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第一章『無意識の衝動』
序章『遠い日の記憶』
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あか、しろ、きいろ。色とりどりの花が咲く花畑の中に、ぽつんと一人の少年が佇んでいる。黄色いクラス帽子を被って、これまた黄色い鞄を肩から掛けた少年は、絵画から抜け出てきた様な恐ろしく整った美貌の中央にある小高い鼻に、一枚の絆創膏を横断する形で貼り付けていた。
その足元にある苺は蛇苺だから、食べたり口に含んだらいけないよ、と教えてあげるべきだろうか。世間一般に噂されている様な毒は無いから人間には無害だけれど、ぼそぼそとしていて、そのままだと食べられたもんじゃないんだ。料理自慢の僕の母親は砂糖をたっぷり溶かし込んでジャムにしたら多少なり可愛げが出てくるなんて話していたけれど、自分から群生している野原に散策しに行って摘み取ったりなんてしなかった。
見た目は良いけど、ただそれだけの存在。だから、君が足元に広がるの蛇苺の群生に向けている、きらきらとしたその瞳の中に、好奇心や期待感といった、胸がワクワクする微笑ましい感情が含まれているのを見て、僕は、『よしたら良いのに』と溜息を吐くばかりだった。だけど君は、そんな此方の言葉にならない忠告混じりの眼差しなんて気にもとめずに、その蛇苺に手を伸ばしたんだ。
人間の生来から併せ持つ興味や関心、好奇心。それを止める権利は誰にも無い。例え血の繋がりがあったとしても、口を挟める資格など有りはしない。これが、この光景が全て、夢の中の出来事だと分かっていたとしても。
だから、まだ何も知らない無垢で純粋な君に、お節介だと分かっていても、僕は、この言葉を贈るよ。
『可哀想だから、食べてもがっかりしないでね』
あか、しろ、きいろ。色とりどりの花が咲く花畑の中に、ぽつんと一人の少年が佇んでいる。黄色いクラス帽子を被って、これまた黄色い鞄を肩から掛けた少年は、絵画から抜け出てきた様な恐ろしく整った美貌の中央にある小高い鼻に、一枚の絆創膏を横断する形で貼り付けていた。
その足元にある苺は蛇苺だから、食べたり口に含んだらいけないよ、と教えてあげるべきだろうか。世間一般に噂されている様な毒は無いから人間には無害だけれど、ぼそぼそとしていて、そのままだと食べられたもんじゃないんだ。料理自慢の僕の母親は砂糖をたっぷり溶かし込んでジャムにしたら多少なり可愛げが出てくるなんて話していたけれど、自分から群生している野原に散策しに行って摘み取ったりなんてしなかった。
見た目は良いけど、ただそれだけの存在。だから、君が足元に広がるの蛇苺の群生に向けている、きらきらとしたその瞳の中に、好奇心や期待感といった、胸がワクワクする微笑ましい感情が含まれているのを見て、僕は、『よしたら良いのに』と溜息を吐くばかりだった。だけど君は、そんな此方の言葉にならない忠告混じりの眼差しなんて気にもとめずに、その蛇苺に手を伸ばしたんだ。
人間の生来から併せ持つ興味や関心、好奇心。それを止める権利は誰にも無い。例え血の繋がりがあったとしても、口を挟める資格など有りはしない。これが、この光景が全て、夢の中の出来事だと分かっていたとしても。
だから、まだ何も知らない無垢で純粋な君に、お節介だと分かっていても、僕は、この言葉を贈るよ。
『可哀想だから、食べてもがっかりしないでね』
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