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【サイドストーリー】 攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!
第16話
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その日までは、ずっとグレンジャーの後を追いかけていたのに。
翌日からは、オスカーとグレンジャーから距離を取るようになった。
カールから話しかけてくるなんて、何年ぶりか……
「グレンジャー・オルコット、君もそろそろ目覚めた方がいいんじゃないの?
いつまでも怖がらないでさ」
久し振りのカールだが、こんな話し方をする奴だったか?
にこやかなのに、面倒くさそうなこの感じ。
小役人臭がするような……
カールが腕を伸ばして、グレンジャーの肩に触れた。
「親友なんでしょ?
魔法を使って、力になってやってよ」
お前は何様か? と反発心が沸き上がってきたのは一瞬で、それよりも……
カールがカールじゃない顔を見せたことに、畏れを感じたが、それを振り払った。
「お前に言われなくても、そうするさ」
それを聞いたカールはますます笑顔を見せて、ひらひらと手を振りながら教室を出ていった。
お前からヤバいと思って、俺達から離れていったくせに。
今頃、声をかけてきたカールがどういうつもりなのか、が読めなかった。
グレンジャーは唇を噛んだ。
オスカーは俺を巻き込ませたくない、と事情を話さないけど。
あんなに苦しそうにしているのに、このまま知らん顔はしてやらない。
今夜、あの狸親父がウチに戻ってきたら……
オスカーとの関係やら、魔法をかけた理由やら、洗いざらいをグレンジャーは聞き出そうと思った。
そして明日の夜、髪色を変えて祭りへ出掛けるオスカーの後をつける。
夕食後、渋る親父殿からオスカーが甥だと聞いた。
妹のケリー・アンが彼の母なのだと。
しかし、父親の名前は、頑なに教えてくれなかった。
実父も、俺も育てられなくて。
妹の親友だったコルテス侯爵夫人に頼ってしまった、と。
王都で育てるには問題があって(この問題については話してくれない)
マーカス領主のウェイン家がオブライエン家の遠縁だったから、先ずはそこで育てて貰い、その後侯爵家が引き取ることに同意した、と言う。
学苑の中等部で親しくなった、とグレンジャーがオスカーを招いた時は、胸が詰まり手元も震えたらしい。
オスカーの容姿は全体的に父親似だが、確かに妹の面影もあって。
中途半端に掛けられた保護魔法については、養父本人が一番驚いていた。
「外からも、内からも、完璧な保護を掛けたはずだぞ?
お前の視間違いじゃないのか?」
「俺がどれだけ視えるか、知ってるだろ?
間違いなんかじゃない」
◇◇◇
その夜グレンジャーは夢を見た。
どこまでも続く白い、白い部屋。
天井も壁も床もない、白い部屋。
そこにひとりで立っていた。
「一番最初が君だったから、最後に記憶を戻してあげようと思ってて、ね?」
いきなり目の前に、白い髪と金色の瞳の美少年が現れた。
全身黒い衣装をまとって。
白い髪が映えていた。
彼の服以外が、白い部屋。
「この世界に転生したい、と君が決めただろ?
後の人達も同じ世界に転生させると言ったら、君はすごく困っていた。
余計な責任を感じて欲しくなくて、君の前世の記憶を戻すのは最後にしたんだ」
記憶を戻すのは最後にした、それを繰り返された。
「君達の人種……ニホンジンと言うのかな。
一部を除いて、責任感の強すぎる人が多いね?
運転手は、辛かったんだろうね。
自分の不注意で死んでしまった皆と同じ場所に転生したくない、と泣いて。
あまりにも不憫で、違う世界に飛ばしてあげたよ」
「……貴方、誰なん?」
「面白いよね、転生しても相変わらずカンサイの言葉を話すんだ?
いや、元々グレンジャーはカンサイベンキャラクターだったね。
だから彼を選んだのかな、オーハシさんは」
これは夢なんだ、と。
夢の最中に、そう思っていたグレンジャーは、少年から『オーハシさん』と呼び掛けられて……
いきなり目の前に、いくつもの場面が現れた。
それは超高速で切り替わっていき、ひとつひとつじっくり見えたわけでもないのに。
それにも関わらず、ひとつひとつが何だったのか、思い出せた。
座っていたのは最後尾の座席。
急ブレーキの音、後方から大きなダンプに追突された。
最後は、横転して、身体がバウンドして。
車内の何にぶつかったのか、誰と重なったのか。
物凄く背中が痛くて、周囲に煙が充満していて、ガソリン臭が酷かった。
痛い、痛い、めちゃいたい……息もうまく出来へん。
こんなん、参加せ、へんかったら、よかった……
助けを呼ぶ声さえ出せず……涙だけが流れた。
一番最初に神様の所へ来た、わたしは。
あの地獄から、一番最初に死ねたのかな。
翌日からは、オスカーとグレンジャーから距離を取るようになった。
カールから話しかけてくるなんて、何年ぶりか……
「グレンジャー・オルコット、君もそろそろ目覚めた方がいいんじゃないの?
