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1巻webおまけ(ツララ視点)
コンビ2(ツララ視点)
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「おおっ、賢者の嬢ちゃんじゃねぇか!城で見てたよ!」
勇者は気さくな人だった。
タヒトの紹介で進み出ると、元々の笑顔を更に崩して話しかけてくれた。
「いやぁ、またここで会えるなんて何だか感慨深いねぇ……」
しみじみと頷く勇者。
そんな彼の後ろから、ボソリと誰かが呟いた。彼の仲間らしき魔法使いだ。
「ここに来てまだ2週間も経ってませんよ」
「お?そうだったか?色々ありすぎて5年は経った気がするぜ」
「大袈裟です」
魔法使いの溜息をよそに、勇者は「はっはっは」と笑っている。
さて、どうしたものか。
いつもの様に黙っているという選択肢は無い。
彼は勇者……最上位の職種に選ばれた人間。
その能力の程は私と同等かそれ以上と考えて間違いないでしょう。
もしかしたら今後、この世界で生きていく上で、勇者に協力を仰ぐ場面があるかもしれない。
良好な関係を築いておいた方が得策……理性はそう結論付ける。
しかし本能はそれよりも圧倒的に早く、同様の結論に到達していた。即ち――
「あなたの紹介だからそうしたのよ」
きちんと名を名乗り、勇者の話に愛想よく相槌を打つ私を見て「そんなスキルがあったのか」と、失礼な問いかけをしてきたタヒトへそう言った。
彼はまるで珍獣を見るかのような眼差しを向けている……本当に失礼なひと。
確かに不安はあった。
異世界風に言うと……そう、経験値が足りないから。
けれどそれは杞憂に終わる。
魔法と同じだ。「笑顔で受け答えする私」をイメージして思考のスイッチを切り替えれば、自然と表情筋は緩み、言葉は淀みなく流れる。
考えてみれば、先程「お礼」が言えたのだからこの程度は出来て当然。仮にも賢者を名乗るのであれば尚の事。
ただ唯一……
「そんで、二人はどういう関係なんだい?」
そう聞かれた際に、言葉に詰まったのは失態だった。
「コンビ……狩り仲間ですよ。狩り仲間」
「ほぉ、そういう事かい」
タヒトがフォローしてその場は収まったが、「狩り仲間」という言葉は釈然としない。
タヒトとは長い付き合いになる――私はそう確信している。
この先、同様の質問を受ける機会もあるかもしれない。
その事を思えば――予め解答は用意しておきましょう。
☆☆☆
準備が整ったというので別室へ移動。
待ち受けていた国王の長い口上が始まる。
国を取り巻く周辺地域、他国との関係に始まり、自国の内部環境……主にモンスター被害についてを身振り手振りで説明している。
全く役に立たない情報という訳ではない。しかしその殆どはギルドで聞いた事があるものばかりだった。
その為、意識の半分程だけ傾けて聞いていたのだけれども……
「――であるから、クラス2に一番乗りしたタヒト・デイエには騎士団長との試合をしてもらうぞ」
国王がさらりと織り交ぜたその話で、私は集中を余儀なくされた。
ルーデンの騎士団長と言えば軒並みレベル30を超える戦士……そう聞いている。
対してタヒトのレベルは2。
……荷が重いという表現では生温いかしら。
さぞ動揺しているでしょうと、彼を横目で見てみる。
あら、意外に普通。
案外大物なのかも……いえ、違う。
あの眠そうな顔。聞いて無かったわね、国王の話。
他の冒険者の視線もタヒトに集まっているけれど、彼に気付いた様子は見られない。
その周囲とのギャップに思わず吹き出してしまいそうになったので、私は目を閉じることにした。
その後、順繰りに名前を呼ばれ褒美を受け取る。
タヒトは緊張していたようで、手と足が同時進行していた。
指摘するとムッとした表情で睨まれた。それはそれで新鮮。
全ての者に褒美が行渡ると、国王は深く頷いてから言った。
「では予定通り、この後はタヒト・デイエと騎士団長ルーカスの試合を執り行う」
目を見開くタヒト。
