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最終章『いない、いない、ばあ。』
第一話『救世主』
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大規模コンサート会場を抱えたイベント開催地は、溢れんばかりの人々でごった返していた。地元のTV局やラジオ番組からの取材も受け、参加する飲食店のSNSの事前の告知や、市のHPや地元紙を中心とした広報活動を展開していたのが、功を奏した結果と言えた。イベント会場の出入り口付近にあるブースで購入したグラスを持っていれば、全国津々浦々の地ビール醸造所の生ビールが割引価格で提供されるとあり、同じ形のグラスを持っている参加者は、参加者全体の約七割を締めている。因みに、今回のイベントのトレードマークである刻印がなされたそのグラスを加工しているのも地元にあるガラス製品を取り扱っている工房で、此方の営業を掛けたのは、このイベントを初期の段階から立ち上げた前園先輩ではなく、この俺だった。
与えられた仕事ではなく、自分自身が動いてイベントの企画を進行していくのは骨が折れたなんてレベルの話ではないけれど。俺をずっと影から日向から支えてくれていた透さんが、こうしてイベント会場まで足を運び、そのグラスを使って、俺の目の前で美味しそうにビールを飲んでいる姿を見ているだけで、言葉には尽くせない充実感と達成感を感じていた。
「そんなにジッと見つめて、どないしたん?」
「泡ついとるよ、透さん」
「え?どこ?」
「ふふ、こっち」
そんなつもりで熱く見つめていた訳では無いのだけど。上手く誤魔化せたから、まあ良いか、と思いながら、透さんの口の端に付いた泡を指の背で拭う。すると、透さんは、恥ずかしそうに顔を微かに赤らめてから、はにかむ様にして、ありがとう、と感謝をしてきた。年上のその人が、俺に世話を焼かれるのにこうして慣れてくれたのは、俺にとっても嬉しい変化だ。だから、此方こそ、という気持ちを込めて、泡を拭った指で、するりと頬を撫でて、自分の中にある、もっとこの人に触れていたいという名残惜しさを押し込めてから、その手を離した。
俺の休憩時間の合間に、千明さんと一緒に丁度良く現れた透さんと東條さんを引き合わせて、その場にいる全員で連絡先の交換をしてからこっち、二人きりになれた時間は無かったから。いま、この時が、とても貴重な時間に思えてならなかった。千明さんはいま、ビールに合うつまみを買いに行くと言って、この場所を離れている。もしかしたら、二人きりになりたいと言う俺の気持ちを感じ取って、気を遣ってくれたのかも知れない。これまで色んな感情を千明さんに対して持ってきたけれど、こんな風に気遣いがある人を、何だかんだと気持ちの上で邪険にしてしまった自分の余裕の無さが恥ずかしくなった。
電話の時もそうだし、目の前で透さんと会話している時もそうだったけど、千明さんは、全身から人の良さや気さくさが滲み出ている様な人で、それでいて、誰からも一目置かれるだけのカリスマ性を持った人だった。話しているだけで気分が高揚する東條さんや、自然と良い塩梅で砕けた調子になる前園先輩、そして、ばっさりあっさりしているにも関わらず人の心に不快さを取り置かない和泉先生とはまた違った魅力を持つ人で。俺は、他にこんな人滅多に居ないよなぁ、とその類い稀な容姿の端麗さを含めた感想を胸の中で漏らした。それでいったら、上に列挙した人物全員にも、その話は全てにおいて当て嵌まるのだけど。
「それにしても、こないに大きなイベントやったなんて、来てみて吃驚したわ。凄い人やねぇ。そういえば、さっき見掛けたTVクルーとか、何だか全国中継してる感じやったけど、あれも潤が?」
「はい。今回だけでこのイベントを終わらせたく無かったので、これが盛況のうちに終わったら、来年もまたやるつもりでいるんです。せやから、今のうちに、しっかりと布石を用意して置きたくて」
「わぁ、ホンマに?……でも、きっとそうなるよ。これだけ盛況で、この場所にいる人達みんなが笑顔なんやもん」
「貴方にそう言われると、その気になりますね」
「うん。そうして自信持ってくれたら、僕も嬉しい」
………どうしようか。俺の恋人が、今日も世界一可愛い。何で、今この場には、俺達の他に沢山の人が居るんだ。誰も居なかったら、今直ぐに抱き締めて、キスをして……などと、このイベントの総責任者としてあるまじき考えを胸の中にひっそりと持ちながら、透さんに向けて、にこりと微笑みを浮かべた。
「潤、このまま出世街道まっしぐらなんやない?今よりもっとモテる様になってもうたら、僕、心配や……ホンマに、どないしよ」
このイベントの、俺の成功を一緒になって喜んだり、次の瞬間にはこうして目の前でする必要もない心配をしだしたり、この人は、本当に、ずっと見ていても全く飽きない。というか、ずっとずっと、この人だけを眺めて生きていきたいと、いましみじみと思った。
そもそも、実る筈がないと思って始まった恋だから、見つめ愛、偲び愛、が俺の常だった。だから、そんな生活が出来れば、俺にとってはこれ以上ない至上の幸福なのだけど。
ひと度、この人の肌に触れてしまった限り。そして、その肌に触れた者を魅了してやまない魅惑の身体に、どっぷりと頭の天辺まで依存してしまった限り。俺にはもう、そんな生活では物足りなくて堪らないだろうな、とも考えて。
そして、次第にスッと冷め切っていった頭の中で、『この人、ホンマに懲りへんな』と、呟いたんだ。
「50mg、二箱」
笑顔で人を黙らせる、という妙技を、俺はこの一年で和泉先生や前園先輩、そして東條さんと一緒に仕事をしていくなかで学び取り、仕事でもプライベートでも実践してきた。そして、それは、いつしか自分自身の武器にもなった。こうしてする必要のない心配をして、俺の神経を逆撫でするのは、非常に宜しくない。ましてや、他の誰かに俺が靡くなんていう有り得ない想像を働かせるなど、愚の骨頂だ。
少し前までなら、嫉妬したり心配したりするこの人を見ただけで、可愛くて堪らないと鼻の下を伸ばしていただろうけれど。今の俺にはただただ不機嫌になるだけの悪材料でしかなかった。何故なら、それだけ俺の愛が、そして俺自身が、信頼されていない事の裏付けになってしまうから。それに気が付いてからは、この人の軽い嫉妬や思い込みも、全て、その日の内に、自分の身体で黙らせてきた。
勿論、服薬しても身体に支障が無い、最大摂取量の媚薬を服用させられ、続け様に、休む事なく、徹底的に、快楽を与え続ける、と言う意味で。
気を失って、ただただ俺に下から揺さぶられているだけの肉人形の様になってしまった愛しい人を、自分自身の晴れの日に見る羽目になるかと、溜息を吐いてから透さんに視線を移すと、その人は俺の意図を、その視線と俺が放った一言から正確に読み取り、びく、と大きく身体を跳ねさせた。そして、そこから一気におろおろと狼狽えだすと、俺の機嫌を直す為に、必死になって言葉や態度を尽くし始めた。
「潤、ごめんなさい。僕、もう、そないな事言わへんから、それだけは堪忍して」
「50mg、二箱」
先程から口にしている50mgと言うのが、ED治療薬として俺が処方されている薬の、一回の最大服薬量だ。そして、二箱というのはそのまま、十二枚綴りのその箱が二つ、の意味である。つまり、俺は今、透さんを、それら二つを一度に消費してやるから、今晩は覚悟して置けよ、と脅し付けているのだった。
俺が行うその折檻の恐ろしさをその身を持って経験している透さんが、こうして震え上がってしまうのも、ある意味では納得のいくものだった。とはいえ、俺の心の中には、この人に対する目立った罪悪感は見当たらない。初めて身体を重ねてから、半年間が経過した今では、寧ろ、こうした話を持ち出す側の方が問題意識を持つべきだ、という考えの方が、俺の中で常識として定着していたからだ。そんな常識外れの言動を未だにもって口にして墓穴を掘る透さんを、いっそ哀れに思ってしまうのは、それでも俺が、どうあってもこの人を愛しているからなんだと思う。
「どうしたら許してくれる?僕、何でもする。せやから……」
「ほんなら、ここでキスして。ただし、ちゃんと濃いやつやないと、カウントせぇへんから」
俺は未だに、不自由な身体を抱えている。だから、薬を服用しないと、きちんと自分の身体を用意して、この人を抱く事ができない。つまり、俺の中にあるこの人の神聖化は、これだけ肌膚を交わしてきても、まだ治っていないという事だ。
どれだけ卑猥な言動を取らせても。どれだけ厭らしい服や下着を着させても。その格好のままオナニーをするこの人を見ても。ホテルで、屋外で、昼と夜の両方に掛けて求めても。俺の身体は、薬を服薬しなければ、ピクリとも反応しなかった。
もしかしたら、このままずっとこの身体を携えたまま、透さんと……そんな不安をずっと抱え込んでいる俺が、例え冗談であっても、浮気の可能性を示唆されたり、他の誰かに靡くなんて発想をされたりするだなんて、許せる筈がない。当の本人である透さんであれば、尚更。
「して。ここで」
