原作ゲームで闇堕ちして死んだ推し(ラスボス)の少年時代が落ちてたので、愛でて貢いで幸せにする

チャトラン

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14 魔法を習得しましょう

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「てなわけで魔法の原理について説明します」

俺はシャープペンシルの芯をカチカチとやりながら、人生初の教師業に取り組んでいた。

「……また物が増えたな」

シドが身の回りに増えたローテーブルやら座椅子やらクッションやらを見ながら呟いている。
もう何も言うまいという顔だ。
寝床にテーブルにと揃ってきたせいで、シドの牢獄は牢獄というよりもはやちょっぴり薄暗い部屋と言った方が正しいくらいになっている。

「……そもそも、アンタの世界には魔法がないって言ってなかったか」

「ウン。これっぽっちもない」

カキカキとルーズリーフに人間の形を書いていた俺は、シドの不思議そうな声に顔をあげ潔く頷いた。
キュッと口角を上げる俺にシドが怪訝に眉を寄せる。
そりゃあ現代日本人である俺に魔法の解説はできない。だけど、俺がこれからするのは魔法の解説じゃなくて、己の生活習慣を破壊しながらやり込みにやり込んだゲーム『ラスト・キング』の勝手知ったる戦闘システムについての解説なのだ。

「まあ、先生にどんと任せなさい。必ずやシドを立派な魔法使いにしてみせますからね」

それこそいざとなれば指をパチンと鳴らしただけであっという間に、あんなトロールたちを黒焦げにできるような魔法使いにね!





「まず何からいこうか……最初に魔力の説明しとこうかな」

カリカリとルーズリーフの上に簡易的な人間の絵を描いて、それをトンとシャープペンシルの先で指して見せる。

「えーと、この世界の空気には魔素って言われる魔力の元が漂っていて、それを……確かこの辺。この辺にある目に見えない器官で自分の力として変換したものが、一般的に魔力って呼ばれてる力なんだって。だからこの世界の人たちにはみんな大なり小なり必ず魔力がある。……ちなみにシドは大なり小なりの物凄く"大"の方だから自信持ってね」

俺は『ラスト・キング』作中でその謎器官があるとされていた人間の胴体のちょうど真ん中あたりに星のマークを書きながら話を始めた。

「なんかこうイメージとしては息をするときに空気中から酸素を取り込むみたいな感じで魔素を取り込むらしい。だから魔法を使うときには呼吸が結構重要になってて。疲れてゼーゼー肩で息をしてたりすると魔法が使えなかったりする」

これはまさに戦闘システムの話だ。
レベルの低いうち『ラスト・キング』では魔法が連打できない仕様になっていた。つまり俺はシドに魔法のことを教えているようで『ラスト・キング』の世界の仕様について教えているのである。なんかちょっと変な話だ。

「だからこう鳩尾の下あたりに意識を集中しながら呼吸をして……」

俺はシャーペンを離し、左手で胸を押さえた。
そして別に魔法が使えない俺がやったところでなんの意味もないのだけど、デモンストレーションとして、フーと深呼吸をしながら右手の人差し指を立てる。

「それから胸の下あたりに溜まってる魔素を意識して、それを指先とか手のひらにグググと流していく。あとは出力したい魔法のイメージをしながら思いっきり放出すればこんな風にっっ!!!…………って、マア俺にはできないんですけども」

"できないんですけども"。
そんな言葉と共にヘラリと上げた俺の顔の隣。
ピッと立てた人差し指の先で、何かが猛烈な音を立てて弾けた。
……大変見覚えのある光である。

「「……」」

俺とシドの視線が、そっと俺の人差し指に集まる。
――なんか出たな今。
こちらをチラとみたシドと目が合った。

「アンタ、魔法は使えないって言ってなかったか」

使えないです。
日本人なんで。

「……基本の魔法の出力というのは、しっかりとイメージをしなかった場合、本人に馴染みのあるものでされることが多いと言われていますね」

だから俺の場合、つい最近使ったスタンガンの光が再現されたわけ、なのかな……。
そんなことをボソボソ言い訳のように呟きつつ、スッ……と人差し指をパーカーのポケットに突っ込む。
シドが「今のをなかったことにする気か」という顔で、俺がそっとテーブルの下にしまった人差し指を目で追った。
ま、まあ、異世界にドアが繋がってるこの摩訶不思議状況に比べたら、指先で静電気がパチパチするなんてほぼ誤差みたいなものだし。
今は俺の魔法がどうこう言っている場合じゃないし……。
既に異世界と押し入れが繋がるなんてまるで説明がつかない摩訶不思議現象に巻き込まれているのだ。あれこれ理屈こねて考える方が野暮というものである。
きっと現代日本人にも実は魔力を作る謎臓器がちゃんとあって、魔素が空気中に漂ってるこの世界に来さえすれば魔法が使えるようになるとかそんな感じなんじゃないか。電気って現代人の俺に馴染み深いものだし。……知らないけど。

「雷の魔法なんて聞いたことないけど」

「……」

知ってる。
『ラスト・キング』には雷の魔法なんてものはなかった。
火とか氷とか風とかそういう基本的なものや、その他応用で宙をふわりと飛んだりとか瞬間移動したりとか、そういうものはあったけど、雷なんてものはなかった。

「……ずっと思ってたんだが、アンタってどの口で普通の人間を名乗ってるんだ?」

そうだね。普通の人間は何もない壁に謎の扉を作って「や」と毎週訪ねてきたりしないもんね。挙げ句の果て存在しない雷の魔法を使ったりしたらね。そりゃね。

「……い、異世界人だから魔素を作る臓器もちょっと仕組みが違うとかそういう話なんじゃない?」

多分そう。
てかそれ以上のことが俺にはわからない。
ジ……と依然俺の人差し指のあたりを見てくるシドに、タラタラ冷や汗をかきつつ俺は話を変えるべく分厚い数冊の本をドスンドスンと天板の上に積み重ねた。
シドの切れ長の目がそちらへ移り、ホッと息をつきながら話を逸らす。

「これね、サバイバル本だから、読んでおいてね」

「……サバイバル本、」

「うん。サバイバル本」

ズイ、とシドの方へ重たい本たちを滑らせると怪訝な顔をした彼が微かに身を引いた。俺、サバイバルをすることになるのか、という表情をしている。
はい。することになる可能性が極めて高いです。というか、この世界での旅が基本、街につくまで火おこし野宿サバイバルです。

「いや、そもそもこんな本を持ってこられても、俺に異世界の本を読めるわけが……」

シドがそんなことを呟きながら本を手に取る。
そしてペラペラとページを捲り始めた。

「……」

「読める?」

俺は段々と目を丸める彼の様子を見ながら、そう声をかけた。
そこの心配はちっともしていない。彼は間違いなく日本語が読めるはずだ。
だって『ラスト・キング』、作中の言語が普通に日本語表示だし、他言語に翻訳されてないから。てか、今彼に日本語が通じているから。

「これで強く逞しくなってね」

シドはめちゃくちゃポテンシャルが高いから大丈夫。俺なんかよりよっぽど賢いし。

「その辺の魔物なんて欠伸溢しながらでも一捻りできるようになるから大丈夫」

ついさっき自分の指から魔法が出たことに死ぬほど動揺してた奴が何を根拠に……という顔をされているが、根拠ならある。『ラスト・キング』で見たシドのステータス画面という絶対的な根拠が。

「まあ、ほんの数週間試してみてよ。絶対できるから」

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