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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第50話
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「じ、じゃあ本物のオズワルドは……」
そう尋ねるロザリンドの声は震えていた。
本物のオズワルドがどうなったのか、なんとなくわかっていたけれど。
男は肩を竦めて、問われた事の答えにした。
男は既に1人殺めていたのだ。
1人殺すのも2人殺すのも同じだと、考える人間は多い……
また自分が死ぬ確率は上がった。
「お嬢さんにはそれほどの恨みは無いけどな」
言葉に感情を乗せずに男はしゃべった。
「最初は王太子派の仕業にされて、その後から情報をたどって、これは
第2王子派だと、思われるのも面白い。
ランドールの実家は潰れてしまえばいい。
罪の無いお前が死ぬことで、コルテス侯爵も、小僧も、国王も、皆が苦しめばいい」
「……」
「これは俺達が受けた罰と同じなんだよ。
何の罪も犯してなくても、力を持たない弱い者は罰を受けてしまう、ってことさ」
男は立ち上がり、壁際に設えられた棚から酒瓶を取った。
瓶口の栓を歯で抜き、ひとくち飲んだ。
そしてロザリンドの周囲を歩きながら、それを撒いた。
暖炉の炎の温もりだけでは凍える夜は越せないだろう、とシーズンを前に小屋の掃除をしてくれた優しい誰かの気遣いの酒だ。
小屋を訪れる者の為に度数の高いアルコールを用意した心遣いが殺しの手伝いをするなど、その人は知る由もない。
「どっちがいいかな……
生きたまま炎に焼かれるより、先に絞められた方が楽かもしれない」
「あっ、貴方の! 貴方のお名前を教えて!」
暖炉の炎とロザリンドの頸を交互に眺めながら、独り言のように呟く男に、彼女は懸命に声をかけた。
名前を呼ばれると相手に対しての意識が切り替わり、自分と同じ人間だと意識すると簡単には手が出し辛くなる、とテレビで観たか、本で読んだ様な気がした。
それが正しいのか、デマなのかわからない。
けれど、どっちでもいい。
そうロザリンドが声をかける事で、この男が少しでも殺人を躊躇するのなら。
「何で名前なんか……
お前達にとっては俺の名前なんて、有っても無くても……同じだろ?」
「そんなこと無い! 貴方のお名前を知りたいのよ!
ここで死んでしまうなら、最後のお願いくらい聞いてくれてもいいでしょう?」
貴方達に名前も付けなくてごめんなさい。
書かなかったエピソードだから、と好き勝手に出来るなんて思ってごめんなさい。
貴方達はこの世界で人生を生きていたのにモブ扱いして、尊重しなくて……
ごめんなさい。
もう誰のこともモブなんて言いません。
「……意味の無い事だ。
俺は名前を捨てたから」
その瞬間だけ、『名前を捨てた』と言った瞬間だけ。
男の瞳に光が戻った気がしたが……
「そろそろ時間だ、火をつけるぞ」
さすがに自分をじっと見つめてくるロザリンドの顔を見て首を絞めることは出来なくなったのだろう。
「余計な事はもう言うなよ。
時間稼ぎは無駄だ」
最後に男がロザリンドにかけた言葉の口調は優しいほどだった。
ヒロインが時間を稼いだら、物語ならヒーローが助けにくる。
ギリギリのところで現れる。
だけどロザリンドはヒロインではないし、もう『乙花』は終わっていた。
男は最初に使ったように、またハンカチを彼女の口に当てた。
気を失わせて炎が燃え広がる恐怖を味あわせないように、情けをかけたつもりなのか。
それでも最後は身体を燃やす余りの熱さに意識が戻るだろうに。
薄れていく意識の中、ロザリンドはオスカーを想った。
最後に見た彼は少しご機嫌斜めだった。
教室まで送るよ、と言ってくれたのに断ったからだ。
直ぐに彼のネクタイにも手が出なかった。
機嫌の悪い顔なんて、前はロザリンドに絶対に見せなかったのに。
タイの交換なんて、彼から言い出すとは驚いた。
感情が駄々漏れで可愛かった。
本当に好きだった。
26の女が理想の男性を語るなんて、バカみたいだったよね。
でも貴方とチカ先生はそれを聞いても、笑わなかったね。
ありがとう、ミカミさん。
まだ17歳のオスカーなのに、無理させちゃった。
ヒーローは特別な男にしたかったから。
だけど私のオスカーは特別なんかじゃなくて、普通がいい。
普通のオスカーがいいの。
もう会えないのかな。
まだホナミだって言ってない……
普通がいいから、って言ってな……い……
「ロージー! ロザリンド!」
いきなり風が吹き込んで、狭い小屋の中に何人もの気配と足音が聞こえた。
あぁ、間に合ったのだと思った。
乱暴な程、身体を揺さぶられて。
怒鳴るように、名前を呼ばれて。
