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運命の旅行―1日目―④中身の人変わった?

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 奇跡的に恋人になって十五分が経ちました。

 高校の時、先輩に嫌われてから・・・と言っても本当は嫌われては無かった事がこの前判明したんだけど・・・その時以来、恋なんてしてなかったし勿論恋人なんていなかったからこの関係に戸惑っている。空に好きだと言ってもらえた時は、正直に言うと嬉しい反面、信じられない気持ちがあった。これは別に空を信用していないのではなく色恋沙汰に慣れていないからだ。

 人とお付き合いなんて、恥ずかしい話だが中学の時以来。しかも告白されて何となく付き合った感じだったし、恋愛感情にのめり込む事も無かった。本当に好きな相手と恋人同士になるのは初めてなんだ。


 と、心の中で回想し現実逃避してみたけれど状況は変わってなかった。


「愛斗、そんなに緊張しないで。やっと俺の愛斗になった。」


 そう言って、頭に頬をスリスリしてくる彼氏になった愛しの空。そんな空の膝の上に座っている俺。

・・・俺、初心者なんだけど!!


「空。嬉しいんだけど、俺本当に慣れてなくてドキドキしちゃうから、初級編からお願いできる?」

「ははっ。本当に愛斗は可愛いな。でもね、この膝抱っこは初級編だよ。だから早く慣れてね。」

「ふぁぁ?こここれが初級編!?えっ、じゃあ手繋ぎとかハグは??あれが初級だろ??」

「違うよ。あれは初級編の前の入門編だよ。」


 にゅ、入門編???そして膝抱っこは初級編・・・。これでも一応、中学の時に女の子と致したことはある。でも二回くらいのものだ。周りの子も経験してるからという彼女の言葉で、あまり乗り気ではなかったものの興味はあったため抱いた。抱いたというのも烏滸がましい程に幼く、ただ挿入するだけの行為だった。そう考えると相手の子に申し訳ない。まあ今はちゃんとした彼氏に気持ちよく抱かれている事だろう。

 そんな感じだから俺はほぼ免疫がない。ましてや男同士なんてゼロなのだ。憧れはあった。心も繋がった者同士の触れ合い。それは性別関係なく、気持ちが通い合った恋人の存在というのは尊い存在なんだろう。


 ふと空の顔を見上げる。確かに尊い。

 そうか、これからは空が俺に沢山の初めてをくれるんだな。


「どうした?愛斗。」

「これからは、空が俺に沢山の初めてを教えてくれるんだろ?」


 教えてもらえるのかを聞きたかったのに、顔を真っ赤に染めた空にきつく抱きしめられた。

 これは、教えてくれるって事でいいのかな?


「あとさ、さっきから気になってたんだけど・・・初級でこれなら上級はどうなっちゃうの?」


 単純な疑問だったんだけど、何故かまたギュウギュウと抱きしめられた。

 空って温かい。ギュッてしてくれるの大好きだ。


 それから夕飯までの間、明日の計画を立てることにした。
 近くの海に釣りができるポイントがあるらしく午前中は釣りを楽しむ事になった。今でこそ超インドア派の代表のようになっているが、小中学校の頃は父さんと時間さえ合えば釣りに出かけていた程の釣り好きだったのだ。それを話すと空も驚いていた。『釣った魚は自分で捌く』がルールだったから三枚下ろしもできるんだぞ!!

 二人でのんびりまったり過ごしていると夕飯の時間になったようで、部屋に豪華な食事が次々と配膳されていく。海の幸から山の幸まで、ここら辺は美味しいものが沢山とれる様で、食材の宝庫だと仲居さんに教えてもらった。確かに、どの料理も食材の味が活かされていて美味しかった。

 でもやっぱり俺にとっては、初めて会った時に食べた空のお手製パスタの方が美味しく感じたけどね。それは内緒だ。言ってしまうと、また膝の上に逆戻りの予感がするから。せめてご飯は座って食べたい。


「そういえば、撮影は順調に進んでるの?」

「ああ。大体は順調!愛斗は?」

「うん。相変わらず締切前は大変だけど順調だよ。空に仕事の事で相談があるんだけど。」

「仕事の相談なんて初めてだな!どうした?何か辛い事でもあるのか?出版社の誰かにセクハラされたのか?言い寄られて困ってるとか??スト―カーされてるのか?」

「ちょっ!多い多い!文字数過多!違うよ。内容も全然違うから!」


 恋人の称号を得た空は、砂糖菓子で出来てるんじゃないか?と思う程に甘々で、俺一応成人してますけど!男ですけど!!と言いたくなるほどに心配性にジョブチェンジしてしまった。

 これが本来の姿なのかな。いや、中身入れ替わり系の異世界転生?何か前世思い出したか?と結構本気で思ってしまうくらいだ。・・・嬉しいけどね。これも内緒。


「松永さんには相談してあるんだけど、今度さ新しく漫画を描こうと思ってるんだ。」

「うん、どんな?」

「ストーリーはノンフィクション・・・で、俺が空を好きになってからエンドを迎えるまでの話。昨日までは最後はバッドエンドになる事を覚悟してたんだけどね。ハッピーエンドで良かった。」


 笑顔でそう言うと温かい手で頭を撫でてくれる。


「もちろん、職業とか名前とか細かい設定は変えて、身バレしないようには配慮するよ。だから、描いてもいい??」


 てっきりOKを出してくれると思っていたが、空は難しい顔で考え込んでしまった。題材として使われるのが嫌だったのだろうか。

 しかし空の答えは、想像の遥か斜め上をいっていた。


「ねえ。その漫画さ!名前も職業もそのままにしようよ!キャラの顔も俺と愛斗に限りなく似せて描ける?俺と愛斗の物語をそのままの形で残そうよ!」

「えっ!!??でも、バレるよ?俺たちの関係も。しかもジャンル的にBLだよ。」

「大丈夫!なんとでも言い逃れは出来るから!だって漫画で残すならそのままの方がいいなって思ったんだ。ね!お願い!!」


 本当に大丈夫だろうかと考えたが、本名を使えばいいし作品として完成するまで時間もかかるだろうから大丈夫かと思い了承した。

 この空の醸し出すキラキラオーラを絵で表現できるかが問題だ。


「俺も、CMが決まるかもしれない。」

「えっ!!!すっご!!何のCM??」

「チョコレートのCMと女性用下着。まだ確定はしてないんだけどね。」

「女性用下着!!・・・空が着るの?」

「ぶはっ!ちょっ。やめて!」

 空が下着をつけている姿を想像したら笑いが込み上げて来て二人で笑いながら楽しい夕食を終えた。


 空の仕事もどんどん増えているようで安心した。画面の前では爽やかでスマートな『海』を演じているが、陰では沢山の努力をしている事を知っている。その裏の姿を俺には見せてくれる事も嬉しく思っている。

 この人の隣に胸を張って並んで立てるよう俺も頑張ろう。


「そーらー。もう一回お風呂入りたいね。絶対に星が綺麗なはず!」

「そうだね!いいね!さっき言ってた展望台は明日にしよう!」

「お風呂は展望台に行ってからでも全然いいけど?」


 すると空の顔が近づき、耳元で囁く。



「さっき言ったでしょ?愛斗の全部を貰うって。」



――――――ピキッ

 固まった。



 それにしても、ずっとくっついていたせいで一緒にお風呂に入る抵抗感がなくなっている。

 慣れって怖いね。


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