小学校の運動会等でも良く見掛ける様な物よりかは、よりスタイリッシュな印象のある緑色のタープテントの下に、等間隔で設置された立ち飲み席のテーブルに向かい合っている俺達の周囲には、沢山の人達がいる。俺達の席の隣にいるグループは、完全に出来上がっている二十代後半くらいの男女四人組と、女子会も兼ねている三人組の若い女子学生だ。テントの前を通る人達も多く、いまこの場で俺達が突然キスをしたら、最初は酔っ払いのやる事か、と相手にされないかも知れないが、俺の指定している夜の関係性を示唆させる様な深いキスをしたとしたら、あっという間に注目の的になってしまうだろう。それが分かっている透さんは、唇を噛み締めて、首を微かに横に振り、『出来ない』を俺に伝えてきた。
「なら、50mg、二箱で決まりや。ええですね?」
その反応を、然もありなん、受け止めた俺は、しらっとした顔で、手元にある、仕事中の為アルコールを摂取出来ない自分用に用意した暖かい烏龍茶を啜った。けれど、透さんと俺の関係性を見せびらかしたい気持ちも多少はあったり、自分以外の他の誰かに透さんのキス顔を見せる事にならずに済んで、ホッとしている自分もいたりと、俺もこれでいてどう仕様も無い人間だな、と内心では思ったりしていた。
「そんなんされたら、お尻の大事なとこ、真っ赤になってまう。せやから、ふ、二箱は、堪忍して……一箱で足らん分は、お口で頑張るから」
「そんなんしたら顎いわしますよ。後で薬塗ったるし、貴方の身体と家の事は全部俺がしますから。余計な事考えんと、今は、きちんと反省して」
「………うん。ごめんなさい」
しょんぼりと肩を落とし、ホンマに自分アホやなぁ、と最後に呟いてから、透さんはグラスの中に入っているビールの淡い金色した湖面に向けて、溜息を吐いた。そんな透さんを見ているうちに、次第に俺の気持ちにも変化が訪れて。
「…… 軽いのでええから、ここでホンマにキスしてくれたら、一箱に負けても……」
いつの間にか、そんな仏心を垣間見せてしまっていた。
「……ええの?ホンマに?」
「そんかし、透さんの方からして。あと、キス顔、俺以外の誰にも見せへんで。それと……」
俺が、許す条件を指折りしながら列挙していくと、アルコールも飲んでいないのに紅潮した俺のその頬に、柔らかく温かな物が、そっと触れて離れて行った。そして、そのあまりの軽業にうっかりと虚を突かれてしまった俺の耳元に向けて、透さんは、ふわりと優しく囁いた。
「潤、だいすき」
過去から学んでいないのは、一体本当はどちらなのか。俺は、一体何度こんな事を繰り返しているのか。貴方は、一体何度俺を恋に落としたら気が済むのか。様々な疑問が、頭の中にパッと散らばって。それを必死になって拾い上げながら、俺は、そのまま、テーブルの上に片肘を突いて、顔を真っ赤にしながら、思わずにやけてしまった自分の口元を手の平で覆った。
因みに、この脅し文句である二箱については、惚れた弱みなのか何なのか、いつもこんな調子で俺が仏心を出してしまうので、未だに実行された試しは無い。
……いや、でもやっぱり、今回のこれは、どう考えても可笑しい。まぁ、今回に限った話やなくて、いつもの事なんやけど。それにしても、完全に手の平に乗っ取るの俺の方やないか。なのに、いつも、何やかんやでこの人が大反省してるの見とるうちに、段々と罪悪感とはまた違う……そう、道端のダンボールの中におる仔猫が、にゃぁん、て甘えた声出して潤んだ眼で見上げてくるの見て、胸がウッてる、感覚……になって、結局拾い上げて帰ってしまう的な。だとしたら、俺いま何匹猫飼っとるんやろ。大所帯過ぎるて。だけど全部透にゃんこやから、問題ないです。猫よりは犬派ですけど関係ありません、全部飼います。
口元を押さえながら俺がノックアウトされ、透さんが上機嫌でビールを飲んでいると、そこにつまみを買ってきた千明さんが合流してきた。どうやって買ってきたのか、レストランの給仕担当の方の様に、両手に器用にいくつもの紙皿を持っている。因みに、この紙皿は、この地元にある食品パッケージ会社にお願いして作られた、完全イベント仕様の紙皿で、これにもイベントのトレードマークが刻印されていた。
「おーっす、なんか色んなの売ってたから、迷っちゃって。あ、潤が言ってたトリッパ煮込みって、これであってる?」
「……はい。そうです。ありがとうございます」
「何、どうしたの?何か凄いダメージ受けてない?……まぁ、いいや。取り敢えず飲もー」
顔を真っ赤にして口元を抑え、項垂れている俺と、上機嫌な様子の透さんを交互に見て、其処から状況を全て悟った様子を垣間見せた千明さんは、説明を求めて置きながら、一方的に会話を中断して、テーブルの上に熱々の料理が乗った紙皿を置いていった。出会ってからあっという間に人の名前を呼び捨てにしてしまえるコミュニケーション能力の高さと、その場の空気を読む巧みさには、はっきり言って舌を巻いている。
「どこの屋台もみんな混んでたけど、この店が一番ヤバかった。ビール醸造所とかも、道に沿って置かれた幟が凄くて、なんつーの、壮観?だから、それ見てるだけで楽しかったよ。全体的に活気もあって、良い感じじゃん、お前やるなぁ」
衒いなく褒められると、このイベントを盛り上げる為に必死で仕事に従事してきたこの半年間が報われる。裏表がない性格の千明さんだから胸に響くんだろうなとは思うけど。透さんから褒められた時とは、また違う喜びがあった。漫画やアニメとかで見てきたけど、ずっと目の敵にしてきた好敵手に認められた主人公とかキャラクターって、こんな感覚なのかも知れない。現実にあるんだな、こういうの。
「いえ……ありがとうございます。買い出しも、任せてしまって、すみませんでした」
「良いって、楽しんでただけだし。それに、もうこんな風に独り身っぽい感じで行動出来なくなるから、息抜きに丁度よかった。ありがとな、二人して誘ってくれて」
にっかり、と快活に笑いながら俺達に感謝を述べた千明さんは、俺もビール買ってこよ、と言って、再びその場を出て行きそうになった。すると、それでは気持ちが悪いし、お前の好みは知ってるから、ちょっとそれ食べながら大人しくしていて、と透さんが言い出し、それを許諾した千明さんは、いってらー、と透さんに向けて手を振った。つまり、俺と千明さんがその場に取り残されてしまったのだ。
内心では好敵手扱いしていたけど、この状況は想定外だったので。殆ど面識がない千明さんと、どんな話をしたら良いのか分からず。もとより人見知りのきらいがある俺は、話の中心を担うポジションの透さんがいなくなって、すっかり弱ってしまった。けれど、そんな俺に向けて、千明さんは『本当は見てたんだよね、俺』と、何の脈絡も無く、俺に話し掛けてきた。
「さっきの透とのキス。俺以外には気が付かれて無かったみたいだけど」
別に見られたからと言って、俺の中に特別な感情の揺れ動きは無い。ただ単に、『ああ、見られてたんだ』と、事実を受け止める以外には、目立った感想は胸に浮かばなかった。だから、そうですか、と無感情のままに返そうとしたのだけど、次に投げかけられた千明さんの言葉には、あの人のパートナーとして……あの人の男として、どうあっても引っ掛かる物があった。
「アイツ、恋人の前ではあんな顔するんだな。俺にはずっとあんな顔見せてくれなかったから、何だか不思議だよ」
目の前でトリッパ煮込みを食べて、これ美味いね、と呟く千明さんの表情は、平穏そのものだった。しかし、その口から紡ぎ出された言葉には、含みを持たせる様な響きがあって。こうした、またと無い機会を利用する為にも、俺は、千明さんの背後に静かに忍び寄る様な気持ちで、にっこりと人の良い笑みを浮かべた。
「二人って、ホンマに仲ええですよね。そう言えば、高校の同級生なんでしたっけ?」
「うん。そっからずっと、何だかんだね。アイツのマネージャーしてた時期もあるから、仕事でも一緒だったし。なんて言うんだっけ、こういうの……公私共に、パートナーってやつ?」
あの人の恋人の俺を前にして、言うに事欠いて、公私共にパートナーだと?喧嘩売ってんのか、この人。全然買いますけど。なんなら自分から買いに行きますけど。それにしても、マネージャーって何?透さんからも、一度だって聞いた事ありませんが?まだ、こんな隠し球あったんだ、へぇ……あの人、ホンマに今晩は覚悟しとけよ。
「マネージャーって、どれくらいの期間されてたんですか?」
「アイツが二十歳の時から引退する迄の、二年間。俺、アイツのマネージャーする為に、専門学校行ってたんだよね。だから、卒業して直ぐに、アイツのマネジメントし始めたんだ」
「へぇ……」
親友の域、超えとる超えとる。こんなん、さっき言った公私共にパートナーとか、全然冗談に聞こえへんやないか。前から分かってたけど、この人、本気で、あの人にこれ以上近付けたらアカン人や。
てか、考えれば考える程、完全にアウトやろ。どう考えても、透さんの事ずっと狙っとるやんか。こざっぱりした人やと思うてたら、こんなヤバい本性隠し持ってたんかい……無理。ホンマに無理。この人が、ずっと親友として透さんの隣に居るとか、この先もずっと付き合ってかんと駄目とか、俺が無理。
