【完結】初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました

Mimi

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赤く光る瞳に気を許してはならない

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クリスティン様の一言により作成された調書。
それを利用した王家。
指し示された冤罪を、疑う事なく受け入れた国民。
私もその一人。

信じられない、信じたくない話でした。
ペロー嬢の裁判が開かれなかったのは、都合の悪い話が出ては
困るからだったのでしょうか。

「…どうして私に、こんな話をお聞かせするのですか?」

祖国王家のこんな顔は知りたくありませんでした。
どうして皇太子殿下は私に?

「君は被害者だと、言っただろう?」

「…」

「ノーマンもクリスティンに魅了されていたからだよ。」



 ◇◇◇


昼下がりに始まったお茶会は、皇太子殿下が席を立たれて
お開きとなりました。
皇宮からお迎えの馬車が到着されたのです。

「これからと、いう時に帰るのは残念だけど。
 キャルから君がお茶に来ると聞いたので、
 執務を放り出して来たんだ。
 さすがにもう帰らないと、徹夜になってしまうから。」

立ち上がったエドガー様と私を、殿下は手で制されました。

「バイロンは、今日はもういい。
 ガルテン嬢を送って差し上げろ。」

「御意。」

「シャーロットと呼んでもいいね?
 近々またお茶を一緒に飲もう。」

「かしこまりました。」

「まだ途中までしか、話も聞いてないし。
 次回は真実の愛について、もっと語ろうか。
 君はノーマンのことを教えてくれ。」

私達のお見送りを断られて、おひとりで殿下が温室から
出ていかれました。
幼い頃からバイロン侯爵邸に遊びにいらっしゃっていたので、
いつも案内なしで入ってこられて帰られるのだそうです。

「当主と嫡男しか知らない皇宮へ至る隠し通路も、どこにあるか
 ご存知なんです。」

『今日はちゃんと馬車で帰られると思いますが』と困ったように
エドガー様は仰いましたが、その表情は柔らかいものでした。

「寮まで送らせていただけますか。」

エドガー様は左手を胸に当て、軽く頭を下げられました。


侯爵家の馬車の中で、まずエドガー様が口にされたのは
キャルのことでした。

「あれを悪く思わないでいただけませんか?」

「キャロライン様のことですね。」

「妹が貴女に近付いたのは、殿下や私にそう命じられた
 からではありません。
 妹は貴女が留学されてすぐに、心配だと話していました。」

「私が心配?」

「周囲と一線を引いているようだと。
 貴女と友人になりたいから、親しくなるチャンスを伺っていると
 言っていました。」

「…」

こちらから一線を引いているつもりは、ございませんでした。
キャルだけではなく、他の方からもそう見られていたのだとしたら、
私に友人が出来なかったのもうなづけました。

「確かに殿下は貴女と話をしたいと仰っておられましたが、
 学院に戻ってからご自分で、お声をかけるご予定でした。
 意外に思われるでしょうが、ダミアン殿下は誰かを使って
 目的に利用しようとされる御方ではありません。」

「…意外です。」

「今日はたまたま貴女が我が家へいらっしゃると聞きまして…
 妹は貴女を心配して同席を願ったのですが、殿下が皇女殿下に
 お願いして、妹を呼び出していただきました。」

(皇女殿下からのお誘いは断れないわね)

キャルが私に近付いて友人になってくれたのは、皇太子殿下の
ご指示ではなかったと、聞けて嬉しくなりました。


「次は私の名前で、お誘い致します。」

別れ間際、寮に入る私にエドガー様がお約束をして下さいました。


エドガー様に送っていただき、寮へ戻った私を待っていたのは
キャルから届けられていた手紙とお菓子でした。

キャルからの手紙には
『急にこんなことになって申し訳ない
 貴女を騙すつもりはなかったので信じて欲しい
 学院で顔を会わす前にとにかく本日中に謝りたかった
 皇太子殿下は強引な男だが、悪いやつではない
 しかし少々腹黒なので、貴女に無体な真似をしないよう、
 おじさんに見張ってて欲しいと頼んでいる』と、綴られていました。

その文面に私は少し笑ってしまい、彼女の気持ちが嬉しくて、
手紙を胸に押しあてました。

これからも誘う、と皇太子殿下は仰られました。
次は真実の愛についてお話しようと。
そして私はノーマン様の事をお聞かせしなくてはなりません。


(私が見聞きした事実のみをお話するだけだ。
私の感情など、お聞かせする必要はない。)

『君が被害者だから』と殿下は仰せになりました。
本当にそれだけでしょうか?

