53 / 78
【サイドストーリー】 攻略対象者に転生しましたが推しの親友枠におさまったので、彼の初恋を見守ることにします!
第1話
しおりを挟む
グレンジャー・オルコットは転生者である。
前世は関西人のアラサー女子だった。
名前は大橋柚希。
年齢は27歳。
兵庫に生まれて、京都で大学の4年間を過ごし、実家から乗り換えなしの電車1本で通える大阪の会社に就職した。
勤務先は残業に関してチャコールグレーだが、人間関係は悪くなかった。
社畜と呼ばれる程、私生活が無かった訳でもない。
東京じゃないTokyoの夢と魔法の王国に、年1回2泊3日で2パークインする以外は、どっぷり近畿に浸かっているコテコテの関西人だ。
そろそろ結婚するか、実家から出て自立するか、考え始めた頃だった。
色気は余りなかったが、決してモテない女でもなく、人並みに恋人は居たり居なかったりを、高校生の頃から2年周期で繰り返していた。
夏の五輪前後には彼氏が居るのに、冬の五輪の開催年には居ないパターンだ。
丁度今は居なかったが、慣れているので焦りはなかった。
次回の夏のオリンピックを待てばいい。
柚希はそれなりに現状が気に入っていた。
……のに、白い部屋にひとりで立っている自分に気付いて。
「次の人生、何がいいかな?」と。
目の前に出現した、白いゆったりとしたロングカーデを羽織った少年に聞かれて。
「はぁ」なんて。
返しが早い、と言われていた柚希らしくなく、ぼんやりした返事をしてしまった。
さっきまで、わたしひとり、だったよね?
そしてまた、続いてぼんやりと考える。
いきなり、出てきたこの子が着ているのは……
白いフワッとしたロングカーデの下は、白いシャツと同じ素材の白いパンツが見えていて、足元にはこれまた白い革のサンダル。
白のセットアップに、白いカーデ?
全身白、って、どうなん?
カレーうどん食べたら、絶対ヤバいアカンやつ。
……けど、この子に似合ってるから、まぁえぇことにしとこ。
おうどん食べる顔してないし。
自分では意識していなかったが、そんなどうでもいいことをつらつら考えて、ひとりで納得していたのは、柚希が混乱していたからだ。
何がなんだか……自分のおかれている状況が把握出来ていない。
今居るこの場所が何処なのか、わからなくて。
目の前でにこやかに微笑んでいる美少年は白い髪に金色の瞳をしていて明らかに日本人ではないのに(ウィッグにカラコンには見えなかった)、日本語を話しているし。
このパターンはあれだ、よくある……
いや待て、ドッキリという可能性もあるが、わたしは素人、一般人だ。
ドッキリされるわけないな。
本人に承諾なしで拉致して動画撮って配信?
そんなリスキーなことを一般人にして、稼ごうとする配信者は居ない。
あれは芸人やから、おもろい訳で。
そう思いながらも、何処かにカメラがないかと頭上を確認しようとしたが、吹き抜けだとしてもこの部屋の天井が見えない。
これは……マジか、マジなヤツか。
「実はね、今回の事案では、オーハシさんが1番最初にここに来たひとなんだよ。
これから、続々と同じ事故で亡くなってしまった人達がやって来る。
何人だったかな……貴女を入れて43名、って聞いてるんだけど、多いね」
「……」
『オータニサン』みたいに、少年が話す『オーハシさん』の語尾が上がっているのは、聞き流せたが。
事故で亡くなった、は聞き流せなくて。
柚希はようやくはっきりと思い出して、初めて震えた。
あれ、だ。
あの、『乙花』の。
ファンミで乗ったバス。
最後のサービスエリア休憩で、柚希は見ていた。
バスの運転手が自販機のコーヒーを片手に、忙しなく煙草を2本立て続けに吸っていたこと。
どうして、喫煙コーナーに目が行ったのか、わからないが。
その運転手の様子が気になって。
煙草を吸い終わって、彼は肩を叩いたり、背筋を伸ばしたり。
その様子から、あのひと疲れてて眠いんやわ、と感じたのだ。
長時間の夜行バスなんかじゃなかった。
午後1時の集合は、当日新大阪から新幹線で来た柚希にも楽な時間だった。
その時間から出発して夕方前には目的地に到着する。
辛い行程ではないはずだ。
後1時間だけやし、おっちゃん頑張ってな、と思った……
「43名をそれぞれ違うところに送るのも疲れるしね。
最初に来た貴女に決定権をあげるよ。
オーハシさんが希望した転生先に43名全員を送ることにしたからね。
その辺り、よくよく考えて答えてね?」
前世は関西人のアラサー女子だった。
名前は大橋柚希。
年齢は27歳。
兵庫に生まれて、京都で大学の4年間を過ごし、実家から乗り換えなしの電車1本で通える大阪の会社に就職した。
勤務先は残業に関してチャコールグレーだが、人間関係は悪くなかった。
社畜と呼ばれる程、私生活が無かった訳でもない。
東京じゃないTokyoの夢と魔法の王国に、年1回2泊3日で2パークインする以外は、どっぷり近畿に浸かっているコテコテの関西人だ。
そろそろ結婚するか、実家から出て自立するか、考え始めた頃だった。
色気は余りなかったが、決してモテない女でもなく、人並みに恋人は居たり居なかったりを、高校生の頃から2年周期で繰り返していた。
夏の五輪前後には彼氏が居るのに、冬の五輪の開催年には居ないパターンだ。
丁度今は居なかったが、慣れているので焦りはなかった。
次回の夏のオリンピックを待てばいい。
柚希はそれなりに現状が気に入っていた。
……のに、白い部屋にひとりで立っている自分に気付いて。
「次の人生、何がいいかな?」と。
目の前に出現した、白いゆったりとしたロングカーデを羽織った少年に聞かれて。
「はぁ」なんて。
返しが早い、と言われていた柚希らしくなく、ぼんやりした返事をしてしまった。
さっきまで、わたしひとり、だったよね?
