【完結】原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

Mimi

文字の大きさ
上 下
45 / 78
【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第45話

しおりを挟む
 昨日の夕方に出した手紙は無事にアビゲイルに届けられたようで、ロザリンドは教室に到着するなり、クラスメートの令嬢からメモを手渡された。

 本日、珍しく登校されたグレンフォール公爵令嬢が1年生の教室まで来て、コルテス侯爵令嬢に、と彼女に伝言を頼んだそうだ。


「アビゲイル様って本当にお美しくて、今日1日幸せな気分でいられそう。
 ロザリンド様の周りにはお美しい御方ばかりで羨ましいわ」


 護衛と侍女は校舎の中まで同行出来ない。
 父はさすがに護衛とふたりきりに出来ないと、ロザリンドに侍女のルシルを付けて送り出したので、車内は些か狭く感じた。
 先に到着していたオスカーが玄関ホールで待っていてくれて、教室まで送ってくれた。
 祭りの前まではいくら義妹を大切にしていても、そこまで甘くなかった義兄をクラスメートは不思議そうに見つめていた。

 学苑生達の認識を変えていこうとするかの様に今迄とは違う行動を取り始めたオスカーに、ロザリンドは嬉しさと共に戸惑いも覚えている。
 彼の優しさが加速する程に、それを失った時の反動が怖かった。


 王太子の婚約者のアビゲイルにも王家の影は付いている。
 彼女と自分の交流を王家はどう受け止めるだろうか……
 伝言メモには、ランチを一緒に取れないかと記されていた。
 次の彼女の登校がいつになるかわからないので、オスカーには申し訳ないが、彼とのランチをキャンセルしてアビゲイルを優先させて貰うことにしよう。


 ◇◇◇


 1時限めの授業が終わり、オスカーは教室まで来たロザリンドに呼び出された。
 そしてアビゲイルに誘われたから、今日は彼女とランチをしたいのだ、と言われた。


 一瞬そっちを優先するのか、と彼女に言いかける自分を堪えた。
 独占欲の強い器の小さい男だと思われたくなかったし
  (自分も思いたくなかった)
 なかなか登校出来ない公爵令嬢を優先したいロザリンドの気持ちもわかるからだ。

 コルテス侯爵から彼女は、アビゲイルとの交友を止められた。
 アビゲイルと話せる機会は学苑内しかない。


 教室まで送ると言ったのに、ロザリンドに断られた。
 じゃあせめてと、締めていた濃紺のネクタイを外して彼女に差し出した。
 濃紺はオスカー達高等部3年生の学年色だ。
 男子は学年色のネクタイを、女子はリボンを結んでいた。
 カップルはそれを交換するのがこの学苑の習わしで教師達もそれを黙認している。
 ロザリンドは差し出されたオスカーのネクタイを受け取るのに躊躇した。
 本当は恥ずかしくて動けなかったのだが、オスカーにはそう見えた。


「ロージーはリボンくれないの?」

 オスカーの低い声に言われて、ロザリンドは慌てて自分の臙脂色のリボンをほどいて彼に渡した。
 オスカーのクラスメート何人かが驚いた目でふたりのやり取りを見ている。


「タイ、結んであげようか?」

 ロザリンドから奪った(クラスメートからはそう見えていた) リボンを左手首に巻きつけながら涼しい顔をしてオスカーは言うが、この場で彼にネクタイを結んで貰うなど、もうロザリンドは耐えられなかった。


「だ、大丈夫。
 教室に戻ってから結ぶから」

 あたふたと1年の教室に駆け戻るロザリンドをオスカーは見送った。
 本当はこんな風に恥ずかしい思いをさせるつもりはなかったのに。


 オスカーは早く外堀を埋めたかった。
 ランドールとの一件からロザリンドの価値は下がり縁組の申し込みを撤回する家門も続出しているが、そんなのは一時的なものだと、彼は見ていた。

 しばらくすれば、当主ではなく夫人達から『身持ちの固い品行方正な令嬢』だと、再び人気は上がってくるはずだ。


 その前に『逃がした大きな魚』ロザリンドはオスカーのものだ、と周知させたかった。
 今日1日の彼の行動で生徒達から話を聞いた保護者はそれを知ることになる。


 王家に対してもそうだ。
 王弟となっても、俺の結婚相手まで好きにはさせない。
 この血を何処かの国との政略結婚に利用されるのは真っ平だった。
 そう突きつけてやりたかった。


 だがそれだけでなく、学苑内の王太子派の生徒を牽制する目的もある。
 派閥の末端まではまだオスカーの話は届いていないかも知れないが、主だった貴族には通っているだろう。
 親から何かしらの知恵をつけられた彼等が1人でもロザリンドに何か仕出かそうものなら……全員必ず後悔させてやる。
 ロザリンドは『王弟殿下の特別』だと、知らしめたいオスカーだった。


 むしゃくしゃする気持ちが顔に出そうになり、落ち着く為に廊下へ出ると、こちらに向かって優雅に歩いてくるアビゲイルがいた。
 彼女もオスカーに気付いたようで、周囲の令嬢達に断って微笑みながら近付いてくる。


 アビゲイルや王太子に対して含むところなど無かったが、向こうはいきなり現れた自分を疎ましく思っているのかも知れない。


「おはようございます、オブライエン様」

「……おはようございます、フロイド嬢」

 相変わらず美しいカーテシーを見せつけてくるひとだ。
 学苑で、こんな挨拶をする令嬢は他にはいない。


 微かに下げていた頭をアビゲイルは上げて、意味ありげにオスカーの手首に巻かれたリボンを見た。

 この公爵令嬢はやはりおかしな女だと思うオスカーに、彼女は令嬢らしくないニカッとした笑顔になった。


「貴方、ミカミさんでしょ?
 私はチカ、ササキチカ。
 覚えてるよね? とぼけないでね?
 このままややこしい事になる前に、ここらで、はっきりさせない?」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。 オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。 それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが… ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。 自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。 正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。 そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが… ※カクヨム、なろうでも投稿しています。 よろしくお願いします。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

処理中です...