骨が軋むくらいに、強く抱き締められて。
呼吸もままならない、キスを繰り返された。
私だけの……
ヒーローの貴方が助けに来てくれた……
そう尋ねるロザリンドの声は震えていた。
本物のオズワルドがどうなったのか、なんとなくわかっていたけれど。
男は肩を竦めて、問われた事の答えにした。
男は既に1人殺めていたのだ。
1人殺すのも2人殺すのも同じだと、考える人間は多い……
また自分が死ぬ確率は上がった。
「お嬢さんにはそれほどの恨みは無いけどな」
言葉に感情を乗せずに男はしゃべった。
「最初は王太子派の仕業にされて、その後から情報をたどって、これは
第2王子派だと、思われるのも面白い。
ランドールの実家は潰れてしまえばいい。
罪の無いお前が死ぬことで、コルテス侯爵も、小僧も、国王も、皆が苦しめばいい」
「……」
「これは俺達が受けた罰と同じなんだよ。
何の罪も犯してなくても、力を持たない弱い者は罰を受けてしまう、ってことさ」
男は立ち上がり、壁際に設えられた棚から酒瓶を取った。
瓶口の栓を歯で抜き、ひとくち飲んだ。
そしてロザリンドの周囲を歩きながら、それを撒いた。
暖炉の炎の温もりだけでは凍える夜は越せないだろう、とシーズンを前に小屋の掃除をしてくれた優しい誰かの気遣いの酒だ。
小屋を訪れる者の為に度数の高いアルコールを用意した心遣いが殺しの手伝いをするなど、その人は知る由もない。
「どっちがいいかな……
生きたまま炎に焼かれるより、先に絞められた方が楽かもしれない」
「あっ、貴方の! 貴方のお名前を教えて!」
暖炉の炎とロザリンドの頸を交互に眺めながら、独り言のように呟く男に、彼女は懸命に声をかけた。
名前を呼ばれると相手に対しての意識が切り替わり、自分と同じ人間だと意識すると簡単には手が出し辛くなる、とテレビで観たか、本で読んだ様な気がした。
それが正しいのか、デマなのかわからない。
けれど、どっちでもいい。
そうロザリンドが声をかける事で、この男が少しでも殺人を躊躇するのなら。
「何で名前なんか……
お前達にとっては俺の名前なんて、有っても無くても……同じだろ?」
「そんなこと無い! 貴方のお名前を知りたいのよ!
ここで死んでしまうなら、最後のお願いくらい聞いてくれてもいいでしょう?」
貴方達に名前も付けなくてごめんなさい。
書かなかったエピソードだから、と好き勝手に出来るなんて思ってごめんなさい。
貴方達はこの世界で人生を生きていたのにモブ扱いして、尊重しなくて……
ごめんなさい。
もう誰のこともモブなんて言いません。
「……意味の無い事だ。
俺は名前を捨てたから」
その瞬間だけ、『名前を捨てた』と言った瞬間だけ。
男の瞳に光が戻った気がしたが……
「そろそろ時間だ、火をつけるぞ」
さすがに自分をじっと見つめてくるロザリンドの顔を見て首を絞めることは出来なくなったのだろう。
「余計な事はもう言うなよ。
時間稼ぎは無駄だ」
最後に男がロザリンドにかけた言葉の口調は優しいほどだった。
ヒロインが時間を稼いだら、物語ならヒーローが助けにくる。
ギリギリのところで現れる。
だけどロザリンドはヒロインではないし、もう『乙花』は終わっていた。
男は最初に使ったように、またハンカチを彼女の口に当てた。
気を失わせて炎が燃え広がる恐怖を味あわせないように、情けをかけたつもりなのか。
それでも最後は身体を燃やす余りの熱さに意識が戻るだろうに。
薄れていく意識の中、ロザリンドはオスカーを想った。
最後に見た彼は少しご機嫌斜めだった。
教室まで送るよ、と言ってくれたのに断ったからだ。
直ぐに彼のネクタイにも手が出なかった。
機嫌の悪い顔なんて、前はロザリンドに絶対に見せなかったのに。
タイの交換なんて、彼から言い出すとは驚いた。
感情が駄々漏れで可愛かった。
本当に好きだった。
26の女が理想の男性を語るなんて、バカみたいだったよね。
でも貴方とチカ先生はそれを聞いても、笑わなかったね。
ありがとう、ミカミさん。
まだ17歳のオスカーなのに、無理させちゃった。
ヒーローは特別な男にしたかったから。
だけど私のオスカーは特別なんかじゃなくて、普通がいい。
普通のオスカーがいいの。
もう会えないのかな。
まだホナミだって言ってない……
普通がいいから、って言ってな……い……
「ロージー! ロザリンド!」
いきなり風が吹き込んで、狭い小屋の中に何人もの気配と足音が聞こえた。
あぁ、間に合ったのだと思った。
乱暴な程、身体を揺さぶられて。
怒鳴るように、名前を呼ばれて。
骨が軋むくらいに、強く抱き締められて。
呼吸もままならない、キスを繰り返された。
私だけの……
ヒーローの貴方が助けに来てくれた……
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