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何で俺の代わりに
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灰色の目をした男に話せ、と言われたが。
何を話すんだったかな…
強い酒に酔いすぎた…
頭の中がもやもやして…
「ちっ、効き過ぎたかな」
目の前で小さく舌打ちをされた。
効く?
確かに男はそう言った。
それで酒に混ぜて薬を盛られたことが判った。
逃げないとやばい。
俺は立ち上がろうとしたが、直ぐに男に肩を抱かれて拘束された。
「へぇ、もう酔っちゃったんですかー。
まだ1軒目ですよ。
夜はこれからじゃないですかー。」
男は周りに聞かせる様に大きく陽気な声を張り上げる。
(こいつこいつこいつ誰だ誰だ誰だ)
片手でふらふらな状態の俺を拘束して、片手で勘定を支払っている。
普通の男じゃこんなこと出来ない。
(助けて助けて助けて)
恐怖で頭の芯が冴えてきてるのに、声が出ないのはどうしてだ?
「ちょっとぉ~お兄さぁん、飲ませ過ぎだよぉ。」
女給がしなしなと背の高い男を見上げて言う。
男がおつりをいらないと言ったので媚びているのだ。
「お兄さんも、西の人でしょぉ~?
あたしもそうなんだぁ~。
サービスするからさぁ、明日もそっちのお兄さんと一緒にきてねぇ~。」
店の外まで出てきて女が愛想を言った。
男は振り返りながら手を振った。
俺の肩を掴んでいる反対の手は緩みもしない。
男は裏道に入り、停まっていた馬車に俺を押し込んだ。
違う、そうじゃない。
酒に酔わせて薬を飲ませた俺をどこかへ連れて行くために
ここに馬車を待たせていたのだ。
御者は男の仲間だ。
歩いてた俺に声をかけたんじゃなくて、
俺が来るのを待ち伏せして、声をかけた。
「これで、少しはましになるだろう。」
そう言って男は俺の鼻をつまんで無理矢理に口を開けさせた。
黒い薬みたいなのを放り込んで、馬車の中にあった水筒の水を
流し込んだ。
男の言葉からは訛りが消えていた。
俺の向かいに座る姿勢や目線で。
一連の動作が流れる様に綺麗で。
酒場に居た時と別人の雰囲気がした。
男は荒い仕事に慣れている。
だが、はした金で雇われて汚れた仕事をしている様に見えない。
(こいつは本物だ)
職業として、淡々と人を痛めつける事が出来るやつ。
必要だったら、躊躇なく命を奪うことが出来るやつ。
あの街のオーナーなんかが雇える男じゃない。
公爵か?
3年経って大丈夫だと思ってたのに。
思い当たる限り、このクラスの男を雇えるのは
ランカスター公爵しか居ない。
「さて。」
男が言ったように、口は少し動かせるようになってきたが、
体は自由に動かせない。
「ノーマン、お前には感謝してる。
御礼に奢りたかったのは本当だ。」
「だ、だから何のお、御れ、れぇいだ」
「まだ滑舌悪いな。
暫くしたら、もっと楽になる。」
「た、たすけ、けで」
「そんな当たり前の事しか言えないなんてがっかりだな。
…目的地まで結構かかるぞ。
気を楽にもてよ。」
「ど、どご?」
目的地。
そこに着くまでは俺は殺されないと言うことか?
それに微かな希望の光が見えた。
こいつに直ぐに殺されるのではない!
絶対逃げるチャンスはある!
男は俺の顔を見て嗤った。
「元気出てきたな。
その調子で、歌って貰おうか。」
「…」
「何で俺の代わりにクリスティンを殺した?」
◇◇◇
その話は絶対に誰にも話さない。
あの時から決めていたのに
思い出す事もしないようにしてたのに。
それなのに急に頭の中に色々な情景や言葉が浮かんできた。
するとそれが勝手に口に出る。
これは俺の意思じゃない。
男が俺に盛ったのは強力な自白剤か…
無理矢理押し入った湖畔の別荘。
何故か護衛の男達は居なかった。
立ち塞がった女を突き飛ばすと、壁に頭を打ち付けて
動かなくなった。
クリスティン様は俺の顔を見るなり言った。
(今頃何しに来たのよ、お前。
お前のせいでお父様に知られたじゃないの。
でも私はあの御方の名前は絶対に言わない、って。
そうよ、お前はあの御方の代わり。
あの御方が私をお迎えに来てくださるまでの
代わりだったのに。)
王都の公爵邸にクリスティン様を訪ねた。
もう俺には何もなくて誰も居なくて。
門番が入れてくれなくて、手を振られた。
汚い犬にあっち行け、とするみたいな手の振られ方に
かっとしたが、ここで文句を言って暴れたりしたら、
直ぐに第3がやってくる。
先日まで同僚だった奴らに捕まるのは耐えられない。
仕方なく裏門で見知った顔が通らないか待った。
クリスティン様が湖畔の別荘に伴った使用人達。
出来たら女がいい。
女は皆伯爵家の俺にも丁寧だった。
男達はクリスティン様の前では慇懃に接したが、俺だけだと
冷たかった気がする。
特に彼女専用の執事は昔見習いの頃から彼女の世話をしている、
と紹介された日から俺を見る目付が。
俺を見るギリアンの目と同じだった。
ここに来る直前に会って、その目の意味を理解した俺は、
クリスティン様の執事にも憎まれていたと気付いた。
だからあいつにだけは会いに来たと知られてはならない。
幸いなことに暗くなる前にメイドを捕まえた。
(閣下に命じられてお嬢様は別荘に戻された。
何故だか判らないけど、お嬢様と一緒に別荘に行ったのは、
乳母をしていた侍女長だけ。
護衛数人とおふたりで冬を越して春になったら帰ってくる。)
別荘にあの執事が居ないなら。
明日の朝一番で湖へ向かおう。
もう家には戻らない。
俺を居ない者として扱うなら、こっちから棄ててやる。
クリスティン様に綺麗な身体になりました、
そう教えて差し上げよう。
何度も愛していますと言ってくれた。
今なら彼女に応えてあげられる。
その筈だった。
笑顔も見せずクリスティン様が言った。
(いいわ。せっかく来たから教えてあげる。
私とあの御方はやっと結ばれたのよ。
お互いの立場があって、二人とも我慢していたの。
口に出してはくださらなかったけれど
あの御方が私を愛してくださっていたのは知ってたわ。
あの御方も私が言えないことは理解してくださっていたの。
お互いに結ばれない運命だってあきらめたの。
仕方なくあの御方はご結婚なさった。
仕方なくよ、5歳も年上の女よ。
愛してるわけないじゃない。
皇帝陛下からお古を押し付けられたの。)
夏には俺の事を『ノーマン様』『貴方』と呼んでくださって
いたのに、お前と言われた。
(久しぶりにお会いして、大人になったねって言ってくださった。
今ならあの御方に愛していますとお伝え出来ると思ったのに、
いつも隣にあの女が居るの。
あの御方と女の間には子供が2人も居たけど、偽りの結婚
なのは判ってた。
上のジュノー君は凄く可愛いの。
あの御方にそっくりで、あの御方の小さい頃はこんなに
綺麗な男の子だったんだなって。
ジュノー君と遊ぶのは楽しかったわ。
抱き締めたらお顔を赤くするの。
だけど、下の娘はね、女に瓜二つ。
皆に隠れてわざと足を踏んだり、つねってやったの。
お姉ちゃまなんて最初は纏わり付いて来てたけど、その内私の顔を
見たら逃げるようになってきて可愛くなかった。
娘をあの御方が『僕の小さなお姫様』って抱き締めるのも
気にくわなかったの。
そんな嘘を私の前で言わなくちゃいけないあの御方がお気の毒だったわ)
俺が居ることなど忘れたように。
熱に浮かされるように。
クリスティン様は話し続けた。
(皇帝陛下から下賜された女よ。
あの御方は我慢されて優しくしてあげてたの。)
クリスティン様は自分自身に語りかけているようにも見えた。
(毎日、朝の庭をふたりで腕を組んで散歩していらっしゃった。
あの女はおばさんの癖に、甘えた声でずっと話しかけてるから、
あの御方は黙って頷いていらしたの。
気持ち悪いのを我慢されているのが判ったわ。
早くふたりきりになってお慰めしたかったのに、
全然ふたりになれなくて。
護衛の男も邪魔ばかりして。
アーロンの側近が嫌な感じだったけれど、あの御方の護衛の男も
同じなのよ。)
この時だけクリスティン様の表情が歪んだ。
(もうすぐ帝都を離れなくちゃいけないのに、ふたりになれない
から、娘を使うことにしたの。
子守りの目を盗んで誰も居ない部屋に連れ込んで、こう脅したの。
『言うこと聞かないと、次はお兄ちゃまを苛めてやるから』って。
勿論、ジュノー君を苛める気なんかなかったわよ。
だけど娘は本気にして震えてた。)
その時の事を思い出して、クリスティン様はクスクス笑った。
機嫌が短い間隔で上下している。
(『おばあちゃまのお家にお母ちゃまとお兄ちゃまと3人で
行ってらっしゃい』って。
おばさんにそっくりな娘が泣きそうになってるのを見ていたら
気分が高まったわ。
あの平民の女が処刑された時以来よ。
あの時も凄く気分が良かったの。)
そう言って、微笑みながら下腹部を撫でた。
(ねぇ、この子はさぞや、あの御方に似ていることでしょうね?)
何を話すんだったかな…
強い酒に酔いすぎた…
頭の中がもやもやして…
「ちっ、効き過ぎたかな」
目の前で小さく舌打ちをされた。
効く?
確かに男はそう言った。
それで酒に混ぜて薬を盛られたことが判った。
逃げないとやばい。
俺は立ち上がろうとしたが、直ぐに男に肩を抱かれて拘束された。
「へぇ、もう酔っちゃったんですかー。
まだ1軒目ですよ。
夜はこれからじゃないですかー。」
男は周りに聞かせる様に大きく陽気な声を張り上げる。
(こいつこいつこいつ誰だ誰だ誰だ)
片手でふらふらな状態の俺を拘束して、片手で勘定を支払っている。
普通の男じゃこんなこと出来ない。
(助けて助けて助けて)
恐怖で頭の芯が冴えてきてるのに、声が出ないのはどうしてだ?
「ちょっとぉ~お兄さぁん、飲ませ過ぎだよぉ。」
女給がしなしなと背の高い男を見上げて言う。
男がおつりをいらないと言ったので媚びているのだ。
「お兄さんも、西の人でしょぉ~?
あたしもそうなんだぁ~。
サービスするからさぁ、明日もそっちのお兄さんと一緒にきてねぇ~。」
店の外まで出てきて女が愛想を言った。
男は振り返りながら手を振った。
俺の肩を掴んでいる反対の手は緩みもしない。
男は裏道に入り、停まっていた馬車に俺を押し込んだ。
違う、そうじゃない。
酒に酔わせて薬を飲ませた俺をどこかへ連れて行くために
ここに馬車を待たせていたのだ。
御者は男の仲間だ。
歩いてた俺に声をかけたんじゃなくて、
俺が来るのを待ち伏せして、声をかけた。
「これで、少しはましになるだろう。」
そう言って男は俺の鼻をつまんで無理矢理に口を開けさせた。
黒い薬みたいなのを放り込んで、馬車の中にあった水筒の水を
流し込んだ。
男の言葉からは訛りが消えていた。
俺の向かいに座る姿勢や目線で。
一連の動作が流れる様に綺麗で。
酒場に居た時と別人の雰囲気がした。
男は荒い仕事に慣れている。
だが、はした金で雇われて汚れた仕事をしている様に見えない。
(こいつは本物だ)
職業として、淡々と人を痛めつける事が出来るやつ。
必要だったら、躊躇なく命を奪うことが出来るやつ。
あの街のオーナーなんかが雇える男じゃない。
公爵か?
3年経って大丈夫だと思ってたのに。
思い当たる限り、このクラスの男を雇えるのは
ランカスター公爵しか居ない。
「さて。」
男が言ったように、口は少し動かせるようになってきたが、
体は自由に動かせない。
「ノーマン、お前には感謝してる。
御礼に奢りたかったのは本当だ。」
「だ、だから何のお、御れ、れぇいだ」
「まだ滑舌悪いな。
暫くしたら、もっと楽になる。」
「た、たすけ、けで」
「そんな当たり前の事しか言えないなんてがっかりだな。
…目的地まで結構かかるぞ。
気を楽にもてよ。」
「ど、どご?」
目的地。
そこに着くまでは俺は殺されないと言うことか?
それに微かな希望の光が見えた。
こいつに直ぐに殺されるのではない!
絶対逃げるチャンスはある!
