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第三章『すれ違い』
第四話『名探偵、東條 望』
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アーティストのツアーライブや、本格的なオーケストラのコンサートを行える大ホールを抱えた大規模イベント会場を二日間に掛けて貸し切り。クラフトビール専門店であるこの店を中心として、クラフトビール……つまり地ビールを作っている全国の醸造所や、ビールに合うつまみを提供するイベント会場周辺の飲食店などを大々的に盛り込んで。大ホールではプロ・アマ、ジャンル問わずのダンスや演奏の発表会までもを行うイベントの企画を、この店のオーナーである東條さんと共に手元の資料を確認しながら進めていく。
すると、大方の企画のプロットを確認し終えた段階で、仕事モードはこれまで、と言った具合に、前園先輩と東條さんは、古くからの親しい友人同士のそれの様に、がらりと態度を変え。そして、敬語や丁寧語を取り払い、俺の目の前で気さくに話をし始めた。
それはまるで、親友同士の二人が、互いの近況を報告しあっている様子にしか見えなくて。一体二人はどんな関係性なのかと思い、俺が半ば置物状態になっていると、前園先輩が突然、俺に向けて話の水を向けて来た。
「そうそう、望、紹介しとくよ。さっきも名刺は交換したから分かってると思うけど、こいつが例の……」
「ああ、そうだと思っていたよ。やぁ、丞さん……和泉先生から話があったかな?あそこのクリニックの入っているビルの一階にある調剤薬局は、俺が経営を担当していると言ったら、俺の正体にも気が付いてくれるだろうか」
「え……ええ?!」
待って、色々待って。情報量が多過ぎてついていけない。あのクリニックの入っているビルの一階にある調剤薬局といったら、日頃から大変お世話になっている場所でもあるけれど、今はそんな話をしている場合じゃなくて。つまり、話を総合的に判断するに、目の前にいる男性、東條さんは、あの何とも食えない性格をしている和泉先生の恋人であり、同棲を10年続けている人物という事になる訳で。
「じゃあ、もしかして、前園先輩は、東條さんと親交があったから、あのクリニックを?」
「お、悟るのが早い。いーぞいーぞ、その通り。こいつ、大学の同期でさ。初めて出会った時から、丞さんにぞっこんで。色々と話を聞いてるうちに会ってみたくなって、丞さんとは、それからの付き合いなんだ。だけど、二人ともマジで稼ぐ様になったからね。だから、今じゃ色々と差が付いちゃったけど、その代わりにこうして仕事の話も持ち込めるからさ。腐れ縁も縁は縁だよなぁ、ってしみじみ思ってるとこ」
「わぁ……なら、もしかして。それでこの店にずっと通ってたんですか?」
「あはは、まぁねー」
うわぁ、前園先輩にまたしても、してやられた。この人、本当に、いつだって油断も隙も無いな。日頃の行動が、仕事の何にどう繋がっているのか分からない。そして、それに知らぬ間に巻き込まれている俺、という図式。こんな経験、先輩に着いて回って仕事を覚えていた間に、何度してきただろう。ていうか、待てよ。だとしたら、もう一軒馴染みにしていた、あのイタリアンバルも?
「そんなら、他にも良く行ってたトリッパ煮込みが美味い店って、もしかして……」
「うん。今回のイベントの出店部門で採用に回してるよ。ただ、まだアポ取っただけだから、これから口説きに行くんだけどね。でも多分落ちるの早いと思うな。ましてや、主催者の筆頭が、他のベンチャー企業でも群を抜いてるうちのイベント企画会社に、望のやってるこの店だし。確か、あそこの店の次男坊、お前のグループ経営してる母体の、健康食品輸入会社の方で採用してたよな?」
「ああ。この店で学生時代にアルバイトをしていてね。その時に知った人柄や仕事への責任感を気に入っていたから、言葉は悪いが、殆ど顔採用だ。今は、本社の経理部に所属しているよ」
「あー、ならいけるな。多分必要無いとは思うけど、お前の名前出してもいい?」
「勿論。それにあの店の店主は、この一体の地域の顔役だからな。彼処が受ければ、他も続くさ」
結論。女も怖いけど、やっぱり男も怖い。俺は、逆立ちしたってこの人達の様にはなれないと思うなぁ……と、思わず遠い目をしてしまった。そんな二人の雲上人の様な会話を、一応これも仕事の内だからして、真剣に話を聞いていると、東條さんは、前園先輩の隣で再び置物状態になっていた俺に向けて、穏やかに微笑みを浮かべた。
「俊明から、君にクリニックを紹介してもいいかと、俺を介して相談を受けてね。そこで、君の症状についても、ほんの触りだけ聞かせて貰ったんだ。実は、昔の俺も、君と同じくらいの歳に、同じ症状に悩まされてね。デリケートな話なのに申し訳ないなと思いながらも、勝手に親近感を抱いていたんだ。だから、こうして会ってみたいと話を俊明に持ち掛けたのは、俺からなんだよ」
「え……俺と、同じ?」
遣り手実業家としていくつもの会社を経営し、威風堂々とした風格を漂わせている東條さんが、俺と同じ症状に苦しんだ経験があるなんて、俄かには信じ難い。だから、それ以上の発言には結び付かず、出来れば空気で俺の気持ちを悟って欲しい、という眼差しを東條さんに向けた。すると、東條さんは、俺の複雑な感情を表情から正確に読み取り、自分の顎の下で手を組み、見る者全ての警戒心や懐疑心を和ませる様な柔和な表情を浮かべた。
「俺達が経験してきた病気は、ストレス社会がこれ程まで取り立たされる様になっても、精神的、肉体的な要因を抱えた若い世代の男性が持つ問題として認知されるには、まだまだ程遠い。だから、そんな問題を抱えている人間が声を上げにくい環境は、どうしてもある。けれど、同じ問題を抱えていた者同士が、こうしてコミニュケーションを交わすだけでも、少しは気持ちが楽になるんじゃないかと思ってね……すまない、余計なお節介だったかな?」
「お節介だなんて、そんな……俺、クリニックに通っている時も、若い男性は見掛けた事が無かったので。こうして俺と殆ど同世代の方のお話が聞けただけでも、有難いです」
「そうか。なら、少し安心したよ。自分が症状に苦しんでいる時は、周りにそんな問題を抱えている若い世代の人間はいなかったからね。もしも、他では話せない話があるのなら、俺で良ければ話を聞くよ」
自分と同じ症状を経験した同世代の人間に出会えた事で、俺は、緊張や微かな興奮を胸に抱いていた。そんな俺に向けて安堵の表情を見せ、気持ちを宥めてくれる東條さんは、ゆっくりと俺の話を聞く体勢を整えてくれた。