遅いかもしれへんけど、これ牽制しとかなアカンよな。一応そこは恋人として、きっちりさせとかんと、今後の関係性にも支障が出てくるし。結婚したからなんやねん。やっぱり、俺が考えてた通り、男の友情なら一生続けてけると思うて、動かれへんだけやったんやないの?だとしたら、この人、滅茶苦茶ヤバい人やん。
目障り所の騒ぎやない。はっきり言って、二人の友情そのものにアレルギー起こすわ。何でもええから、俺の透さんの周り、これ以上彷徨かんといて。
「そうやったんですね。でも、これからはお互いに本当のパートナーもいる事ですし、なかなか会える機会も減るでしょうね。寂しいけど、そういうもんやないですか、男が家庭を持つって。ただ、透さんの事は安心して下さい。これからは俺が、千明さんに代わって、きっちりマネジメントしますから」
人の良さを全面に押し出した、しかし見る者にプレッシャーを与える圧迫感のある笑みを浮かべて。背後に『せやからお前は用済みなんや空気読んで早よ去ね』を配置する。すると、千明さんは、テーブルの上にあった料理のうちのチーズ入り棒餃子を一口齧り付いて咀嚼してから、当然の様に透さんの飲み残したビールを飲んで、平然とこんな事を口にした。
「アイツがいま契約してる相手、俺が担当してるミュージカル中心で活動してる俳優なんだよね。だから、きっとこれからも関わりはあると思うよ」
…………これ、どうにか、闇に葬れへんかな。いや、危ない手を使いたいとか、透さんの手前、そんな気持ちにはなれへんのやけど。ホンマに、どうしたらいいのか分からへん。また前みたいに職場変えさすのは、あの人の今後の仕事にも差し障りがあるし。それに、前とは違って、雇用主との関係性の問題ではないし。
今回の件は、あの人に相談しようにも、きっと頷いてはくれないだろう。はっきり言って打つ手が見当たらない。だから、いつまでもこんな風に、本音と建前を使い分けたりしていたら、埒があかないと踏んで、俺は自分の顔に貼り付けていた人の良い笑みを、スッと鎮めた。
「ちゃんと口に出して言わんと分からへん?あの人に、もう近付くな言うてんねん。親友だか元マネージャーだか知らんけど、はっきり言って目障りなんや。せやから、これ以上俺のオンナの周りうろちょろせんと、さっさと身重の自分の女のとこに去ねや」
建前を蹴散らし、胸にあった本音をそのまま打つけると、千明さんは、再び食べかけの棒餃子を口にしてから咀嚼して、そしてまた透さんの飲み残したビールを……
「ッチ……ホンマにさっきから……いい加減、それ止めぇ」
「え?何が?」
「透さんのビール普通に飲むなや。何を自分のもんみたいに勝手にしとんねん」
「だって、飲まないと無くならないじゃん。それにこういうのって、美味しいうちに飲んどかないと、勿体無いでしょ」
「はい、当たり前ですね。で、だから何?そんなん聞いてへんから」
「そうなの?じゃあ、お前は、俺に何が聞きたいの?」
そんなもの、一個しかない。本当はビールの事なんどうでも良いんだから。いや、どうでも良く無いは言い過ぎた。言い過ぎたけれど、本当に聞きたいのは、ハッキリしておきたいのは、そこじゃないから。
「透さんの事、いつになったら諦めてくれます?目の前に、二人が一緒に居るだけで、むっちゃしんどいねん……せやから、そこだけ教えてくれへん?なぁ、俺、いつまで千明さんの事、我慢したらええの?」
我慢の限界が、自分自身に訪れたら、俺は一体どんな行動に移すつもりでいるんだろう。そもそも、期間を指定されたとしても、そこまで本当に、自分を抑えつけられるんだろうか。様々な、自分自身への疑念や疑問は尽きなかったけれど。何とか、この現状に、自分の中でも、この人自身にも落とし所を作っておきたくて、そう口にした。すると、千明さんは、暫く無言で俺の顔を眺めてから、透さんの飲み残しのグラスに入ったビールの湖面に、静かに視線を移した。
「お前が何を心配してるのかは、分かるよ。でも俺は、透に対して、恋愛感情を持った事はない。アイツの恋人役になろうと頑張った時はあったけど、それもアイツの表現者としての幅を持たせたかったっていう目的があっての事だから。今は、そんな風には思ってないから、安心して」
遂に、尻尾を出したかと思えば、訳の分からない事を話し始めた千明さんに、は?と短く切り返す。何をどう切り取れば、それが安心材料になるのかが、まるで分からない。あの人を狙っていた事実は変わらないのに、何を偉そうに、自分の下半身事情にあの人を巻き込んでいるんだ、この人は。
「言う事に欠いて、何言うとんの。表現者としての幅?はぁ?自分が狙ってたんは変わりないやんけ。どこに安心できる要素があるんか、全然分からへんのやけど」
「そう言われても。アイツには、もうお前がいるでしょ?だから、俺が態々恋人役やらなくても問題ないじゃん」
「問題ないって……なんやねんそれ」
言われている事の意味が、分かる様でいて、分からない。何なんだ、この人。頭がどうかしてるんじゃないか?ダンサーの、表現者の、透さんの表現の幅を広げる為だけに、自分が恋人になろうとした?そんな献身、はっきり言って普通じゃない。出鱈目だし、荒唐無稽だ。
話に聞いた事はあっても、TVやドラマや小説で描かれるフィクションか、それこそ、世界を股に掛けて活躍した偉人や、世界的アーティストといった、選ばれ者が奏でる世界観、そのものの話で。あまりに現実離れした内容に、俺は言葉を失うしかなかった。
俺の知る透さんは……世界的ダンサーである、本郷 透という人物は、その選ばれし者の一人だったのかと、改めて思い知って。透さんに対して、あの人の持つ才能について、本当の認識を持って接して来なかった事実に、愕然とした。
「透みたいな表現者にとって、恋愛って凄く重要なんだよね。だけど、そこの価値観が、アイツってあんまり淡白でさ。俺はそれを手助けしたかったんだけど、難しくて。恋って良いものだよ、だから怖がらなくていいんだよって、周囲に居た誰しもが伝えたいと感じていたけど、アイツは結局、誰の手も取らなかった。でも、アイツは、それも含めて、自分自身の限界だと言って、舞台から去ってしまったんだ」
千明さんの言っている事は、感情的に見てしまうと、とてもじゃないが許容出来ない話だった。けれど、透さんを陰ながら支え続けてきた糟糠の妻の様な立場にあった人が、世界的なアーティストの表現の幅を広げる為に、自分自身が恋人に近い存在になって、恋愛する楽しみを、人を愛する気持ちの豊かさを伝えようとしていた覚悟は、並々ならぬものだと思ってしまった。
単なる下心一つで、出来る次元の話じゃない。本当の意味で、アーティストである透さんを支えようと考えなければ、到達出来ない心理。森住 千明という人物は、そうした究極の献身愛を、余す所なく体現していた。
「今なら、透は最高のダンスが踊れるんじゃないかな。現役の時に俺がそこまで持っていってやりたかったけど……まぁ、そればっかりは、仕方ないよな」
最後に、そうしみじみと呟いた千明さんは、俺のおすすめしたイタリアンバルのトリッパ煮込みに再び箸を伸ばし、一口放り込んで咀嚼すると、透さんが飲み残していたビールではなく、俺の手元にある烏龍茶を『一口貰っていい?』と断りを入れてから、一口飲んだ。こうして行動する事で、透さんのビールを勝手に飲んでいた事実を軽く受け止める様にと気遣ったのかも知れないが、そんな気遣いを向けてくれても、俺にとっては今更だった。でも、この人が生来から滲ませている優しさや配慮といったものは感じ取れたから。ささくれ立っていた俺の心の表面のざらつきは、次第に和んでいった。
「……透さんに恋愛感情を持ってないって、ホンマですか」
とは言え、話は済んだ、みたいな雰囲気を出しても、そこだけに関しては逃せない。肝心のその部分にきちんとした話の決着を見せない限り、俺はこの人を、再び透さんの隣に置ける心境にはなれなかった。先程の話を総合的に考えてみれば、千明さんが透さんをどれだけ大切に想っているのかは分かったけれど。そこに恋愛感情が全く存在しない、という部分だけは納得がいかなかった。
「うん。アイツはずっと親友だよ。今も昔も、変わらずに。強いて言えば、俺はきっと、アイツの才能に惚れていたんだ。この才能を世に出す為なら、自分はどうなってもいいって思えるくらいにはね」
自分自身、どんな返事が返ってくれば納得出来るのか、分からずにいた。けれど、千明さんの『才能に惚れた』という表現を受けて、漸く、ほんの少しだけ、自分自身の嫉妬や焦燥を抑えて、二人の関係性を認められた様な気持ちになれたんだ。そして、本当に実在する人物達によって、こんなにも尊い関係性が築き上げられてきた事実に、脱帽した。
「なら、透さんが、ダンサーを引退した時は、ショックやったんや無かったですか?」
「そうだね。でも、不思議と引き止めようとは思わなかったなぁ」
「それは、どうして?」
「うーん。無理矢理踊らせるのも、違うじゃん?本人が辞めたがってるなら、それが潮時なんだよ、きっと」
そう語る千明さんの眼差しや表情には、何の後悔も、感情の淀みも無く。自分のやるべき事は全てやってきたという男の自負を、其処に感じた。だから、そんな千明さんを見ているうちに、透さんはまだ、人知れずダンスを続けているという事実を伝えるべきか、伝えずにいるべきかという難題が胸に重くのし掛かってきたけれど。結局、俺は何も言葉としては生み出せず。自分の唇をキュッと噛み締めて、千明さんの満たされた表情から、視線を外した。
