【完結】原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

Mimi

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【サイドストーリー】 攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!

第8話

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 グレンジャー達3人は、オスカーを真ん中にして歩いていた。
 自分の側にピタッとくっついて歩くカールに、前を向いたままでオスカーは聞いている。
 何で人目のつかない場所を、カールが知ってるなんて思うのか。


「……お、王立博物館の裏かな」

「了解、俺達これから馬車に乗って、そこに行くからさ。
 定員いっぱいで乗れないから、ってお前帰ればいいから」

「保安警備隊、呼べばいいの?」

「止めろ、絶対に呼ぶなよ?
 呼べば俺達停学になるからな、黙って帰れ。
 明日学苑で会えるから、他の奴には……親にもだぞ。
 絶対に言わないでくれよ」

「分かった……絶対に誰にも言わない」


 この時点でカールは、ビルに対してと同じ様に、オスカーを怖がっているように見えた。
 命じられたら何でも聞きます、みたいな。


 そして、カールに話した通り、オスカーは定員4名の辻馬車を停めた。
 そして、うまいことを言って、カールを乗せなかった。

 青い顔をして見送ろうとするカールに、ビルがにたにた笑いながらお別れの挨拶をした。


「お前の顔も覚えたぜ?
 今度は一緒に遊ぼうな?」

 嫌な感じの笑い声を女がたてて。
 その頬にビルがキスしていた。

 オスカーはずっと微笑みを、その端正な顔に張り付けていたが。
 その割りに隠す気がない冷めた視線を、ビルも感じたようで。
 八つ当たりのように、向かい側に座ったグレンジャーの足を蹴った。


「相変わらず、気持ち悪い目をしてんじゃねーか。
 あん時より、ますます赤くなってるな?
 お前さぁ、本当に人間かよ?
 バケモンじゃねーの?」

「……」

「こっちのガキは紫かよ。
 変な目の色同士、気が合う、ってか」

「そぉ? 赤も、紫も格好いいよぉ」

 黙っていればいいのに、女が余計なことを言って、ビルから頬を平手打ちされた。
 そこにさっきはキスしてたのに……狭い馬車の中で勘弁してくれ。
 何も言わないオスカーの膝の上の拳が固く握られたのが、隣に居たグレンジャーには分かった。
 目の前で女が殴られたことに怒っているんだ……


 馬車は繁華街を抜けて、王立植物園や博物館がある文化地区に入っていく。
 涙を見せたら、もっと殴られてしまうのだろうか。
 泣くのを我慢している女が鼻をぐずぐずさせていて、車内は変な雰囲気だった。
 外を眺めていたビルが落ち着かないように、そわそわし出した。
 このエリアには来たことがないのだろう。


「おい、お前、どこまで行くんだ?」

「博物館の裏に、僕のお祖母ちゃんが住んでて。
 僕が頼んだら、いくらでも出してくれるから」

「は、孫に甘いババアか。
 いいな、お前なかなか気が利くな?
 使えるガキは俺は好きだぜ?」


 従順そうに『僕のお祖母ちゃん』だって。
 オスカーがこんな策士だとは思わなかった。


 文化地区は居住地区じゃない。
 ビルはそんなことも知らないんだ。
 公共施設が閉まる16時過ぎには、人影もまばらだ。
 こんな場所を直ぐに言えたカール、って……


 馬車が博物館裏に停まった。
 支払いをする時、オスカーがグレンジャーを手招いた。


「練習だ、『俺達を忘れろ』とでも、念じてくれ」


 え、さっき言ってた記憶の書き換えの練習?
 グレンジャーは戸惑いながらも、御者に対してその通りにした。
 すると、御者はしばらくグレンジャーを見て。
 頭を振って、馬車を駆けて行ってしまった。


 あれだけで果たしてうまく行ったのかは、わからない。
 しかしもし、成功していたのなら。
 あの御者は胸ポケットにある覚えのない紙幣に驚くだろう。


 馬車を見送るふたりに、ビルが早くしろ、と大声を出した。
 振り返りつつ、オスカーがグレンジャーに親指を立てた。


「さぁ、グレン。
 絶対に殺しちゃ駄目だからな?
 お前を蹴った膝を狙うか……
 彼女を殴った腕を狙うか。
 自分より力が無い者に暴力をふるうクズだ。
 実行するのはグレンだけど、指示したのは俺だ。
 俺達は共犯で、共に墓場まで持っていく秘密にしよう。
 もし、記憶の書き換えが失敗してバレたら、俺の名前を出せよ。
 一緒に退学になろう」

 
 
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