前園先輩は、東條さんが俺に対してそうした気遣いを見せてくれたのを確認するだに、テーブルの上に広げていた自分用のイベントの企画資料を手持ちのフォルダーに収納して、自分のビジネスバックにそれを入れてから、俺の肩をぽん、と叩いて、無言でその場を去って行った。
そんな気遣いに溢れた前園先輩の背中を見送った俺は、これでは、イベントの企画が先だったのか、俺の病状を慮った上で、東條さんと自然なままに引き合わせてくれたのか、全く分からないじゃないか、と思った。本当に、どこまで計算しているのか、まるで見当がつかない。だから、いつまでも、あの人の背中には追い付けそうもないなと苦笑してから、先輩の消えた扉の向こうに向けて、頭を下げた。
「……良い先輩を持ったね」
扉の先に向けて下げていた頭を上げて、再び東條さんに向き直ると、東條さんは、自らの親友でもあるビジネスパートナーを何の衒いもなく褒め、それでいて何処か誇らしそうにしていた。
「はい。あの人には敵いません。いつもお世話になりっぱなしで……せやから、どうやって恩を返したら良いのか、全然分からないんです」
前園先輩がいなかったら、俺は今頃、どんな人間になっていただろう。きっと、大切に想う物や人が目の前に現れても、その大切にする方法が分からず、精神的に途方に暮れていたに違いない。だから、俺の生き方や人生そのものに、確かな影響を与えてくれた先輩には、何度頭を下げても足りないと思えた。
「アイツは、全く見る目が無い人間に、あそこまで傾倒する人間じゃない。そして、それだけ目を掛けられてきた後輩が、仕事を教えてくれた先輩に対して恩義を感じたなら、その恩に報いる方法は、たった一つしかない。そうは思わないか?」
「……はい」
東條さんに促される形で、俺はその答えに行き着いた。確かにあの人なら、小手先程度の恩返しも、恐らくは喜んではくれるだろうけれど。きっと、前園先輩が俺に本当に望んでいる物は、そんなものではないんだ。
あの人の気遣いや優しさに報いるには、あの人から学んだ物を吸収して、自分の仕事に生かすしかない。そして、それがきっと、前園先輩に対する一番の恩返しになるのだから。
「このイベントの企画は、これから先、俊明の手を離れて、君に委任する形で話が進む事になっている。アイツは、それだけ君に期待をしているんだ。君ならこの仕事を、無事に成功させる事が出来るとね。そして、アイツがそこまでして見込んだ人間となら、俺も安心して一緒に仕事が出来る。これからも、宜しく頼むよ、八城君」
これまでの人生で、俺は、少し興味が湧いた物に手を出すと、それ一辺倒でやってきた人間達の努力は何だったのか、というくらいにまでその道を迷わずに進めてきた。だから、それをきっかけにして、下らない万能感に浸る事も度々あった。それでも、その道を歩む本当の才能に恵まれた人間の足元には、到底及ばず。そして、その現実に打ちのめされた瞬間、全ての努力や情熱を手離してしまった。
絵も、歌も、運動も。透さんには、まだ話した事は無いけれど……ダンスも。だからそんな、表面上は飽き性で、その実、内心では悔しくて惨めで堪らない思いを抱えていた俺は、誰の目も及ばない、誰の興味も持たずにいられる環境に、自らを落とし込んだんだ。才能の壁を前にして、二度とあんな風に、絶望感や劣等感を味合わない為に。
だから、不思議な気持ちだった。人は、誰かに見守られ、誰かに期待されると、こんな風に、全身に力が漲ったり、気分が高揚したり、身体がじんじんと熱くなったりするものなのか、と。
「……ッ、はい!精一杯努めますので、どうぞ宜しくお願いします!!」
他の誰かから、期待を掛けて貰った経験が無かった。だから反対に、誰かに期待をするのも辞めてしまった。けれど、他人に対する期待を手放してしまった方が生きやすかったし、何だか悟りを開いている様に思えて、勝手に大人になれた様な気持ちになれた。自分以外の人に期待をするなんて、それこそ期待を裏切られた時に、手酷いしっぺ返しを受けてしまう。だったら、始めから他人に期待なんてしない方がマシだと。でも、それは半分正解で、半分間違っていたのかもしれない。
何故ならば、この今の俺の様に、人からの期待を一身に受けて、自分自身の自信へと変換していく人間も、間違いなく存在するからだ。
「うん。一緒に、このイベントを成功させよう。今回が盛況のうちに終われば、次にも繋がる。もしかしたら、君にとっては出世の足掛かりになるかもしれないな」
「はは……そんな。ただ、今は、目の前にある先輩の託してくれた仕事を、無事に成功させる事を考えてやっていきたいです。ですから、どんな些細な問題も、俺に相談して下さいね」
「ああ、そうさせて貰うよ」
目の前に、スッと、大きな手が差し出される。それを、一瞬だけキョトンと目を丸くして眺めてしまったけれど。握手を求められているのだと気付くと、俺は慌てて自分の手を差し出して頭を下げた。しっかりと握り締められた手からは、じん、と東條さんの熱い体温が伝わってきて。これから俺の人生を左右する仕事が始まるのだと、ぶるっ、と全身が武者振るいした。
握手を終えると、計ったかの様なタイミングで、ここまで俺達を案内してくれた女性店員さんが現れ、二人分の温かい珈琲を用意してから、その場を後にした。そして、その珈琲を飲みながら、東條さんと俺は、イベントの企画資料を広げてそれに目を通しながら、自らのアイデアを出し合っていった。
とは言え、何事も事前準備や下調べが大事というべきか。俺が営業を掛けて、一から立ち上げたプロジェクトでは無かったというのもあり、現段階に置いて、俺に出来る事は限られていた。後は、前園先輩が次にアポを取っているという行きつけのイタリアンバルを此方に招き入れたら、トントン拍子に話が前に進みそうだ。
大ホールにて行う催し物であるダンスや楽器演奏も、地元のダンス教室や楽団、地方遠征を生業としているプロのアーティストなどに口聞きして置いて貰っている様なので、其方の問題も殆どクリアされている。そして、イベントの広告に関しても、地元のテレビ局やラジオ局とも既に連携していて、後はこれから拡大していく分野の話になっている……と、ここまでお膳立てされて置けば、イベントが成功するのは、ほぼ間違い無しの状態ではあるのだけど。
前園先輩が、こうして一から立ち上げたプロジェクトを、期待を込めて俺に任せて行ってくれたからには、単なる成功ではなく、大成功に収めなければ、俺の気が済まない。だから、東條さんと俺との話し合いには自然と熱が入り、あっという間に時間が過ぎていった。
「ところで、話は脱線してしまったが、君自身は、いま何か自分の症状に関して、悩みを抱えていないかい?親交を深めるにしては、話が少しセンシティブではあるが。もしも、俺にしか話せない様な……まぁ、些細な話でも構わないし、もし何かあれば気軽に話してくれたらな、と思うんだけれど」
