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【サイドストーリー】 攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!
第15話
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今年のデビュタントは大盛り上がりだったらしい。
あのクズ王子のランドールがロザリンド嬢に手を出して。
彼女から殴られて倒れて、その上、オスカーからも3発やられて。
その現場を見たかった。
行ってた奴等は、大騒ぎだ。
ランドールは学苑を自主退学して、短期間の謹慎後にアラカーン女王へ婿入りをして。
……ここから消えた。
ロザリンド・オブライエン・コルテス侯爵令嬢。
おとなしいだけの、深窓のご令嬢かと思っていたのに。
さすが、あのオスカーの義妹だ。
すっかり武闘派だ、と名前を上げて、女子の間では人気沸騰中。
彼女は婚約破棄したウェズリーとも、和解をしたようで。
何やら立ち話をしているふたりを見掛けたこともある。
元々、そんな惚れたはれたの婚約ではないから、とウェズリーが言っていたのは本当だったんだ。
不思議なのは、この学年だけ……婚約している生徒が半数しか居ないことだ。
自分のように、父親が一代限りの爵位を授かっても、息子はどうなるか分からないのだから、婚約の話等出ないのは分かる。
だが、例えばマーク・パクストンも、婚約はしていない。
彼は次代のモイヤー伯爵だ。
婚約者くらい居て当たり前、のような気がするのに。
「親には条件内で自分で決める、って説得したよ。
恋愛脳じゃないけど、相手くらいは自分で、ね」
恋愛脳……マークが語ったその言葉も聞いたことがあるような、ないような。
そんな話を、これまた婚約者が居ない次代侯爵閣下のオスカーに聞かせれば。
何故だか、少しだけ耳朶を赤らめていた。
グレンジャーが後になって思い返せば、あの頃事態は大きく動いていたのだ。
ミシェルは登校しなくなっていた。
オスカーもますます、おかしくなっていた。
◇◇◇
仮面祭りの前日、放課後にオスカーが教室に飛び込んできた。
抑えられないくらい感情的になっていた。
いつも穏やかに凪いでいた彼の波動がピリピリとしていた。
教室に残っていた皆がそれを感じて、グレンジャーとオスカーの様子を伺っていた。
「明日、18時に!
お前の家に行ってもいいか?」
「……あのさぁ、一番最近は夏休み明けに確認してきただろ?
それも忘れてんの? お前さぁ~ひとりで夜祭りなんて行って大丈夫なの?」
「……あ、ああ、そうだったよな……大丈夫だ」
「俺がお前んとこへ行ってもいいけどなぁ~?」
沈着冷静な普段からは想像もつかない、落ち着きの無いオスカーを心配して、わざと軽い調子でグレンジャーが尋ねた。
魔法を掛ける約束をしていたが、本調子に見えない友人を祭りに1人で行かせていいのか。
今月に入った辺りからのオスカーの様子に、何度も俺も一緒に行こうかな、と明るく誘ってみたが。
1人で行くから、とオスカーは頑なだった。
1年前から明日の約束を繰り返しした。
余程の事情があるだろうに話してくれない事は悔しいが、多分俺を巻き込みたくないのだろう、とは想像がつく。
「いいよ、約束通りに俺が18時にお前のウチへ行くから」
「……わかったよ、待ってるからな」
「すまない、ありがとう」
オスカーは腹を押さえていて顔色も悪かったが、グレンジャーに何度も礼を言い、帰っていった。
その後姿を見つめるグレンジャーの赤い瞳が、暗い光を灯して揺れた。
オスカー本人が親父殿から魔法に掛けられているのを知らない、という事は。
物心がつく前の幼い頃か、もしかしたら赤ん坊の頃か。
オスカーの髪色を黒く変え、身体に強力な保護魔法をかけた親父殿。
初めて自宅に連れて行った時は、以前からオスカーを知っていたようには見えなかったのに。
オスカーの方も然り。
ふたりの関係性は置いておいても、養父が掛けた魔法の意味が不明だ。
通常の保護魔法は内外双方からの攻撃に備えてかけられるものだ。
幼い頃に髪色を変えるまでして、何かからオスカーを守りたかったのなら、まず警戒するべきは毒物なんじゃないのか?