私は隣国の、たかが伯爵家の娘です。
皇太子殿下と帝国の名家のご嫡男と3人だけのお茶会など
普通は有り得ない事です。

殿下のお言葉を、そのまま受け取れる程おめでたくはないつもりです。

ですが殿下にお誘いを受けたら、お断りは出来ません。

(気を付けるのよ、シャル。)

殿下の赤く光る瞳に気を許してはならないと
私は自分に言い聞かせました。


 ◇◇◇


それほど日を開けず、再びお茶会のお招きを受けました。
お約束していただいた通り、小さなお花を束ねたブーケに添えられた
カードには、お迎えの馬車の時間とエドガー様のお名前が
記されていました。


吟味された可愛らしいブーケはそれからも毎回の事となり、女子寮では
ちょっとした騒ぎになっていたようですが、私本人の耳には入って
おりませんでした。


やはりキャルの同席は叶わないのかしらと本人に尋ねたのですが。
キャルは大きく首を振り、すごい勢いで否定しました。

「いやいや、私はご遠慮させていただきますわよ。
 邪悪なダミと長い間顔を付き合わすのは、ね。」

キャルはダミアン皇太子殿下のことを邪悪なダミ、と呼んでいました。

「最初のお茶会の時は同席してくれるつもりだったんでしょ?」

「最初はシャルが苛められないか心配だったからよ。
 だけど、おじさんは心配ないって言うし、
 何を話しているか教えてもらっていないけれど、
 教えてもらえない、ってことは私が知る必要のないお話なのよ。」

「そう…なのかな?」
 
「そうなの!
 知る必要のないお話は聞かない方がいい。
 私は長生きしたい!」

キャルが物騒な事を言い出しました。


 ◇◇◇


「さて、今日はアーロンとペローの真実の愛について
 話そうか。」

場所は前回と同じバイロン侯爵家の温室です。

「俺の話は長くなるから、先にノーマンの話をして
 もらおう。」

「ノーマン様の行動と言葉、をお話させていただいたら
 よろしいでしょうか。」

『余りお聞かせするほどの話ではないですが』とおふたりに断って
私は話し始めました。

「あの婚約破棄の夜の事ですが。
 会場に着き、クリスティン様のお名前が聞こえると、ノーマン様は
 私を置き去りにして行ってしまわれたのです。」

「あいつも誰かから話を聞いていたね?」

「どの様な話を聞かれたのか私は教えていただいてはいません。
 とにかく行きの馬車では機嫌が良くて私のせいで遅刻したのに
 責められなかったのです。」

「だけど帰りの馬車では、だね。」

「その通りです。
 帰りは人が変わったように不機嫌で無口で、私にイライラを
 ぶつけてこられました…。
 君さえ遅れなければ、と。」

殿下はエドガー様が入れられた紅茶を一口、お口に含まれました。 
私は続けました。

「これは後から従姉から聞いたのですが…
 彼女の婚約者様もやはり
『何かクリスティン様のお力になれることはないだろうか』と、
 その日以降もこぼしておられたそうです。」

「その男も同じ学園だったのか?
 クリスティンも罪な女だな。
 程度の差はあれ、魅了された男は多いな。」

私は頷きました。
スカーレットとヒューバート様は中等部の頃からのお付き合いでした。
『あいつもバカなのよねー』とスカーレットは笑いましたが。

「我々が君やノーマンを知るようになったのは、あの女が
 この国を逃げ出した後の事だ。
 あの女とノーマンは以前から関係があった?」

「学園の頃からと、言うことでしたら有り得ませんとしか…。
 クリスティン様は筆頭公爵家のご令嬢で王太子殿下の婚約者ですし、
 ノーマン様は伯爵家の三男です。
 何らかの繋がりがあったとは思えません。」

「じゃあ、どうしてあのふたりは別荘でひと夏を過ごす仲になった? 
 こっちに来る以前に何かなければそんなことにはならないだろ?」

「クリスティン様がこちらへ遊学される前、ノーマン様がお花とお手紙を
 届けられたからです。」

私がそう答えると、殿下もエドガー様も信じられないと、言いたげな
表情になられました。

「貴女という婚約者が居たのに、あいつは他の女に花を贈ったのか!」

エドガー様が呆れた様にそう仰ったので
『この方は今決まった方がいらっしゃらないから私に花を贈って
くださったのだ』と知れて、
このような場でありながら、それを嬉しく思ってしまいました。

「何故、繋がりのなかったノーマンがそれほどクリスティンに
 夢中だったか判る?」

それついては、もしかしたらと考えていたことがありました。
それぐらいならお伝えしても構わないでしょう。

「お月様の絵本です。
 クリスティン様はその絵本のお姫様にそっくりなんです。」




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