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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第44話
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傍らに座っていたロザリンドが彼の左腕に触れた。
義父から詳細を説明されても、何もしゃべらないオスカーを心配しているのだ。
今ほど彼女にすがりたい、と思ったことはなかった。
とてつもない孤独感と、その中で見つけた……たったひとつの光。
ロザリンドだけが彼の光だ。
オスカーはかすれた声で、彼女に囁いた。
「俺は……この世界を作った神様を恨むよ」
そう言って虚ろに笑うオスカーが泣いているように見えたロザリンドは、この世界を作り出したのが原作者の自分なのだ、という真実を隠し通すしかない、と改めて決意した。
狡い女だと自分でもわかっている。
だが、オスカーはホナミの事を恨む、と言った。
ようやく彼に愛され始めたのだ。
何があってもその関係は揺るがないなんて、確固たるものはまだ存在していない。
義妹だから彼はいつも自分に優しかったが、その他の女性に対しては、一様に塩対応なのは知っている。
そこがまたいいのだとファンも多く居るらしいが、ロザリンドはそんな風に彼から扱われるのには耐えられない。
その上彼はホナミを恨む、と言った……
塩対応どころではなく、嫌われて憎まれて離れて行くかもしれない。
オスカーだけではない。
アビゲイルもそうだ。
彼女も自分の父親グレンフォール公爵から事のあらましを聞いているだろう。
婚約者の王太子の対立候補に浮上したオスカーの事、ロザリンドの事、ホナミの事をどう思っているのだろうか。
アーノルドの闇落ちについて、その場しのぎのいい加減な返事をしたと思われているかもしれなかった。
『忘れていました、ごめんなさい』で、許してくれるのだろうか。
何故、今頃前世の記憶が戻ってきたのかわからなかったが、こんなことなら忘れたままにして欲しかった。
事情もわからないまま、オスカーと手を取り合って。
共に悲しみ、憤慨し、彼の運命に立ち向かいたかった。
自分は転生者だと、それも原作者ですと。
もっと早くに打ち明ければ良かった。
その時に覚えていた物語の記憶を全て共有していれば、こんなに傷付いた彼を見ずに済んだかもしれなかった。
今さらどの面を下げて打ち明けられるだろう。
引き伸ばせば引き伸ばすほど、今よりややこしい事態になる可能性もわかっていながら、ロザリンドはしばらくは隠し通す事にしたのだった。
それ程、オスカーから嫌われるのが怖かった。
私は目先の保身しか考えられない女だ、とホナミは自覚していた。
◇◇◇
今日からオスカーの卒業まで、登下校は別の馬車を使用することになった。
王宮から侯爵家に貸し出されたのは、ルーランド王家の紋章こそ付いていなかったが、壮麗かつ頑丈な仕様の物であり、それを操る御者も武道の心得がある者らしい。
本来なら護衛騎士は傍らを馬で並走するのだが、それで登校はあまりにも目立ち過ぎるので、護衛騎士は同乗する事になった。
ロザリンドにも護衛が付いた。
コルテス侯爵が昨夜急遽手配し、懇意にしている商会から派遣された大柄なその男は、オズワルドと名乗った。
年齢はロザリンドより10歳上の25歳。
赤毛に黒い瞳のその男は
『どうぞ、オズとお呼びください、お嬢様』と言い、ロザリンドの手に自ら手を伸ばして、彼女の手の甲に軽く口付けた。
見ていたオスカーが不快そうに端整な顔を歪めていた。
それに気付いたロザリンドは慌てて手を引っ込めた。
オスカーと過ごせる時間が減らされた今、些細な事であっても、彼の機嫌を損ねたくない。
「ランチは一緒に取ろう。
教室まで迎えに行くから待ってて」
各々の馬車に乗る前、オスカーが優しく耳元に囁いてくれた。
昨日から始まった恋だ。
お互い一番気持ちは盛り上がっている。
昨夜はおやすみのキスだけ交わした。
まだ15歳のロザリンドとはそれ以上、事を進めようとオスカーは考えていないようだ。
身体が繋がることで相手への想いが強くなることを、26歳のホナミは知っているが。
関係を深めよう、と焦ってはいけない。
自分と結婚する、と彼は信頼している友人に宣言してくれた。
今朝は両親に伝えられなかったけれど。
今夜オスカーはふたりに、はっきりと言ってくれるはずだ。
例え、彼が王族になったとしても……
侯爵家の娘なのだから、自分には妻になる資格は有る。
不安がモヤモヤと胸に渦巻いていたが、ロザリンドはそれを認めたくなかった。
義父から詳細を説明されても、何もしゃべらないオスカーを心配しているのだ。
今ほど彼女にすがりたい、と思ったことはなかった。
とてつもない孤独感と、その中で見つけた……たったひとつの光。
ロザリンドだけが彼の光だ。
オスカーはかすれた声で、彼女に囁いた。
「俺は……この世界を作った神様を恨むよ」
そう言って虚ろに笑うオスカーが泣いているように見えたロザリンドは、この世界を作り出したのが原作者の自分なのだ、という真実を隠し通すしかない、と改めて決意した。
狡い女だと自分でもわかっている。
だが、オスカーはホナミの事を恨む、と言った。
ようやく彼に愛され始めたのだ。
何があってもその関係は揺るがないなんて、確固たるものはまだ存在していない。
義妹だから彼はいつも自分に優しかったが、その他の女性に対しては、一様に塩対応なのは知っている。
そこがまたいいのだとファンも多く居るらしいが、ロザリンドはそんな風に彼から扱われるのには耐えられない。
その上彼はホナミを恨む、と言った……
塩対応どころではなく、嫌われて憎まれて離れて行くかもしれない。
オスカーだけではない。
アビゲイルもそうだ。
彼女も自分の父親グレンフォール公爵から事のあらましを聞いているだろう。
婚約者の王太子の対立候補に浮上したオスカーの事、ロザリンドの事、ホナミの事をどう思っているのだろうか。
アーノルドの闇落ちについて、その場しのぎのいい加減な返事をしたと思われているかもしれなかった。
『忘れていました、ごめんなさい』で、許してくれるのだろうか。
何故、今頃前世の記憶が戻ってきたのかわからなかったが、こんなことなら忘れたままにして欲しかった。
事情もわからないまま、オスカーと手を取り合って。
共に悲しみ、憤慨し、彼の運命に立ち向かいたかった。
自分は転生者だと、それも原作者ですと。
もっと早くに打ち明ければ良かった。
その時に覚えていた物語の記憶を全て共有していれば、こんなに傷付いた彼を見ずに済んだかもしれなかった。
今さらどの面を下げて打ち明けられるだろう。
引き伸ばせば引き伸ばすほど、今よりややこしい事態になる可能性もわかっていながら、ロザリンドはしばらくは隠し通す事にしたのだった。
それ程、オスカーから嫌われるのが怖かった。
私は目先の保身しか考えられない女だ、とホナミは自覚していた。
◇◇◇
今日からオスカーの卒業まで、登下校は別の馬車を使用することになった。
王宮から侯爵家に貸し出されたのは、ルーランド王家の紋章こそ付いていなかったが、壮麗かつ頑丈な仕様の物であり、それを操る御者も武道の心得がある者らしい。
本来なら護衛騎士は傍らを馬で並走するのだが、それで登校はあまりにも目立ち過ぎるので、護衛騎士は同乗する事になった。
ロザリンドにも護衛が付いた。
コルテス侯爵が昨夜急遽手配し、懇意にしている商会から派遣された大柄なその男は、オズワルドと名乗った。
年齢はロザリンドより10歳上の25歳。
赤毛に黒い瞳のその男は
『どうぞ、オズとお呼びください、お嬢様』と言い、ロザリンドの手に自ら手を伸ばして、彼女の手の甲に軽く口付けた。
見ていたオスカーが不快そうに端整な顔を歪めていた。
それに気付いたロザリンドは慌てて手を引っ込めた。
オスカーと過ごせる時間が減らされた今、些細な事であっても、彼の機嫌を損ねたくない。
「ランチは一緒に取ろう。
教室まで迎えに行くから待ってて」
各々の馬車に乗る前、オスカーが優しく耳元に囁いてくれた。
昨日から始まった恋だ。
お互い一番気持ちは盛り上がっている。
昨夜はおやすみのキスだけ交わした。
まだ15歳のロザリンドとはそれ以上、事を進めようとオスカーは考えていないようだ。
身体が繋がることで相手への想いが強くなることを、26歳のホナミは知っているが。
関係を深めよう、と焦ってはいけない。
自分と結婚する、と彼は信頼している友人に宣言してくれた。
今朝は両親に伝えられなかったけれど。
今夜オスカーはふたりに、はっきりと言ってくれるはずだ。
例え、彼が王族になったとしても……
侯爵家の娘なのだから、自分には妻になる資格は有る。
不安がモヤモヤと胸に渦巻いていたが、ロザリンドはそれを認めたくなかった。
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