そしてまた、続いてぼんやりと考える。
いきなり、出てきたこの子が着ているのは……
白いフワッとしたロングカーデの下は、白いシャツと同じ素材の白いパンツが見えていて、足元にはこれまた白い革のサンダル。
白のセットアップに、白いカーデ?
全身白、って、どうなん?
カレーうどん食べたら、絶対ヤバいアカンやつ。
……けど、この子に似合ってるから、まぁえぇことにしとこ。
おうどん食べる顔してないし。
自分では意識していなかったが、そんなどうでもいいことをつらつら考えて、ひとりで納得していたのは、柚希が混乱していたからだ。
何がなんだか……自分のおかれている状況が把握出来ていない。
今居るこの場所が何処なのか、わからなくて。
目の前でにこやかに微笑んでいる美少年は白い髪に金色の瞳をしていて明らかに日本人ではないのに(ウィッグにカラコンには見えなかった)、日本語を話しているし。
このパターンはあれだ、よくある……
いや待て、ドッキリという可能性もあるが、わたしは素人、一般人だ。
ドッキリされるわけないな。
本人に承諾なしで拉致して動画撮って配信?
そんなリスキーなことを一般人にして、稼ごうとする配信者は居ない。
あれは芸人やから、おもろい訳で。
そう思いながらも、何処かにカメラがないかと頭上を確認しようとしたが、吹き抜けだとしてもこの部屋の天井が見えない。
これは……マジか、マジなヤツか。
「実はね、今回の事案では、オーハシさんが1番最初にここに来たひとなんだよ。
これから、続々と同じ事故で亡くなってしまった人達がやって来る。
何人だったかな……貴女を入れて43名、って聞いてるんだけど、多いね」
「……」
『オータニサン』みたいに、少年が話す『オーハシさん』の語尾が上がっているのは、聞き流せたが。
事故で亡くなった、は聞き流せなくて。
柚希はようやくはっきりと思い出して、初めて震えた。
あれ、だ。
あの、『乙花』の。
ファンミで乗ったバス。
最後のサービスエリア休憩で、柚希は見ていた。
バスの運転手が自販機のコーヒーを片手に、忙しなく煙草を2本立て続けに吸っていたこと。
どうして、喫煙コーナーに目が行ったのか、わからないが。
その運転手の様子が気になって。
煙草を吸い終わって、彼は肩を叩いたり、背筋を伸ばしたり。
その様子から、あのひと疲れてて眠いんやわ、と感じたのだ。
長時間の夜行バスなんかじゃなかった。
午後1時の集合は、当日新大阪から新幹線で来た柚希にも楽な時間だった。
その時間から出発して夕方前には目的地に到着する。
辛い行程ではないはずだ。
後1時間だけやし、おっちゃん頑張ってな、と思った……
「43名をそれぞれ違うところに送るのも疲れるしね。
最初に来た貴女に決定権をあげるよ。
オーハシさんが希望した転生先に43名全員を送ることにしたからね。
その辺り、よくよく考えて答えてね?」
12
お気に入りに追加
662
あなたにおすすめの小説
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ざまぁ系ヒロインに転生したけど、悪役令嬢と仲良くなったので、隣国に亡命して健全生活目指します!
彩世幻夜
恋愛
あれ、もしかしてここ、乙女ゲーの世界?
私ヒロイン?
いや、むしろここ二次小説の世界じゃない?
私、ざまぁされる悪役ヒロインじゃ……!
いやいや、冗談じゃないよ!
攻略対象はクズ男ばかりだし、悪役令嬢達とは親友になっちゃったし……、
ここは仲良くエスケープしちゃいましょう!
前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる