の体勢を元に戻した。そして、改めて三人に向けて、胸の内にあった、これまでの思いの丈をぶつけた。


「俺が気に食わないのは当然です。俺がどれだけの経歴を積んでも、その気持ちが変わらないのも仕方ない。だけど、あの方は俺に、二人きりの時だけは、これまでと同じ様に接して欲しいと俺に話してくれました。だから、あなた方の反感をどれだけ買っても、俺はあの方が望む自分であり続けます………ただ、今回は本当にすみませんでした」


早く自分達の視界から消え失せろ、という態度で地面を睨み付け、がり、と歯を食いしばる祐樹。呆れながらも、頷く真智。無表情で、じっと真司の顔を見つめる慎也。三者三様の反応を見せる三人に、もう一度頭を下げてから、真智の用意したクーラーボックスを手に取り、真司は宿を目指して元きた道を歩き始めた。


「………待て」


しかし、その背中に、不機嫌でぶっきらぼうな声が掛けられた。振り返ると、そこにはさっきまで全身に憤怒のオーラを纏っていた祐樹が、そのオーラを抑え込み、しかしまだまだ怒りを燻らせた眼差しで、真司を捉えていた。その手には、紙袋に入った真っ赤な林檎と新鮮そうな白葡萄が携えられている。そして、ずかずかと真司のいる場所まで歩いて近付き、その紙袋を真司の胸に押し当てながら、祐樹はその紙袋を持って来た意図を説明した。


「あいつは体調が良くない時は、固形物を受け付けない。だけど、擦り立ての林檎と、皮ごと食べられる葡萄だけは問題なく食える……持っていけ」


真司は、軽く目を見開いて、祐樹の顔を見つめた。祐樹は、絶対に他人に雅之の世話を頼む様な人間には見えなかったからだ。真司しか側にいられないという状況であっても、プライドが邪魔をしてしまって、こんな態度をとる様なタイプには思えなかった。だけど、真司は胸に沸いたそれを口にはせず、静かに頭を下げて、それを受け取った。


一体、どれだけの想いでいるんだろう。殺したいほど憎い相手に、大切な自分の想い人を託すしかないなんて、想像をしただけで胸が苦しくなる。だけど、それをしたのは、自分自身だというのも分かっているから、真司は一度も後ろを振り返らずに、その場を後にした。


和解など、いまはまだ、出来るはずがない。しかし、雅之がそれを望むなら、努力だけはしていこうと真司は思った。きっと、口には出さないまでも、あの三人も同じ気持ちでいるんだろう。だから、こうして真司を雅之の元に送り出せたのだ。しかし、文句だけは言わせて貰う、というスタンスは変えるつもりは無い様なので、真司は目の上のたんこぶ、もとい口煩い小舅が三人いる状況に、胸の中で溜息をついた。


雅之と真司が、もしもこの先、本当に夫夫になれたとしたら、あの三人は必ず自分達の関係に何かと首を突っ込んでくるだろう。蓮や出雲辺りもそうして来そうな雰囲気はあるけれど、恐らくあの三人程ではないだろうと、真司は考えた。


いや、でも、と思考を切り替える。真司に文句という体を成した助言やサポートを無言でしてくれた三人の対応は、以前より遥かに柔らかなものに思えた。雅之の為だから、という建前はあるのだろうが、それでも、もっと肉体的精神的に痛め付けられる覚悟をしていた真司としては、意外にもあっさりと解放してくれたな、という印象を抱いたのだ。


しかし、その理由が、自分を少しでも認めてくれたから、などと楽観視はしていない。顔も見たくない、早く目の前から消え去って欲しい人間だという認識を持たれている可能性の方が高いのだから。


部屋に戻ると、真司は真智と祐樹から受け取ったクーラーボックスと紙袋を部屋の隅に置いて、寝室へと向かった。すると、ぼんやりと障子丸窓から差し込む朝日を眺めながらベッドに横たわっていた雅之が、真司の気配に気が付いて寝室の入り口に視線を移した。


ぱく、ぱく、と唇を動かして、何か伝えようとしてくる雅之に、真司は素早く近付いて、その口元に耳を寄せた。するとその耳に、『みず、といれ』と短く告げて来た雅之に、真司の胸には深い罪悪感、僅かな興奮、止めどない愛おしさが、ぐるん、と渦巻いた。


