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【サイドストーリー】 攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!

第3話

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 思いっきり指先に空気を引き付けて、弾く。

 もう1時間近く、ただそれだけを繰り返す。


 食卓にしている長いテーブル。
 グレンジャーが座っている上座から数えて10脚目。
 その前のテーブル中央に置かれた養父の銀製のシガレットケース。
 それを撃ち倒す。


 テーブルは結構な長さがある。
 片側に10脚の椅子が並んでいて。
 合計22名が食事可能な長さがある。


 たまに職場の部下を集めて、食事を振る舞うかららしいが、グレンジャーが来てから1ヶ月以上過ぎた今も、まだその食事会は行われていない。




 最初の日は3つ先の椅子の位置。
 その距離のテーブルの真ん中に置いたシガレットケースを狙え、と言われて。
 2発失敗して、3発目で撃ち倒すことに成功した。
 コツを掴めば簡単で、その日は10回倒しただけで解放して貰えた。


 側で見ていた養父は、グレンジャーが倒したケースを手を使わずに、元の位置に戻す。
 倒すよりも、もっと難しそうなその技術に。

『これはきっと、一番最後の正面の距離を撃ち倒せる様になれば、その次からは3脚目に戻って、撃つのと戻すのを、繰り返し練習させられるんだ』と。

 養父が自分に課す訓練の流れが読めた気がした。
 だが、まだ10脚目の撃ち倒しに思ったより手こずって成功していなかった。


 グレンジャーは隣で、気長に自分を見守る養父を、横目で睨んだ。


 ◇◇◇


 流行り病で、両親が立て続けに亡くなった。
 貧しい母国で仕事を失った父に連れられて、この国へ来た。
 母国に比べて、移住したこの国は豊かだ。
 気温も割りと一定していて、茹だるような夏の暑さも、凍えるような冬の寒さもない……神様から愛された国。


 それでも、移民の両親は働いて働いて。
 やがて父は病に倒れて、看病した母も同じ病に倒れた。
 この国が移民政策において高らかに謳う『皆、平等』はクソだった。



 何故か、15歳以下の子供は罹患しない、癖のある流行り病だ。
 病院でも移民は後回しにされた。
 貧しい彼等の家に、個人で開業している医師の訪問診療等来るはずもなく。
 平民でも行ける都立病院だけが頼みだったのに。


 そして、両親は共に亡くなり。
 グレンジャーは天涯孤独の身になった。
 母が病に倒れたことによって、治る迄ならと面倒をみてくれていた同郷の婦人も、このまま引き取るのは無理だと役所に訴えて。


 この国に寄る辺のない幼い少年は孤児院行となり。
 ぎちぎちに毎日が管理されていた孤児院の月一回の。
 自由行動が許された日。
 出会いは雑貨店だった。

 
 年長の少年達に脅されて、万引きを命じられて。
 その現場を行き合わせた男に押さえられて。
 グレンジャーに命じた少年達はてんでバラバラに逃げたのに、自分は離して貰えなかった。


 決して痛みはなかったけれど、捕まえられた手を何故だか引き離せなかった。
 男が力を入れてるようには見えず、腕を軽く握られているだけなのに。



 男は偶然目にしたグレンジャーの瞳の色に気付いた。
 何より掴んだ男児の腕からは少量の魔力が漏れだしていた。
 男はその場で、簡単なテストを行った。
 そして、そのまま共に孤児院に送ってくれた。


 ……と思ったのは誤解で。
 養子手続きのために、カーネルは孤児院に行ったのだから。
 その1時間後には、グレンジャー・マイロはグレンジャー・オルコットになり。


 孤児院に来てから1年も経たずに、オルコット家に引き取られることとなったのだ。
 馬車に揺られながら、話の展開についていけずに黙りこくるグレンジャーに、養父となったカーネル・オルコットが引き取った理由を話してくれた。


「赤い目には魔力が宿ることが、多い」


 グレンジャーの瞳は、錆の様な茶色に薄く赤が混じったラスティレッドだった。


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