【完結】原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

Mimi

文字の大きさ
上 下
51 / 78
【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第51話

しおりを挟む
「親父殿が君のリボンを使ったんだ」 

 グレンジャーが得意気に教えてくれた。


 小屋に現れて助けに来てくれたのは3人。
 オスカー、グレンジャー、そしてカーネル・オルコット。
 その肩書きは魔法省長官。
 グレンジャーの義父であり、オスカーの伯父。




 あの日、ルシルはパニックになりながら通行人に助けを求めたそうだ。
 何人かが、コルテス侯爵家と警備隊に知らせを走らせてくれた。

 それから学苑は身分証を持った人物ではないと中には入れてはくれないので、息も絶え絶えなルシルを校門までおぶってくれたという。
 そこで守衛に向かってルシルは、声を限りにオスカーの名前を叫んだのだ。


 叫び続ける彼女を職員が取り押さえ、図書室に居たオスカーは学苑長の指示で王族専用室に軟禁された。
 王家からの通達が学苑長には届いていて、王弟殿下の身の安全が最優先だからだ。


 全く状況が分からず、イライラしたオスカーの元に現れたのがグレンジャーだった。
 今日1日で、あちこちでコルテス兄妹の名前が口にされていた。
 それは昼休みが始まる前には、別棟の魔法科校舎にまで届くほどだった。



 そして、放課後。
 義妹付きの侍女が校門でわめき散らして、オスカーは何処かに押し込められたと聞いた。
 それで以前、オスカーから借りパクしたペンを利用して、転移魔法で彼の元に現れたのだ。



 いきなり現れた友人にクールなオスカーが腰を抜かした。
 非常時だとわかっているが、つい笑ってしまった。


「グレンジャー・オルコット、参上!」

「おま、お前何で!」

「これが魔法です!」


 軟禁された事情が全くわかっていない彼にグレンジャーが手短に、事実と憶測を交えながら語った。


「ロージーが誘拐?」

「そんなことを叫んでたらしいよ?」


 5年以上の付き合いで、いつも冷静なオスカー・オブライエンのこんな姿は見たことがない。


「お前のその魔法でロージーのところへ連れていけ」

「悪いな、俺は自分1人しか転移出来ないから親父殿のところへ助けを頼みに行く」


 オスカーが手首に巻かれたリボンを見せた。
 これが噂の『義妹からリボン強奪事件』のヤツだな、とグレンジャーは手を伸ばそうとしたが、オスカーはその手を背後に隠した。


「親父殿をここへ連れてきてくれ。
 これを渡したら、俺を置いてお前達だけで飛ぶ気だろ?」

「うーん……」


 言い当てられて、仕方なくグレンジャーは自宅へ飛んだ。
 登校する時、徹夜明けで入れ違いに帰宅した親父殿には、まだ侯爵令嬢誘拐の一報は入っていないだろう。

 王城からの知らせを受け取ればそちらを優先しなくてはならず、自由に動けなくなる。
 多分まだベッドの中で熟睡中の親父殿を起こすのは至難の業だが、思い切りたたき起こすのも面白い。



 わずか15分足らずでグレンジャーは親父殿を連れてきた。
 オルコット長官の髪は乱れ、服装のボタンはかけ違っていて、睡眠不足の目は血走っていた。


「殿下はこの場で、お待ちください。
 私と息子で行って参ります」

「この腕を切り落としてから、ですか?
 私はこのリボンは、絶対誰にも渡しません!」

 そう言うオスカーの瞳を見てカーネル・オルコットは彼も一緒に飛ぶことにした。
 一度決めたら絶対に譲らない、そんな性格の亡き妹の面影が確かに見えたのだ。


 妹の忘れ形見と義理の息子の暴走の責任は全て自分が負う、と覚悟を決めた。
 妹のケリー・アンには何もしてやれず、田舎に下る甥にも何も出来なかった。
 自分に出来たのは、その身を守ってやりたい、と魔法をかけただけ。

 その魔法さえ中途半端だと、グレンジャーには指摘された。
 完璧に内外からの攻撃に耐えられるよう、保護をかけたつもりだったのに。



「畏まりました。
 リボンを拝見致します。
 失礼致します」


 そう言ってオスカーの手首を軽く掴んだカーネルのライトブラウンの瞳が赤く染まった。
 オスカーは傍らのグレンジャーの方を見た。
 グレンジャーは軽く笑い、自分の赤い瞳を指差した。


 この魔力を秘めた赤い目があったから自分は親父殿に引き取られたのだ。
 オスカーは甥だと聞いていたが、さっきは殿下と呼び掛けていた。


 手元で育てられない甥っ子と同い年の自分が、選ばれたのは魔力のせいだけではないのかも知れない。
 しかし、それをグダグダ思うのはグレンジャーの性に合わない。


 俺は親父殿が気に入ってるし。
 親父殿は俺を気に入っている。
 ただそれだけで充分じゃないか?


 そして3人はロザリンドのリボンから感じる彼女の波動を探しながら飛んだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?

せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。 ※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

処理中です...