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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第45話
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昨日の夕方に出した手紙は無事にアビゲイルに届けられたようで、ロザリンドは教室に到着するなり、クラスメートの令嬢からメモを手渡された。
本日、珍しく登校されたグレンフォール公爵令嬢が1年生の教室まで来て、コルテス侯爵令嬢に、と彼女に伝言を頼んだそうだ。
「アビゲイル様って本当にお美しくて、今日1日幸せな気分でいられそう。
ロザリンド様の周りにはお美しい御方ばかりで羨ましいわ」
護衛と侍女は校舎の中まで同行出来ない。
父はさすがに護衛とふたりきりに出来ないと、ロザリンドに侍女のルシルを付けて送り出したので、車内は些か狭く感じた。
先に到着していたオスカーが玄関ホールで待っていてくれて、教室まで送ってくれた。
祭りの前まではいくら義妹を大切にしていても、そこまで甘くなかった義兄をクラスメートは不思議そうに見つめていた。
学苑生達の認識を変えていこうとするかの様に今迄とは違う行動を取り始めたオスカーに、ロザリンドは嬉しさと共に戸惑いも覚えている。
彼の優しさが加速する程に、それを失った時の反動が怖かった。
王太子の婚約者のアビゲイルにも王家の影は付いている。
彼女と自分の交流を王家はどう受け止めるだろうか……
伝言メモには、ランチを一緒に取れないかと記されていた。
次の彼女の登校がいつになるかわからないので、オスカーには申し訳ないが、彼とのランチをキャンセルしてアビゲイルを優先させて貰うことにしよう。
◇◇◇
1時限めの授業が終わり、オスカーは教室まで来たロザリンドに呼び出された。
そしてアビゲイルに誘われたから、今日は彼女とランチをしたいのだ、と言われた。
一瞬そっちを優先するのか、と彼女に言いかける自分を堪えた。
独占欲の強い器の小さい男だと思われたくなかったし
(自分も思いたくなかった)
なかなか登校出来ない公爵令嬢を優先したいロザリンドの気持ちもわかるからだ。
コルテス侯爵から彼女は、アビゲイルとの交友を止められた。
アビゲイルと話せる機会は学苑内しかない。
教室まで送ると言ったのに、ロザリンドに断られた。
じゃあせめてと、締めていた濃紺のネクタイを外して彼女に差し出した。
濃紺はオスカー達高等部3年生の学年色だ。
男子は学年色のネクタイを、女子はリボンを結んでいた。
カップルはそれを交換するのがこの学苑の習わしで教師達もそれを黙認している。
ロザリンドは差し出されたオスカーのネクタイを受け取るのに躊躇した。
本当は恥ずかしくて動けなかったのだが、オスカーにはそう見えた。
「ロージーはリボンくれないの?」
オスカーの低い声に言われて、ロザリンドは慌てて自分の臙脂色のリボンをほどいて彼に渡した。
オスカーのクラスメート何人かが驚いた目でふたりのやり取りを見ている。
「タイ、結んであげようか?」
ロザリンドから奪った(クラスメートからはそう見えていた) リボンを左手首に巻きつけながら涼しい顔をしてオスカーは言うが、この場で彼にネクタイを結んで貰うなど、もうロザリンドは耐えられなかった。
「だ、大丈夫。
教室に戻ってから結ぶから」
あたふたと1年の教室に駆け戻るロザリンドをオスカーは見送った。
本当はこんな風に恥ずかしい思いをさせるつもりはなかったのに。
オスカーは早く外堀を埋めたかった。
ランドールとの一件からロザリンドの価値は下がり縁組の申し込みを撤回する家門も続出しているが、そんなのは一時的なものだと、彼は見ていた。
しばらくすれば、当主ではなく夫人達から『身持ちの固い品行方正な令嬢』だと、再び人気は上がってくるはずだ。
その前に『逃がした大きな魚』ロザリンドはオスカーのものだ、と周知させたかった。
今日1日の彼の行動で生徒達から話を聞いた保護者はそれを知ることになる。
王家に対してもそうだ。
王弟となっても、俺の結婚相手まで好きにはさせない。
この血を何処かの国との政略結婚に利用されるのは真っ平だった。
そう突きつけてやりたかった。
だがそれだけでなく、学苑内の王太子派の生徒を牽制する目的もある。
派閥の末端まではまだオスカーの話は届いていないかも知れないが、主だった貴族には通っているだろう。
親から何かしらの知恵をつけられた彼等が1人でもロザリンドに何か仕出かそうものなら……全員必ず後悔させてやる。
ロザリンドは『王弟殿下の特別』だと、知らしめたいオスカーだった。
むしゃくしゃする気持ちが顔に出そうになり、落ち着く為に廊下へ出ると、こちらに向かって優雅に歩いてくるアビゲイルがいた。
彼女もオスカーに気付いたようで、周囲の令嬢達に断って微笑みながら近付いてくる。
アビゲイルや王太子に対して含むところなど無かったが、向こうはいきなり現れた自分を疎ましく思っているのかも知れない。
「おはようございます、オブライエン様」
「……おはようございます、フロイド嬢」
相変わらず美しいカーテシーを見せつけてくるひとだ。
学苑で、こんな挨拶をする令嬢は他にはいない。
微かに下げていた頭をアビゲイルは上げて、意味ありげにオスカーの手首に巻かれたリボンを見た。
この公爵令嬢はやはりおかしな女だと思うオスカーに、彼女は令嬢らしくないニカッとした笑顔になった。
「貴方、ミカミさんでしょ?