今、出来る限り話し合いが終わり、新しく淹れて貰った珈琲を飲みながら、仕事でしか得られない疲れと充実感に満たされていると、東條さんは、俺に向けて、最初に切り出してくれた話を再び持ち掛けてくれた。それを聞いて、はたりと気を取り直した俺は、少しだけ弛緩していた背筋を、しゃんと伸ばした。
「すみません、東條さん。お気遣い、ありがとうございます。俺も、その事は、ずっと頭にあって……東條さんは、和泉先生と同棲して長いとお聞きしましたけど、症状自体は、同棲してから?」
「ああ、そうだね。もしかして、と気が付いたのは、同棲を始めてからかな。俺は高校の時に、丞さんは、大学生だった。だからとても悩んだし、丞さんにも心配を掛けてね」
「そうなんですか……」
高校生ともなれば、色々な意味で血気盛んな時期だ。今の俺ですらそうなのに、ただでさえ多感な時期に、自分の身体の問題まで抱えてしまったら、悩んだ、という一言で済む話ではなかっただろう。だけど、俺の心の中にあった感情は男性目線から来る同情心ではなく、同じ悩みや症状を抱えている人間が生み出す、純粋な共感しかなかった。
俺は、同棲の話も自分の症状の話もいっぺんに終わらせてしまったから、パートナーの理解も得てから話が前に進んだ。でも、一緒に暮らし始めてから問題が顕在化したとしたら、今よりももっと深く悩んでいたかもしれない。透さんにも話を切り出せず、次第に距離が生まれ、可能性は低いにしろ、破局の道を辿ってしまうという、悲しい未来があったかもしれなかった。様々なタイミングが合い、前園先輩や和泉先生という頼り甲斐のある相談相手がいたからこそ、俺達は、無駄な諍いもなく、ある程度和やかな生活を営めたんだろうな、と思えた。
話は自然と、東條さんと和泉先生の馴れ初めの話に入った。大学教授の両親の元に生まれた東條さんは、医学生でありながら、趣味で家庭教師のアルバイトを始めた和泉先生と瞬く間に意気投合……しなかったそうだ。最初のうちは全くと言って良いほどに反りが合わず、勉強に関する会話以外、一度も口を聞かなかった日も何度もあったらしい。それでも、頭だけではなく、類稀な容姿を兼ね備え、才色兼備を地で行きながら、自分自身の確固とした価値観を持ち、誰よりも真っ直ぐに生きている和泉先生と関わっていく中で、東條さんは、次第に和泉先生に胸の高鳴りを覚える様になっていった。
そして、医大を卒業した後大学院に進み、医師として仕事に従事する様になった暁には、幼い頃から許嫁として過ごしてきた幼馴染と結婚すると和泉先生から話を聞いた東條さんは、内に秘めた想いを自分の中に留めて置く事が出来なくなり、ある日とうとう、和泉先生に自分の気持ちを打ち明けた。
最初のうちは子供の話だからと全く相手にされていなかったらしいけれど、東條さんが誠心誠意を込めて口説いていくうちに、次第に和泉先生も、自分自身の本当の気持ちをゆっくりと吐露してくれる様になっていったらしい。そして、受験日前夜。東條さんは、志望校に無事に合格したら、許嫁と別れて、自分と付き合ってくれないかと言う懇願をした。すると和泉先生は、自分自身の結婚話を振り切って、志望校に無事に合格した東條さんと生きる道を選んでくれたのだという。
おかげで、和泉先生は、先生の両親が経営している総合病院の跡継ぎになる話は無くなってしまったらしいのだけど。今では両親のしがらみとは関係のないクリニックを経営し、駅近ビルを丸ごと購入して、そのビルにあるクリニックの総経営者として自らの城を築いているので、これはこれでハッピーエンドな話なのであった。
「親の反対まで振り切って生活を始めたのに、肝心な俺の身体が丞さんを前にしても反応しないとなって、すっかり慌てたよ。ただ、丞さんとの約束で、成人するまではお互いに指一本触れずにいようと決めていたから、確かめるタイミングが無くてね。それまで徹底的に互いに触れ合わずにいてきた分、俺の中でセックスに対するハードルも上がっていたから、EDを発症したのは、きっとそれも原因の一つだったんだと思う」
色々な歯車が上手く噛み合わなかった具体例をつめびらかに説明された様な気分になり、とてもじゃないけれど、掛ける言葉が見当たらなかった。そして、そんな俺の頭に、ふっと、ある光景が蘇ってきた。
『最近、貴方みたいな若い患者さん多いですからね。あまり気に病まないで、パートナーの方と私と、三人四脚でゆっくり治していきましょうね』
初めて和泉先生のクリニックを訪れた時、和泉先生は、淡々とした調子で俺と向き合ってくれたけれど。あれはもしかしたら、和泉先生自身の経験から学んだ言葉だったのかも知れない。あの人は、一緒に暮らしてきた年下のパートナーが、二十歳になって漸く自分にその指先を伸ばし……目の前で、突然EDを発症するという事例を、身をもって経験していたんだ。
つまり、和泉先生が俺に向けて掛けてくれた、気遣いや優しさに溢れた言葉の数々や、相手方であるパートナーの気持ちを理解し、そしてそれに寄り添う様な発言をしてくれたのは、自分自身がそう思って、東條さんと向き合ってきたからこそなのかも知れない。だとしたら、和泉先生が、ED専門外来を開いている理由の一つに、いつ何時、東條さんが同じ病気を再発しても対応出来る様に、その道の第一人者として在り続けていたいという気持ちがあるのでは、と考えてしまうのは、ごく自然な流れだった。だからこそ、そこにある二人の間の深い絆や愛は本物であると、しみじみと思えてならなかった。
「そうしてEDを発症して……その後、どうやって回復していったんですか?」
「投薬治療を段階的に進めていってね。後は、やっぱり時間かな。そこから薬を服用せずに問題無く過ごせる様になるまでにも、時間が必要だった。今はもう服薬していないし、丞さんとも、お互いの両親とも、良好な関係を続けているよ」
……そして、それにも、やはり時間が必要だった、という事か。東條さんと和泉先生が同棲を始めてから、10年。その間にも、身体の問題だけではなく、様々な問題や障壁を二人で乗り越えて来たんだろう。そんな、言外に滲み出る苦労や、二人で歩んできた過去を懐かしむ東條さんの気持ちが伝わってきて、俺は、『確かに、そうですよね』なんて言葉にして同意したり、簡単に共感しようとする気持ちにはなれず、ただ、頷きを返した。
「再発の可能性もあるけれど、その時はその時として考える様にしている。それに、コミニケーションの方法は、何もそれだけでは無いからね。あまり悲観したりせずに、前向きに自分自身と向き合って行こうと思っているよ」
俺に比べても、東條さんは、あまり歳は変わらない様に見える。前園先輩と大学で同期だったと話していたから、恐らくは、まだ二十代後半くらいの年齢だ。それでいて、これだけの達観した人生観や気構えを持っているなんて。世の中には、俺の知らない凄い人がいるんだな、と改めて思った。