「彼さ、オスカー・オブライエン。
心身ともにヤラれてる感じだね?」
不意に隣で、声がした。
カール・ライデルだった。
……忘れもしない、初めて自分の魔法でひとを傷付けた日。
途中でオスカーに帰らされたカール・ライデルだった。
あのクズ王子のランドールがロザリンド嬢に手を出して。
彼女から殴られて倒れて、その上、オスカーからも3発やられて。
その現場を見たかった。
行ってた奴等は、大騒ぎだ。
ランドールは学苑を自主退学して、短期間の謹慎後にアラカーン女王へ婿入りをして。
……ここから消えた。
ロザリンド・オブライエン・コルテス侯爵令嬢。
おとなしいだけの、深窓のご令嬢かと思っていたのに。
さすが、あのオスカーの義妹だ。
すっかり武闘派だ、と名前を上げて、女子の間では人気沸騰中。
彼女は婚約破棄したウェズリーとも、和解をしたようで。
何やら立ち話をしているふたりを見掛けたこともある。
元々、そんな惚れたはれたの婚約ではないから、とウェズリーが言っていたのは本当だったんだ。
不思議なのは、この学年だけ……婚約している生徒が半数しか居ないことだ。
自分のように、父親が一代限りの爵位を授かっても、息子はどうなるか分からないのだから、婚約の話等出ないのは分かる。
だが、例えばマーク・パクストンも、婚約はしていない。
彼は次代のモイヤー伯爵だ。
婚約者くらい居て当たり前、のような気がするのに。
「親には条件内で自分で決める、って説得したよ。
恋愛脳じゃないけど、相手くらいは自分で、ね」
恋愛脳……マークが語ったその言葉も聞いたことがあるような、ないような。
そんな話を、これまた婚約者が居ない次代侯爵閣下のオスカーに聞かせれば。
何故だか、少しだけ耳朶を赤らめていた。
グレンジャーが後になって思い返せば、あの頃事態は大きく動いていたのだ。
ミシェルは登校しなくなっていた。
オスカーもますます、おかしくなっていた。
◇◇◇
仮面祭りの前日、放課後にオスカーが教室に飛び込んできた。
抑えられないくらい感情的になっていた。
いつも穏やかに凪いでいた彼の波動がピリピリとしていた。
教室に残っていた皆がそれを感じて、グレンジャーとオスカーの様子を伺っていた。
「明日、18時に!
お前の家に行ってもいいか?」
「……あのさぁ、一番最近は夏休み明けに確認してきただろ?
それも忘れてんの? お前さぁ~ひとりで夜祭りなんて行って大丈夫なの?」
「……あ、ああ、そうだったよな……大丈夫だ」
「俺がお前んとこへ行ってもいいけどなぁ~?」
沈着冷静な普段からは想像もつかない、落ち着きの無いオスカーを心配して、わざと軽い調子でグレンジャーが尋ねた。
魔法を掛ける約束をしていたが、本調子に見えない友人を祭りに1人で行かせていいのか。
今月に入った辺りからのオスカーの様子に、何度も俺も一緒に行こうかな、と明るく誘ってみたが。
1人で行くから、とオスカーは頑なだった。
1年前から明日の約束を繰り返しした。
余程の事情があるだろうに話してくれない事は悔しいが、多分俺を巻き込みたくないのだろう、とは想像がつく。
「いいよ、約束通りに俺が18時にお前のウチへ行くから」
「……わかったよ、待ってるからな」
「すまない、ありがとう」
オスカーは腹を押さえていて顔色も悪かったが、グレンジャーに何度も礼を言い、帰っていった。
その後姿を見つめるグレンジャーの赤い瞳が、暗い光を灯して揺れた。
オスカー本人が親父殿から魔法に掛けられているのを知らない、という事は。
物心がつく前の幼い頃か、もしかしたら赤ん坊の頃か。
オスカーの髪色を黒く変え、身体に強力な保護魔法をかけた親父殿。
初めて自宅に連れて行った時は、以前からオスカーを知っていたようには見えなかったのに。
オスカーの方も然り。
ふたりの関係性は置いておいても、養父が掛けた魔法の意味が不明だ。
通常の保護魔法は内外双方からの攻撃に備えてかけられるものだ。
幼い頃に髪色を変えるまでして、何かからオスカーを守りたかったのなら、まず警戒するべきは毒物なんじゃないのか?
「彼さ、オスカー・オブライエン。
心身ともにヤラれてる感じだね?」
不意に隣で、声がした。
カール・ライデルだった。
……忘れもしない、初めて自分の魔法でひとを傷付けた日。
途中でオスカーに帰らされたカール・ライデルだった。
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