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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第42話
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コルテス侯爵家に戻ったオスカーとロザリンドは早速両親に、今日の事を報告するつもりだったのだが。
父がまだ王宮から戻っていなかった。
家族揃って夕食を、がモットーのコルテス侯爵にしては珍しい事だった。
今夜は城下で祭りが開催されていて、人出も多い。
侯爵家の邸宅のある貴族エリアには祭りの影響はないと思われていたが、通行止めや一方通行に本日のみ変更になった箇所もあり、馬車の進行がスムーズではないのかも知れない。
「お先に食事に致しましょうか」
夫の帰りを随分と待ったが、アメリアは先に3人で夕食を摂る事にした。
昼間、子供達は祭りの見物へ出掛けたので昼食はひとりで食べた。
オスカーが、ロザリンドに付き添わせた侍女を帰して、珍しくふたりだけで行動しようとしたのは何故なのか、聞いてみようと思っていた。
しかし帰宅したふたりの様子を見るに。
こちらからは切り出すのはやめよう、と思った。
ここ最近の暗い影がオスカーから、消えていた。
食事もきちんと食べ、楽しそうに祭りの話をする。
時折、アメリアの隣の席のロザリンドに微笑みながら……
オスカーなら、ロザリンドなら、彼等なら。
その時が来たら。
きちんと話してくれるだろう。
この席に夫が居たなら。
ふたりはどんな話を聞かせただろう。
それを明日の楽しみに取って置くのもいいわね、と彼女の気分も久しぶりに高揚した。
彼等が話す祭りの話に耳を傾けながら、アメリアはいつもよりワインの量が進んだ。
夕食を終えて、子供達も各々の部屋に戻った頃に、ようやくコルテス侯爵が帰宅した。
出迎えた時、夫クライドの表情は硬かった。
夫婦の部屋で彼の着替えを手伝っていたアメリアに、クライドは食事はいらない、と言った。
「陛下から急に夕食にお招き頂いた」
「急にですか? お珍しい事……」
学生の頃は友人として、国王陛下とは毎日学苑の食堂で昼食を共にしていたが。
卒業後はさすがにそのような事はなかったので、聞かされたアメリアは夫のその表情から、良くないことのように感じた。
「……学苑を卒業したら、正式に王族として迎えたい、と言われた」
「正式にという事は……」
「王弟だと、国内外に触を出して。
オスカー・レイ・エリオットの名前に戻す、という事だ」
「……」
母親の王太后陛下がご存命だった時には、オスカーの存在を消したくてコルテスの養子とする事に、安堵の涙を流された癖に。
立派に成長したオスカーを初めて見た時の陛下、いやローレンスの顔は見物だった。
当時のローレンスは真面目な王太子アーノルドと違い、わずか15歳でありながら色事を覚え始めた第2王子のランドールの乱行に、頭を悩ませていた。
側妃クロエ妃が産んだランドールの瞳の色が、王家の色である紫ではなく蒼い事を、彼の行いに併せてその血筋を疑う者達まで出始めていたのだ。
デビュタントで現れた15歳のオスカーは髪は魔法で黒く変えていたが、その瞳は紛れもなく王家の紫であったし、その顔立ちも前国王陛下に良く似ていて。
髪色を生来の金髪に戻したら、王国外なら彼を王太子アーノルドの弟の第2王子と紹介しても、信じる者は多数出るだろう、と思われる程だった。
ローレンスは王位継承権を保持する直系が王太子のみになったので、迎える予定になかったオスカーを急遽王弟と認める事にしたのだ。
「なんて……自分勝手な」
「王族なんて皆そうだ。
3か月後の貴族議会で承認を得たいと、根回しを始められるそうだ」
「……」
「前国王陛下がオスカー殿下に遺された資産の総額を教えてくださったが驚いたよ」
既にコルテス侯爵は、義理の息子オスカーに殿下と敬称を付けた。
ローレンスは渡すつもりがなかったかも知れない実の父親からの遺産をエサに、オスカーをその気にさせようとでも言うのか。
「明日からオスカー王弟殿下には、護衛の騎士が付く」
「護衛の……それは」
アメリアの恐れにクライドは頷いた。
「オスカー王弟殿下が無事に議会に承認されるまで……
王太子派から殿下をお守りしなくてはならない」
「王太子派はグレンフォール公爵閣下が取り仕切られていらっしゃいましたわね?」
「そうだ、せっかくご友人になれたと喜んでいるローには申し訳ないが、アビゲイル様とは会わせない様にしてくれ」
「ロージーにも危険が?」
「何が王弟殿下の弱味になるか。
向こうも調べは付けているだろう。
殿下には王宮から派遣された騎士が付くが、ローには私が雇い入れた護衛を付ける。
君もくれぐれも用心してくれないか。
お茶会も出席者の顔触れを確認して、必ず護衛を付けて出席するように」
……さっき迄の心地よかった酔いはすっかり冷めてしまい。
アメリアは自分の身体を抱き締めた。
父がまだ王宮から戻っていなかった。
家族揃って夕食を、がモットーのコルテス侯爵にしては珍しい事だった。
今夜は城下で祭りが開催されていて、人出も多い。
侯爵家の邸宅のある貴族エリアには祭りの影響はないと思われていたが、通行止めや一方通行に本日のみ変更になった箇所もあり、馬車の進行がスムーズではないのかも知れない。
「お先に食事に致しましょうか」
夫の帰りを随分と待ったが、アメリアは先に3人で夕食を摂る事にした。
昼間、子供達は祭りの見物へ出掛けたので昼食はひとりで食べた。
オスカーが、ロザリンドに付き添わせた侍女を帰して、珍しくふたりだけで行動しようとしたのは何故なのか、聞いてみようと思っていた。
しかし帰宅したふたりの様子を見るに。
こちらからは切り出すのはやめよう、と思った。
ここ最近の暗い影がオスカーから、消えていた。
食事もきちんと食べ、楽しそうに祭りの話をする。
時折、アメリアの隣の席のロザリンドに微笑みながら……
オスカーなら、ロザリンドなら、彼等なら。
その時が来たら。
きちんと話してくれるだろう。
この席に夫が居たなら。
ふたりはどんな話を聞かせただろう。
それを明日の楽しみに取って置くのもいいわね、と彼女の気分も久しぶりに高揚した。
彼等が話す祭りの話に耳を傾けながら、アメリアはいつもよりワインの量が進んだ。
夕食を終えて、子供達も各々の部屋に戻った頃に、ようやくコルテス侯爵が帰宅した。
出迎えた時、夫クライドの表情は硬かった。
夫婦の部屋で彼の着替えを手伝っていたアメリアに、クライドは食事はいらない、と言った。
「陛下から急に夕食にお招き頂いた」
「急にですか? お珍しい事……」
学生の頃は友人として、国王陛下とは毎日学苑の食堂で昼食を共にしていたが。
卒業後はさすがにそのような事はなかったので、聞かされたアメリアは夫のその表情から、良くないことのように感じた。
「……学苑を卒業したら、正式に王族として迎えたい、と言われた」
「正式にという事は……」
「王弟だと、国内外に触を出して。
オスカー・レイ・エリオットの名前に戻す、という事だ」
「……」
母親の王太后陛下がご存命だった時には、オスカーの存在を消したくてコルテスの養子とする事に、安堵の涙を流された癖に。
立派に成長したオスカーを初めて見た時の陛下、いやローレンスの顔は見物だった。
当時のローレンスは真面目な王太子アーノルドと違い、わずか15歳でありながら色事を覚え始めた第2王子のランドールの乱行に、頭を悩ませていた。
側妃クロエ妃が産んだランドールの瞳の色が、王家の色である紫ではなく蒼い事を、彼の行いに併せてその血筋を疑う者達まで出始めていたのだ。
デビュタントで現れた15歳のオスカーは髪は魔法で黒く変えていたが、その瞳は紛れもなく王家の紫であったし、その顔立ちも前国王陛下に良く似ていて。
髪色を生来の金髪に戻したら、王国外なら彼を王太子アーノルドの弟の第2王子と紹介しても、信じる者は多数出るだろう、と思われる程だった。
ローレンスは王位継承権を保持する直系が王太子のみになったので、迎える予定になかったオスカーを急遽王弟と認める事にしたのだ。
「なんて……自分勝手な」
「王族なんて皆そうだ。
3か月後の貴族議会で承認を得たいと、根回しを始められるそうだ」
「……」
「前国王陛下がオスカー殿下に遺された資産の総額を教えてくださったが驚いたよ」
既にコルテス侯爵は、義理の息子オスカーに殿下と敬称を付けた。
ローレンスは渡すつもりがなかったかも知れない実の父親からの遺産をエサに、オスカーをその気にさせようとでも言うのか。
「明日からオスカー王弟殿下には、護衛の騎士が付く」
「護衛の……それは」
アメリアの恐れにクライドは頷いた。
「オスカー王弟殿下が無事に議会に承認されるまで……
王太子派から殿下をお守りしなくてはならない」
「王太子派はグレンフォール公爵閣下が取り仕切られていらっしゃいましたわね?」
「そうだ、せっかくご友人になれたと喜んでいるローには申し訳ないが、アビゲイル様とは会わせない様にしてくれ」
「ロージーにも危険が?」
「何が王弟殿下の弱味になるか。
向こうも調べは付けているだろう。
殿下には王宮から派遣された騎士が付くが、ローには私が雇い入れた護衛を付ける。
君もくれぐれも用心してくれないか。
お茶会も出席者の顔触れを確認して、必ず護衛を付けて出席するように」
……さっき迄の心地よかった酔いはすっかり冷めてしまい。
アメリアは自分の身体を抱き締めた。
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