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第1話 白馬の王子様はいずこ

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「別れよう」



――ただ彼が、私の運命の相手じゃなかっただけ。

付き合ってもうすぐ3ヶ月になる恋人にフラれた。
それでなぜか、そんな言葉を思い出した。

「ただ彼が、私の運命の相手じゃなかっただけ。恋人と別れるときはそう考えることにしてるの」

俺の記憶違いじゃなければ、そう言っていたのはバーの常連のキャバ嬢だ。
美人でスタイルも抜群。そのうえ頭も良いのに、今どき本当に運命の恋なんてものを信じてる。
「私、白馬の王子様としか結婚したくないんだよね」が口癖の変わり者。

あんなにいい女でも理想の相手とはなかなか出逢えていないらしい。そりゃそうだ。白馬に乗った王子様なんか、そもそも現代の日本に存在しない。

「またフラれた」

「はは、お疲れ様」

茨の道を好んで歩く変わり者は、しょっちゅう男にフラれては、俺の働いてるバーにやってくる。
俺の周りって変なやつばっか。多分そういう星回りなんだと思う。まじで。




ある日、彼女のサイアクな元彼の話を適当にあいづち打ちながら聞いていると、"映画の趣味が合わないやつとは大抵うまくいかない"なんていう話になった。……そうだろうか。
そんな彼女は予想通り、お姫様と王子様が出てくるようなベタなプリンセス映画が好きらしい。
もし"映画の趣味が合わないやつとは大抵うまくいかない"なんていう彼女の持論が本当なら、俺たち二人の相性は最悪なんだろう。

「俺、そういう…プリンセス映画っていうの?生まれてこの方観たことないわ」

俺がついそう呟くと、彼女はきれいな顔を歪めて、信じられないものを見るような目で俺を眺め回した。宇宙人でも見つけてしまったような顔だった。

「嘘でしょ? 人生半分損してるよ?」

――半分プリンセス映画でできてる人生っていうのもどうなんだろう。
「じゃあ、おススメは?」と尋ねると次から次に映画のタイトルが上げられたわけだが、タイトルからして全然観る気にならなかった。洋画ってさ、なんであんなバカっぽいタイトルが多いんだろ。日本語の翻訳の仕方が悪いの?

……話が逸れた。話を聞くにつまり彼女の好きな映画というのは、好みの男が颯爽と現れて、クソみたいな人生から助け出して幸せにしてくれる。大方ぜんぶそういうストーリーの映画だった。
内容一緒じゃん、それ。と思わなくもないが口にはしなかった。話をしている彼女は楽しそうだったし。人の好きなものにケチをつける趣味はない。

「シーナはどういう系が好き?」

「……ん、映画のジャンル? 俺あんま知らないんだよね」

「強いて言うならで良いから」

強いて言うなら? そんなこと言われても映画なんて観る時間も金もないしな。

「あー、ならあれ、任侠映画」

適当な答えだったけど彼女はそれで満足したらしい。頬杖をついて「男はやっぱ銃打ちまくる系が好きだよね」と小さな歯を見せて笑っていた。
まあ、そうかも。俺みたいなバカでも脳直で楽しめるし、恋愛ものとかヒューマンドラマよりはアクションの方がマシな気がする。

「じゃあさ、俳優とか、好みのタイプは?」

「……んー、黒髪のダウナー系」

これは迷わなかった。
「それ特定の誰か思い浮かべながら言ってる?」と、俺のメチャクチャな恋愛遍歴を知っているはずの彼女が冗談を言ってクスクス笑う。そうだって言ったら多分ものすごく驚くんだろうけど。俺ってそういう一途なタイプじゃないし。俺は黙ったまま、氷を削る仕事に戻った。

「てかそれで言ったらシーナも黒髪ダウナー系なんじゃないの?」

「違うね。俺は黒髪不健康系」

「あはは! ウケる。こだわりがあるんだ」

「頼まれたって俺みたいなガリガリ男の相手はムリ」

「なんで??」

「ロクなやついないから」

カッコいいとかそれ以前に、薬とかやってない? 大丈夫? まず尿検査からやってもらって、それからセックスでいい? って不安な気持ちになるから、俺みたいなガリ男はごめんだ。気づいたら腕に針が刺さっててキメセクに巻き込まれてました、なんてことになったら洒落にならないし。今までそんな目に遭いかけたことがなかったわけでもないし。

「じゃあ、黒髪ダウナー系王子に『俺についてきて』って言われたらシーナでも『はあい♡』ってなるの?」

あーいいな、それ。

「なる。もーメロメロだね」

「絶対嘘じゃん! 超見たいんだけど!」

キャラじゃない俺の言葉を冗談だと思ったらしい。ケラケラ腹を抱えて笑う彼女に、本気なんだけどな、とは言わずに肩をすくめて笑った。
そんなやつがいるなら是非とも会ってみたいよ。まじで。ついでに、俺の人生、もうちょっとマシにしてくれないかって頼みたい。いっそのこと自慢の白馬で蹴飛ばしまくって、一回全部メチャクチャに壊してくれてもいいから。

でも話を聞くに、王子様のお相手には若くて綺麗な女の子しか選ばれないみたいだから、俺に出番は一生回ってこないだろう。
だって俺、普通に男だし。
ゲイだし。
中卒だし。
なんなら親の残した借金がたんまりあるし。
そのせいで金融会社のチンピラに付け回されてるし。
五臓六腑未だに全部揃ってるのが不思議なくらい身体中キズだらけだし。
恋人にフラれるのもう6回目とかだし。

俺みたいなやつの前に差し出されたら、さすがの白馬の王子様だって冷や汗垂らしながら逃げ出すに違いない。
だって俺ならそうするもん。
まともなやつなら俺なんか絶対選ばない。

『同情はするけど、出来れば関わりたくないやつ』
自分で言うのもなんだけど、俺ってそういうタイプの人間だ。






「シーナ? 聞いてんの?」
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