結局、この場に置いて最も相応しい心配の色を滲ませた表情を顔に乗せて頷くと、まずは水分補給が先決と考えて、隣の部屋に戻る。そして、クーラーボックスに入っていた経口補水液のペットボトルを手にとって寝室に戻ると、全く力の入らない雅之の身体を支えて起こし、そのまま腕の中にいる雅之に、口移しで水分補給をさせていった。雅之の口の中はカラカラに干上がっていた。口の端から時折水分を溢しながらも、必死になって真司から送り込まれる経口補水液を飲み下していく姿は、真司の愛心を擽った。真司はそうして、ゆっくりと送り込む水分の中に愛しさを紛れ込ませながら、雅之のペースに合わせて水分補給をさせていった。


ペットボトルの内容量が三分の二になった辺りで、真司は雅之に肩を軽くタップされた。すると、少し焦った様子の雅之に『といれ』と短く告げられて。今現在、雅之の中で、水分補給よりも切迫した状況である事を知った真司は、ペットボトルの蓋を閉めてサイドテーブルにそれを置いてから、雅之を横抱きに抱え上げて、部屋に一つだけあるお手洗いに向かった。


個室に入ると、真司は雅之を便器の座面に座らせた。大小どちらの用事なのか分からない真司は、これが最善だと考えてそうしたのだが、雅之としては呆気に取られるしか無い状況だったので、頬を林檎の様に真っ赤に染め上げながら、真司に個室から出る様に促した。しかし、真司はそれをきっぱりと断った。


「なんで……出て行って。これじゃ、どっちにしろ出せない」

「雅之さんの体調管理も俺の仕事です。だから……」

「後で様子は話すから、お願い、出てって」

「ですが……」


尚も食い下がろうとする真司に、雅之は鋭い、それでいて涙を軽く滲ませた眼差しを向けて、『出て行って』と強く指示をした。しかし、真司は、尚も食い下がり、雅之の膝下に跪いて、この場に置いてくれる様にと、許しを乞うた。


「雅之さん、俺達の間に、もう恥ずかしがる様な関係性はありません。だから、貴方の全てを、俺に見せて下さい」

「やだ……それとこれとは、話が全然違うもの」

「本当に、心配なだけなんです。あれだけ身体を酷使したから、身体がお辛くないだろうかと。だから、様子だけでも見せて下さい」

「………っ、ばか、真司の、あほ」

「はい。貴方の事になると、俺は馬鹿にも阿保にもなります」


にっこり、と全てを肯定する、それでいて是が非でも後退はしない、という意志を込めて笑みを浮かべると、目尻に涙を浮かべた雅之は、きゅっと唇を噛み締めて、顔を真っ赤に染め上げながら、俯いた。


「……おしっこ、だけだから。直ぐに終わるから、外に出て待ってて」

「なら、便座から立ち上がる際に、貴方の身体を後ろから支えます。その後の処置も、どうか俺にさせて下さい」

「………終わったら、呼ぶから、それでいいよね」

「………分かりました。折衷案ですね。俺は、朝食の準備を致しますから、終わり次第直ぐに駆けつけます」


お互いの間で落とし所を決めると、真司は、お手洗いを出て、固形物が口に出来ないだろうの為に、ゼリー飲料や、祐樹が用意した林檎や白葡萄が直ぐに食べられる様に準備していった。祐樹はご丁寧にも、林檎を擦り下ろすのに使う擦り下ろし器も紙袋の中に入れてくれていたので、真司は自分が携帯しているナイフで林檎の皮を剥き、朝食の為に置かれていた取り皿の中に擦り下ろした林檎を入れ、水洗で洗った白葡萄を隣に添えて、ゼリー飲料をその隣に並べていった。


雅之の為の朝食の準備が五分も立たずに終わると、丁度いいタイミングで、お手洗いから水洗の音が聞こえてきた。真司は素早くお手洗いに向かって、扉越しに雅之に声を掛けた。


「雅之さん、中に入っても大丈夫ですか?」

「……待って、もう自分で動けるから、君はそのまま外にいて」


雅之は、これでいてかなり身体を鍛えている方の人間だ。だから、昨日から今日の朝まで掛けてあれだけ身体を酷使されていても、体力の回復は早かった。とはいえ、一度開き切ってしまった骨盤はまだ元の定位置に戻りきってはおらず、動けると口には出したものの、殆ど這いずりながらの移動にはなってしまうのだが。それでも雅之には雅之なりの羞恥心というものある。使用後すぐのお手洗いに、真司とはいえ自分以外の人間を入れたいとは到底思えない。だから、腰を抜かしている状態でも取れる移動動作を駆使してお手洗いから這い出そうとしたのだけど、真司は、そんな雅之の気持ちを慮れるほど、繊細な人間ではなかった。


「入ります」

「な……な、なん……どうやって」

「こうした施設の備え付けトイレの鍵くらい、なんてことありませんから。ああ、まだ直腸は綺麗なままだったみたいですね。あれだけ酷使してしまいましたから、排泄の際には痛みがあるんじゃないかと思って塗り薬も用意しておきましたが、使わなくても大丈夫そうですか?」


雅之は、口をぱくぱく、と開いたり閉じたりしながら、信じられない事を口走る真司の、平然としたその顔を凝視した。


「真司、君……アメリカに何か大事な物を落としてこなかった?」

「ああ、はい、それはもう、沢山。ですが、一番大切にしていた貴方への想いだけは、そのまま……いえ、何倍も、何十倍も大きく育ててきましたけれど」

「………そう」


がっくり、と肩を落とす自分の主人に、真司は再び片膝をついて視線を合わせた。そして、浴衣の裾をたくし上げて便座に座る雅之の手を取り、その甲に優しく唇を落とした。


「立ち上がれませんよね?俺が手伝います」

「うん、まぁ……それは、助かるんだけど」

「はい、畏まりました。あと、丁度良いので、朝の体調管理も同時に行っても宜しいですか?」

「体調管理?」

「はい、ここを出たら、直ぐにでも」


人の良い笑みを浮かべてはいたが、雅之は、その裏にある真司の揺るぎ無い感情と、自分に寄せる言葉には表せない執着や信念をそこに感じ取った。背筋が、ぞくりと粟立ち、何か悍ましい体験をするのではないか、という悪寒から、ぶる、と身体を震わせる。しかし、真司はそんな怯えた様子を見せる雅之を華麗にスルーして介助し、お手洗いの個室から雅之を連れ出した。そして、そのまま雅之を横抱きに抱えて、朝食が用意されている食卓を通過し、再び寝室に雅之を運び込んでしまった。


ベッドの上に舞い戻った雅之は、目を白黒させていたが、真司が、浴衣の衽の部分に、徐に手を侵入させてきたのに気が付くと、一気に慌てふためき、その手の動きを静止した。けれど、真司はその手の艶めかしい動きを止めることはせず、それだけでなく、足腰が立たなくなってしまった雅之を良い事に、その太腿から股に掛けてをぱっくりと割り開いて、下着を着けていない雅之の恥部を、自分の目の前にすっかりと露わにしてしまった。そして、その恥部に、じっとりと情欲に濡れた、それでいて、どこまでも仕事熱心な眼差しを向けた真司は、唇をぺろり、と舌先で舐めると、はぁ、と熱い溜息を吐いて、ゆっくりと雅之の恥部に顔を埋めていった。


「なに、な……ぁ?!……や……だめ、真司、汚いから…ッ」


信じられない事に、真司は、あんぐりと口を開き、お手洗いを済ませたばかりの雅之の花芯を、丸々と頬張ってしまった。そして、拭き取りはしたけれど、決して清潔な状態とは言えない其処を、ジュルジュルと下品な音を立てて激しく舐めしゃぶり始めた。その口や舌の動きは、間違いなく、雅之の射精を誘発させようとしている動きそのもので。雅之は、真司の頭を押し退けようと必死になって抵抗を試みたが、花芯の鈴口を舌先であやし、竿の部分は口を窄めて真空の状態にして啜り上げていく、そのあまりの舌技に、次第に身体に力が入らなくなり、あん、あん、とか細く喘ぐ事しか出来なくなっていった。


「あ、あっ……らめ、やめて……っ、おちんちんの中に残ったおしっこ、飲まないでッッ」


雅之の必死な静止を無視して、尿道に残っていた尿と混ざり合った先走りすら、ズルルッッ、と吸い尽くされてしまう。亀頭に吸い付き、まだ足りないとばかりに舌や頬の肉を使って刺激を加え、執拗に花芯から出る雅之の体液に執着心を燃やす真司に、雅之の羞恥心は、より一層掻き立てられていった。しかし、真司は雅之が羞恥心を感じれば感じる程に奮い立ち、雅之の射精に向けたカウントダウンを、一秒、二秒、と刻々と刻んでいった。そして、とうとう、その時は訪れた。


「……ぃ、やぁ、でる、でちゃう、だめ、真司……もう、俺のえっちなお汁、飲まないでぇ…ッッ」

「貴方の体調管理の為です。だから、恥ずかしい事なんて無いんですよ?これから毎日、トイレに行く度に同じ事をするんですから、貴方も早く慣れていって下さいね」

「そんな、やだ、やだよう、あ、ぁん、出ちゃう、は、ぁ……う、やぁ、……っ?!」


毎日、トイレに行く度に、こんな風にして辱めを受ける様になるなんて、絶対に考えられない。しかし、そうと思った瞬間に、雅之は、真司の口内に、ぴゅくっ、ぴゅくっ、と勢いよく精液を放出してしまった。真司は、元気良く自分の口の中に排泄された雅之の精液を、口の中でゆっくり転がしていった。唾液と混ぜ合わせ、鼻から抜ける栗の花の香りすら堪能して、時計の秒針が丸々一周するほどたっぷりと時間を掛けて味わい尽くし、そして最後に、ごくり、と喉を鳴らして飲み干した。


「うん、飲み込むのが勿体無いくらい、新鮮でサラッとしてますね。ここの料理や温泉の質が良いからでしょうか。全然クドさを感じない、爽やかな味わいでした。ご馳走様です、雅之さん」 


まるで、ワインか何かの評論家やソムリエの様な顔をしてくる真司に、求めていない感想を口にされ、羞恥心で頭がどうにかなってしまいそうになる。消えて無くなりたい、とまではいかないが、雅之は、一人にして欲しいと考えてしまうのはやめられなかった。


「貴方が最後に射精してから、大体三時間は経過していますから、出来ればこれからも、これくらいのペースで体調管理させて下さいね」

「やめて……本当に、これ以上はやめて」

「なら、俺の言う最低ラインである、トイレに立つ度に、というのは許して下さいますか?」


自分に対して交渉術を使ってくるとは、大した度胸を身に付けたな、と雅之は力無く笑った。そして、期待が隠し切れていない真司に向けて、もう好きにして、とだけ返した……何というか、朝からドッと疲れてしまった。


主人本人から言質が取れた真司は、上機嫌で雅之の衣服を整えて、再び雅之を抱き抱えると、朝食を準備しておいた食卓へと雅之を連れていった。そして、目覚めてからまだほんの僅かしか時間が経過しておらず、その為ぼんやりとしている雅之に向けて、穏やかに朝食を摂る様にと促した。


「簡単な朝食を準備しました。食べられる物から食べて下さい」


雅之は、卓の上に並べられた豪勢な朝食を見て、これは絶対に食べられないな、と流石に困ってしまったが、真司に促されて視線を向けた先に、擦り下ろした林檎と白葡萄、そしてゼリー飲料が見えて。雅之は、『あれはどうしたの?』と、不思議そうに真司に尋ねた。


真司は、正直に、真智と祐樹が用意した物であると告げて、次いで、三人は外のバンでずっと待機している、と報告をした。そこで何があったのかの詳細は省いたが、雅之は直ぐに真司の頬に出来た裂傷に気が付いて、その全ての状況を悟った。そして、さっきまであった慌ただしい一連の行動流れの一つ一つが、真司の気遣いの範疇にある行動であり、真司が、わざと明るい空気を作ってくれていたのだという事にも同時に悟りを得て。雅之は、真司に向けて申し訳なさそうに微笑んでみせた。


「そう……みんなにも心配を掛けてしまったんだね。後で謝らないと」

「雅之さんは、何も悪くありません。悪いのは、俺が貴方を、朝までずっと離さなかったからで……無理をさせて、すみませんでした」

「でも、君をそんな風に煽ってしまったのは、俺でもあるんだ。だから、俺に全く責任がない訳じゃない。真司は、体調は大丈夫なの?」


これだけ身体を酷使されて、腰すら碌に立たなくなってしまった雅之に自分の体調を心配されて、真司は立つ瀬が無くなってしまった。けれど、それで言葉に窮していては、雅之に心配を掛けてしまうからと、さっきまでと同じ様に、無理して明るい表情を作った。