そんな凄い人にする質問として、話を聞いているうちに次第に胸に浮かんできた其れを口にするのは憚られたけれど。この質問は、きっとこの人を前にしてしか話せないと、自分自身でそう感じたから。その衝動に、正直に従う事にした。
「治療に当たっている間に、パートナーが他の人に目移りしたりって考えて、不安になりませんでしたか?そして、そんな時に、パートナーが他の人と会っているのを見たら……余計に不安に思ったりしますよね」
自分で口にして置いてなんだけど、質問の内容というか、要点にしている部分が、自分から見てもよく分からない。けれど、どんな答えを期待しているのか、また、どんな風に東條さんに返して欲しいのかは、俺にも何となく分かっていた。
俺は、東條さんの口から紡がれる、『そうだな』を、きっと待ち望んでいるんだ。
「そうだな。確かに、不安に思わない日は無かったよ。だけど、いま目の前にいるパートナーが、いま自分を選んでくれて、いま一番自分の側に居てくれているという事実は変わらない。だから、自分の中にある不安を紛らわす為にも、一つでも二人の思い出を作る事に努力したり、時間を使ったよ。ただ、そんな風に思えたのは、俺がある意味で鈍感だったからなのかも知れないな……もしかして、八城君は、それに心当たりがあったり、そんな光景を見てしまったりしたのか?」
気遣わしげな空気を纏わせながら、俺に静かに問い掛けてくれた東條さんに、こくりと頷きを返す。そして、いま思い出しても、ずきりと胸が痛むその光景について、ぽつぽつと説明をして行った。俺の説明が終わると、東條さんは、暫くの間、無言で押し黙って、何かを考え込んでいた。もしかしたら、もう既に東條さんの中には答えが用意されていて、その答えをどうやって言葉に表して伝えれば、俺を傷付けないでいられるのかを熟考しているのかも知れない。だとしたら、とても申し訳無いなと思った。
けれど、次に東條さんの口から生み出された言葉は、全く予想だにしていない物だった。
「フラワーショップで二人が注文した花束には、淡いブルーの薔薇が使われていたと言っていたよね?店員が店の奥から持ってきたという事は、予め二人がそれを予約して置いた物だったんだろう。もしもその男性が君のパートナーにプレゼントするつもりなら、パートナーが先に会計をしようとするのは可笑しい。つまり、二人はその後、その花束を持って誰かに其れを渡しに行ったと考えるのが自然じゃないかな?それに、浮気をする現場を地元に指定するのも妙というか、迂闊だしね。君に見られても何の問題も無いからこそ、そうして地元にあるフラワーショップで、堂々と買い物が出来たんじゃないかな?」
言われてみれば、確かに。今の今まで、あの花束は、一緒にいた男性が透さんに対するプレゼントとして購入した物だとしか思っていなかったけれど、そう考えると、あまりに不自然な点が多過ぎる。それに、浮気現場を地元に指定して、そこにあるフラワーショップで買い物をするなんて、普通なら考えられない。透さんは、そんな風にして開き直れる人では無いし、人の気持ちを軽々しく扱う人でも無いから。
そんな事、言われなくても気が付けよ、という話でしかないのに、俺って奴は、頭が沸騰していたんだな……
透さん、本当にごめんなさい。今回の話は、きっと、俺の勘違いでしかなくて、俺はその勘違いによって、貴方を振り回してしまいました。謝って足りる話じゃないけど、もし謝れる機会が貰えたなら、俺は、自分自身の誠心誠意を掛けて、貴方に向かって頭を下げます。
「そして、その場の会計を君のパートナーがしようとしていたと言う事は、最初にお祝いをするつもりでいた側の人間は、君のパートナーだったのかも知れない。そう考えて見れば……そうだな、そのパートナーの周囲にいる人達の中で、最近嬉しい出来事があった人はいないかな?例えば、結婚が決まったりとか、子供が産まれた人がいるとか、それに近いおめでたい話があった人は?」
まるで、事件の真実に迫る探偵の様にして、東條さんの口から紡ぎ出した仮説が、現実の色を帯びていく。これまで、漫画やドラマの世界でしか見た事が無かった、その瞬間に立ち会った俺は、自然に、あっ、と声を上げていた。
まさか、いや、でも、一度そうだと思ったら、それ以外の可能性が、頭に思い浮かばない。
「俺達が同棲を始める前に、透さんとずっと一緒に暮らしてきた親友の結婚が決まったんです。それで同居を解消して、俺達は一緒に暮らす様に。なので、もしかしたら、その男性は……」
あの時、透さんと一緒にいた人が、透さんの親友の千明さんだとしたら、凡ゆる意味で辻褄が合う。
「成る程。因みに、その話が決まったのは、いつ頃の話なんだい?」
「三ヶ月から、四ヶ月前くらいです」
「つまり、それだけの期間、向こうの男性も結婚が決まった女性と一緒に暮らしていたのかな」
「はい。透さんは、そんな話をしていました」
「だとしたなら色々な仮説は立てられるが、一番可能性が高いのは、その女性に何か特別嬉しい出来事があって、それを君のパートナー……透君も一緒にお祝いをしようとしていた、というのが妥当な線じゃないかと思うんだが。どうだろう?」
「そうですね……俺も、そう思います」
結婚を決めた女性と一緒に暮らし始めて、それから四ヶ月程の時間が経過したともなれば、慌ただしい生活に落ち着きを見せても良い頃合いだ。そんな時に、女性側にとって嬉しい出来事が起こるとすれば、俺にだって、何があったか位の予想は付けられる。
もしかしたら、その女性は……その考えに行き着き、しかし、それを口にするのは流石にと思い、ちら、と東條さんに視線を合わせると、東條さんは俺の思考の揺れ動きの全てを分かっているのか、俺の無言の仮説に同意するかの様に、深く頷いた。
「帰ったらその話を聞いてみるといい。透君にとっても嬉しい事なら、直ぐにでも教えてくれる筈だよ。きっと、君に聞いて貰いたくて、うずうずしているかも知れないからね」
「はい……ありがとうございます」
俺は、深々と東條さんに頭を下げながら、こんなに鋭い思考回路をしている人が、鈍感な筈がないじゃないか、と思った。この人は、俺の話を掻い摘んで聞いただけで、話の真相かもしれない場所にまで、こうして俺を導いてくれた。こんな人が、パートナーである和泉先生の事を、もっと良く観察していない筈がない、と。
長く付き合ったり、同棲して生活を共にして来られたのも、そんな鋭さを持ち合わせていながら、その鋭い感性を、お互いの生活に馴染ませて来られたからなんじゃないかと、俺には思えてならなかった。そして、そんな風にして、これまでの人生を、並々ならぬ努力と気遣い、そして自らの感性を駆使して乗り越えてきた先駆者達に、俺は敬意と尊敬の念を強く抱いた。
アーティストのツアーライブや、本格的なオーケストラのコンサートを行える大ホールを抱えた大規模イベント会場を二日間に掛けて貸し切り。クラフトビール専門店であるこの店を中心として、クラフトビール……つまり地ビールを作っている全国の醸造所や、ビールに合うつまみを提供するイベント会場周辺の飲食店などを大々的に盛り込んで。大ホールではプロ・アマ、ジャンル問わずのダンスや演奏の発表会までもを行うイベントの企画を、この店のオーナーである東條さんと共に手元の資料を確認しながら進めていく。
すると、大方の企画のプロットを確認し終えた段階で、仕事モードはこれまで、と言った具合に、前園先輩と東條さんは、古くからの親しい友人同士のそれの様に、がらりと態度を変え。そして、敬語や丁寧語を取り払い、俺の目の前で気さくに話をし始めた。
それはまるで、親友同士の二人が、互いの近況を報告しあっている様子にしか見えなくて。一体二人はどんな関係性なのかと思い、俺が半ば置物状態になっていると、前園先輩が突然、俺に向けて話の水を向けて来た。
「そうそう、望、紹介しとくよ。さっきも名刺は交換したから分かってると思うけど、こいつが例の……」
「ああ、そうだと思っていたよ。やぁ、丞さん……和泉先生から話があったかな?あそこのクリニックの入っているビルの一階にある調剤薬局は、俺が経営を担当していると言ったら、俺の正体にも気が付いてくれるだろうか」
「え……ええ?!」
待って、色々待って。情報量が多過ぎてついていけない。あのクリニックの入っているビルの一階にある調剤薬局といったら、日頃から大変お世話になっている場所でもあるけれど、今はそんな話をしている場合じゃなくて。つまり、話を総合的に判断するに、目の前にいる男性、東條さんは、あの何とも食えない性格をしている和泉先生の恋人であり、同棲を10年続けている人物という事になる訳で。
「じゃあ、もしかして、前園先輩は、東條さんと親交があったから、あのクリニックを?」
「お、悟るのが早い。いーぞいーぞ、その通り。こいつ、大学の同期でさ。初めて出会った時から、丞さんにぞっこんで。色々と話を聞いてるうちに会ってみたくなって、丞さんとは、それからの付き合いなんだ。だけど、二人ともマジで稼ぐ様になったからね。だから、今じゃ色々と差が付いちゃったけど、その代わりにこうして仕事の話も持ち込めるからさ。腐れ縁も縁は縁だよなぁ、ってしみじみ思ってるとこ」
「わぁ……なら、もしかして。それでこの店にずっと通ってたんですか?」
「あはは、まぁねー」
うわぁ、前園先輩にまたしても、してやられた。この人、本当に、いつだって油断も隙も無いな。日頃の行動が、仕事の何にどう繋がっているのか分からない。そして、それに知らぬ間に巻き込まれている俺、という図式。こんな経験、先輩に着いて回って仕事を覚えていた間に、何度してきただろう。ていうか、待てよ。だとしたら、もう一軒馴染みにしていた、あのイタリアンバルも?
「そんなら、他にも良く行ってたトリッパ煮込みが美味い店って、もしかして……」
「うん。今回のイベントの出店部門で採用に回してるよ。ただ、まだアポ取っただけだから、これから口説きに行くんだけどね。でも多分落ちるの早いと思うな。ましてや、主催者の筆頭が、他のベンチャー企業でも群を抜いてるうちのイベント企画会社に、望のやってるこの店だし。確か、あそこの店の次男坊、お前のグループ経営してる母体の、健康食品輸入会社の方で採用してたよな?」
「ああ。この店で学生時代にアルバイトをしていてね。その時に知った人柄や仕事への責任感を気に入っていたから、言葉は悪いが、殆ど顔採用だ。今は、本社の経理部に所属しているよ」
「あー、ならいけるな。多分必要無いとは思うけど、お前の名前出してもいい?」
「勿論。それにあの店の店主は、この一体の地域の顔役だからな。彼処が受ければ、他も続くさ」
結論。女も怖いけど、やっぱり男も怖い。俺は、逆立ちしたってこの人達の様にはなれないと思うなぁ……と、思わず遠い目をしてしまった。そんな二人の雲上人の様な会話を、一応これも仕事の内だからして、真剣に話を聞いていると、東條さんは、前園先輩の隣で再び置物状態になっていた俺に向けて、穏やかに微笑みを浮かべた。
「俊明から、君にクリニックを紹介してもいいかと、俺を介して相談を受けてね。そこで、君の症状についても、ほんの触りだけ聞かせて貰ったんだ。実は、昔の俺も、君と同じくらいの歳に、同じ症状に悩まされてね。デリケートな話なのに申し訳ないなと思いながらも、勝手に親近感を抱いていたんだ。だから、こうして会ってみたいと話を俊明に持ち掛けたのは、俺からなんだよ」
「え……俺と、同じ?」
遣り手実業家としていくつもの会社を経営し、威風堂々とした風格を漂わせている東條さんが、俺と同じ症状に苦しんだ経験があるなんて、俄かには信じ難い。だから、それ以上の発言には結び付かず、出来れば空気で俺の気持ちを悟って欲しい、という眼差しを東條さんに向けた。すると、東條さんは、俺の複雑な感情を表情から正確に読み取り、自分の顎の下で手を組み、見る者全ての警戒心や懐疑心を和ませる様な柔和な表情を浮かべた。
「俺達が経験してきた病気は、ストレス社会がこれ程まで取り立たされる様になっても、精神的、肉体的な要因を抱えた若い世代の男性が持つ問題として認知されるには、まだまだ程遠い。だから、そんな問題を抱えている人間が声を上げにくい環境は、どうしてもある。けれど、同じ問題を抱えていた者同士が、こうしてコミニュケーションを交わすだけでも、少しは気持ちが楽になるんじゃないかと思ってね……すまない、余計なお節介だったかな?」
「お節介だなんて、そんな……俺、クリニックに通っている時も、若い男性は見掛けた事が無かったので。こうして俺と殆ど同世代の方のお話が聞けただけでも、有難いです」
「そうか。なら、少し安心したよ。自分が症状に苦しんでいる時は、周りにそんな問題を抱えている若い世代の人間はいなかったからね。もしも、他では話せない話があるのなら、俺で良ければ話を聞くよ」
自分と同じ症状を経験した同世代の人間に出会えた事で、俺は、緊張や微かな興奮を胸に抱いていた。そんな俺に向けて安堵の表情を見せ、気持ちを宥めてくれる東條さんは、ゆっくりと俺の話を聞く体勢を整えてくれた。
前園先輩は、東條さんが俺に対してそうした気遣いを見せてくれたのを確認するだに、テーブルの上に広げていた自分用のイベントの企画資料を手持ちのフォルダーに収納して、自分のビジネスバックにそれを入れてから、俺の肩をぽん、と叩いて、無言でその場を去って行った。
そんな気遣いに溢れた前園先輩の背中を見送った俺は、これでは、イベントの企画が先だったのか、俺の病状を慮った上で、東條さんと自然なままに引き合わせてくれたのか、全く分からないじゃないか、と思った。本当に、どこまで計算しているのか、まるで見当がつかない。だから、いつまでも、あの人の背中には追い付けそうもないなと苦笑してから、先輩の消えた扉の向こうに向けて、頭を下げた。
「……良い先輩を持ったね」
扉の先に向けて下げていた頭を上げて、再び東條さんに向き直ると、東條さんは、自らの親友でもあるビジネスパートナーを何の衒いもなく褒め、それでいて何処か誇らしそうにしていた。
「はい。あの人には敵いません。いつもお世話になりっぱなしで……せやから、どうやって恩を返したら良いのか、全然分からないんです」
前園先輩がいなかったら、俺は今頃、どんな人間になっていただろう。きっと、大切に想う物や人が目の前に現れても、その大切にする方法が分からず、精神的に途方に暮れていたに違いない。だから、俺の生き方や人生そのものに、確かな影響を与えてくれた先輩には、何度頭を下げても足りないと思えた。
「アイツは、全く見る目が無い人間に、あそこまで傾倒する人間じゃない。そして、それだけ目を掛けられてきた後輩が、仕事を教えてくれた先輩に対して恩義を感じたなら、その恩に報いる方法は、たった一つしかない。そうは思わないか?」
「……はい」
東條さんに促される形で、俺はその答えに行き着いた。確かにあの人なら、小手先程度の恩返しも、恐らくは喜んではくれるだろうけれど。きっと、前園先輩が俺に本当に望んでいる物は、そんなものではないんだ。
あの人の気遣いや優しさに報いるには、あの人から学んだ物を吸収して、自分の仕事に生かすしかない。そして、それがきっと、前園先輩に対する一番の恩返しになるのだから。
「このイベントの企画は、これから先、俊明の手を離れて、君に委任する形で話が進む事になっている。アイツは、それだけ君に期待をしているんだ。君ならこの仕事を、無事に成功させる事が出来るとね。そして、アイツがそこまでして見込んだ人間となら、俺も安心して一緒に仕事が出来る。これからも、宜しく頼むよ、八城君」
これまでの人生で、俺は、少し興味が湧いた物に手を出すと、それ一辺倒でやってきた人間達の努力は何だったのか、というくらいにまでその道を迷わずに進めてきた。だから、それをきっかけにして、下らない万能感に浸る事も度々あった。それでも、その道を歩む本当の才能に恵まれた人間の足元には、到底及ばず。そして、その現実に打ちのめされた瞬間、全ての努力や情熱を手離してしまった。
絵も、歌も、運動も。透さんには、まだ話した事は無いけれど……ダンスも。だからそんな、表面上は飽き性で、その実、内心では悔しくて惨めで堪らない思いを抱えていた俺は、誰の目も及ばない、誰の興味も持たずにいられる環境に、自らを落とし込んだんだ。才能の壁を前にして、二度とあんな風に、絶望感や劣等感を味合わない為に。
だから、不思議な気持ちだった。人は、誰かに見守られ、誰かに期待されると、こんな風に、全身に力が漲ったり、気分が高揚したり、身体がじんじんと熱くなったりするものなのか、と。
「……ッ、はい!精一杯努めますので、どうぞ宜しくお願いします!!」
他の誰かから、期待を掛けて貰った経験が無かった。だから反対に、誰かに期待をするのも辞めてしまった。けれど、他人に対する期待を手放してしまった方が生きやすかったし、何だか悟りを開いている様に思えて、勝手に大人になれた様な気持ちになれた。自分以外の人に期待をするなんて、それこそ期待を裏切られた時に、手酷いしっぺ返しを受けてしまう。だったら、始めから他人に期待なんてしない方がマシだと。でも、それは半分正解で、半分間違っていたのかもしれない。
何故ならば、この今の俺の様に、人からの期待を一身に受けて、自分自身の自信へと変換していく人間も、間違いなく存在するからだ。
「うん。一緒に、このイベントを成功させよう。今回が盛況のうちに終われば、次にも繋がる。もしかしたら、君にとっては出世の足掛かりになるかもしれないな」
「はは……そんな。ただ、今は、目の前にある先輩の託してくれた仕事を、無事に成功させる事を考えてやっていきたいです。ですから、どんな些細な問題も、俺に相談して下さいね」
「ああ、そうさせて貰うよ」
目の前に、スッと、大きな手が差し出される。それを、一瞬だけキョトンと目を丸くして眺めてしまったけれど。握手を求められているのだと気付くと、俺は慌てて自分の手を差し出して頭を下げた。しっかりと握り締められた手からは、じん、と東條さんの熱い体温が伝わってきて。これから俺の人生を左右する仕事が始まるのだと、ぶるっ、と全身が武者振るいした。
握手を終えると、計ったかの様なタイミングで、ここまで俺達を案内してくれた女性店員さんが現れ、二人分の温かい珈琲を用意してから、その場を後にした。そして、その珈琲を飲みながら、東條さんと俺は、イベントの企画資料を広げてそれに目を通しながら、自らのアイデアを出し合っていった。
とは言え、何事も事前準備や下調べが大事というべきか。俺が営業を掛けて、一から立ち上げたプロジェクトでは無かったというのもあり、現段階に置いて、俺に出来る事は限られていた。後は、前園先輩が次にアポを取っているという行きつけのイタリアンバルを此方に招き入れたら、トントン拍子に話が前に進みそうだ。
大ホールにて行う催し物であるダンスや楽器演奏も、地元のダンス教室や楽団、地方遠征を生業としているプロのアーティストなどに口聞きして置いて貰っている様なので、其方の問題も殆どクリアされている。そして、イベントの広告に関しても、地元のテレビ局やラジオ局とも既に連携していて、後はこれから拡大していく分野の話になっている……と、ここまでお膳立てされて置けば、イベントが成功するのは、ほぼ間違い無しの状態ではあるのだけど。
前園先輩が、こうして一から立ち上げたプロジェクトを、期待を込めて俺に任せて行ってくれたからには、単なる成功ではなく、大成功に収めなければ、俺の気が済まない。だから、東條さんと俺との話し合いには自然と熱が入り、あっという間に時間が過ぎていった。
「ところで、話は脱線してしまったが、君自身は、いま何か自分の症状に関して、悩みを抱えていないかい?親交を深めるにしては、話が少しセンシティブではあるが。もしも、俺にしか話せない様な……まぁ、些細な話でも構わないし、もし何かあれば気軽に話してくれたらな、と思うんだけれど」
今、出来る限り話し合いが終わり、新しく淹れて貰った珈琲を飲みながら、仕事でしか得られない疲れと充実感に満たされていると、東條さんは、俺に向けて、最初に切り出してくれた話を再び持ち掛けてくれた。それを聞いて、はたりと気を取り直した俺は、少しだけ弛緩していた背筋を、しゃんと伸ばした。