すると、それから一拍置いたタイミングで、俺のスマホに、着信が入った。一体誰だ?と思って番号を確認すると、現場スタッフの俺直属の後輩からの着信だと分かり、俺は、急な胸騒ぎを覚えた。まだ休憩時間は残っている筈だが、と思いつつ、千明さんにチラッと視線を移すと、どーぞ、という顔をされる。それに頭を下げて断りを入れてから、通話ボタンをタップして、その電話に出た。
慌てた様子の後輩は、深刻な声のトーンで一言、休憩中に失礼します、とワンクッションを置いてから、直ぐに本題へと移った。電話してきた理由と、その詳細を俺に語り始めた後輩の話を聞きながら、やっぱり嫌な予感とは当たるものなんだな、と溜息を吐きたくなる気持ちを必死で押し隠して、適度に相槌を返して話を促しながら、その通話を続けていった。
後輩の話を簡単に纏める。大ホール会場にてメインを担当していたのは、地方遠征を生業としているプロのコンテンポラリーダンサーさんだった。しかし、その妻であるパートナーが妊娠しており、本番当日の今日になって突然産気づいてしまったのだという。出産予定日よりもまだ充分余裕があったので、ダンサーさんはイベントのメインを引き受けていたのだが、早産になり、これから緊急分娩になるとの連絡を受けると、突然周囲に対して『自分はもう踊れる心境にはない。ただ、今帰ってもどうにかなる訳でもないから、新幹線の予約時間まで一人にしてくれ』と言って、控え室に引き篭もってしまったのだそうだ。
プロとしてあるまじき行為ではあるが、妻であるパートナーの年齢が高齢出産の限界に近く、母子ともに命の危険が伴う出産になるという話もあり、そこで同情心を掻き立てられてしまった関係性達も、どうしたらいいか分からなくて困窮しているという。そこで、このイベントの責任者である俺にも、現場に来て声を掛けてくれないか、という打診があったのだ。だから、俺はそれに向けて了承を伝えると、その通話を終わらせて、タープテントの天井を軽く仰ぎ見てから、自分自身の頭や心を冷静にさせる様に、ふー、と細い息を吐いた。
「………すみません、千明さん。俺これから行かなくちゃ行けない所があって。なので、透さんには、その事を伝えて貰ってもええですか?」
アクシデントとは、いつだって突然引き起こる。だから、頭を真っ白にして、いつまでもボーッとしている場合ではない。責任者とは、その時に起きた事故やアクシデントの後始末を付ける為に其処にいる様なものだ。だから、こんな時に采配を振るったり、万が一イベントが失敗に終わった際に、誰が責任を取るのか、という時の槍玉に上がっても、その事実を重く受け止めて行動しなければならない。だから、こんな時の為に用意されている、自分の本当の仕事をしに行く為に、俺はこの場を直ぐに離れなければならなかった。
「ごめん。話聞こえたんだけどさ。そのドタキャンかまそうとしてるコンテンポラリーダンサーって、このイベントのポスターにもあった遠野って名前の人だよな」
しかし、そんな俺に向けて、千明さんは、それを制止させる様にして、声を掛けてきた。俺がそれに困惑の色を見せながら頷くと、千明さんは思わず、といった具合に苦笑した。
「あの人、昔っからムラっ気あってさ。良いダンス踊るのに、やたらと繊細で。結婚してからは落ち着いたけど、若い頃はもっと大変だったよ。てか、まだそんな感じなんだなぁ……あの人、一度貝になったらもう無理だよ。だから、説得して舞台に上げようとするより、他の手を考えた方が良いと思う」
スラスラと、そのダンサーさんについての情報を教えてくれる千明さんを見ているうちに、そうか、この人これでいて、ダンス業界に詳しいどころか、まんまその畑にいて土を耕してる人だ、とはたりと思い出した。しかし、その与えてくれた情報は、俺の様な主催者側の人間からして見たら暗い情報でしかなく。経歴だけ見て採用してしまった自分自身を叱咤し、激しく後悔した。次にこんな機会があれば、あんな事がしたい、こんな風にしたい、と未来の話考えばかり考えながら最終日を迎えたけれど、肝心の足元がこんなでは、そんな未来すらも訪れない可能性が高いな、と自嘲した。
「けど、他の手と言われても、一体何をどうしたら……」
千明さんと一緒に、腕を組んでその場で一緒に考え込む。しかし、どれだけ考えても、閉じた貝になってしまったダンサーさんの埋め合わせ方法が見当たらない。他のダンス教室の講師に掛け合って、もう一曲踊ってくれないか、と打診する手もあったが、それでは、今後のイベント運営に差し障りがあるし、こうした時の為の他の手を残して置かなかった事により、あのイベント会社は当てにならないと業界内で噂されてしまったら、会社の経営自体にまで影響が及んでしまうかもしれない。そうなれば、噂が一人歩きをし始め、もう取り返しが付かなくなってしまうだろう。だからこそ、予定を繰り上げ、終了時間を早めてから終わらせる。それくらいしか妙案らしい妙案は、頭に浮かばなかった。
イベントは失敗。しかも、禍根を残した上で。そうなれば、俺はもう、あの会社にはいられなくなる。俺の首だけで済めば良いが、このイベントの発案者は、俺に一から仕事を教えてくれた前園先輩だ。だから、今諦めたらあの人の顔にまで泥を塗ってしまう。それが悔しくて堪らなくて。俺は拳を握り締めて、くそ、と小さく悪態を吐いた。
「なぁ。お前にとっても、あのダンサーにとっても、この場にいる全員にとっても、救世主になれる人なら、俺知ってるよ」
俯いていた俺に、千明さんは、俺の予想だにしない提案を持ち掛けてきた。俺は一体何を言われているのか分からないという表情を浮かべて、まじまじと千明さんの顔を見つめた。
「しかも、その救世主は、この会場にいる。俺達のいる場所に、まさに今、えっちらおっちら、ビール持って歩いてきてる」
「そ、れは……」
話の内容の全貌が明らかになって行くにつれて、いや、まさか、それは、でも、と様々な『YES』と『NO』が、頭の中で鬩ぎ合って。そしてそれは、間違いなく禁じ手じゃないのか?と最終的に理性が優って。
「いや、でも……あの人は、もう」
「アイツがダンスを見放しても、ダンスがアイツを見放さない。俺はそれを、誰よりも知ってる。だから、大丈夫だよ」
だけど、その可能性がもしも、俺の前に残されているのなら。俺はその可能性に、自分自身の人生そのものを賭けてみたい、とすら思った。だから、千明さんの、俺の背中を押してくれるその言葉に、俺は深く頷いた。そして、そのタイミングで、俺達のいるテーブルに、千明さんの新しいビールを持ってきた透さんが到着した。
「お待たせ、ちょっと混んでて、遅くなってもうた。せやから、このビール代、僕が持つな?」
公私共に人生を歩んできた親友に対しても、そうした気遣いを見せる透さんに、千明さんは、『気にしないでいーよー、あんがとね』と微笑みを浮かべた。そのやり取りが、あまりにも馴染んでいて。この二人の関係性に、俄仕込みの俺みたいな奴が、パートナーとしての特権を振り翳して口を挟むべきじゃないな、と過去の自分を反省した。
「透、あのさ、急で悪いんだけど。もし、俺と潤の二人とか、このイベント盛り上げてきた会社の人達に頭下げられたら、お前、今日、これから直ぐに踊れる?」
「え……何があったの?」
ビールを一生懸命に運んできたと思えば、藪から棒に告げられた千明さんからの突然のオファーに、透さんは戸惑いを隠し切れず、困惑の表情を浮かべた。
「遠野さん覚えてる?お前が使った音源ばっかり拘っててオタクで認知されてた。今日あの人、ここのメインステージで踊る予定だったんだけど、あの人のパートナーが産気付いて、メンタル的にもう踊れないんだって。だから、代理で踊れる人探してるんだ。あの人、ダンス以外にも体格までお前そっくりだから、衣装と小道具借りて、お前やってみたら?」
その話の内容を聞いて、思わず『……え?そうやったんですか?』という視線を千明さんに送ると、『何?お前知らなかったの?』というキョトン顔を返される。『知りませんでした』という気不味い雰囲気を俺が醸すと、『そうかぁ。まぁ、もっと勉強するんだね』という柔らかな苦笑を浮かべられた。
視線や醸し出す雰囲気だけで、こんな風に流暢に会話出来るなんて。透さんと千明さんの、凡ゆる意味でのアンタッチャブルな関係性が無ければ、この人と俺ってもしかしたら、割と相性が良かったりするのかも知れないな……なんて思いつつも、俺もその会話に再び集中していった。
「ええ……そんな、ホンマに急やね。でも、その人が出ないと、このイベントそのものが……それに、来年また、こんな風に出来なくなるよね」
「うん。そうだろ?潤」
だから、千明さんに促された俺は、その場で腹を括った。そして、その問い掛けに黙って頷き、静かに透さんに向けて頭を下げた。
「お願いします。何があっても、責任なら、俺が全て取ります。せやから、透さん。もしもそのダンサーさんが踊れない場合には、代わりに踊ってくれませんか?」
「………曲は?」
凛、と澄んだ表情を浮かべて、『YES』とも『NO』とも取れない質問をされ。俺は、いつもとはまるで別人の様な空気を纏わせた、真剣な面持ちをしているジミニヒョンに向けて、そのダンサーさんが使用する二曲の曲名を、恐る恐る口にした。
