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夢の続きを見たいんだ
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それではお話が違うと、私は泣きたくなりました。
(卒園したら、お父様に付いて経営を学ぶと約束したのに!)
ご家族にもご相談なく入団試験を受けたのだと、涼しい顔で仰るノーマン様に、私は頭を抱えました。
「君が卒園したら、すぐに結婚になるだろう?
それまで夢の続きを見たいんだ。
2年だけお待ち下さるよう、君からお父上にお願いして欲しいんだけど」
夢という言葉を前面に出したノーマン様に懇願され頭を下げられて、私は頷くしかありませんでした。
貴方の夢を支える、と前回言ってしまっていました。
内心ではお父様がどんなにお怒りになるだろうと、恐ろしくてたまりませんでしたが、表情に出さぬよう努めました。
(こんなことでお父様がノーマン様を見限ることがありませんように……
彼が悪く思われないよう、どう言ってお願いすればいいかしら……)
あれこれ考えましたが、どう伝えればいいのか、私には判りませんでした。
お父様はお優しくて愛情溢れる御方です。
ですが伯爵家当主としてのお考えは、厳しいものをお持ちでした。
『護るもの』と『切り捨てるもの』
お父様には、はっきりとした線引きがあります。
領地経営科で領主としての心構えを学んで、ようやく私にもそれが理解出来るようになって参りました。
私は……
夢の続きが見たいと語るノーマン様に不信を持ち始めていました。
ノーマン様は本当に私と人生を共に歩いて行きたいと、思っていてくださっているのか。
確信が持てなくなってきていました。
「は? 夢の続きだと?
あいつは何様のつもりだ!
ダグラスはこの事を承知なのか!」
ダグラスとはノーマン様のお父様のブライトン伯爵様のことです。
ノーマン様はご自分のご家族にも内緒にして、入団試験を受けられたのだと、私は正直に話しました。
結局ノーマン様の言葉をそのまま伝えることしか、出来ませんでした。
お父様に誤魔化しは効きません。
「お前が幼い頃からあの小僧を好いているようだからと、シェリーズに頼まれて縁組みしたが……
私は本当はディランが良かったんだ」
ブライトンのおば様が末っ子のノーマン様に甘過ぎると、常々お父様が嘆かれているのは知っていましたが。
本当はディランお兄様と婚約させたかったとは、初耳でした。
確かにディランお兄様はとても優秀でお優しく、仕事もお出来になる御方です。
それにお父様とも気が合うようでしたけれど。
けれど……
「私はノーマン様をお慕いしています」
「愛するという気持ちが女性にとっては大切なものなのだと判っている。
だが愛されて大切にされるというのも、お前に知っていて貰いたいのだ」
私はノーマン様に愛されていない。
大切にされていない。
お父様はそう仰りたいのを我慢されているのでしょう。
お父様の拳が震えているのが判りました。
しばらく黙っていらっしゃいましたが、お怒りがおさまってきたのでしょう。
お父様はとても優しいお顔で私を見つめて、抱き締めて下さいました。
「今回は目をつぶろう、だが次はないぞ」
「お父様、ありがとうございます」
「ノーマンが駄目だったからと言って、今更兄であるディランは迎えられない。
もうブライトンとの縁は結ばない。
次の相手は父が選ぶが、いいな?」
お父様がそう仰るのは仕方がないこと。
ノーマン様に振り回されるのは、これを最後にしていただかなくては。
私は改めて覚悟を決めました。
それなのに……
今のところ私達の仲は順調だと思っていたのに……
ノーマン様はまた、私には理解出来ないことを言い出されたのです。
◇◇◇
(怒りたいのは私の方よ!
結婚までもう1年もないのに、どうして会えないの!)
言葉にしませんでしたが、不満は表情に出ていたのでしょう。
ノーマン様は我に返ったように『すまない』と、一言謝ってくれました。
そして落ち着こうとされたのか、すっかり冷めてしまった紅茶を一口飲まれました。
「シャーロット。
君とは昔からの付き合いだし、僕の一番の理解者だと判っているよ」
(さっきは怒って俺って言ってたのに、今は僕って言うのね)
「嘘はつきたくないから正直に言うね?」
私を怒らせても得策ではないと、判断されたのでしょうか。
私の左手を取ると甲を撫でられました。
ご機嫌を取ろうとされているようで気分が悪くなりました。
私はノーマン様の手を振り払いたくなりました。
(ノーマン様に触れられたくない!)
そう思ったのは生まれて初めてでした。
部屋に戻りたい。
もう帰っていただきたい。
会えない理由なんて聞きたくない。
それが私の正直な気持ちでした。
「クリスティン様……
クリスティン・マクロス・ランカスター公爵令嬢を覚えている?」
当たり前です。
王国貴族でクリスティン様の事を覚えていないような人なんていません。
なぜならクリスティン様は、1年前当時の王太子殿下に婚約破棄されて追放を命じられた……
『悪役令嬢』なのですから。
(卒園したら、お父様に付いて経営を学ぶと約束したのに!)
ご家族にもご相談なく入団試験を受けたのだと、涼しい顔で仰るノーマン様に、私は頭を抱えました。
「君が卒園したら、すぐに結婚になるだろう?
それまで夢の続きを見たいんだ。
2年だけお待ち下さるよう、君からお父上にお願いして欲しいんだけど」
夢という言葉を前面に出したノーマン様に懇願され頭を下げられて、私は頷くしかありませんでした。
貴方の夢を支える、と前回言ってしまっていました。
内心ではお父様がどんなにお怒りになるだろうと、恐ろしくてたまりませんでしたが、表情に出さぬよう努めました。
(こんなことでお父様がノーマン様を見限ることがありませんように……
彼が悪く思われないよう、どう言ってお願いすればいいかしら……)
あれこれ考えましたが、どう伝えればいいのか、私には判りませんでした。
お父様はお優しくて愛情溢れる御方です。
ですが伯爵家当主としてのお考えは、厳しいものをお持ちでした。
『護るもの』と『切り捨てるもの』
お父様には、はっきりとした線引きがあります。
領地経営科で領主としての心構えを学んで、ようやく私にもそれが理解出来るようになって参りました。
私は……
夢の続きが見たいと語るノーマン様に不信を持ち始めていました。
ノーマン様は本当に私と人生を共に歩いて行きたいと、思っていてくださっているのか。
確信が持てなくなってきていました。
「は? 夢の続きだと?
あいつは何様のつもりだ!
ダグラスはこの事を承知なのか!」
ダグラスとはノーマン様のお父様のブライトン伯爵様のことです。
ノーマン様はご自分のご家族にも内緒にして、入団試験を受けられたのだと、私は正直に話しました。
結局ノーマン様の言葉をそのまま伝えることしか、出来ませんでした。
お父様に誤魔化しは効きません。
「お前が幼い頃からあの小僧を好いているようだからと、シェリーズに頼まれて縁組みしたが……
私は本当はディランが良かったんだ」
ブライトンのおば様が末っ子のノーマン様に甘過ぎると、常々お父様が嘆かれているのは知っていましたが。
本当はディランお兄様と婚約させたかったとは、初耳でした。
確かにディランお兄様はとても優秀でお優しく、仕事もお出来になる御方です。
それにお父様とも気が合うようでしたけれど。
けれど……
「私はノーマン様をお慕いしています」
「愛するという気持ちが女性にとっては大切なものなのだと判っている。
だが愛されて大切にされるというのも、お前に知っていて貰いたいのだ」
私はノーマン様に愛されていない。
大切にされていない。
お父様はそう仰りたいのを我慢されているのでしょう。
お父様の拳が震えているのが判りました。
しばらく黙っていらっしゃいましたが、お怒りがおさまってきたのでしょう。
お父様はとても優しいお顔で私を見つめて、抱き締めて下さいました。
「今回は目をつぶろう、だが次はないぞ」
「お父様、ありがとうございます」
「ノーマンが駄目だったからと言って、今更兄であるディランは迎えられない。
もうブライトンとの縁は結ばない。
次の相手は父が選ぶが、いいな?」
お父様がそう仰るのは仕方がないこと。
ノーマン様に振り回されるのは、これを最後にしていただかなくては。
私は改めて覚悟を決めました。
それなのに……
今のところ私達の仲は順調だと思っていたのに……
ノーマン様はまた、私には理解出来ないことを言い出されたのです。
◇◇◇
(怒りたいのは私の方よ!
結婚までもう1年もないのに、どうして会えないの!)
言葉にしませんでしたが、不満は表情に出ていたのでしょう。
ノーマン様は我に返ったように『すまない』と、一言謝ってくれました。
そして落ち着こうとされたのか、すっかり冷めてしまった紅茶を一口飲まれました。
「シャーロット。
君とは昔からの付き合いだし、僕の一番の理解者だと判っているよ」
(さっきは怒って俺って言ってたのに、今は僕って言うのね)
「嘘はつきたくないから正直に言うね?」
私を怒らせても得策ではないと、判断されたのでしょうか。
私の左手を取ると甲を撫でられました。
ご機嫌を取ろうとされているようで気分が悪くなりました。
私はノーマン様の手を振り払いたくなりました。
(ノーマン様に触れられたくない!)
そう思ったのは生まれて初めてでした。
部屋に戻りたい。
もう帰っていただきたい。
会えない理由なんて聞きたくない。
それが私の正直な気持ちでした。
「クリスティン様……
クリスティン・マクロス・ランカスター公爵令嬢を覚えている?」
当たり前です。
王国貴族でクリスティン様の事を覚えていないような人なんていません。
なぜならクリスティン様は、1年前当時の王太子殿下に婚約破棄されて追放を命じられた……
『悪役令嬢』なのですから。
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