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【サイドストーリー】 攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!

第1話

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 グレンジャー・オルコットは転生者である。

 前世は関西人のアラサー女子だった。
 名前は大橋柚希。
 年齢は27歳。
 兵庫に生まれて、京都で大学の4年間を過ごし、実家から乗り換えなしの電車1本で通える大阪の会社に就職した。

 勤務先は残業に関してチャコールグレーだが、人間関係は悪くなかった。
 社畜と呼ばれる程、私生活が無かった訳でもない。


 東京じゃないTokyoの夢と魔法の王国に、年1回2泊3日で2パークインする以外は、どっぷり近畿に浸かっているコテコテの関西人だ。


 そろそろ結婚するか、実家から出て自立するか、考え始めた頃だった。
 色気は余りなかったが、決してモテない女でもなく、人並みに恋人は居たり居なかったりを、高校生の頃から2年周期で繰り返していた。

 夏の五輪前後には彼氏が居るのに、冬の五輪の開催年には居ないパターンだ。
 丁度今は居なかったが、慣れているので焦りはなかった。
 次回の夏のオリンピックを待てばいい。


 柚希はそれなりに現状が気に入っていた。
 ……のに、白い部屋にひとりで立っている自分に気付いて。



「次の人生、何がいいかな?」と。
 目の前に出現した、白いゆったりとしたロングカーデを羽織った少年に聞かれて。


「はぁ」なんて。
 返しが早い、と言われていた柚希らしくなく、ぼんやりした返事をしてしまった。
 さっきまで、わたしひとり、だったよね?


 そしてまた、続いてぼんやりと考える。
 いきなり、出てきたこの子が着ているのは……

 白いフワッとしたロングカーデの下は、白いシャツと同じ素材の白いパンツが見えていて、足元にはこれまた白い革のサンダル。
 白のセットアップに、白いカーデ?

 全身白、って、どうなん?
 カレーうどん食べたら、絶対ヤバいアカンやつ。

 ……けど、この子に似合ってるから、まぁえぇことにしとこ。
 おうどん食べる顔してないし。



 自分では意識していなかったが、そんなどうでもいいことをつらつら考えて、ひとりで納得していたのは、柚希が混乱していたからだ。


 何がなんだか……自分のおかれている状況が把握出来ていない。
 今居るこの場所が何処なのか、わからなくて。
 目の前でにこやかに微笑んでいる美少年は白い髪に金色の瞳をしていて明らかに日本人ではないのに(ウィッグにカラコンには見えなかった)、日本語を話しているし。
 このパターンはあれだ、よくある……

 いや待て、ドッキリという可能性もあるが、わたしは素人、一般人だ。
 ドッキリされるわけないな。

 本人に承諾なしで拉致して動画撮って配信?
 そんなリスキーなことを一般人にして、稼ごうとする配信者は居ない。
 あれは芸人やから、おもろい訳で。


 そう思いながらも、何処かにカメラがないかと頭上を確認しようとしたが、吹き抜けだとしてもこの部屋の天井が見えない。
 これは……マジか、マジなヤツか。


「実はね、今回の事案では、オーハシさんが1番最初にここに来たひとなんだよ。
 これから、続々と同じ事故で亡くなってしまった人達がやって来る。
 何人だったかな……貴女を入れて43名、って聞いてるんだけど、多いね」

「……」


『オータニサン』みたいに、少年が話す『オーハシさん』の語尾が上がっているのは、聞き流せたが。
 事故で亡くなった、は聞き流せなくて。
 柚希はようやくはっきりと思い出して、初めて震えた。


 あれ、だ。
 あの、『乙花』の。
 ファンミで乗ったバス。

 最後のサービスエリア休憩で、柚希は見ていた。
 バスの運転手が自販機のコーヒーを片手に、忙しなく煙草を2本立て続けに吸っていたこと。

 どうして、喫煙コーナーに目が行ったのか、わからないが。
 その運転手の様子が気になって。
 煙草を吸い終わって、彼は肩を叩いたり、背筋を伸ばしたり。
 その様子から、あのひと疲れてて眠いんやわ、と感じたのだ。


 長時間の夜行バスなんかじゃなかった。
 午後1時の集合は、当日新大阪から新幹線で来た柚希にも楽な時間だった。
 その時間から出発して夕方前には目的地に到着する。
 辛い行程ではないはずだ。
 後1時間だけやし、おっちゃん頑張ってな、と思った……



「43名をそれぞれ違うところに送るのも疲れるしね。
 最初に来た貴女に決定権をあげるよ。
 オーハシさんが希望した転生先に43名全員を送ることにしたからね。
 その辺り、よくよく考えて答えてね?」

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