大規模コンサート会場を抱えたイベント開催地は、溢れんばかりの人々でごった返していた。地元のTV局やラジオ番組からの取材も受け、参加する飲食店のSNSの事前の告知や、市のHPや地元紙を中心とした広報活動を展開していたのが、功を奏した結果と言えた。イベント会場の出入り口付近にあるブースで購入したグラスを持っていれば、全国津々浦々の地ビール醸造所の生ビールが割引価格で提供されるとあり、同じ形のグラスを持っている参加者は、参加者全体の約七割を締めている。因みに、今回のイベントのトレードマークである刻印がなされたそのグラスを加工しているのも地元にあるガラス製品を取り扱っている工房で、此方の営業を掛けたのは、このイベントを初期の段階から立ち上げた前園先輩ではなく、この俺だった。
与えられた仕事ではなく、自分自身が動いてイベントの企画を進行していくのは骨が折れたなんてレベルの話ではないけれど。俺をずっと影から日向から支えてくれていた透さんが、こうしてイベント会場まで足を運び、そのグラスを使って、俺の目の前で美味しそうにビールを飲んでいる姿を見ているだけで、言葉には尽くせない充実感と達成感を感じていた。
「そんなにジッと見つめて、どないしたん?」
「泡ついとるよ、透さん」
「え?どこ?」
「ふふ、こっち」
そんなつもりで熱く見つめていた訳では無いのだけど。上手く誤魔化せたから、まあ良いか、と思いながら、透さんの口の端に付いた泡を指の背で拭う。すると、透さんは、恥ずかしそうに顔を微かに赤らめてから、はにかむ様にして、ありがとう、と感謝をしてきた。年上のその人が、俺に世話を焼かれるのにこうして慣れてくれたのは、俺にとっても嬉しい変化だ。だから、此方こそ、という気持ちを込めて、泡を拭った指で、するりと頬を撫でて、自分の中にある、もっとこの人に触れていたいという名残惜しさを押し込めてから、その手を離した。
俺の休憩時間の合間に、千明さんと一緒に丁度良く現れた透さんと東條さんを引き合わせて、その場にいる全員で連絡先の交換をしてからこっち、二人きりになれた時間は無かったから。いま、この時が、とても貴重な時間に思えてならなかった。千明さんはいま、ビールに合うつまみを買いに行くと言って、この場所を離れている。もしかしたら、二人きりになりたいと言う俺の気持ちを感じ取って、気を遣ってくれたのかも知れない。これまで色んな感情を千明さんに対して持ってきたけれど、こんな風に気遣いがある人を、何だかんだと気持ちの上で邪険にしてしまった自分の余裕の無さが恥ずかしくなった。
電話の時もそうだし、目の前で透さんと会話している時もそうだったけど、千明さんは、全身から人の良さや気さくさが滲み出ている様な人で、それでいて、誰からも一目置かれるだけのカリスマ性を持った人だった。話しているだけで気分が高揚する東條さんや、自然と良い塩梅で砕けた調子になる前園先輩、そして、ばっさりあっさりしているにも関わらず人の心に不快さを取り置かない和泉先生とはまた違った魅力を持つ人で。俺は、他にこんな人滅多に居ないよなぁ、とその類い稀な容姿の端麗さを含めた感想を胸の中で漏らした。それでいったら、上に列挙した人物全員にも、その話は全てにおいて当て嵌まるのだけど。
「それにしても、こないに大きなイベントやったなんて、来てみて吃驚したわ。凄い人やねぇ。そういえば、さっき見掛けたTVクルーとか、何だか全国中継してる感じやったけど、あれも潤が?」
「はい。今回だけでこのイベントを終わらせたく無かったので、これが盛況のうちに終わったら、来年もまたやるつもりでいるんです。せやから、今のうちに、しっかりと布石を用意して置きたくて」
「わぁ、ホンマに?……でも、きっとそうなるよ。これだけ盛況で、この場所にいる人達みんなが笑顔なんやもん」
「貴方にそう言われると、その気になりますね」
「うん。そうして自信持ってくれたら、僕も嬉しい」
………どうしようか。俺の恋人が、今日も世界一可愛い。何で、今この場には、俺達の他に沢山の人が居るんだ。誰も居なかったら、今直ぐに抱き締めて、キスをして……などと、このイベントの総責任者としてあるまじき考えを胸の中にひっそりと持ちながら、透さんに向けて、にこりと微笑みを浮かべた。
「潤、このまま出世街道まっしぐらなんやない?今よりもっとモテる様になってもうたら、僕、心配や……ホンマに、どないしよ」
このイベントの、俺の成功を一緒になって喜んだり、次の瞬間にはこうして目の前でする必要もない心配をしだしたり、この人は、本当に、ずっと見ていても全く飽きない。というか、ずっとずっと、この人だけを眺めて生きていきたいと、いましみじみと思った。
そもそも、実る筈がないと思って始まった恋だから、見つめ愛、偲び愛、が俺の常だった。だから、そんな生活が出来れば、俺にとってはこれ以上ない至上の幸福なのだけど。
ひと度、この人の肌に触れてしまった限り。そして、その肌に触れた者を魅了してやまない魅惑の身体に、どっぷりと頭の天辺まで依存してしまった限り。俺にはもう、そんな生活では物足りなくて堪らないだろうな、とも考えて。
そして、次第にスッと冷め切っていった頭の中で、『この人、ホンマに懲りへんな』と、呟いたんだ。
「50mg、二箱」
笑顔で人を黙らせる、という妙技を、俺はこの一年で和泉先生や前園先輩、そして東條さんと一緒に仕事をしていくなかで学び取り、仕事でもプライベートでも実践してきた。そして、それは、いつしか自分自身の武器にもなった。こうしてする必要のない心配をして、俺の神経を逆撫でするのは、非常に宜しくない。ましてや、他の誰かに俺が靡くなんていう有り得ない想像を働かせるなど、愚の骨頂だ。
少し前までなら、嫉妬したり心配したりするこの人を見ただけで、可愛くて堪らないと鼻の下を伸ばしていただろうけれど。今の俺にはただただ不機嫌になるだけの悪材料でしかなかった。何故なら、それだけ俺の愛が、そして俺自身が、信頼されていない事の裏付けになってしまうから。それに気が付いてからは、この人の軽い嫉妬や思い込みも、全て、その日の内に、自分の身体で黙らせてきた。
勿論、服薬しても身体に支障が無い、最大摂取量の媚薬を服用させられ、続け様に、休む事なく、徹底的に、快楽を与え続ける、と言う意味で。
気を失って、ただただ俺に下から揺さぶられているだけの肉人形の様になってしまった愛しい人を、自分自身の晴れの日に見る羽目になるかと、溜息を吐いてから透さんに視線を移すと、その人は俺の意図を、その視線と俺が放った一言から正確に読み取り、びく、と大きく身体を跳ねさせた。そして、そこから一気におろおろと狼狽えだすと、俺の機嫌を直す為に、必死になって言葉や態度を尽くし始めた。
「潤、ごめんなさい。僕、もう、そないな事言わへんから、それだけは堪忍して」
「50mg、二箱」
先程から口にしている50mgと言うのが、ED治療薬として俺が処方されている薬の、一回の最大服薬量だ。そして、二箱というのはそのまま、十二枚綴りのその箱が二つ、の意味である。つまり、俺は今、透さんを、それら二つを一度に消費してやるから、今晩は覚悟して置けよ、と脅し付けているのだった。
俺が行うその折檻の恐ろしさをその身を持って経験している透さんが、こうして震え上がってしまうのも、ある意味では納得のいくものだった。とはいえ、俺の心の中には、この人に対する目立った罪悪感は見当たらない。初めて身体を重ねてから、半年間が経過した今では、寧ろ、こうした話を持ち出す側の方が問題意識を持つべきだ、という考えの方が、俺の中で常識として定着していたからだ。そんな常識外れの言動を未だにもって口にして墓穴を掘る透さんを、いっそ哀れに思ってしまうのは、それでも俺が、どうあってもこの人を愛しているからなんだと思う。
「どうしたら許してくれる?僕、何でもする。せやから……」
「ほんなら、ここでキスして。ただし、ちゃんと濃いやつやないと、カウントせぇへんから」
俺は未だに、不自由な身体を抱えている。だから、薬を服用しないと、きちんと自分の身体を用意して、この人を抱く事ができない。つまり、俺の中にあるこの人の神聖化は、これだけ肌膚を交わしてきても、まだ治っていないという事だ。
どれだけ卑猥な言動を取らせても。どれだけ厭らしい服や下着を着させても。その格好のままオナニーをするこの人を見ても。ホテルで、屋外で、昼と夜の両方に掛けて求めても。俺の身体は、薬を服薬しなければ、ピクリとも反応しなかった。
もしかしたら、このままずっとこの身体を携えたまま、透さんと……そんな不安をずっと抱え込んでいる俺が、例え冗談であっても、浮気の可能性を示唆されたり、他の誰かに靡くなんて発想をされたりするだなんて、許せる筈がない。当の本人である透さんであれば、尚更。
「して。ここで」