口を開けたまま、ゆっくりとこちらに視線を移して小声で聞いてきた。
「そんな話、あったか?」
やっぱり。
勇者は気さくな人だった。
タヒトの紹介で進み出ると、元々の笑顔を更に崩して話しかけてくれた。
「いやぁ、またここで会えるなんて何だか感慨深いねぇ……」
しみじみと頷く勇者。
そんな彼の後ろから、ボソリと誰かが呟いた。彼の仲間らしき魔法使いだ。
「ここに来てまだ2週間も経ってませんよ」
「お?そうだったか?色々ありすぎて5年は経った気がするぜ」
「大袈裟です」
魔法使いの溜息をよそに、勇者は「はっはっは」と笑っている。
さて、どうしたものか。
いつもの様に黙っているという選択肢は無い。
彼は勇者……最上位の職種に選ばれた人間。
その能力の程は私と同等かそれ以上と考えて間違いないでしょう。
もしかしたら今後、この世界で生きていく上で、勇者に協力を仰ぐ場面があるかもしれない。
良好な関係を築いておいた方が得策……理性はそう結論付ける。
しかし本能はそれよりも圧倒的に早く、同様の結論に到達していた。即ち――
「あなたの紹介だからそうしたのよ」
きちんと名を名乗り、勇者の話に愛想よく相槌を打つ私を見て「そんなスキルがあったのか」と、失礼な問いかけをしてきたタヒトへそう言った。
彼はまるで珍獣を見るかのような眼差しを向けている……本当に失礼なひと。
確かに不安はあった。
異世界風に言うと……そう、経験値が足りないから。
けれどそれは杞憂に終わる。
魔法と同じだ。「笑顔で受け答えする私」をイメージして思考のスイッチを切り替えれば、自然と表情筋は緩み、言葉は淀みなく流れる。
考えてみれば、先程「お礼」が言えたのだからこの程度は出来て当然。仮にも賢者を名乗るのであれば尚の事。
ただ唯一……
「そんで、二人はどういう関係なんだい?」
そう聞かれた際に、言葉に詰まったのは失態だった。
「コンビ……狩り仲間ですよ。狩り仲間」
「ほぉ、そういう事かい」
タヒトがフォローしてその場は収まったが、「狩り仲間」という言葉は釈然としない。
タヒトとは長い付き合いになる――私はそう確信している。
この先、同様の質問を受ける機会もあるかもしれない。
その事を思えば――予め解答は用意しておきましょう。
☆☆☆
準備が整ったというので別室へ移動。
待ち受けていた国王の長い口上が始まる。
国を取り巻く周辺地域、他国との関係に始まり、自国の内部環境……主にモンスター被害についてを身振り手振りで説明している。
全く役に立たない情報という訳ではない。しかしその殆どはギルドで聞いた事があるものばかりだった。
その為、意識の半分程だけ傾けて聞いていたのだけれども……
「――であるから、クラス2に一番乗りしたタヒト・デイエには騎士団長との試合をしてもらうぞ」
国王がさらりと織り交ぜたその話で、私は集中を余儀なくされた。
ルーデンの騎士団長と言えば軒並みレベル30を超える戦士……そう聞いている。
対してタヒトのレベルは2。
……荷が重いという表現では生温いかしら。
さぞ動揺しているでしょうと、彼を横目で見てみる。
あら、意外に普通。
案外大物なのかも……いえ、違う。
あの眠そうな顔。聞いて無かったわね、国王の話。
他の冒険者の視線もタヒトに集まっているけれど、彼に気付いた様子は見られない。
その周囲とのギャップに思わず吹き出してしまいそうになったので、私は目を閉じることにした。
その後、順繰りに名前を呼ばれ褒美を受け取る。
タヒトは緊張していたようで、手と足が同時進行していた。
指摘するとムッとした表情で睨まれた。それはそれで新鮮。
全ての者に褒美が行渡ると、国王は深く頷いてから言った。
「では予定通り、この後はタヒト・デイエと騎士団長ルーカスの試合を執り行う」
目を見開くタヒト。
口を開けたまま、ゆっくりとこちらに視線を移して小声で聞いてきた。
「そんな話、あったか?」
やっぱり。
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