「俺は大丈夫です。昨日と同じ事をもう一度やれと言われても、全く問題ないくらいに。だから、安心して下さい」


あれだけの事をされて、それでもまだ同じ事が問題なく行えるとサラッと言ってのけた真司に、雅之の身体には、かぁ、と熱が籠った。腕の中にいる想い人のその反応が分からない男ではないので、真司は、雅之の腰骨から尻たぶに掛けてをゆっくり撫で回しながら、雅之の耳元に吐息を吹き込む様にして、ひっそりと呟いた。


「朝食が済んだら、直ぐにベッドかな。折角貴方の身体が俺との子作りに対してこれだけ素直になってくれたのに、これを逃す手はありませんよね」


完全に『何がなんでも抱く』一択の台詞にしか聞こえないが、真司にとってこの台詞は、一応雅之に対するご機嫌伺いでもあった。


あの三人に邂逅を果たし、あれだけの忠言をされていても、真司の中にある軸は全くブレてはいない。


水分補給と休憩をきちんと挟み、定期的にゼリー飲料等でエネルギーを補給しながら、真司は雅之を昼夜問わずして抱き尽くそうと心に決めていた。


無理や無茶は、しないし、させない。しかし、昨日よりも更に激しい夜にする気概だけは、満々に持ち続けていた。


雅之としても、真司のその意図は伝わっているので、いま頷いてしまったら、自分を待つ未来は凄惨な物となるというのは分かりきっていた。真司の台詞の中には雄として自分の雌を従わせようという強制力をまるで感じない。だから、『引き返すなら今のうちに』という真司の無言のプレッシャーを受けて、雅之は『暫く考えさせて』と真司に猶予を求めた。以前であれば焦燥に駆られて真司に詰め寄ったかもしれないが、今の真司は、それを受け入れない男ではない。


「分かりました、じゃあ朝食にしましょうか」


と朗らかに笑って、雅之をしっかりと抱き抱えたまま、朝食を開始した。そんな落ち着いた様子を見せる真司に、男として成長し、雄として成熟した余裕を見出して。こんなにも立派になった逞しくて魅力に溢れた男に、骨の髄まで愛されているという事実が堪らなくなり、雅之は自分の胸を簡単にときめかせてしまった。真司としても、そんな雅之の熱の籠った眼差しに気が付かない筈もなく。この人が落ちるのも時間の問題だな、と冷静に状況を分析していた。


これなら食べられると祐樹から太鼓判を貰った林檎や白葡萄を少しづつ食べさせて、最後にゼリー飲料を半分ほど飲ませると、雅之はもういらない、という意思を示した。すると丁度良いタイミングで仲居が現れて、二人に都合を伺ってから部屋の片付けをし始めた。そしてその仲居から夕飯を何時に設定するのかの都合を聞かれたので、真司は自分の腕の中に、いまだにすっぽりと収まっている雅之に、夕食の時間をどうするか尋ねた。すると、雅之は真司の顔をちらりと覗いてから、頬を赤らめながら口をもごもごと動かして。


「君の好きな時間にして」


その瞬間、真司は。


『今すぐにこの人を犯さなければ』


という、強烈な強迫観念にも似た感覚を身に宿した。


仲居には失礼ではあったが、其方には視線も移さずに、『夕食はいりません』と短く告げてから、すぐさま雅之の顎をがっしりと掴んで顔を固定して、その唇にむしゃぶりついた。そして、二人はその仲居の目の前の、寝室ですらない畳の上で、勝手に睦み合い始めてしまったのだった。


呆れるか憤るか引いてしまうか、いずれかの反応を見せるかと思いきや、仲居は目の前で始まった雄と雌のその交尾にうっとりと目を細めてから、『畏まりました、ごゆっくりどうぞ』と言って三つ指をついてから、どこか満足げな表情を浮かべたまま、静かに部屋を出て行ってしまった。


こうして、二匹の雄と雌による二日目の交尾が、なし崩しに幕を開けたのだった。
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