小学校の運動会等でも良く見掛ける様な物よりかは、よりスタイリッシュな印象のある緑色のタープテントの下に、等間隔で設置された立ち飲み席のテーブルに向かい合っている俺達の周囲には、沢山の人達がいる。俺達の席の隣にいるグループは、完全に出来上がっている二十代後半くらいの男女四人組と、女子会も兼ねている三人組の若い女子学生だ。テントの前を通る人達も多く、いまこの場で俺達が突然キスをしたら、最初は酔っ払いのやる事か、と相手にされないかも知れないが、俺の指定している夜の関係性を示唆させる様な深いキスをしたとしたら、あっという間に注目の的になってしまうだろう。それが分かっている透さんは、唇を噛み締めて、首を微かに横に振り、『出来ない』を俺に伝えてきた。
「なら、50mg、二箱で決まりや。ええですね?」
その反応を、然もありなん、受け止めた俺は、しらっとした顔で、手元にある、仕事中の為アルコールを摂取出来ない自分用に用意した暖かい烏龍茶を啜った。けれど、透さんと俺の関係性を見せびらかしたい気持ちも多少はあったり、自分以外の他の誰かに透さんのキス顔を見せる事にならずに済んで、ホッとしている自分もいたりと、俺もこれでいてどう仕様も無い人間だな、と内心では思ったりしていた。
「そんなんされたら、お尻の大事なとこ、真っ赤になってまう。せやから、ふ、二箱は、堪忍して……一箱で足らん分は、お口で頑張るから」
「そんなんしたら顎いわしますよ。後で薬塗ったるし、貴方の身体と家の事は全部俺がしますから。余計な事考えんと、今は、きちんと反省して」
「………うん。ごめんなさい」
しょんぼりと肩を落とし、ホンマに自分アホやなぁ、と最後に呟いてから、透さんはグラスの中に入っているビールの淡い金色した湖面に向けて、溜息を吐いた。そんな透さんを見ているうちに、次第に俺の気持ちにも変化が訪れて。
「…… 軽いのでええから、ここでホンマにキスしてくれたら、一箱に負けても……」
いつの間にか、そんな仏心を垣間見せてしまっていた。
「……ええの?ホンマに?」
「そんかし、透さんの方からして。あと、キス顔、俺以外の誰にも見せへんで。それと……」
俺が、許す条件を指折りしながら列挙していくと、アルコールも飲んでいないのに紅潮した俺のその頬に、柔らかく温かな物が、そっと触れて離れて行った。そして、そのあまりの軽業にうっかりと虚を突かれてしまった俺の耳元に向けて、透さんは、ふわりと優しく囁いた。
「潤、だいすき」
過去から学んでいないのは、一体本当はどちらなのか。俺は、一体何度こんな事を繰り返しているのか。貴方は、一体何度俺を恋に落としたら気が済むのか。様々な疑問が、頭の中にパッと散らばって。それを必死になって拾い上げながら、俺は、そのまま、テーブルの上に片肘を突いて、顔を真っ赤にしながら、思わずにやけてしまった自分の口元を手の平で覆った。
因みに、この脅し文句である二箱については、惚れた弱みなのか何なのか、いつもこんな調子で俺が仏心を出してしまうので、未だに実行された試しは無い。
……いや、でもやっぱり、今回のこれは、どう考えても可笑しい。まぁ、今回に限った話やなくて、いつもの事なんやけど。それにしても、完全に手の平に乗っ取るの俺の方やないか。なのに、いつも、何やかんやでこの人が大反省してるの見とるうちに、段々と罪悪感とはまた違う……そう、道端のダンボールの中におる仔猫が、にゃぁん、て甘えた声出して潤んだ眼で見上げてくるの見て、胸がウッてる、感覚……になって、結局拾い上げて帰ってしまう的な。だとしたら、俺いま何匹猫飼っとるんやろ。大所帯過ぎるて。だけど全部透にゃんこやから、問題ないです。猫よりは犬派ですけど関係ありません、全部飼います。
口元を押さえながら俺がノックアウトされ、透さんが上機嫌でビールを飲んでいると、そこにつまみを買ってきた千明さんが合流してきた。どうやって買ってきたのか、レストランの給仕担当の方の様に、両手に器用にいくつもの紙皿を持っている。因みに、この紙皿は、この地元にある食品パッケージ会社にお願いして作られた、完全イベント仕様の紙皿で、これにもイベントのトレードマークが刻印されていた。
「おーっす、なんか色んなの売ってたから、迷っちゃって。あ、潤が言ってたトリッパ煮込みって、これであってる?」
「……はい。そうです。ありがとうございます」
「何、どうしたの?何か凄いダメージ受けてない?……まぁ、いいや。取り敢えず飲もー」
顔を真っ赤にして口元を抑え、項垂れている俺と、上機嫌な様子の透さんを交互に見て、其処から状況を全て悟った様子を垣間見せた千明さんは、説明を求めて置きながら、一方的に会話を中断して、テーブルの上に熱々の料理が乗った紙皿を置いていった。出会ってからあっという間に人の名前を呼び捨てにしてしまえるコミュニケーション能力の高さと、その場の空気を読む巧みさには、はっきり言って舌を巻いている。
「どこの屋台もみんな混んでたけど、この店が一番ヤバかった。ビール醸造所とかも、道に沿って置かれた幟が凄くて、なんつーの、壮観?だから、それ見てるだけで楽しかったよ。全体的に活気もあって、良い感じじゃん、お前やるなぁ」
衒いなく褒められると、このイベントを盛り上げる為に必死で仕事に従事してきたこの半年間が報われる。裏表がない性格の千明さんだから胸に響くんだろうなとは思うけど。透さんから褒められた時とは、また違う喜びがあった。漫画やアニメとかで見てきたけど、ずっと目の敵にしてきた好敵手に認められた主人公とかキャラクターって、こんな感覚なのかも知れない。現実にあるんだな、こういうの。
「いえ……ありがとうございます。買い出しも、任せてしまって、すみませんでした」
「良いって、楽しんでただけだし。それに、もうこんな風に独り身っぽい感じで行動出来なくなるから、息抜きに丁度よかった。ありがとな、二人して誘ってくれて」
にっかり、と快活に笑いながら俺達に感謝を述べた千明さんは、俺もビール買ってこよ、と言って、再びその場を出て行きそうになった。すると、それでは気持ちが悪いし、お前の好みは知ってるから、ちょっとそれ食べながら大人しくしていて、と透さんが言い出し、それを許諾した千明さんは、いってらー、と透さんに向けて手を振った。つまり、俺と千明さんがその場に取り残されてしまったのだ。
内心では好敵手扱いしていたけど、この状況は想定外だったので。殆ど面識がない千明さんと、どんな話をしたら良いのか分からず。もとより人見知りのきらいがある俺は、話の中心を担うポジションの透さんがいなくなって、すっかり弱ってしまった。けれど、そんな俺に向けて、千明さんは『本当は見てたんだよね、俺』と、何の脈絡も無く、俺に話し掛けてきた。
「さっきの透とのキス。俺以外には気が付かれて無かったみたいだけど」
別に見られたからと言って、俺の中に特別な感情の揺れ動きは無い。ただ単に、『ああ、見られてたんだ』と、事実を受け止める以外には、目立った感想は胸に浮かばなかった。だから、そうですか、と無感情のままに返そうとしたのだけど、次に投げかけられた千明さんの言葉には、あの人のパートナーとして……あの人の男として、どうあっても引っ掛かる物があった。
「アイツ、恋人の前ではあんな顔するんだな。俺にはずっとあんな顔見せてくれなかったから、何だか不思議だよ」
目の前でトリッパ煮込みを食べて、これ美味いね、と呟く千明さんの表情は、平穏そのものだった。しかし、その口から紡ぎ出された言葉には、含みを持たせる様な響きがあって。こうした、またと無い機会を利用する為にも、俺は、千明さんの背後に静かに忍び寄る様な気持ちで、にっこりと人の良い笑みを浮かべた。
「二人って、ホンマに仲ええですよね。そう言えば、高校の同級生なんでしたっけ?」
「うん。そっからずっと、何だかんだね。アイツのマネージャーしてた時期もあるから、仕事でも一緒だったし。なんて言うんだっけ、こういうの……公私共に、パートナーってやつ?」
あの人の恋人の俺を前にして、言うに事欠いて、公私共にパートナーだと?喧嘩売ってんのか、この人。全然買いますけど。なんなら自分から買いに行きますけど。それにしても、マネージャーって何?透さんからも、一度だって聞いた事ありませんが?まだ、こんな隠し球あったんだ、へぇ……あの人、ホンマに今晩は覚悟しとけよ。
「マネージャーって、どれくらいの期間されてたんですか?」
「アイツが二十歳の時から引退する迄の、二年間。俺、アイツのマネージャーする為に、専門学校行ってたんだよね。だから、卒業して直ぐに、アイツのマネジメントし始めたんだ」
「へぇ……」
親友の域、超えとる超えとる。こんなん、さっき言った公私共にパートナーとか、全然冗談に聞こえへんやないか。前から分かってたけど、この人、本気で、あの人にこれ以上近付けたらアカン人や。
てか、考えれば考える程、完全にアウトやろ。どう考えても、透さんの事ずっと狙っとるやんか。こざっぱりした人やと思うてたら、こんなヤバい本性隠し持ってたんかい……無理。ホンマに無理。この人が、ずっと親友として透さんの隣に居るとか、この先もずっと付き合ってかんと駄目とか、俺が無理。
遅いかもしれへんけど、これ牽制しとかなアカンよな。一応そこは恋人として、きっちりさせとかんと、今後の関係性にも支障が出てくるし。結婚したからなんやねん。やっぱり、俺が考えてた通り、男の友情なら一生続けてけると思うて、動かれへんだけやったんやないの?だとしたら、この人、滅茶苦茶ヤバい人やん。