「すみません、東條さん。お気遣い、ありがとうございます。俺も、その事は、ずっと頭にあって……東條さんは、和泉先生と同棲して長いとお聞きしましたけど、症状自体は、同棲してから?」
「ああ、そうだね。もしかして、と気が付いたのは、同棲を始めてからかな。俺は高校の時に、丞さんは、大学生だった。だからとても悩んだし、丞さんにも心配を掛けてね」
「そうなんですか……」
高校生ともなれば、色々な意味で血気盛んな時期だ。今の俺ですらそうなのに、ただでさえ多感な時期に、自分の身体の問題まで抱えてしまったら、悩んだ、という一言で済む話ではなかっただろう。だけど、俺の心の中にあった感情は男性目線から来る同情心ではなく、同じ悩みや症状を抱えている人間が生み出す、純粋な共感しかなかった。
俺は、同棲の話も自分の症状の話もいっぺんに終わらせてしまったから、パートナーの理解も得てから話が前に進んだ。でも、一緒に暮らし始めてから問題が顕在化したとしたら、今よりももっと深く悩んでいたかもしれない。透さんにも話を切り出せず、次第に距離が生まれ、可能性は低いにしろ、破局の道を辿ってしまうという、悲しい未来があったかもしれなかった。様々なタイミングが合い、前園先輩や和泉先生という頼り甲斐のある相談相手がいたからこそ、俺達は、無駄な諍いもなく、ある程度和やかな生活を営めたんだろうな、と思えた。
話は自然と、東條さんと和泉先生の馴れ初めの話に入った。大学教授の両親の元に生まれた東條さんは、医学生でありながら、趣味で家庭教師のアルバイトを始めた和泉先生と瞬く間に意気投合……しなかったそうだ。最初のうちは全くと言って良いほどに反りが合わず、勉強に関する会話以外、一度も口を聞かなかった日も何度もあったらしい。それでも、頭だけではなく、類稀な容姿を兼ね備え、才色兼備を地で行きながら、自分自身の確固とした価値観を持ち、誰よりも真っ直ぐに生きている和泉先生と関わっていく中で、東條さんは、次第に和泉先生に胸の高鳴りを覚える様になっていった。
そして、医大を卒業した後大学院に進み、医師として仕事に従事する様になった暁には、幼い頃から許嫁として過ごしてきた幼馴染と結婚すると和泉先生から話を聞いた東條さんは、内に秘めた想いを自分の中に留めて置く事が出来なくなり、ある日とうとう、和泉先生に自分の気持ちを打ち明けた。
最初のうちは子供の話だからと全く相手にされていなかったらしいけれど、東條さんが誠心誠意を込めて口説いていくうちに、次第に和泉先生も、自分自身の本当の気持ちをゆっくりと吐露してくれる様になっていったらしい。そして、受験日前夜。東條さんは、志望校に無事に合格したら、許嫁と別れて、自分と付き合ってくれないかと言う懇願をした。すると和泉先生は、自分自身の結婚話を振り切って、志望校に無事に合格した東條さんと生きる道を選んでくれたのだという。
おかげで、和泉先生は、先生の両親が経営している総合病院の跡継ぎになる話は無くなってしまったらしいのだけど。今では両親のしがらみとは関係のないクリニックを経営し、駅近ビルを丸ごと購入して、そのビルにあるクリニックの総経営者として自らの城を築いているので、これはこれでハッピーエンドな話なのであった。
「親の反対まで振り切って生活を始めたのに、肝心な俺の身体が丞さんを前にしても反応しないとなって、すっかり慌てたよ。ただ、丞さんとの約束で、成人するまではお互いに指一本触れずにいようと決めていたから、確かめるタイミングが無くてね。それまで徹底的に互いに触れ合わずにいてきた分、俺の中でセックスに対するハードルも上がっていたから、EDを発症したのは、きっとそれも原因の一つだったんだと思う」
色々な歯車が上手く噛み合わなかった具体例をつめびらかに説明された様な気分になり、とてもじゃないけれど、掛ける言葉が見当たらなかった。そして、そんな俺の頭に、ふっと、ある光景が蘇ってきた。
『最近、貴方みたいな若い患者さん多いですからね。あまり気に病まないで、パートナーの方と私と、三人四脚でゆっくり治していきましょうね』
初めて和泉先生のクリニックを訪れた時、和泉先生は、淡々とした調子で俺と向き合ってくれたけれど。あれはもしかしたら、和泉先生自身の経験から学んだ言葉だったのかも知れない。あの人は、一緒に暮らしてきた年下のパートナーが、二十歳になって漸く自分にその指先を伸ばし……目の前で、突然EDを発症するという事例を、身をもって経験していたんだ。
つまり、和泉先生が俺に向けて掛けてくれた、気遣いや優しさに溢れた言葉の数々や、相手方であるパートナーの気持ちを理解し、そしてそれに寄り添う様な発言をしてくれたのは、自分自身がそう思って、東條さんと向き合ってきたからこそなのかも知れない。だとしたら、和泉先生が、ED専門外来を開いている理由の一つに、いつ何時、東條さんが同じ病気を再発しても対応出来る様に、その道の第一人者として在り続けていたいという気持ちがあるのでは、と考えてしまうのは、ごく自然な流れだった。だからこそ、そこにある二人の間の深い絆や愛は本物であると、しみじみと思えてならなかった。
「そうしてEDを発症して……その後、どうやって回復していったんですか?」
「投薬治療を段階的に進めていってね。後は、やっぱり時間かな。そこから薬を服用せずに問題無く過ごせる様になるまでにも、時間が必要だった。今はもう服薬していないし、丞さんとも、お互いの両親とも、良好な関係を続けているよ」
……そして、それにも、やはり時間が必要だった、という事か。東條さんと和泉先生が同棲を始めてから、10年。その間にも、身体の問題だけではなく、様々な問題や障壁を二人で乗り越えて来たんだろう。そんな、言外に滲み出る苦労や、二人で歩んできた過去を懐かしむ東條さんの気持ちが伝わってきて、俺は、『確かに、そうですよね』なんて言葉にして同意したり、簡単に共感しようとする気持ちにはなれず、ただ、頷きを返した。
「再発の可能性もあるけれど、その時はその時として考える様にしている。それに、コミニケーションの方法は、何もそれだけでは無いからね。あまり悲観したりせずに、前向きに自分自身と向き合って行こうと思っているよ」
俺に比べても、東條さんは、あまり歳は変わらない様に見える。前園先輩と大学で同期だったと話していたから、恐らくは、まだ二十代後半くらいの年齢だ。それでいて、これだけの達観した人生観や気構えを持っているなんて。世の中には、俺の知らない凄い人がいるんだな、と改めて思った。
