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【サイドストーリー】 攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!

第2話

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 なんだ、なんだ、この感じ。
 にこやかなのに、面倒くさそうなこの感じ。
 小役人臭がするような。
 標準語で話されたら、めっちゃ他人事に聞こえる。


 よくよく考えて答えてね?
 何なん、その言い方。
 決めたのは貴女、何か問題が起こっても。
 私が決めたんじゃありませんよ、と言いたげな。
 わたしに責任丸投げ?
 顔はヨーロッパ耽美映画に出てきそうな美少年なのに。
 性格は、めっちゃ悪そうやん。



「……何で転生なんですか?
 死んだら、天国か地獄か、とかやなくて?」

「何で転生か、というと……想像出来るでしょ?
 今回の事故はこちらのミス。
 本当は午後から休めるはずだったのに、バスの運転手は代理を頼まれてね。
 彼は疲れててハンドル操作を誤っちゃったんだよ」

「間違って、死んだ……」

「でも、質問するってことは、一応この状況は受け入れてくれてるんだよね?
 普通は、転生って理解できなくて、僕の言うことを最初からはちゃんと聞けない人が多いんだけど。
 この事案がオーハシさんの様なタイプが多いなら、皆早く片付きそうだね」

 誤魔化したいのか、えらく早口で畳み掛けるように少年は話し続けた。
 特に『こちらのミス』の箇所はすごく小さな声になってた。
 褒められた風な柚希だって、仕方なくこの状況を受け入れたが、本心で納得しているわけではない。



 転生、それは異世界ファンタジーではメインのテーマだ。

 アラサーなのにそんなの読んでるの、と言われそうだが、柚希は筋金入りの投稿小説(異世界ファンタジー)読み専だった。

 そこから書籍化された作品を買うまでになり。
 最近ではお気に入りの作家の戸倉穂波が原作書き下ろしのコミカライズ連載を始めたレディースコミック雑誌まで(本屋の店頭購入が恥ずかしくて)
密林から 毎月自宅配送にして。

 そして挙げ句の果てに、今回のファンミーティングに関西から出陣したのだった。


 そういうファンタジーというか、中世ヨーロッパ的な世界観に未だに惹かれていたのは。
 柚希の地元が国民的歌劇団のお膝元であったことが大きく関係していた、と思う。


 その女性ばかりで構成された歌劇団が主に演目に選ぶのが、中世から近代にかけての欧米を舞台に繰り広げられる切ないロマンスであり、壮大でヒストリカルな物語であったからだ。

 校外学習で観劇をしたこともあるし、地元ではごく普通に歌劇団の生徒さんを、街中や飲食店で見かけることも多い。


 柚希にとって、『それ風な世界観』は、幼い頃からずっと側にあり、その身に染み付いていたのだ。




「同じバスに乗ってて亡くなっているなら、転生を理解出来なかったり、拒否したりする人は居ないと思いますけど。
 あの……貴方はどういった立場の方でしょうか。
 死後世界の転生担当者とか?」

「そうだね、転生担当者とか言うなら、その通りだけど。
 人類から見たら、神と呼ばれる類いかな」


 え、神!
 神、って? こんなに若いん?
 欧米人タイプやから、子供には見えないけど15、16くらいの未成年には見える!

 ピュアな天使が成長しました。
 そういうポジションだと思ってた!


 黙って目を見開いた柚希に、転生の神様は素敵な笑顔を見せた。


「いつもこの見た目じゃないよ。
 今日はこの気分だったから。
 昨日は白くて長い髭を生やしたジジイだったよ。
 オーハシさんがそっちの方が神らしくていいなら、今から見た目を変えようか」


 さすが、神様は口に出さなくても、柚希の思考を読んだようだ。
 だから、強く強く思ったし、口にも出した。


「いやいや、出来たらそのままで!
 ジジイよりも美少年でお願い致します!」と。






 次に目覚めた時には、『乙花』のグレンジャー・オルコットとして生まれていて。

 彼の前世だった大橋柚希は深い深い記憶の奥底に眠っていて。


 いつか目覚める時を。

 静かに待っていた。
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