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【サイドストーリー】 攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!
第4話
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養父のカーネル・オルコットとの出会いは、グレンジャーにとって僥倖以外の何物でもない。
孤児院の年長の少年達から苛めを受けていた現場をカーネルが押さえて。
あのままあそこに居たら、俺はどうなっていただろう。
寝室の、今まで眠ったことがない柔らかなベッドに横たわり、眠りに落ちる前、グレンジャーはよく考える。
カーネルとの養子縁組の決め手になった瞳の色は、段々と赤味が増えてきて『気味が悪い』と、それだけで苛められる理由になった。
理不尽に殴られたり、罵られたり。
そんなことが増えてきて、いつか自分は爆発してしまう、それだけは確かに感じていたのだ。
爆発は時間の問題だ、と。
まだ8歳になったばかりのグレンジャーだったが、他人のお世話になることには慣れていた。
邪魔にされることなく、嫌がられず、鬱陶しがられず。
それは、きちんと自分から挨拶をし、質問されたらきびきび答え。
何かを言い付けられたら『どうして?』なんて、聞いたりせずに、それを守ること。
だからグレンジャーは頑張った。
いい加減、シガレットケース撃ちには飽きてきていたが、養父がしろ、と言うのなら、するしかないのだ。
そうでなければ、また孤児院に逆戻り。
それだけは勘弁して欲しかった。
量が多くて温かい食べ物。
肌に優しい服。
風呂には毎日入れて。
柔らかいベッド。
それらをもう手放せない。
だから、俺は頑張るのだとグレンジャーは思っていて。
自分自身気付いてはいなかった。
手放せないのは、本当はそんなものではないのだ、と。
手放したくないのは、自分を見守ってくれているカーネルの眼差しなのだ、ということを。
◇◇◇
とうとう一番端、つまり真正面に置かれたシガレットケースを、10発連続で撃ち倒すことに成功した。
次は、それを起こす練習だな、と思い込んでいたグレンジャーに。
カーネルは分厚い辞典を見せた。
テーブルに自立出来る、充分な厚みのある大きな辞典だ。
今度はそれを撃ち倒せ、と言う。
シガレットケースに比べて、大きさも重量も何倍になるのだろうか……
今度は手前2脚目の距離からだ。
こんなに大きくて重くて……当たっているはずなのに簡単には倒せない。
どうしたらいいんだ?
1発ずつじゃなく、連射すればいいのか?
「肝心なのは、何を倒すのか、じゃない。
どう倒すのか、だ」
「それは、どういうことですか?」
「だから、その話し方止めろ、って」
子供が丁寧に話して、注意をしてくる大人は養父が初めてだった。
何度となく注意されたけれど、なかなかくだけて話せない。
「……どういう意味、なの?」
「お前はさ、辞典を倒すことに気を取られてる。
この前までしていたシガレットケースを倒したやり方を忘れている。
どうやって倒してきたかを思い出せ。
やり方は同じなんだ。
目の前の物の大きさに囚われるな」
シガレットケースを倒したやり方……
ここへ来た翌日。
朝昼兼用の旨い食事をして、食器を片付けて。
一番最初に養父から教えられた、物を撃つ魔法。
思いっきり指先に空気を引き付けて、弾く。
辞典が少し動いた。
「良くやったな、グレン。
お前にはやっぱり才能がある。
それを連射してみろ」
どうにか、これで孤児院に返されることはない、と安心出来るようになったのは、辞典がレンガに替わった頃だ。
「お前はもっと、父親を尊敬しろ」
そう言われるくらい、養父に対して。
遠慮なく、話せるようになったのも、同じ頃だった。
やがて、5年の歳月が過ぎた。
グレンジャーは13歳になり、王立貴族学苑中等部へ入学した。
そして、グレンジャーは『彼』に出会った。
前世の柚希が大好きだった『乙花』のヒーロー……
推しの、オスカー・オブライエン・コルテスに。
孤児院の年長の少年達から苛めを受けていた現場をカーネルが押さえて。
あのままあそこに居たら、俺はどうなっていただろう。
寝室の、今まで眠ったことがない柔らかなベッドに横たわり、眠りに落ちる前、グレンジャーはよく考える。
カーネルとの養子縁組の決め手になった瞳の色は、段々と赤味が増えてきて『気味が悪い』と、それだけで苛められる理由になった。
理不尽に殴られたり、罵られたり。
そんなことが増えてきて、いつか自分は爆発してしまう、それだけは確かに感じていたのだ。
爆発は時間の問題だ、と。
まだ8歳になったばかりのグレンジャーだったが、他人のお世話になることには慣れていた。
邪魔にされることなく、嫌がられず、鬱陶しがられず。
それは、きちんと自分から挨拶をし、質問されたらきびきび答え。
何かを言い付けられたら『どうして?』なんて、聞いたりせずに、それを守ること。
だからグレンジャーは頑張った。
いい加減、シガレットケース撃ちには飽きてきていたが、養父がしろ、と言うのなら、するしかないのだ。
そうでなければ、また孤児院に逆戻り。
それだけは勘弁して欲しかった。
量が多くて温かい食べ物。
肌に優しい服。
風呂には毎日入れて。
柔らかいベッド。
それらをもう手放せない。
だから、俺は頑張るのだとグレンジャーは思っていて。
自分自身気付いてはいなかった。
手放せないのは、本当はそんなものではないのだ、と。
手放したくないのは、自分を見守ってくれているカーネルの眼差しなのだ、ということを。
◇◇◇
とうとう一番端、つまり真正面に置かれたシガレットケースを、10発連続で撃ち倒すことに成功した。
次は、それを起こす練習だな、と思い込んでいたグレンジャーに。
カーネルは分厚い辞典を見せた。
テーブルに自立出来る、充分な厚みのある大きな辞典だ。
今度はそれを撃ち倒せ、と言う。
シガレットケースに比べて、大きさも重量も何倍になるのだろうか……
今度は手前2脚目の距離からだ。
こんなに大きくて重くて……当たっているはずなのに簡単には倒せない。
どうしたらいいんだ?
1発ずつじゃなく、連射すればいいのか?
「肝心なのは、何を倒すのか、じゃない。
どう倒すのか、だ」
「それは、どういうことですか?」
「だから、その話し方止めろ、って」
子供が丁寧に話して、注意をしてくる大人は養父が初めてだった。
何度となく注意されたけれど、なかなかくだけて話せない。
「……どういう意味、なの?」
「お前はさ、辞典を倒すことに気を取られてる。
この前までしていたシガレットケースを倒したやり方を忘れている。
どうやって倒してきたかを思い出せ。
やり方は同じなんだ。
目の前の物の大きさに囚われるな」
シガレットケースを倒したやり方……
ここへ来た翌日。
朝昼兼用の旨い食事をして、食器を片付けて。
一番最初に養父から教えられた、物を撃つ魔法。
思いっきり指先に空気を引き付けて、弾く。
辞典が少し動いた。
「良くやったな、グレン。
お前にはやっぱり才能がある。
それを連射してみろ」
どうにか、これで孤児院に返されることはない、と安心出来るようになったのは、辞典がレンガに替わった頃だ。
「お前はもっと、父親を尊敬しろ」
そう言われるくらい、養父に対して。
遠慮なく、話せるようになったのも、同じ頃だった。
やがて、5年の歳月が過ぎた。
グレンジャーは13歳になり、王立貴族学苑中等部へ入学した。
そして、グレンジャーは『彼』に出会った。
前世の柚希が大好きだった『乙花』のヒーロー……
推しの、オスカー・オブライエン・コルテスに。
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