【完結】初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました

Mimi

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愛するひとは、ひとり

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皇太子殿下の心の準備が出来たと、3人だけのお茶会が再開される
ことになりました。

場所はバイロン侯爵邸のサンルームです。
前回までの温室は室温を一定に保たないといけないので
暖房を入れられないと、こちらに変更されたのでした。

今回もお迎えに来てくださったエドガー様から 
『女性は身体を冷やしてはいけない』と殿下からのご指示だったと
教えていただきました。

「殿下はお気遣いの出来る御方ですね。」

「私達にもそのお気遣いがいただけたらと、思います。」

エドガー様が私の前で軽口を仰るのは初めてでしたので、
違うお顔を知る事が出来た様で嬉しくなりました。
ただノーマン様と破談して半年も経っていないのに、他の男性に
このような気持ちを持つ事は少し後ろめたく思いました。


ほのかに温かく設えられたサンルームに皇太子殿下が足早に入って
こられました。
そのまま私達がお迎えの為に立ち上がるより先に、テーブルに
着かれました。


「今日は本題に入る前に、話しておきたい事があるんだ。」

話しておきたい事?
エドガー様の方を伺いましたが、思い当たるご様子はない様に見えました。


「まず、我が帝国皇家の男が愛するひとはひとりだと、知っていて
 貰いたい。」

「愛するひとは、ひとり…。」

「俺の父上の皇帝陛下も側妃を持っていない。
 もちろん先代の皇帝陛下もそうだし、
 この俺も内々に決まった相手がいて、そのひとだけと
 決めている。」

確かにレオパード帝国の皇家は一夫一妻制が保たれていて、後継争いなど
長年起きてはいないと授業で学びました。

「そして俺の叔父上も。」

殿下はエドガー様の方に向き直られました。
エドガー様は頷かれると、ため息を一つ吐かれてこう仰ったのでした。

「あの女が愛するただ一人の男が
 元皇弟殿下のグッドウィン公爵閣下です。」


 ◇◇◇


傷心を癒す為という名目で、レオパード帝国を訪れたクリスティン様は、
最初は風光明媚な帝国の景勝地を観光されていました。
ですが、その様な旅も何ヵ月も過ごしてしまうと飽きが来ます。
クリスティン様も同様で、旅先から帝都の皇帝陛下に落ち着きたいと
使者を立てられたのだそうです。

「あの女の事を呉々も良しなに、とカステードから頼まれていた
 陛下は困っていらした。」

「こちらは体よく妖女を押し付けられたと、いうことです。」

「父親のランカスター公爵が娘に愛情を持っていたかは不明だが、
 娘の事を『選ばれし人間』と言った事もあるらしい。
 だが、大事になってしまって死人も出してしまったので、
 恐らく父親も王家も
 クリスティンをどう扱えばいいのか困っていた。」

「それで遊学という形にして帝国へ?」

殿下は無言で頷かれました。
それは…名前を変えた追放。


「あの女は喜んで、それを受け入れた。
 王太子の婚約者でなくなったら会う機会も減ってしまう、
 愛する男に会えるのだから。」

「クリスティン様の遊学の目的は、公爵閣下に会うことだったん
 ですね。」


元皇弟殿下の美貌は有名でした。

スタンレー・ロウ・ブルックス・グッドウィン公爵。

皇帝陛下とは御年の離れた第2皇子。
臣籍降下し、皇位継承権を放棄されたのに、
陛下はロウ・ブルックスの名前を外さないと
宣言されたのです。


グッドウィン公爵閣下が皇帝陛下の名代として王国を表敬訪問された際に、
王太子妃教育中のクリスティン様と出会われたそうです。

「叔父上は14と19歳の二回、王国を訪れていた。」

「クリスティン様はまだ幼い…」

「ふたりは6歳離れている。」

14歳と8歳、19歳と13歳、隣国の皇弟殿下と王太子の婚約者。
その時に恋愛関係になったとは思えません。
例えクリスティン様に魅了の力があったとしても。

ですが、24歳と18歳ならば。

「あの女もそう思った筈だ、今なら誘惑出来ると。」

私の考えを殿下はお読みになったように仰いました。

「公爵閣下にあの女に対する好意はありました。
 それはご本人も認めています。
 ですが、決して女性としてではなく…
 重ねて見ていたと聞きました。」

エドガー様は辛そうに話されていて、この方にとっても、閣下は
大切な存在だったと気付きました。

「叔母上のラーラ公妃は元陛下の妃候補で、あの女と同じく幼い頃
から皇宮へ通っていたんだ。」

「では閣下は公妃様と幼いクリスティン様を重ねて見ていたという
 事ですね。」

「だからと言って、あの女とふたりで会う、特別な言葉をかける等の
 誤解されるような態度を取った覚えはない、と
 閣下は断言されました。」

「叔父上は皇家の男だ。
 幼い頃から5歳年上の叔母上に愛を捧げて、皇太子妃候補を
 辞退させたくらい叔母上一筋なんだ…今も。」

「おふたりの仲の良さは帝国内で有名でした。
 閣下がご成人になられるのを待って直ぐに婚姻し、翌年には
 第1子ジュノー公子がお生まれになっています。
 更に2年後にはフローラ公女もお生まれになったので、
 お幸せなご家族の絵姿は皇族方の中でも一番人気でした。」

「それをあの妖女は。」

短く低く、暗い声で殿下は仰られました。

「叔父上と叔母上、おふたり揃って人を信じすぎる。
 帝都に住みたいと願い出たあの女に、救いの手を差しのべて
 しまった。」

「…」

「皇妃陛下、俺の母が絶対にあの女を皇宮に入れてはならぬと
 言い張って、
 陛下は帝都から外れた離宮になら、と返事を出したんだ。」

皇妃陛下は神国ユーランの姫でした。
ユーランの黒髪赤目を皇太子殿下は継いでおられます。

「母には神殿の巫女の血が流れている。
 妖しいモノを受け付けないんだ。」

だから俺も、と仰って殿下はお話を続けました。

「俺には、あいつの魅了は効かない。」

皇太子殿下に流れる巫女の血と、エドガー様が信じる騎士の誇りは
妖女の魅了に惑わされない。

「クリスティンは離宮に住む前に1ヶ月でいいから帝都を
 楽しみたいやら、傷を癒したいやら、いい加減な事を言って
 陛下に泣きついた。」

「あの女の常套手段です。
 陛下には1ヶ月でいい、と言って…。
 ノーマンには夏の間だけでいい、と言ったんですよね?」

エドガー様の表情が歪んだ様に見え、あぁ、このひとは本当に
クリスティン様を憎んでいるのだと、思いました。

「だが母上は例え短い間でも、妖女を絶対皇宮に入れないと、言った。
 何を言われても、それを譲らなかった。
 陛下はあの女に魅了されていなかったが、王国の手前公爵令嬢を
 無下には出来ない。
 それを見かねた叔父上が少しの間なら預かりますと、
 手を挙げたんだ。」

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