目障り所の騒ぎやない。はっきり言って、二人の友情そのものにアレルギー起こすわ。何でもええから、俺の透さんの周り、これ以上彷徨かんといて。
「そうやったんですね。でも、これからはお互いに本当のパートナーもいる事ですし、なかなか会える機会も減るでしょうね。寂しいけど、そういうもんやないですか、男が家庭を持つって。ただ、透さんの事は安心して下さい。これからは俺が、千明さんに代わって、きっちりマネジメントしますから」
人の良さを全面に押し出した、しかし見る者にプレッシャーを与える圧迫感のある笑みを浮かべて。背後に『せやからお前は用済みなんや空気読んで早よ去ね』を配置する。すると、千明さんは、テーブルの上にあった料理のうちのチーズ入り棒餃子を一口齧り付いて咀嚼してから、当然の様に透さんの飲み残したビールを飲んで、平然とこんな事を口にした。
「アイツがいま契約してる相手、俺が担当してるミュージカル中心で活動してる俳優なんだよね。だから、きっとこれからも関わりはあると思うよ」
…………これ、どうにか、闇に葬れへんかな。いや、危ない手を使いたいとか、透さんの手前、そんな気持ちにはなれへんのやけど。ホンマに、どうしたらいいのか分からへん。また前みたいに職場変えさすのは、あの人の今後の仕事にも差し障りがあるし。それに、前とは違って、雇用主との関係性の問題ではないし。
今回の件は、あの人に相談しようにも、きっと頷いてはくれないだろう。はっきり言って打つ手が見当たらない。だから、いつまでもこんな風に、本音と建前を使い分けたりしていたら、埒があかないと踏んで、俺は自分の顔に貼り付けていた人の良い笑みを、スッと鎮めた。
「ちゃんと口に出して言わんと分からへん?あの人に、もう近付くな言うてんねん。親友だか元マネージャーだか知らんけど、はっきり言って目障りなんや。せやから、これ以上俺のオンナの周りうろちょろせんと、さっさと身重の自分の女のとこに去ねや」
建前を蹴散らし、胸にあった本音をそのまま打つけると、千明さんは、再び食べかけの棒餃子を口にしてから咀嚼して、そしてまた透さんの飲み残したビールを……
「ッチ……ホンマにさっきから……いい加減、それ止めぇ」
「え?何が?」
「透さんのビール普通に飲むなや。何を自分のもんみたいに勝手にしとんねん」
「だって、飲まないと無くならないじゃん。それにこういうのって、美味しいうちに飲んどかないと、勿体無いでしょ」
「はい、当たり前ですね。で、だから何?そんなん聞いてへんから」
「そうなの?じゃあ、お前は、俺に何が聞きたいの?」
そんなもの、一個しかない。本当はビールの事なんどうでも良いんだから。いや、どうでも良く無いは言い過ぎた。言い過ぎたけれど、本当に聞きたいのは、ハッキリしておきたいのは、そこじゃないから。
「透さんの事、いつになったら諦めてくれます?目の前に、二人が一緒に居るだけで、むっちゃしんどいねん……せやから、そこだけ教えてくれへん?なぁ、俺、いつまで千明さんの事、我慢したらええの?」
我慢の限界が、自分自身に訪れたら、俺は一体どんな行動に移すつもりでいるんだろう。そもそも、期間を指定されたとしても、そこまで本当に、自分を抑えつけられるんだろうか。様々な、自分自身への疑念や疑問は尽きなかったけれど。何とか、この現状に、自分の中でも、この人自身にも落とし所を作っておきたくて、そう口にした。すると、千明さんは、暫く無言で俺の顔を眺めてから、透さんの飲み残しのグラスに入ったビールの湖面に、静かに視線を移した。
「お前が何を心配してるのかは、分かるよ。でも俺は、透に対して、恋愛感情を持った事はない。アイツの恋人役になろうと頑張った時はあったけど、それもアイツの表現者としての幅を持たせたかったっていう目的があっての事だから。今は、そんな風には思ってないから、安心して」
遂に、尻尾を出したかと思えば、訳の分からない事を話し始めた千明さんに、は?と短く切り返す。何をどう切り取れば、それが安心材料になるのかが、まるで分からない。あの人を狙っていた事実は変わらないのに、何を偉そうに、自分の下半身事情にあの人を巻き込んでいるんだ、この人は。
「言う事に欠いて、何言うとんの。表現者としての幅?はぁ?自分が狙ってたんは変わりないやんけ。どこに安心できる要素があるんか、全然分からへんのやけど」
「そう言われても。アイツには、もうお前がいるでしょ?だから、俺が態々恋人役やらなくても問題ないじゃん」
「問題ないって……なんやねんそれ」
言われている事の意味が、分かる様でいて、分からない。何なんだ、この人。頭がどうかしてるんじゃないか?ダンサーの、表現者の、透さんの表現の幅を広げる為だけに、自分が恋人になろうとした?そんな献身、はっきり言って普通じゃない。出鱈目だし、荒唐無稽だ。
話に聞いた事はあっても、TVやドラマや小説で描かれるフィクションか、それこそ、世界を股に掛けて活躍した偉人や、世界的アーティストといった、選ばれ者が奏でる世界観、そのものの話で。あまりに現実離れした内容に、俺は言葉を失うしかなかった。
俺の知る透さんは……世界的ダンサーである、本郷 透という人物は、その選ばれし者の一人だったのかと、改めて思い知って。透さんに対して、あの人の持つ才能について、本当の認識を持って接して来なかった事実に、愕然とした。
「透みたいな表現者にとって、恋愛って凄く重要なんだよね。だけど、そこの価値観が、アイツってあんまり淡白でさ。俺はそれを手助けしたかったんだけど、難しくて。恋って良いものだよ、だから怖がらなくていいんだよって、周囲に居た誰しもが伝えたいと感じていたけど、アイツは結局、誰の手も取らなかった。でも、アイツは、それも含めて、自分自身の限界だと言って、舞台から去ってしまったんだ」
千明さんの言っている事は、感情的に見てしまうと、とてもじゃないが許容出来ない話だった。けれど、透さんを陰ながら支え続けてきた糟糠の妻の様な立場にあった人が、世界的なアーティストの表現の幅を広げる為に、自分自身が恋人に近い存在になって、恋愛する楽しみを、人を愛する気持ちの豊かさを伝えようとしていた覚悟は、並々ならぬものだと思ってしまった。
単なる下心一つで、出来る次元の話じゃない。本当の意味で、アーティストである透さんを支えようと考えなければ、到達出来ない心理。森住 千明という人物は、そうした究極の献身愛を、余す所なく体現していた。
「今なら、透は最高のダンスが踊れるんじゃないかな。現役の時に俺がそこまで持っていってやりたかったけど……まぁ、そればっかりは、仕方ないよな」
最後に、そうしみじみと呟いた千明さんは、俺のおすすめしたイタリアンバルのトリッパ煮込みに再び箸を伸ばし、一口放り込んで咀嚼すると、透さんが飲み残していたビールではなく、俺の手元にある烏龍茶を『一口貰っていい?』と断りを入れてから、一口飲んだ。こうして行動する事で、透さんのビールを勝手に飲んでいた事実を軽く受け止める様にと気遣ったのかも知れないが、そんな気遣いを向けてくれても、俺にとっては今更だった。でも、この人が生来から滲ませている優しさや配慮といったものは感じ取れたから。ささくれ立っていた俺の心の表面のざらつきは、次第に和んでいった。
「……透さんに恋愛感情を持ってないって、ホンマですか」
とは言え、話は済んだ、みたいな雰囲気を出しても、そこだけに関しては逃せない。肝心のその部分にきちんとした話の決着を見せない限り、俺はこの人を、再び透さんの隣に置ける心境にはなれなかった。先程の話を総合的に考えてみれば、千明さんが透さんをどれだけ大切に想っているのかは分かったけれど。そこに恋愛感情が全く存在しない、という部分だけは納得がいかなかった。
「うん。アイツはずっと親友だよ。今も昔も、変わらずに。強いて言えば、俺はきっと、アイツの才能に惚れていたんだ。この才能を世に出す為なら、自分はどうなってもいいって思えるくらいにはね」
自分自身、どんな返事が返ってくれば納得出来るのか、分からずにいた。けれど、千明さんの『才能に惚れた』という表現を受けて、漸く、ほんの少しだけ、自分自身の嫉妬や焦燥を抑えて、二人の関係性を認められた様な気持ちになれたんだ。そして、本当に実在する人物達によって、こんなにも尊い関係性が築き上げられてきた事実に、脱帽した。
「なら、透さんが、ダンサーを引退した時は、ショックやったんや無かったですか?」
「そうだね。でも、不思議と引き止めようとは思わなかったなぁ」
「それは、どうして?」
「うーん。無理矢理踊らせるのも、違うじゃん?本人が辞めたがってるなら、それが潮時なんだよ、きっと」
そう語る千明さんの眼差しや表情には、何の後悔も、感情の淀みも無く。自分のやるべき事は全てやってきたという男の自負を、其処に感じた。だから、そんな千明さんを見ているうちに、透さんはまだ、人知れずダンスを続けているという事実を伝えるべきか、伝えずにいるべきかという難題が胸に重くのし掛かってきたけれど。結局、俺は何も言葉としては生み出せず。自分の唇をキュッと噛み締めて、千明さんの満たされた表情から、視線を外した。