私はチカ、ササキチカ。
覚えてるよね? とぼけないでね?
このままややこしい事になる前に、ここらで、はっきりさせない?」
本日、珍しく登校されたグレンフォール公爵令嬢が1年生の教室まで来て、コルテス侯爵令嬢に、と彼女に伝言を頼んだそうだ。
「アビゲイル様って本当にお美しくて、今日1日幸せな気分でいられそう。
ロザリンド様の周りにはお美しい御方ばかりで羨ましいわ」
護衛と侍女は校舎の中まで同行出来ない。
父はさすがに護衛とふたりきりに出来ないと、ロザリンドに侍女のルシルを付けて送り出したので、車内は些か狭く感じた。
先に到着していたオスカーが玄関ホールで待っていてくれて、教室まで送ってくれた。
祭りの前まではいくら義妹を大切にしていても、そこまで甘くなかった義兄をクラスメートは不思議そうに見つめていた。
学苑生達の認識を変えていこうとするかの様に今迄とは違う行動を取り始めたオスカーに、ロザリンドは嬉しさと共に戸惑いも覚えている。
彼の優しさが加速する程に、それを失った時の反動が怖かった。
王太子の婚約者のアビゲイルにも王家の影は付いている。
彼女と自分の交流を王家はどう受け止めるだろうか……
伝言メモには、ランチを一緒に取れないかと記されていた。
次の彼女の登校がいつになるかわからないので、オスカーには申し訳ないが、彼とのランチをキャンセルしてアビゲイルを優先させて貰うことにしよう。
◇◇◇
1時限めの授業が終わり、オスカーは教室まで来たロザリンドに呼び出された。
そしてアビゲイルに誘われたから、今日は彼女とランチをしたいのだ、と言われた。
一瞬そっちを優先するのか、と彼女に言いかける自分を堪えた。
独占欲の強い器の小さい男だと思われたくなかったし
(自分も思いたくなかった)
なかなか登校出来ない公爵令嬢を優先したいロザリンドの気持ちもわかるからだ。
コルテス侯爵から彼女は、アビゲイルとの交友を止められた。
アビゲイルと話せる機会は学苑内しかない。
教室まで送ると言ったのに、ロザリンドに断られた。
じゃあせめてと、締めていた濃紺のネクタイを外して彼女に差し出した。
濃紺はオスカー達高等部3年生の学年色だ。
男子は学年色のネクタイを、女子はリボンを結んでいた。
カップルはそれを交換するのがこの学苑の習わしで教師達もそれを黙認している。
ロザリンドは差し出されたオスカーのネクタイを受け取るのに躊躇した。
本当は恥ずかしくて動けなかったのだが、オスカーにはそう見えた。
「ロージーはリボンくれないの?」
オスカーの低い声に言われて、ロザリンドは慌てて自分の臙脂色のリボンをほどいて彼に渡した。
オスカーのクラスメート何人かが驚いた目でふたりのやり取りを見ている。
「タイ、結んであげようか?」
ロザリンドから奪った(クラスメートからはそう見えていた) リボンを左手首に巻きつけながら涼しい顔をしてオスカーは言うが、この場で彼にネクタイを結んで貰うなど、もうロザリンドは耐えられなかった。
「だ、大丈夫。
教室に戻ってから結ぶから」
あたふたと1年の教室に駆け戻るロザリンドをオスカーは見送った。
本当はこんな風に恥ずかしい思いをさせるつもりはなかったのに。
オスカーは早く外堀を埋めたかった。
ランドールとの一件からロザリンドの価値は下がり縁組の申し込みを撤回する家門も続出しているが、そんなのは一時的なものだと、彼は見ていた。
しばらくすれば、当主ではなく夫人達から『身持ちの固い品行方正な令嬢』だと、再び人気は上がってくるはずだ。
その前に『逃がした大きな魚』ロザリンドはオスカーのものだ、と周知させたかった。
今日1日の彼の行動で生徒達から話を聞いた保護者はそれを知ることになる。
王家に対してもそうだ。
王弟となっても、俺の結婚相手まで好きにはさせない。
この血を何処かの国との政略結婚に利用されるのは真っ平だった。
そう突きつけてやりたかった。
だがそれだけでなく、学苑内の王太子派の生徒を牽制する目的もある。
派閥の末端まではまだオスカーの話は届いていないかも知れないが、主だった貴族には通っているだろう。
親から何かしらの知恵をつけられた彼等が1人でもロザリンドに何か仕出かそうものなら……全員必ず後悔させてやる。
ロザリンドは『王弟殿下の特別』だと、知らしめたいオスカーだった。
むしゃくしゃする気持ちが顔に出そうになり、落ち着く為に廊下へ出ると、こちらに向かって優雅に歩いてくるアビゲイルがいた。
彼女もオスカーに気付いたようで、周囲の令嬢達に断って微笑みながら近付いてくる。
アビゲイルや王太子に対して含むところなど無かったが、向こうはいきなり現れた自分を疎ましく思っているのかも知れない。
「おはようございます、オブライエン様」
「……おはようございます、フロイド嬢」
相変わらず美しいカーテシーを見せつけてくるひとだ。
学苑で、こんな挨拶をする令嬢は他にはいない。
微かに下げていた頭をアビゲイルは上げて、意味ありげにオスカーの手首に巻かれたリボンを見た。
この公爵令嬢はやはりおかしな女だと思うオスカーに、彼女は令嬢らしくないニカッとした笑顔になった。
「貴方、ミカミさんでしょ?
私はチカ、ササキチカ。
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