68 / 78
【サイドストーリー】 攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!
第16話
しおりを挟む
その日までは、ずっとグレンジャーの後を追いかけていたのに。
翌日からは、オスカーとグレンジャーから距離を取るようになった。
カールから話しかけてくるなんて、何年ぶりか……
「グレンジャー・オルコット、君もそろそろ目覚めた方がいいんじゃないの?
いつまでも怖がらないでさ」
久し振りのカールだが、こんな話し方をする奴だったか?
にこやかなのに、面倒くさそうなこの感じ。
小役人臭がするような……
カールが腕を伸ばして、グレンジャーの肩に触れた。
「親友なんでしょ?
魔法を使って、力になってやってよ」
お前は何様か? と反発心が沸き上がってきたのは一瞬で、それよりも……
カールがカールじゃない顔を見せたことに、畏れを感じたが、それを振り払った。
「お前に言われなくても、そうするさ」
それを聞いたカールはますます笑顔を見せて、ひらひらと手を振りながら教室を出ていった。
お前からヤバいと思って、俺達から離れていったくせに。
今頃、声をかけてきたカールがどういうつもりなのか、が読めなかった。
グレンジャーは唇を噛んだ。
オスカーは俺を巻き込ませたくない、と事情を話さないけど。
あんなに苦しそうにしているのに、このまま知らん顔はしてやらない。
今夜、あの狸親父がウチに戻ってきたら……
オスカーとの関係やら、魔法をかけた理由やら、洗いざらいをグレンジャーは聞き出そうと思った。
そして明日の夜、髪色を変えて祭りへ出掛けるオスカーの後をつける。
夕食後、渋る親父殿からオスカーが甥だと聞いた。
妹のケリー・アンが彼の母なのだと。
しかし、父親の名前は、頑なに教えてくれなかった。
実父も、俺も育てられなくて。
妹の親友だったコルテス侯爵夫人に頼ってしまった、と。
王都で育てるには問題があって(この問題については話してくれない)
マーカス領主のウェイン家がオブライエン家の遠縁だったから、先ずはそこで育てて貰い、その後侯爵家が引き取ることに同意した、と言う。
学苑の中等部で親しくなった、とグレンジャーがオスカーを招いた時は、胸が詰まり手元も震えたらしい。
オスカーの容姿は全体的に父親似だが、確かに妹の面影もあって。
中途半端に掛けられた保護魔法については、養父本人が一番驚いていた。
「外からも、内からも、完璧な保護を掛けたはずだぞ?
お前の視間違いじゃないのか?」
「俺がどれだけ視えるか、知ってるだろ?
間違いなんかじゃない」
◇◇◇
その夜グレンジャーは夢を見た。
どこまでも続く白い、白い部屋。
天井も壁も床もない、白い部屋。
そこにひとりで立っていた。
「一番最初が君だったから、最後に記憶を戻してあげようと思ってて、ね?」
いきなり目の前に、白い髪と金色の瞳の美少年が現れた。
全身黒い衣装をまとって。
白い髪が映えていた。
彼の服以外が、白い部屋。
「この世界に転生したい、と君が決めただろ?
後の人達も同じ世界に転生させると言ったら、君はすごく困っていた。
余計な責任を感じて欲しくなくて、君の前世の記憶を戻すのは最後にしたんだ」
記憶を戻すのは最後にした、それを繰り返された。
「君達の人種……ニホンジンと言うのかな。
一部を除いて、責任感の強すぎる人が多いね?
運転手は、辛かったんだろうね。
自分の不注意で死んでしまった皆と同じ場所に転生したくない、と泣いて。
あまりにも不憫で、違う世界に飛ばしてあげたよ」
「……貴方、誰なん?」
「面白いよね、転生しても相変わらずカンサイの言葉を話すんだ?
いや、元々グレンジャーはカンサイベンキャラクターだったね。
だから彼を選んだのかな、オーハシさんは」
これは夢なんだ、と。
夢の最中に、そう思っていたグレンジャーは、少年から『オーハシさん』と呼び掛けられて……
いきなり目の前に、いくつもの場面が現れた。
それは超高速で切り替わっていき、ひとつひとつじっくり見えたわけでもないのに。
それにも関わらず、ひとつひとつが何だったのか、思い出せた。
座っていたのは最後尾の座席。
急ブレーキの音、後方から大きなダンプに追突された。
最後は、横転して、身体がバウンドして。
車内の何にぶつかったのか、誰と重なったのか。
物凄く背中が痛くて、周囲に煙が充満していて、ガソリン臭が酷かった。
痛い、痛い、めちゃいたい……息もうまく出来へん。
こんなん、参加せ、へんかったら、よかった……
助けを呼ぶ声さえ出せず……涙だけが流れた。
一番最初に神様の所へ来た、わたしは。
あの地獄から、一番最初に死ねたのかな。
翌日からは、オスカーとグレンジャーから距離を取るようになった。
カールから話しかけてくるなんて、何年ぶりか……
「グレンジャー・オルコット、君もそろそろ目覚めた方がいいんじゃないの?