すると、それから一拍置いたタイミングで、俺のスマホに、着信が入った。一体誰だ?と思って番号を確認すると、現場スタッフの俺直属の後輩からの着信だと分かり、俺は、急な胸騒ぎを覚えた。まだ休憩時間は残っている筈だが、と思いつつ、千明さんにチラッと視線を移すと、どーぞ、という顔をされる。それに頭を下げて断りを入れてから、通話ボタンをタップして、その電話に出た。
慌てた様子の後輩は、深刻な声のトーンで一言、休憩中に失礼します、とワンクッションを置いてから、直ぐに本題へと移った。電話してきた理由と、その詳細を俺に語り始めた後輩の話を聞きながら、やっぱり嫌な予感とは当たるものなんだな、と溜息を吐きたくなる気持ちを必死で押し隠して、適度に相槌を返して話を促しながら、その通話を続けていった。
後輩の話を簡単に纏める。大ホール会場にてメインを担当していたのは、地方遠征を生業としているプロのコンテンポラリーダンサーさんだった。しかし、その妻であるパートナーが妊娠しており、本番当日の今日になって突然産気づいてしまったのだという。出産予定日よりもまだ充分余裕があったので、ダンサーさんはイベントのメインを引き受けていたのだが、早産になり、これから緊急分娩になるとの連絡を受けると、突然周囲に対して『自分はもう踊れる心境にはない。ただ、今帰ってもどうにかなる訳でもないから、新幹線の予約時間まで一人にしてくれ』と言って、控え室に引き篭もってしまったのだそうだ。
プロとしてあるまじき行為ではあるが、妻であるパートナーの年齢が高齢出産の限界に近く、母子ともに命の危険が伴う出産になるという話もあり、そこで同情心を掻き立てられてしまった関係性達も、どうしたらいいか分からなくて困窮しているという。そこで、このイベントの責任者である俺にも、現場に来て声を掛けてくれないか、という打診があったのだ。だから、俺はそれに向けて了承を伝えると、その通話を終わらせて、タープテントの天井を軽く仰ぎ見てから、自分自身の頭や心を冷静にさせる様に、ふー、と細い息を吐いた。
「………すみません、千明さん。俺これから行かなくちゃ行けない所があって。なので、透さんには、その事を伝えて貰ってもええですか?」
アクシデントとは、いつだって突然引き起こる。だから、頭を真っ白にして、いつまでもボーッとしている場合ではない。責任者とは、その時に起きた事故やアクシデントの後始末を付ける為に其処にいる様なものだ。だから、こんな時に采配を振るったり、万が一イベントが失敗に終わった際に、誰が責任を取るのか、という時の槍玉に上がっても、その事実を重く受け止めて行動しなければならない。だから、こんな時の為に用意されている、自分の本当の仕事をしに行く為に、俺はこの場を直ぐに離れなければならなかった。
「ごめん。話聞こえたんだけどさ。そのドタキャンかまそうとしてるコンテンポラリーダンサーって、このイベントのポスターにもあった遠野って名前の人だよな」
しかし、そんな俺に向けて、千明さんは、それを制止させる様にして、声を掛けてきた。俺がそれに困惑の色を見せながら頷くと、千明さんは思わず、といった具合に苦笑した。
「あの人、昔っからムラっ気あってさ。良いダンス踊るのに、やたらと繊細で。結婚してからは落ち着いたけど、若い頃はもっと大変だったよ。てか、まだそんな感じなんだなぁ……あの人、一度貝になったらもう無理だよ。だから、説得して舞台に上げようとするより、他の手を考えた方が良いと思う」
スラスラと、そのダンサーさんについての情報を教えてくれる千明さんを見ているうちに、そうか、この人これでいて、ダンス業界に詳しいどころか、まんまその畑にいて土を耕してる人だ、とはたりと思い出した。しかし、その与えてくれた情報は、俺の様な主催者側の人間からして見たら暗い情報でしかなく。経歴だけ見て採用してしまった自分自身を叱咤し、激しく後悔した。次にこんな機会があれば、あんな事がしたい、こんな風にしたい、と未来の話考えばかり考えながら最終日を迎えたけれど、肝心の足元がこんなでは、そんな未来すらも訪れない可能性が高いな、と自嘲した。
「けど、他の手と言われても、一体何をどうしたら……」
千明さんと一緒に、腕を組んでその場で一緒に考え込む。しかし、どれだけ考えても、閉じた貝になってしまったダンサーさんの埋め合わせ方法が見当たらない。他のダンス教室の講師に掛け合って、もう一曲踊ってくれないか、と打診する手もあったが、それでは、今後のイベント運営に差し障りがあるし、こうした時の為の他の手を残して置かなかった事により、あのイベント会社は当てにならないと業界内で噂されてしまったら、会社の経営自体にまで影響が及んでしまうかもしれない。そうなれば、噂が一人歩きをし始め、もう取り返しが付かなくなってしまうだろう。だからこそ、予定を繰り上げ、終了時間を早めてから終わらせる。それくらいしか妙案らしい妙案は、頭に浮かばなかった。
イベントは失敗。しかも、禍根を残した上で。そうなれば、俺はもう、あの会社にはいられなくなる。俺の首だけで済めば良いが、このイベントの発案者は、俺に一から仕事を教えてくれた前園先輩だ。だから、今諦めたらあの人の顔にまで泥を塗ってしまう。それが悔しくて堪らなくて。俺は拳を握り締めて、くそ、と小さく悪態を吐いた。
「なぁ。お前にとっても、あのダンサーにとっても、この場にいる全員にとっても、救世主になれる人なら、俺知ってるよ」
俯いていた俺に、千明さんは、俺の予想だにしない提案を持ち掛けてきた。俺は一体何を言われているのか分からないという表情を浮かべて、まじまじと千明さんの顔を見つめた。
「しかも、その救世主は、この会場にいる。俺達のいる場所に、まさに今、えっちらおっちら、ビール持って歩いてきてる」
「そ、れは……」
話の内容の全貌が明らかになって行くにつれて、いや、まさか、それは、でも、と様々な『YES』と『NO』が、頭の中で鬩ぎ合って。そしてそれは、間違いなく禁じ手じゃないのか?と最終的に理性が優って。
「いや、でも……あの人は、もう」
「アイツがダンスを見放しても、ダンスがアイツを見放さない。俺はそれを、誰よりも知ってる。だから、大丈夫だよ」
だけど、その可能性がもしも、俺の前に残されているのなら。俺はその可能性に、自分自身の人生そのものを賭けてみたい、とすら思った。だから、千明さんの、俺の背中を押してくれるその言葉に、俺は深く頷いた。そして、そのタイミングで、俺達のいるテーブルに、千明さんの新しいビールを持ってきた透さんが到着した。
「お待たせ、ちょっと混んでて、遅くなってもうた。せやから、このビール代、僕が持つな?」
公私共に人生を歩んできた親友に対しても、そうした気遣いを見せる透さんに、千明さんは、『気にしないでいーよー、あんがとね』と微笑みを浮かべた。そのやり取りが、あまりにも馴染んでいて。この二人の関係性に、俄仕込みの俺みたいな奴が、パートナーとしての特権を振り翳して口を挟むべきじゃないな、と過去の自分を反省した。
「透、あのさ、急で悪いんだけど。もし、俺と潤の二人とか、このイベント盛り上げてきた会社の人達に頭下げられたら、お前、今日、これから直ぐに踊れる?」
「え……何があったの?」
ビールを一生懸命に運んできたと思えば、藪から棒に告げられた千明さんからの突然のオファーに、透さんは戸惑いを隠し切れず、困惑の表情を浮かべた。
「遠野さん覚えてる?お前が使った音源ばっかり拘っててオタクで認知されてた。今日あの人、ここのメインステージで踊る予定だったんだけど、あの人のパートナーが産気付いて、メンタル的にもう踊れないんだって。だから、代理で踊れる人探してるんだ。あの人、ダンス以外にも体格までお前そっくりだから、衣装と小道具借りて、お前やってみたら?」
その話の内容を聞いて、思わず『……え?そうやったんですか?』という視線を千明さんに送ると、『何?お前知らなかったの?』というキョトン顔を返される。『知りませんでした』という気不味い雰囲気を俺が醸すと、『そうかぁ。まぁ、もっと勉強するんだね』という柔らかな苦笑を浮かべられた。
視線や醸し出す雰囲気だけで、こんな風に流暢に会話出来るなんて。透さんと千明さんの、凡ゆる意味でのアンタッチャブルな関係性が無ければ、この人と俺ってもしかしたら、割と相性が良かったりするのかも知れないな……なんて思いつつも、俺もその会話に再び集中していった。
「ええ……そんな、ホンマに急やね。でも、その人が出ないと、このイベントそのものが……それに、来年また、こんな風に出来なくなるよね」
「うん。そうだろ?潤」
だから、千明さんに促された俺は、その場で腹を括った。そして、その問い掛けに黙って頷き、静かに透さんに向けて頭を下げた。
「お願いします。何があっても、責任なら、俺が全て取ります。せやから、透さん。もしもそのダンサーさんが踊れない場合には、代わりに踊ってくれませんか?」
「………曲は?」
凛、と澄んだ表情を浮かべて、『YES』とも『NO』とも取れない質問をされ。俺は、いつもとはまるで別人の様な空気を纏わせた、真剣な面持ちをしているジミニヒョンに向けて、そのダンサーさんが使用する二曲の曲名を、恐る恐る口にした。
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