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実る思い実らない思い

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 バレンタイン当日、二人で登校すると圭一郎の靴箱には数通の手紙とチョコレートが入っていた。



 まあ、これくらいは想像の範囲内だから何とも思わない。

俺も今日は圭一郎にお菓子を準備してきているし。女子の気持ちも分かる。

今日は特別な日だもんな。



 しかし。いくら箱に入っているとはいえ、食べ物を靴箱に入れない方がいいと思うぞ。



 今日の学校は、男たちがソワソワしていて何か笑える。



教室に入ると、順一が「圭一郎の机、大変な事になってるぞ!」と声を掛けてきたので見てみると、チョコレートと手紙で、夜逃げした家のポストのような状態になっていた。



 すげーな。



順一が周りに聞こえないように気を遣いながら話しかけてくる。



「モテる彼氏を持つと大変だな。」

「な。どうしようもねえよな。お前はどうせ今日は彼女と過ごすんだろ?高校が違うと大変だな。」

「そうだな。今日みたいな日は寂しく感じる。」

「うをっ!順一が素直!!よしよし。俺が慰めてやるよ。」

「だが断る!圭一郎に絞殺される。」

「ははっ!何だそれ!・・・今日の圭一郎は、あれの処理と対応で俺に構ってる暇なんてねーよ。」



 心の中で溜め息をつきながら自分の席へと向かう。

俺は、放課後に渡す予定にしているから今は焦る必要はない。



 ロッカーから教科書をとり机に入れようとした、が



「あれ?何だ?入らねー。」



 机の中を覗くと・・・え?なにこれ。

 覗いた姿勢のまま固まっている俺に気付いた健介が笑っている。



「直君。それ!机の上に出してみなよ!!」

「う、うん・・・。」



無造作に入れられた箱を全て取り出す。

六個の箱と一つの袋と四通の手紙。どれも、圭一郎のとは違いシンプルなものばかり。

健介に促されて、手紙を一通ずつ開く。



『俺は、おまえが好きだ。』

『僕は先輩が好きです。』

『好きだ!』

『好きだ。男の俺を受け入れて欲しい。』



 名前は無い。この四人。女の子じゃないよね。多分。

・・・健介。これ、どうすればいいと思う?

順一も来なくていいから。あっ、友也まで寄って来たじゃないか。



 大きめの袋が気になって開けてみた。



「あ、見て。この袋ポテチだ!!やったー!!」

「直君。良く見て。袋に何か書いてあるよ。」

「ん?」



『俺は一年の頃から巻島君が好きです。

 本当に好きで好きで大好きです。

 とても好きです。可愛いです。

 はぁー好きだ。本当に好きです。 』



「・・・な、何か愛が重いな、これ。名前はないか。まあでも、ありがと。美味しくいただきます。」

「直樹もモテモテだな。」

「からかうのは止めたまえ、友也君。それよりお前は誰かに貰ったのか?」

「それは聞かない約束だろ・・・。」



咲ちゃん、まだ渡してないんだ。放課後かな。



 圭一郎は休み時間はあまり教室に居なかった。







 男共の浮足立った一日も終わり、圭一郎と帰るために教室で待っていると、咲ちゃんに話しかけられた。



「まっきー!」

「あ、咲ちゃん!友也に渡した??」

「うん!緊張したけど渡せた!告白もした。」

「・・・どうだった?」

「えっと、少し考えさせてって。」

「そっか。」

「でも、ちゃんと真剣に考えるからって言ってもらえた!」

「そっか。友也はちゃんとした奴だから、真剣に答えを出してくれるよ。」

「うん。まっきーは?今日、野田君にチョコあげるの?」

「実はさ、兄ちゃんお菓子作るのが上手くてさ、教えてもらって作ったんだ。」

「えっ?手作り!?凄い!野田君、絶対喜ぶね!」

「うん。でもあいつモテるから今、女の子の所に行ってる。だからまだ渡せてないんだ。」

「そっかー。それも辛いね。まだ待ってるの?」

「うん。」

「じゃあ、私行くね!」

「おう!おつかれー!」



友也の奴がどんな答えを出すか分からないけど、俺は余計な事は言わずに見守るしかないな。咲ちゃんの気持ちも実って欲しいけど、友也の気持ちも大切だしな。



「あっ!直樹!!」

「あ、圭一郎。終わった?」

「それが・・・まだ帰れそうにない。」

「じゃあ終わるまで待ってる。」

「いや、直樹を一人で待たせるの嫌だから、今日だけは先に帰って。」

「え?大丈夫だよ。待ってるから。話したい事あるし。」

「ごめん。話は明日ちゃんと聞くし、待たせるの嫌なんだよ。」

「俺、ちゃんと待てるよ。明日じゃなくて今日がいいんだよ。」

「俺が不安なんだよ。待たせておくの。」

「でもさ・・・。・・・・・・分かった。先に帰るね。」

「本当にごめん!気をつけて帰ってよ。着いたらメールして!」

「うん。わかった。・・・ばいばい。」





 圭一郎に渡せなかった。どうしようか。

夜に圭一郎の家にもって行こうかな。せっかく作ったんだ。





 とぼとぼ歩きながら、チャンスはまだある。今日が終わるまでに渡せばいいんだから。と自分を慰める。圭一郎の家が近くて良かった。夜でもすぐに行ける距離だから。





「あれ?直樹?」

「あれ?兄ちゃん。今、帰り?」

「そうだよ。直樹元気ないな。どうした?」

「お菓子、渡せなかったんだよ。でも夜渡してくる。」

「そうか・・・。頑張れよ。これ、一緒に食べるか?」



 兄ちゃんが今日の授業で作ったチーズケーキを公園のベンチに座って二人で食べる。



「そういえば、兄ちゃんは彼女いないの?」

「・・・フラれた。浮気がバレた。」

「はぁ?兄ちゃん!浮気するタイプの人間かよ!」



確かに兄ちゃんは父親に似て、男らしい整った顔をしていて憧れる。モテるだろう。



「兄ちゃん。ダサいな。」

「・・・直樹に嫌われたくない。」

「ははっ!別に嫌わないけど、浮気はするなよ。」

「善処する。」

「いやいや、もうしないって断言しろよ!」



 浮気者の兄ちゃんが作ったチーズケーキは最高に美味しかった。浮気者のくせに。



 
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