いつまでも怖がらないでさ」
久し振りのカールだが、こんな話し方をする奴だったか?
にこやかなのに、面倒くさそうなこの感じ。
小役人臭がするような……
カールが腕を伸ばして、グレンジャーの肩に触れた。
「親友なんでしょ?
魔法を使って、力になってやってよ」
お前は何様か? と反発心が沸き上がってきたのは一瞬で、それよりも……
カールがカールじゃない顔を見せたことに、畏れを感じたが、それを振り払った。
「お前に言われなくても、そうするさ」
それを聞いたカールはますます笑顔を見せて、ひらひらと手を振りながら教室を出ていった。
お前からヤバいと思って、俺達から離れていったくせに。
今頃、声をかけてきたカールがどういうつもりなのか、が読めなかった。
グレンジャーは唇を噛んだ。
オスカーは俺を巻き込ませたくない、と事情を話さないけど。
あんなに苦しそうにしているのに、このまま知らん顔はしてやらない。
今夜、あの狸親父がウチに戻ってきたら……
オスカーとの関係やら、魔法をかけた理由やら、洗いざらいをグレンジャーは聞き出そうと思った。
そして明日の夜、髪色を変えて祭りへ出掛けるオスカーの後をつける。
夕食後、渋る親父殿からオスカーが甥だと聞いた。
妹のケリー・アンが彼の母なのだと。
しかし、父親の名前は、頑なに教えてくれなかった。
実父も、俺も育てられなくて。
妹の親友だったコルテス侯爵夫人に頼ってしまった、と。
王都で育てるには問題があって(この問題については話してくれない)
マーカス領主のウェイン家がオブライエン家の遠縁だったから、先ずはそこで育てて貰い、その後侯爵家が引き取ることに同意した、と言う。
学苑の中等部で親しくなった、とグレンジャーがオスカーを招いた時は、胸が詰まり手元も震えたらしい。
オスカーの容姿は全体的に父親似だが、確かに妹の面影もあって。
中途半端に掛けられた保護魔法については、養父本人が一番驚いていた。
「外からも、内からも、完璧な保護を掛けたはずだぞ?
お前の視間違いじゃないのか?」
「俺がどれだけ視えるか、知ってるだろ?
間違いなんかじゃない」
◇◇◇
その夜グレンジャーは夢を見た。
どこまでも続く白い、白い部屋。
天井も壁も床もない、白い部屋。
そこにひとりで立っていた。
「一番最初が君だったから、最後に記憶を戻してあげようと思ってて、ね?」
いきなり目の前に、白い髪と金色の瞳の美少年が現れた。
全身黒い衣装をまとって。
白い髪が映えていた。
彼の服以外が、白い部屋。
「この世界に転生したい、と君が決めただろ?
後の人達も同じ世界に転生させると言ったら、君はすごく困っていた。
余計な責任を感じて欲しくなくて、君の前世の記憶を戻すのは最後にしたんだ」
記憶を戻すのは最後にした、それを繰り返された。
「君達の人種……ニホンジンと言うのかな。
一部を除いて、責任感の強すぎる人が多いね?
運転手は、辛かったんだろうね。
自分の不注意で死んでしまった皆と同じ場所に転生したくない、と泣いて。
あまりにも不憫で、違う世界に飛ばしてあげたよ」
「……貴方、誰なん?」
「面白いよね、転生しても相変わらずカンサイの言葉を話すんだ?
いや、元々グレンジャーはカンサイベンキャラクターだったね。
だから彼を選んだのかな、オーハシさんは」
これは夢なんだ、と。
夢の最中に、そう思っていたグレンジャーは、少年から『オーハシさん』と呼び掛けられて……
いきなり目の前に、いくつもの場面が現れた。
それは超高速で切り替わっていき、ひとつひとつじっくり見えたわけでもないのに。
それにも関わらず、ひとつひとつが何だったのか、思い出せた。
座っていたのは最後尾の座席。
急ブレーキの音、後方から大きなダンプに追突された。
最後は、横転して、身体がバウンドして。
車内の何にぶつかったのか、誰と重なったのか。
物凄く背中が痛くて、周囲に煙が充満していて、ガソリン臭が酷かった。
痛い、痛い、めちゃいたい……息もうまく出来へん。
こんなん、参加せ、へんかったら、よかった……
助けを呼ぶ声さえ出せず……涙だけが流れた。
一番最初に神様の所へ来た、わたしは。
あの地獄から、一番最初に死ねたのかな。
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