いつまでも怖がらないでさ」
久し振りのカールだが、こんな話し方をする奴だったか?
にこやかなのに、面倒くさそうなこの感じ。
小役人臭がするような……
カールが腕を伸ばして、グレンジャーの肩に触れた。
「親友なんでしょ?
魔法を使って、力になってやってよ」
お前は何様か? と反発心が沸き上がってきたのは一瞬で、それよりも……
カールがカールじゃない顔を見せたことに、畏れを感じたが、それを振り払った。
「お前に言われなくても、そうするさ」
それを聞いたカールはますます笑顔を見せて、ひらひらと手を振りながら教室を出ていった。
お前からヤバいと思って、俺達から離れていったくせに。
今頃、声をかけてきたカールがどういうつもりなのか、が読めなかった。
グレンジャーは唇を噛んだ。
オスカーは俺を巻き込ませたくない、と事情を話さないけど。
あんなに苦しそうにしているのに、このまま知らん顔はしてやらない。
今夜、あの狸親父がウチに戻ってきたら……
オスカーとの関係やら、魔法をかけた理由やら、洗いざらいをグレンジャーは聞き出そうと思った。
そして明日の夜、髪色を変えて祭りへ出掛けるオスカーの後をつける。
夕食後、渋る親父殿からオスカーが甥だと聞いた。
妹のケリー・アンが彼の母なのだと。
しかし、父親の名前は、頑なに教えてくれなかった。
実父も、俺も育てられなくて。
妹の親友だったコルテス侯爵夫人に頼ってしまった、と。
王都で育てるには問題があって(この問題については話してくれない)
マーカス領主のウェイン家がオブライエン家の遠縁だったから、先ずはそこで育てて貰い、その後侯爵家が引き取ることに同意した、と言う。
学苑の中等部で親しくなった、とグレンジャーがオスカーを招いた時は、胸が詰まり手元も震えたらしい。
オスカーの容姿は全体的に父親似だが、確かに妹の面影もあって。
中途半端に掛けられた保護魔法については、養父本人が一番驚いていた。
「外からも、内からも、完璧な保護を掛けたはずだぞ?
お前の視間違いじゃないのか?」
「俺がどれだけ視えるか、知ってるだろ?
間違いなんかじゃない」
◇◇◇
その夜グレンジャーは夢を見た。
どこまでも続く白い、白い部屋。
天井も壁も床もない、白い部屋。
そこにひとりで立っていた。
「一番最初が君だったから、最後に記憶を戻してあげようと思ってて、ね?」
いきなり目の前に、白い髪と金色の瞳の美少年が現れた。
全身黒い衣装をまとって。
白い髪が映えていた。
彼の服以外が、白い部屋。
「この世界に転生したい、と君が決めただろ?
後の人達も同じ世界に転生させると言ったら、君はすごく困っていた。
余計な責任を感じて欲しくなくて、君の前世の記憶を戻すのは最後にしたんだ」
記憶を戻すのは最後にした、それを繰り返された。
「君達の人種……ニホンジンと言うのかな。
一部を除いて、責任感の強すぎる人が多いね?
運転手は、辛かったんだろうね。
自分の不注意で死んでしまった皆と同じ場所に転生したくない、と泣いて。
あまりにも不憫で、違う世界に飛ばしてあげたよ」
「……貴方、誰なん?」
「面白いよね、転生しても相変わらずカンサイの言葉を話すんだ?
いや、元々グレンジャーはカンサイベンキャラクターだったね。
だから彼を選んだのかな、オーハシさんは」
これは夢なんだ、と。
夢の最中に、そう思っていたグレンジャーは、少年から『オーハシさん』と呼び掛けられて……
いきなり目の前に、いくつもの場面が現れた。
それは超高速で切り替わっていき、ひとつひとつじっくり見えたわけでもないのに。
それにも関わらず、ひとつひとつが何だったのか、思い出せた。
座っていたのは最後尾の座席。
急ブレーキの音、後方から大きなダンプに追突された。
最後は、横転して、身体がバウンドして。
車内の何にぶつかったのか、誰と重なったのか。
物凄く背中が痛くて、周囲に煙が充満していて、ガソリン臭が酷かった。
痛い、痛い、めちゃいたい……息もうまく出来へん。
こんなん、参加せ、へんかったら、よかった……
助けを呼ぶ声さえ出せず……涙だけが流れた。
一番最初に神様の所へ来た、わたしは。
あの地獄から、一番最初に死ねたのかな。
14
お気に入りに追加
680
あなたにおすすめの小説
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる