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第6話 AIアシスタント系ストーカー

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ポピン。
ポピン。
ポピ。ポピ。ポピピピピピピピピピピピピピピ

………いや、

「うるっさ!!!!」

ボフン!!
俺に投げつけられたスマホがソファーの上で盛大にバウンドした。
今何時だと思ってんだ。まだ18時だぞ、ふざけんな!
夜勤の人間にしか分からない独特な怒り方をしながら、光りっぱなしの画面を睨み付ける。
47件のメッセージ。全てこの1分の間に来ている。
イカれてんの? 1分って60秒じゃなかった? どんなスピードで文字打ってんの?

ハア、と寝癖だらけの頭をぐしゃぐしゃ掻き回しながら、渋々、スマホの画面に目を落とす。
ちなみに、そんなことしている間も通知の件数は容赦なく増え続けている。
俺のスマホが熱暴走するまえに既読をつけなくちゃならない。嫌だけど。


『シーナ』

『起きて』

『仕事遅れるよ』

『え、うわ、ビビった。寝顔の完成度高くない? ○n○nの表紙?』

『天使? 妖精?』

『こんなかわいい成人男性がいてたまるか』

『てか寝息外に漏れちゃうのもったないね。ビニール1袋分10万でどう?? 仕事終わりに吸うわ』

『だめだスヤスヤ寝てる。かわいい』

『起きてー』

『シーナく~~ん、仕事遅れちゃうよ~~』

『あ、起きた』

『はわ……あくび……尊……』

『怒った声も可愛いね♡』



「……」

そっと画面から視線を逸らす。
……朝からなんでこんな怖いもの見せられてんだ俺。

「ハァ……」

頭上を仰ぎため息を漏らすと、すかさず手の中のスマホが音を立てる。
……見なくても何言われてんのか分かるよ、俺。
ポチポチ、スマホに指を滑らせる。

《寝息もため息も売りません》

『あ、おはよう』

《おはよう》

『せっかく気持ちよさそうに寝てたのに起こしてごめんね。俺の夢でも見てた?』

《見てないですね》

『俺としては起こしたくなかったんだけど。シーナが仕事に遅れたら困るかなあーとおもって』

《月曜は仕事休み。……え、もしかしてそれで俺起こされたの?》

完全に起き損である。休みの日は朝から晩まで寝て過ごすって決めてるのに。

《ちょっとやる気足りてないんじゃないの? それでも俺のストーカー?》

『は? 俺のこと舐めてる? シーナこの間、バイトの子が休みだから月曜代わりに入るって約束してたでしょ』

「……え?」

あれ。そういえば。
慌ててカレンダーアプリを開く。

「……うわっ、うわ、やば!! やばい! 遅刻!!!」

ポピン
『ね、やる気充分でしょ』

いや、今それどころじゃないから!!
ソファーから慌てて跳ね起きた。ストーカーとメッセージのやり取りしてる間に時計の針は進んで、18時15分を指している。
やばいやばい!

「行ってきます!!!!」

ポピン
『いってらっしゃいかわいいシーナ。ちゃんと間に合う時間だから大丈夫、慌てて転ばないようにね。今日もお仕事頑張って』







――ここまで見てくれた人なら分かると思うけど、あの謎のメッセージ男との交流は、あれから数週間経った今でもなぜか続いている。てか、俺が続けてる。もっと言うなら、扱いに困って判断を後回し後回しにしてる。

だって、今のところなんの害もないんだもん。むしろ超有能なAIアシスタントみたいで助かってる節まである。
「Heyストーカーさん、今日の天気は何?」って。
ほら、現に今も、彼のおかげで店長に迷惑かけずに済みそうだ。

「遅刻ー!」

あの蛍光灯事件から、俺の周りでは不思議な現象が多発していた。
気づいたら俺の細やかなバスルームに高級シャンプーとコンディショナーが設置され、洗面所の棚にはヘアオイル、フェイスパック、ネイルオイル、リップクリームなんかが常備されている。高級ホテルのアメニティもびっくりな品揃え。……いや、高級ホテルとか泊まったことないから想像なんだけど。
興味本位でフェイスパックを使った。お肌がかつてないぐらいもちもちになった。何やってんだろ俺。

それだけじゃない。年がら年中麦茶と安売りの食パンしか入っていない冷蔵庫の中に、いつのまにか野菜やら肉やらがぎゅーぎゅーに詰めこまれていたりもした。
――いや、正体不明の不審者が用意した食べ物は流石にまずいだろ。
そう思ったんだけど、食材を捨てることも、ダメになっていくのを黙って見ていることも、俺にはできなかった。
肉、めっちゃいいヤツだったし。超うまかった。ストーカーがくれた肉なんてこと忘れてぺろっと平らげて。ハッと我に返った頃には、空になったお皿が俺の目の前でペカペカ輝いていた。
これだから貧乏人はダメなんだよな。
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