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運命の旅行―1日目―③本当に心臓がヤバいんですけどぉ!

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 やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい。

 何故か、空と一緒に風呂に入る事になってしまった!!

 やばい、やばい、やばい、やばい、たすけて。


 男同士だし、空は友達と風呂に入る事なんて今まで何回もあっただろう。だから何も感じないだろうし、当たり前の事だと思う。

 が、しかし!俺は違う!秋好とでさえ一緒に風呂に入る事なんて修学旅行の時くらいだった。

 あ、そうか。旅行だから一緒に入るのか!そっか、そっか。納得、納得!


・・・な訳ないだろ! だって、空は・・・好きな人だから。


 こんな邪な目で見てしまうなんて気持ち悪いと思うけどさ。

 しかも、何か今日の空は変なんだよ。すっごく距離が近いし、所かまわず手を繋ぎたがる。あれは何でだ?もしかして、俺が迷子になると思ってるのだろうか。いや、流石の俺でも部屋の中で迷子にはならないよ。でも、一緒に風呂に入らないといけないなら迷子になった方が良かったか??


「空・・俺・・やっぱり・・・。」

「ほら!愛斗脱いで、行くよ!!」

「・・・はい。」


 だよな、もう無理だよな。だってもう脱衣所だもん。覚悟を決めるしかないよな。

 覚悟を決め、服を脱ぎ棄て(実際には脱いだ服は綺麗に畳んでカゴにしまったけど)腰にタオルを巻き、外へ出た。

 目の前に広がる景色に思わず声を上げ、慌てて口を塞ぐ。


「本当、いい眺めだよね!凄い景色だね。」

「う、うん。」


 俺が思わず声を上げてしまった景色というのは、綺麗に引き締まった空の上半身が目に映ったからなのだが、曖昧に頷いておく。

 簡単に身体の汚れを洗い流し、二人で湯船につかる。


「はぁぁぁ。気持ち良い!俺、もしかしたら修学旅行以外で温泉って初めてかも!本当、気持ち良いね、空。」


 と言いつつもドキドキしている。
 近いのだ!距離が!!近いのだ!!!


「愛斗に楽しんでもらえて良かった。」

「うん楽しい。ゲスい話になるけど、お金はあるから温泉なんて行こうと思えば行けるし、良い旅館だってお金出せば泊まれるんだよ。でもさ、一人で来ても何も楽しくないよね。空が一緒だからこんなに楽しい。やっぱり世の中お金で買えない物ってあるよね!」


 ありがとう。と笑顔で伝えると、「んぐっ」と唸り天を仰ぐ空。心なしか顔が赤く感じる。


「空、大丈夫?のぼせた??出る??」



「・・・愛斗!ごめん!!!」




 次の瞬間、唸るように言葉を吐き出した空に腕を引かれ、気が付けば後ろから抱きしめられていた。所謂バックハグされていたのだ。

!!!!!

 何故こんな状況になっているのか理解が追いつかない。空の顔が見えなくて怖い。でも、確かに空に抱え込まれている。遠くで聞こえている波の音と自分の鼓動だけが響いている。


「そ、そ・・ら?どうしたの?」

「愛斗ごめん。本当は夜に綺麗な星が見える丘で言うつもりだったんだ。もっとムードのある場所で、最高の思い出になるように。」

「え?何を?」

・・・・・・・。

「愛斗・・・好きだ。」

「・・・え?・・・幻聴?」

「好きだ。恋人になって欲しい。」

「え・・・こ・・いびと?・・・うそ・・・」

「嘘じゃないよ。初めて愛斗に会った時から少しずつ惹かれていったんだ。一緒に居ると楽しくて心が穏やかになる。笑顔を見ると嬉しくて、自分まで楽しくなる。仕事が忙しくて疲れてる時でも声を聞けば元気が出る。」

「そ、それは・・・本当に恋愛の意味で、俺の事を好きなの?勘違いじゃなくて・・・?」

「本当だよ。信じて。手を繋いだり、キスをしたり、抱きしめたり、セックスしたり、全身を舐めまわっ。」

「わわわわわわ!何を言ってるんだ!!」


 思わず振り返り、両手で空の口を塞いだ。

 本当なの?これは現実?