男は俺の顔を見て嗤った。
「元気出てきたな。
その調子で、歌って貰おうか。」
「…」
「何で俺の代わりにクリスティンを殺した?」
◇◇◇
その話は絶対に誰にも話さない。
あの時から決めていたのに
思い出す事もしないようにしてたのに。
それなのに急に頭の中に色々な情景や言葉が浮かんできた。
するとそれが勝手に口に出る。
これは俺の意思じゃない。
男が俺に盛ったのは強力な自白剤か…
無理矢理押し入った湖畔の別荘。
何故か護衛の男達は居なかった。
立ち塞がった女を突き飛ばすと、壁に頭を打ち付けて
動かなくなった。
クリスティン様は俺の顔を見るなり言った。
(今頃何しに来たのよ、お前。
お前のせいでお父様に知られたじゃないの。
でも私はあの御方の名前は絶対に言わない、って。
そうよ、お前はあの御方の代わり。
あの御方が私をお迎えに来てくださるまでの
代わりだったのに。)
王都の公爵邸にクリスティン様を訪ねた。
もう俺には何もなくて誰も居なくて。
門番が入れてくれなくて、手を振られた。
汚い犬にあっち行け、とするみたいな手の振られ方に
かっとしたが、ここで文句を言って暴れたりしたら、
直ぐに第3がやってくる。
先日まで同僚だった奴らに捕まるのは耐えられない。
仕方なく裏門で見知った顔が通らないか待った。
クリスティン様が湖畔の別荘に伴った使用人達。
出来たら女がいい。
女は皆伯爵家の俺にも丁寧だった。
男達はクリスティン様の前では慇懃に接したが、俺だけだと
冷たかった気がする。
特に彼女専用の執事は昔見習いの頃から彼女の世話をしている、
と紹介された日から俺を見る目付が。
俺を見るギリアンの目と同じだった。
ここに来る直前に会って、その目の意味を理解した俺は、
クリスティン様の執事にも憎まれていたと気付いた。
だからあいつにだけは会いに来たと知られてはならない。
幸いなことに暗くなる前にメイドを捕まえた。
(閣下に命じられてお嬢様は別荘に戻された。
何故だか判らないけど、お嬢様と一緒に別荘に行ったのは、
乳母をしていた侍女長だけ。
護衛数人とおふたりで冬を越して春になったら帰ってくる。)
別荘にあの執事が居ないなら。
明日の朝一番で湖へ向かおう。
もう家には戻らない。
俺を居ない者として扱うなら、こっちから棄ててやる。
クリスティン様に綺麗な身体になりました、
そう教えて差し上げよう。
何度も愛していますと言ってくれた。
今なら彼女に応えてあげられる。
その筈だった。
笑顔も見せずクリスティン様が言った。
(いいわ。せっかく来たから教えてあげる。
私とあの御方はやっと結ばれたのよ。
お互いの立場があって、二人とも我慢していたの。
口に出してはくださらなかったけれど
あの御方が私を愛してくださっていたのは知ってたわ。
あの御方も私が言えないことは理解してくださっていたの。
お互いに結ばれない運命だってあきらめたの。
仕方なくあの御方はご結婚なさった。
仕方なくよ、5歳も年上の女よ。
愛してるわけないじゃない。
皇帝陛下からお古を押し付けられたの。)
夏には俺の事を『ノーマン様』『貴方』と呼んでくださって
いたのに、お前と言われた。
(久しぶりにお会いして、大人になったねって言ってくださった。
今ならあの御方に愛していますとお伝え出来ると思ったのに、
いつも隣にあの女が居るの。
あの御方と女の間には子供が2人も居たけど、偽りの結婚
なのは判ってた。
上のジュノー君は凄く可愛いの。
あの御方にそっくりで、あの御方の小さい頃はこんなに
綺麗な男の子だったんだなって。
ジュノー君と遊ぶのは楽しかったわ。
抱き締めたらお顔を赤くするの。
だけど、下の娘はね、女に瓜二つ。
皆に隠れてわざと足を踏んだり、つねってやったの。
お姉ちゃまなんて最初は纏わり付いて来てたけど、その内私の顔を
見たら逃げるようになってきて可愛くなかった。
娘をあの御方が『僕の小さなお姫様』って抱き締めるのも
気にくわなかったの。
そんな嘘を私の前で言わなくちゃいけないあの御方がお気の毒だったわ)
俺が居ることなど忘れたように。
熱に浮かされるように。
クリスティン様は話し続けた。
(皇帝陛下から下賜された女よ。
あの御方は我慢されて優しくしてあげてたの。)
クリスティン様は自分自身に語りかけているようにも見えた。
(毎日、朝の庭をふたりで腕を組んで散歩していらっしゃった。
あの女はおばさんの癖に、甘えた声でずっと話しかけてるから、
あの御方は黙って頷いていらしたの。
気持ち悪いのを我慢されているのが判ったわ。
早くふたりきりになってお慰めしたかったのに、
全然ふたりになれなくて。
護衛の男も邪魔ばかりして。
アーロンの側近が嫌な感じだったけれど、あの御方の護衛の男も
同じなのよ。)
この時だけクリスティン様の表情が歪んだ。
(もうすぐ帝都を離れなくちゃいけないのに、ふたりになれない
から、娘を使うことにしたの。
子守りの目を盗んで誰も居ない部屋に連れ込んで、こう脅したの。
『言うこと聞かないと、次はお兄ちゃまを苛めてやるから』って。
勿論、ジュノー君を苛める気なんかなかったわよ。
だけど娘は本気にして震えてた。)
その時の事を思い出して、クリスティン様はクスクス笑った。
機嫌が短い間隔で上下している。
(『おばあちゃまのお家にお母ちゃまとお兄ちゃまと3人で
行ってらっしゃい』って。
おばさんにそっくりな娘が泣きそうになってるのを見ていたら
気分が高まったわ。
あの平民の女が処刑された時以来よ。
あの時も凄く気分が良かったの。)
そう言って、微笑みながら下腹部を撫でた。
(ねぇ、この子はさぞや、あの御方に似ていることでしょうね?)
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