そんな凄い人にする質問として、話を聞いているうちに次第に胸に浮かんできた其れを口にするのは憚られたけれど。この質問は、きっとこの人を前にしてしか話せないと、自分自身でそう感じたから。その衝動に、正直に従う事にした。
「治療に当たっている間に、パートナーが他の人に目移りしたりって考えて、不安になりませんでしたか?そして、そんな時に、パートナーが他の人と会っているのを見たら……余計に不安に思ったりしますよね」
自分で口にして置いてなんだけど、質問の内容というか、要点にしている部分が、自分から見てもよく分からない。けれど、どんな答えを期待しているのか、また、どんな風に東條さんに返して欲しいのかは、俺にも何となく分かっていた。
俺は、東條さんの口から紡がれる、『そうだな』を、きっと待ち望んでいるんだ。
「そうだな。確かに、不安に思わない日は無かったよ。だけど、いま目の前にいるパートナーが、いま自分を選んでくれて、いま一番自分の側に居てくれているという事実は変わらない。だから、自分の中にある不安を紛らわす為にも、一つでも二人の思い出を作る事に努力したり、時間を使ったよ。ただ、そんな風に思えたのは、俺がある意味で鈍感だったからなのかも知れないな……もしかして、八城君は、それに心当たりがあったり、そんな光景を見てしまったりしたのか?」
気遣わしげな空気を纏わせながら、俺に静かに問い掛けてくれた東條さんに、こくりと頷きを返す。そして、いま思い出しても、ずきりと胸が痛むその光景について、ぽつぽつと説明をして行った。俺の説明が終わると、東條さんは、暫くの間、無言で押し黙って、何かを考え込んでいた。もしかしたら、もう既に東條さんの中には答えが用意されていて、その答えをどうやって言葉に表して伝えれば、俺を傷付けないでいられるのかを熟考しているのかも知れない。だとしたら、とても申し訳無いなと思った。
けれど、次に東條さんの口から生み出された言葉は、全く予想だにしていない物だった。
「フラワーショップで二人が注文した花束には、淡いブルーの薔薇が使われていたと言っていたよね?店員が店の奥から持ってきたという事は、予め二人がそれを予約して置いた物だったんだろう。もしもその男性が君のパートナーにプレゼントするつもりなら、パートナーが先に会計をしようとするのは可笑しい。つまり、二人はその後、その花束を持って誰かに其れを渡しに行ったと考えるのが自然じゃないかな?それに、浮気をする現場を地元に指定するのも妙というか、迂闊だしね。君に見られても何の問題も無いからこそ、そうして地元にあるフラワーショップで、堂々と買い物が出来たんじゃないかな?」
言われてみれば、確かに。今の今まで、あの花束は、一緒にいた男性が透さんに対するプレゼントとして購入した物だとしか思っていなかったけれど、そう考えると、あまりに不自然な点が多過ぎる。それに、浮気現場を地元に指定して、そこにあるフラワーショップで買い物をするなんて、普通なら考えられない。透さんは、そんな風にして開き直れる人では無いし、人の気持ちを軽々しく扱う人でも無いから。
そんな事、言われなくても気が付けよ、という話でしかないのに、俺って奴は、頭が沸騰していたんだな……
透さん、本当にごめんなさい。今回の話は、きっと、俺の勘違いでしかなくて、俺はその勘違いによって、貴方を振り回してしまいました。謝って足りる話じゃないけど、もし謝れる機会が貰えたなら、俺は、自分自身の誠心誠意を掛けて、貴方に向かって頭を下げます。
「そして、その場の会計を君のパートナーがしようとしていたと言う事は、最初にお祝いをするつもりでいた側の人間は、君のパートナーだったのかも知れない。そう考えて見れば……そうだな、そのパートナーの周囲にいる人達の中で、最近嬉しい出来事があった人はいないかな?例えば、結婚が決まったりとか、子供が産まれた人がいるとか、それに近いおめでたい話があった人は?」
まるで、事件の真実に迫る探偵の様にして、東條さんの口から紡ぎ出した仮説が、現実の色を帯びていく。これまで、漫画やドラマの世界でしか見た事が無かった、その瞬間に立ち会った俺は、自然に、あっ、と声を上げていた。
まさか、いや、でも、一度そうだと思ったら、それ以外の可能性が、頭に思い浮かばない。
「俺達が同棲を始める前に、透さんとずっと一緒に暮らしてきた親友の結婚が決まったんです。それで同居を解消して、俺達は一緒に暮らす様に。なので、もしかしたら、その男性は……」
あの時、透さんと一緒にいた人が、透さんの親友の千明さんだとしたら、凡ゆる意味で辻褄が合う。
「成る程。因みに、その話が決まったのは、いつ頃の話なんだい?」
「三ヶ月から、四ヶ月前くらいです」
「つまり、それだけの期間、向こうの男性も結婚が決まった女性と一緒に暮らしていたのかな」
「はい。透さんは、そんな話をしていました」
「だとしたなら色々な仮説は立てられるが、一番可能性が高いのは、その女性に何か特別嬉しい出来事があって、それを君のパートナー……透君も一緒にお祝いをしようとしていた、というのが妥当な線じゃないかと思うんだが。どうだろう?」
「そうですね……俺も、そう思います」
結婚を決めた女性と一緒に暮らし始めて、それから四ヶ月程の時間が経過したともなれば、慌ただしい生活に落ち着きを見せても良い頃合いだ。そんな時に、女性側にとって嬉しい出来事が起こるとすれば、俺にだって、何があったか位の予想は付けられる。
もしかしたら、その女性は……その考えに行き着き、しかし、それを口にするのは流石にと思い、ちら、と東條さんに視線を合わせると、東條さんは俺の思考の揺れ動きの全てを分かっているのか、俺の無言の仮説に同意するかの様に、深く頷いた。
「帰ったらその話を聞いてみるといい。透君にとっても嬉しい事なら、直ぐにでも教えてくれる筈だよ。きっと、君に聞いて貰いたくて、うずうずしているかも知れないからね」
「はい……ありがとうございます」
俺は、深々と東條さんに頭を下げながら、こんなに鋭い思考回路をしている人が、鈍感な筈がないじゃないか、と思った。この人は、俺の話を掻い摘んで聞いただけで、話の真相かもしれない場所にまで、こうして俺を導いてくれた。こんな人が、パートナーである和泉先生の事を、もっと良く観察していない筈がない、と。
長く付き合ったり、同棲して生活を共にして来られたのも、そんな鋭さを持ち合わせていながら、その鋭い感性を、お互いの生活に馴染ませて来られたからなんじゃないかと、俺には思えてならなかった。そして、そんな風にして、これまでの人生を、並々ならぬ努力と気遣い、そして自らの感性を駆使して乗り越えてきた先駆者達に、俺は敬意と尊敬の念を強く抱いた。
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