 口を塞いでいた手を離し向かい合う。


「信じていいの?どっきり企画とか罰ゲームじゃない?」

「ははっ!相変わらず愛斗の発想って面白いよね。・・・お願い、信じて。」


 空の真剣な眼差しを見れば嘘でない事は分かった。言葉が出ない。胸に熱いものがこみ上げて来て上手く息が出来ない。次第にその熱は目の奥に集まり、決壊した。

 泣かないで、と言いながら優しく涙を拭ってくれる優しい手。大好きな手。


「そらぁ。ほんとう?」

「本当だよ。ほら泣かないで。愛斗の気持ちを教えて。」

「だ・・・。」

「だ?」

「だいすきぃ。」


 何とか絞り出したたった四文字。空にはちゃんと伝わった。

 きつく抱きしめられ、やっと手に入ったと呟く言葉に、更に涙が止まらない。

 こんな幸せな事があっていいのだろうか。好きな人に好きになってもらえるなんて奇跡が本当にあるんだ。なんて幸せなんだ。これは夢か??

 しかし、直に伝わってくる空の体温が現実だと教えてくれる。


「愛斗。キスしていい?」

「・・・ん。」


 唇にチュッと柔らかい感触。優しく軽く触れるだけのキスを何度も。それだけで頭がふわふわしてくる。甘い甘いキス。

 火照りを感じ「ほぅ」と熱い吐息を吐くと、すかさず舌が侵入してくる。久し振りの感触にビクッとなるが、逃がすまいと空の腕に尚もきつく身体を引き寄せられる。熱い舌に何度も舌を絡め取られ、歯列を確かめるように撫でられ・・・俺は限界に達した。

 空の胸をタップし唇が離れた隙に、恥ずかしさからギュッと目を瞑り訴えた。


「そら!ドキドキしすぎて・・・今度こそ心臓が破裂する!!」


 愛斗可愛い。と呟いて額に優しいキスが降ってくる。


「愛斗。恋人になってくれる?」

「うん。絶対なる!俺も空が大好きなんだ!」


 相変わらず恥ずかしくて半ば叫ぶように答えた俺を、笑いながらも宝物のように抱きしめてくれる感触に、また泣きそうになった。


「さっきも言ったけど、本当はもっと素敵な場所で、最高の思い出になるようにロマンチックに告白するつもりだったんだ。でも、笑顔が可愛すぎて我慢できなくなった。ごめん。こんな場所で。」

「な、なに言ってるの?場所なんて関係ないよ。空が『好きだよ』って言ってくれるだけで、場所がどこだろうと全てが最高の思い出になるよ。ありがとう。本当に幸せ。」


 好きだと言ってくれたからこそ伝えておかなければいけない事がある。


「あのさ。空の事が好きな時点で分かっているかもしれないけど、俺・・・ゲイなんだ。中学の最後で気が付いた。でも、男の人と付き合ったことはなくてさ。空が初めてなんだ。その~・・・空は?空も恋愛対象はそうなの?」

「俺もそう。最近まではバイかなと思ってたけど、多分愛斗と同じ。女は苦手なんだ。」


 その言葉に、何日か前に見たキスシーンを思い出す。


「えっそうなの?あの時のキスシーンは大丈夫だったの?ごめんね。俺がキスシーンを描いてたばかりに。」

「ははっ。あれは仕事で演技だと割り切ってるから大丈夫。」

「おぉぉぉぉ。さすがプロ!」

「でもあの後、愛斗とキスしたくて堪らなかった。」


 空はすぐに爆弾を落としてくる。真っ赤になった顔を見て嬉しそうに笑いながら「もう出ようか」と俺を抱きかかえ脱衣所へ向かった。

 ふわふわした感覚が抜けずに呆けていると、ササッと体を拭き、チャチャッと浴衣を着せてくれ、ドライヤーで髪の毛を乾かしてくれる。

 最後に・・・

「今夜、愛斗の全てを貰うから。」

 と耳元で囁く。


 えっ!それって・・・まさか・・・せっかく治まった熱がぶり返す。

 ハッとして反射的に空の顔を見上げると、そんな俺の様子を見た空はニヤッと色っぽい笑みを残して部屋へと戻っていった。

 だから・・・だから・・・・

 本当に心臓がヤバいんですけどぉぉぉぉ!!!!
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