【完結】原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

Mimi

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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第48話

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 ロザリンドはアビゲイルが言う『これから』を想像して、安易に王家を絡めた出生の秘密、なんて設定した自分の愚かさを呪った。

 ヒーローとヒロインを巡る相関図、彼等を襲う宿命等、それらを嬉々として複雑にしてやろうとした……
 後悔が波のようにロザリンドの胸に押し寄せる。


 アビゲイルはオスカーには、ロザリンドがホナミだと教えていない。
 それはロザリンド自身がいつ打ち明けるか決めればいいから。
 だが、その手助けはしたかった。

 ホナミちゃんはあの男のせいで、悪意に対しては敏感で臆病で。
 その分、好意を向けられても鈍感だし、素直に受け取ることが出来ない。


「オスカーはミカミさんよ、今朝確認したわ。
 彼には貴女が転生したホナミちゃんだ、と伝えていないの。
 この世界を作ったのは原作者の貴女だけじゃない。
 マンガを描いた私と編集を担当したミカミさんと3人のチームだったのよ?
 貴女1人が責任を感じる必要はないの。
 オスカーだって、それはわかっている。
 彼を支えたいなら……彼と生きていきたいなら。
 貴女も正直になってあげてね」

「私……オスカーに打ち明けます」

「今夜、彼はウチに来て貰うことになってる。
 貴女が一緒に来てくれてもいいけれど、オスカーは完全に私達を信用しているわけじゃないの。
 貴女を巻き込みたくないと思っているかもしれないから、その前に教えてあげたらいいんじゃないかな?
 守られるだけのロザリンドじゃないんですよ。
 一緒に戦う気満々のホナミですよ、って」


  ◇◇◇


 昼休みが終わり、午後の授業の予鈴が鳴る頃アビゲイルと別れた。
 彼女はこのまま王宮へ行き、王太子殿下の執務が終わるまで待つのだと言う。


「騙し討ちのような真似はしないから安心して?
 ちゃんと貴女の元へ五体無事で、オスカーは帰るから」

 パパンのグレンフォール公爵の事はともかく、アビゲイルの事は信用している。


「大丈夫、こんな事は直ぐにアーノルドとオスカーが片を付けるわ。
 今度会う時は中学生みたいなダブルデートしましょうね」


 そう言ってアビゲイルは少し曲がっていたロザリンドの濃紺のネクタイを直してあげた。




 放課後、校舎出入口で侍女のルシルと合流する前にオスカーに会いたくて、彼を探してきょろきょろと辺りを見回していたロザリンドに、侍女のルシルが駆け寄ってきた。


「申し訳ございません!お嬢様!」

 いつも落ち着いている彼女らしくない様子のルシルだった。


「どうしたの?」

「それが、あの、護衛のひと、なんですけど!」

「オズワルド?」

「そうです、そうです、オズワルド!
 あの人、急に苦しみ出して!
 お館を出る時は普通だったんですけど、今着いたら苦しい苦しい、って。
 もう初日から、なんて役立たずなんだか!」


 護衛のオズワルドが苦しみ出した?
 今朝の彼の元気な様子をロザリンドは思い出した。
 もしかして、グレンフォール公爵の指示を待たずに王太子派が動き出した?
 オズワルドは毒物か何か盛られたのかもしれない。


「そのまま彼をサリバン先生の所へ連れて行ってちょうだい!」

「かしこまりました、お嬢様は若様とお戻りくださいますか?」

「勿論そうするから、私の帰りの心配は無用よ。
 オズワルドの側には、今マルコムが付いているのよね?
 私も、どれ程の加減か確認するわ」


 お嬢様はこのままで、と引き留めるルシルに構わずロザリンドは校舎から出た。
 ルシルは申し訳なさと心配と腹立ちが混じったような表情だ。


『護衛初日からお嬢様にご迷惑をおかけして!』

 何を口にしたのか知らないが、オズワルドが元気になったら、この件は締め上げてやろう、と彼女は決めた。


「彼は昼食は皆と一緒にウチで食べたの?」

「そうです、料理長が作ったシチューです」

 同じ頃に昼食を食べているルシルやマルコムが何事も無いという事は、オズワルドはその後何か食べたのだろう。
 それとも……口から摂取した毒物じゃないのだろうか?
 急ぐロザリンドの脳裏に色々な可能性が浮かんだ。


 御者のマルコムが先程馬車を停車させた所ではなく、もう少し進めた通りの先にコルテス侯爵家の馬車が見えた。
 ロザリンドに連絡だけしたら、直ぐに出られるように学苑の停車場に馬車を入れなかったのだ。




 馬車を見た瞬間、ルシルは何か良くない予感がした。

 慌ててルシルはロザリンドお嬢様に戻るようにお願いしようとしたのに、お嬢様は馬車に向かって駆け出していた。


「お嬢様、お待ちください!
 待って!先に行かないで!」


 ルシルは27歳。
 全力疾走など10年来したことはない。
 15歳の少女の脚力に追い付けなかった。
 馬車の扉を勢い良く開けたロザリンドが中を覗き込んでいたのは見えた。

 そして彼女はそのまま馬車の中に引きずり込まれた。
 ルシルは目の前の光景が理解出来ず、声さえあげられなかった。



 フードを被ったマルコムではない男が御者台に座り、馬車が走り去った。

 ルシルのお嬢様、使用人思いのロザリンドをさらって。


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