【完結】原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

Mimi

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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

最終話

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 ロザリンドがベッドから起き上がれるようになったのは、3日前の事だ。

 先日行われたアーノルド王太子殿下の21歳の生誕記念夜会も母は欠席して彼女の側に付いてくれ、父と義兄は最速か?と聞きたい早さで帰宅した。


 オスカーは伯爵位以上の貴族達が立ち並ぶ前でアーノルドに跪き、臣下の礼を取り、こう口上を述べたそうだ。


「この佳き日、私オスカー・ウェイン・マーカス、殿下のご尊顔を拝し、お慶び申し上げ奉ります」


 それを聞いて思わず立ち上がりかけた国王陛下を、押し止めたのは王妃陛下だった。
 アーノルド王太子を通じて王妃陛下には事前にこの旨は伝えており、コルテス侯爵は勿論の事、グレンフォール公爵も承知の話だった。
 つまり国王陛下だけが知らされていなかったのだ。



 オスカーは伯爵位以上の貴族達の前で。
 すなわち貴族議会の議員達の前で、自ら王族にはならない、と宣言したのだった。
 いくら国王陛下が根回しをしていたとしても、本人がはっきりと口にしたのだ。
 自分の意見をゴリ押し出来る力を、ローレンス国王陛下は持っていなかった。



「それでよろしかったんですか?」

 本来の自分の地位である、王弟になるチャンスだったのに。


「君が言ったんだよ、王族にはなるな、って。
 ロージーの頼みだからね、俺は言うこと聞くよ。
 自分が頼んだこと、忘れたの?」




 グレンジャーがお見舞いに来てくれて、久しぶりに庭でお茶をした。
 自分の救出劇を聞いて、あの男にどのような処分が下ったのかも聞いた。


 男は侯爵令嬢誘拐とオズワルドを殺めた罪で服役するだろうが。
 ランドールの件に関しては、コルテス侯爵家が責任を持って彼と亡き同僚の名誉回復に努めることを約束すると、初めて男は泣きながら名乗ったそうだ。


 夜会の一件に関しては、ロザリンドは何も知らされていなかったので、初耳だった。



「……私が頼んだ?」

 王族になるな、なんて頼んだ覚えはなかった。
 言われていることがわからなかった。
 オスカーの隣に座るグレンジャーの赤い瞳が面白そうに輝いている。
 黙って微笑んでいるオスカーの代わりに、グレンジャーが答えた。


「あの日さぁ、朦朧としていたんだろうけど、私は黒髪萌えなの、ずっと黒髪でいて、って何度も繰り返してたよ?
 王族になったら金髪に戻さなきゃ、だろ?
 恋人にあれだけ言われたらねぇ~
 オスカーは一生、黒髪のままでいるそうだよ」


  ◇◇◇


 グレンジャーは帰る前に、ロザリンドに尋ねた。


「ホナミさん、
 黒髪が好みなのはわかったけどさぁ、
 何でオスカーに中途半端な魔法がかけられる事になったの?」


 ロザリンドはオスカーと目と目を見合わせた。
 そしてふたりは笑った。


「媚薬がね、保護魔法があれば効かないでしょ?
 ミカミさんにあれマズいですよねと指摘されて、慌てて外部攻撃からだけの保護魔法と、後付けで加えたの」


「あぁなるほどねぇ……ふたりでそう決めたからか」

 グレンジャーは納得したのか、スッキリとした表情で立ち上がり、ふたりに向けて手を上げるとフッと姿を消した。




「あれから転移魔法の訓練だ、って口実で乱発してるんだ」

「あの魔法に助けて貰ったのよね……ありがたいことだわ」


 オスカーの差し出した掌にロザリンドは自分の手を乗せた。
 そのまま手を繋いで、ふたりで侯爵家の庭園を散歩した。


 オスカーの実父、前国王陛下が彼に遺した遺産は受け取るべきだ、と王妃陛下と王太子殿下は仰って、オスカーは素直に受け取ることにした。
 そしてそれを資金に『ケリー奨学金』を出す財団を創設することにした。


 オスカーは最初、不倫をした母の名前を冠する事に抵抗があったのだが、王妃陛下が
『前国王陛下の私有財産で賄われているのだから、陛下にとってはご本望だと思います』と仰せになり、その名を使用することにしたのだった。


 奨学金の対象は優秀なのに、財力がなくて学ぶ機会を奪われている低位貴族の子息や令嬢、そして平民だ。
 彼等がその能力に合った職業に就いた後、専任の財務管理者に返済計画を立てて貰う事にした。
 初代理事長はケリーの親友のアメリア・オブライエン・コルテスが就任することになった。

 母は今その準備に追われている。
 次代理事長にはロザリンドが指名されているので彼女も落ち着き次第、学業の傍ら母の側で仕事を覚える事になっていた。



 今日はロザリンドの方から指を絡めた。
 頭ひとつ以上高いオスカーが彼女を見下ろして、繋いでいない左手の掌にキスをした。

 掌にキスをされると、ロザリンドがふにゃふにゃになり、いつもに増して可愛くなることを彼は知っている。



 幼い頃、この庭園でオスカーによく遊んで貰った。
 隠れんぼをして、早く見つけて欲しくてわざと音を立てた。
 反対に隠れたオスカーが見つからなくて立ち止まっていたら、いつの間にか側に来ていた義兄に頭を撫でて貰った。
 木に登って降りられなくてオスカーの名前を連呼すると、家庭教師が来て勉強していたはずのオスカーが全力疾走で助けに来てくれた。



「ここは貴方との思い出がいっぱいね」

「これからも、ね。
 思い出を増やしていこう」


 これからも、この先も。
 貴方との思い出がいっぱい作れます様に……



 ここで『おわり』が入って。
 ハッピーエンディングね、とロザリンドは胸に手を当てた……が。


 そんな甘いロマンチックなロザリンドの思いに気付いていないオスカーが話し出した。


「グレンフォ……チカ先生が君が元気になったら、3人でまたチームを組もうと言ってるんだ」

「何のチーム?」

「この世界にはまだ、マンガ文化が無いだろ?」

「……」

「誰かが始める前に、マンガの産みの親、マンガの神様になりたいらしい。
 俺は伝説のマネージャーで、君はロマンスの女帝になれるからと頼まれた」

「……」

「ウェズリーのウチが小さな新聞社持ってたよね?
 大きな老舗の出版社は冒険を恐れてダメだから、中堅のニュースペーパーに四コマ……いや、四コマって難しいからさ。
 取り敢えず16コマぐらいのマンガを週一掲載で、営業かけようかなと思ってるんだ。
 チカ先生もそのペースなら大丈夫らしいし」


 この世界初のマンガの誕生を熱く語るオスカーの横顔を、ロザリンドは複雑な思いで見つめた。


……神様、特別なヒーローじゃなくてもいい、普通でいい、と願いましたが。
『営業かける』なんて言うヒーローは……


「コミカライズもいいけれど、君の小説も出版しよう。
 注目されたら舞台化もして、イケメンだらけの2.5次元ミュージカル、絶対に流行るな。
 ペンライトは難しくても、アクキー作ってさ。
 推しキャラのうちわも最初は運営が作って販売して、基本が分かればそこからは各自で好きに作れるようになるしね」


 商売としてだけじゃなく、この世界の推し活文化を始める気満々ね?
 本当に、ヒーローらしくないんだから……


 だけど、なんか新しくて、私は推せます!
 他の人が推さなくても、私は貴方を推します!

 それでいいんです!


 推しのお義兄様は誰にも渡しませんから!




   おわり

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