【完結】俺はずっと片想いを続けるだけ

Mimi

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俺が話を聞くのは天使だけ ~クリストファー~

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不意にグレイスがメルローズに向かって微笑んだ。


「お部屋の交換、差額はサービスしていただけますか?」 

「勿論でございます。
 お部屋にお届けするお花やお酒等も、当ホテルからのささやかな御祝とさせてくださいませ」

彼女達の間を飛び交う弾丸の応酬は過ぎた様だった。
いつもの通り、俺はポンコツで何も出来なかった。


 ◇◇◇


部屋の準備を致します、とメルローズが消え、俺とグレイスはロビーのソファに腰を降ろした。


「私の……リーヴァイス一族は見事なくらい女系なのです」

「どうしたの、グレイス?」

「ですから、私には男性の幼馴染みや従兄弟はいません。
 恋愛小説などで、よくある設定らしいのですけれど。
 それ故、幼馴染みという存在が何故特別視されるのか、よく理解出来ないのです」

「……」

「私達の白い結婚の理由はメルメル様ではない、と誓ってくださいますか?」 


彼女が何を言わんとしているのか俺にはわからなかったが、俺達の結婚にメルローズは何の関係もない。


「本当に10年以上会ってなかったんだよ」

「クリストファーは素敵だし、私よりも歳上で。
 初恋のひとつやふたつや、みっつやよっつや、仕方ないと
わかっているのです。」


いや……みっつやよっつや、言ってる時点で、それ初恋と違うからね、と言うのは止めた。
グレイスは真剣に言ってるのに、俺がそれを混ぜ返してはいけない。


「何度も言っていい?
 聞き飽きたかもしれないけれど、あの日見掛けた6歳の君が13の俺の初恋のひとで、これから先も愛し続けるのは君だけだ、と誓うよ。」 


彼女の手を取り、俺の胸にあてた。
もし君が俺の心臓を欲しいと言うなら、捧げる。
君は君のものだけれど、俺を君のものにして欲しい、と言ったなら。
そんな重い俺なんか要らない、と君は逃げ出してしまうかな。




ボーイが来て、部屋の用意が完了したと案内してくれた。

メルローズが用意した部屋は最上階で唯一の部屋だった。
リビングのテーブルには、シャンパンとチョコレート、フルーツの皿が彩りよく並べられていた。
そして寝室のベッドの上には、ハートの形に薔薇の花びらが撒かれていた。


ここへふたりでやって来て、今より前へ進みたかった。 
だけど後ろに戻った気がした。



「少し眠ってもいいですか?」

「いいよ、夕食は早めに取ろう。
 ゆっくり休んで。
 俺はリビングに居るから」


 ◇◇◇


俺もリビングのソファで眠ってしまった。
目が覚めて寝室へ行く。
思っていた通り、ベッドにはグレイスの姿はなかった。


海を見に行ったのだと思った。
馬車の中でも、楽しそうだった。
窓を開けて、潮の香りがする、と両手を広げて大きく深呼吸していた。


彼女を探しに外に出掛けようとした俺は、フロントに居たメルローズに声をかけられた。


「奥様は海を見に行かれたわ。
 お迎えに行く時間を聞いているの。
 お迎えは貴方に、お任せしていいかしら?」


俺は無言で頷いた。
お前に言われなくても、そうするさ。


「彼女をひとりで行かせたのか?」

「大丈夫よ、奥様には知られず、私の婚約者が後をついているの」



……メルローズの婚約者。
フロントに居た男を思い出した。
あの男がメルローズの婚約者のような気がした。

彼は俺達3人のやり取りを心配そうに見ていた。
ロビーで大きな声を出すメルローズも不自然だった。
彼女はわざとフロントに居た彼に聞こえるように、話していたのだろう。


「私、もうすぐ結婚するの。
 お父様に決められたのよ。
 このまま流されていいのか悩んでるの、話を聞いてくれない?」

「嫌だ」

「えっ?」

「俺は君の家族じゃないし、恋人でもない。
 流される、って君の人生だろう?
 結婚に文句があるなら、親に言え。
 婚約者が不満なら、本人にぶつけろ。
 俺が聞いても解決しない」

「……」

「俺が話を聞いて、責任を持ちたいのは、妻だけだ」


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