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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第40話
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『兄上』と、呼び掛けたのは何年ぶりだろうか。
幼い頃は『兄様』と、甘えた。
初等部に入ってからは『兄上』、思春期を迎えて家族に素直になれなくなって『ダンカン』と、生意気に名前で呼んだ。
「それを聞きたいのは俺の方だよ。
お前には酷いことをした。
ずっと謝りたかったけど……今年やっと警備隊に選抜されたから会いに来れたんだ。
偶然に見かけて追いかけたけど、まさか貴族のお前が祭りに居るとは思わなかったし、久しぶりだからお前だと確認する為に声をかけずにしばらく後をつけていた。
こうしてお前の義妹や友人とも会えて良かった。
……ふたりだけだったら何を話していいか、実は悩んでいたんだ」
「……」
「今でも落ちていくお前が、信じられないって俺を見ている顔が……
夢に出てくる。
無事で……残るような傷が無かったことが、今でも……
本当に申し訳なかった……許してくれ」
今までとは打って変わって、静かに途切れ途切れにダンカンは話した。
その手は細かく震えていた。
大きな怪我を負わなかったのはカーネル・オルコットがかけた保護魔法のお陰だった。
弟を殺していたかもしれない悪夢に今もダンカンは苦しんでいる。
決して仲が悪かったわけではない。
幼い頃から一緒に遊んでいた兄弟だった。
『似てない兄弟』と、からかわれた時は相手にやり返してくれた兄だった。
オスカーは俯いて、無言で何度も頷いた。
「……えー、取り敢えず冷めるから、これいただきますね」
その場に流れていた一種ピリピリした緊張感が、その声で緩んで。
料理に手を伸ばし始めたウェズリーにロザリンドは感謝の目を向けた。
◇◇◇
義父の借金のかたにアラカーンの商人(決してデブとは言わない) に第5夫人として売られてしまうのだ、と。
涙ながらに語るミシェルに、その場でダンカンは彼女に跪いてプロポーズした。
そうなることを目論んでいたのに、思いがけない求婚に戸惑いながらも受け入れるピュアな乙女を、ミシェルは見事に演じきった。
他の3人はいささか白けた表情で、それを祝福した。
自分の馬を持てるようになって初めて1人前だと認められる騎士団で、今回の王都警備隊の仕事が無事に終われば、馬を買いに行く許しが得られるのだと、
ダンカンはミシェルに語った。
それを聞いたミシェルは嬉しそうに、その記念すべき馬の名前をつけさせて欲しいと、彼にねだった。
初めての可愛いおねだりに嬉しそうにダンカンは頷いた。
「好きな響きの名前があるんです……
ぜひ、レクサスでお願いします」
前世セレブらしいミシェルのおねだりだった。
オスカーとダンカンの夜の約束はキャンセルになった。
ダンカンはこれから騎士団の上役や同僚に、ミシェルを紹介するのだと言う。
多分夜は彼等から御祝いの宴を開いて貰えるだろうから、と彼は可愛い嫁の肩を抱きながら、オスカー達3人も参加して欲しい、と誘ったが。
オスカーはグレンジャーとの約束があったし、ウェズリーも微妙な関係を皆から聞かれても……と、辞退した。
それで、後から3人の連名で大きな花束を届けさせる事を約束して、勢いで出来てしまったカップルと別れた。
ホテルを出たところでウェズリーとも、別れた。
俺が花屋に寄って花束を見繕うよと、彼は言った。
「また何かあったら協力するから、声をかけて」
悪気はないけど、馬鹿者で、とことん優しいウェズリー。
ロザリンドにそう言って、ぶらぶらと歩きだしたウェズリーの後ろ姿を見送るロザリンドの指を、再びオスカーのそれが絡んでくる。
「俺はこれからグレンジャーの所に行くけど、ロージーも一緒に来て欲しい」
今までならロザリンドの意思を尊重するように、どうする? という聞き方をするオスカーだったのに、はっきりと一緒に来て欲しいと、言ってくれた。
そんな彼の変化で、改めてふたりの距離が変わったのだと、喜びをかみしめたロザリンドだった。
好きにはなれなかったけれど、ヒロインのミシェルが自分で幸せを掴んでくれてホッとした。
オスカーを渡したくないと、ストーリーの変更を願ったロザリンドだったが、オスカーとも王太子とも会えなかった彼女の未来がどうなってしまうのか気掛かりだったのも、確かだ。
復讐など考えてもいなかったダンカンも、いずれはトラウマを克服するだろう。
何より、オスカーが側にいてくれて。
彼を失わずにすんだ事が嬉しい。
そしてロザリンドは。
多くの人々が行き交う祭りの雑踏の中で。
オスカーと初めてのキスをした。
幼い頃は『兄様』と、甘えた。
初等部に入ってからは『兄上』、思春期を迎えて家族に素直になれなくなって『ダンカン』と、生意気に名前で呼んだ。
「それを聞きたいのは俺の方だよ。
お前には酷いことをした。
ずっと謝りたかったけど……今年やっと警備隊に選抜されたから会いに来れたんだ。
偶然に見かけて追いかけたけど、まさか貴族のお前が祭りに居るとは思わなかったし、久しぶりだからお前だと確認する為に声をかけずにしばらく後をつけていた。
こうしてお前の義妹や友人とも会えて良かった。
……ふたりだけだったら何を話していいか、実は悩んでいたんだ」
「……」
「今でも落ちていくお前が、信じられないって俺を見ている顔が……
夢に出てくる。
無事で……残るような傷が無かったことが、今でも……
本当に申し訳なかった……許してくれ」
今までとは打って変わって、静かに途切れ途切れにダンカンは話した。
その手は細かく震えていた。
大きな怪我を負わなかったのはカーネル・オルコットがかけた保護魔法のお陰だった。
弟を殺していたかもしれない悪夢に今もダンカンは苦しんでいる。
決して仲が悪かったわけではない。
幼い頃から一緒に遊んでいた兄弟だった。
『似てない兄弟』と、からかわれた時は相手にやり返してくれた兄だった。
オスカーは俯いて、無言で何度も頷いた。
「……えー、取り敢えず冷めるから、これいただきますね」
その場に流れていた一種ピリピリした緊張感が、その声で緩んで。
料理に手を伸ばし始めたウェズリーにロザリンドは感謝の目を向けた。
◇◇◇
義父の借金のかたにアラカーンの商人(決してデブとは言わない) に第5夫人として売られてしまうのだ、と。
涙ながらに語るミシェルに、その場でダンカンは彼女に跪いてプロポーズした。
そうなることを目論んでいたのに、思いがけない求婚に戸惑いながらも受け入れるピュアな乙女を、ミシェルは見事に演じきった。
他の3人はいささか白けた表情で、それを祝福した。
自分の馬を持てるようになって初めて1人前だと認められる騎士団で、今回の王都警備隊の仕事が無事に終われば、馬を買いに行く許しが得られるのだと、
ダンカンはミシェルに語った。
それを聞いたミシェルは嬉しそうに、その記念すべき馬の名前をつけさせて欲しいと、彼にねだった。
初めての可愛いおねだりに嬉しそうにダンカンは頷いた。
「好きな響きの名前があるんです……
ぜひ、レクサスでお願いします」
前世セレブらしいミシェルのおねだりだった。
オスカーとダンカンの夜の約束はキャンセルになった。
ダンカンはこれから騎士団の上役や同僚に、ミシェルを紹介するのだと言う。
多分夜は彼等から御祝いの宴を開いて貰えるだろうから、と彼は可愛い嫁の肩を抱きながら、オスカー達3人も参加して欲しい、と誘ったが。
オスカーはグレンジャーとの約束があったし、ウェズリーも微妙な関係を皆から聞かれても……と、辞退した。
それで、後から3人の連名で大きな花束を届けさせる事を約束して、勢いで出来てしまったカップルと別れた。
ホテルを出たところでウェズリーとも、別れた。
俺が花屋に寄って花束を見繕うよと、彼は言った。
「また何かあったら協力するから、声をかけて」
悪気はないけど、馬鹿者で、とことん優しいウェズリー。
ロザリンドにそう言って、ぶらぶらと歩きだしたウェズリーの後ろ姿を見送るロザリンドの指を、再びオスカーのそれが絡んでくる。
「俺はこれからグレンジャーの所に行くけど、ロージーも一緒に来て欲しい」
今までならロザリンドの意思を尊重するように、どうする? という聞き方をするオスカーだったのに、はっきりと一緒に来て欲しいと、言ってくれた。
そんな彼の変化で、改めてふたりの距離が変わったのだと、喜びをかみしめたロザリンドだった。
好きにはなれなかったけれど、ヒロインのミシェルが自分で幸せを掴んでくれてホッとした。
オスカーを渡したくないと、ストーリーの変更を願ったロザリンドだったが、オスカーとも王太子とも会えなかった彼女の未来がどうなってしまうのか気掛かりだったのも、確かだ。
復讐など考えてもいなかったダンカンも、いずれはトラウマを克服するだろう。
何より、オスカーが側にいてくれて。
彼を失わずにすんだ事が嬉しい。
そしてロザリンドは。
多くの人々が行き交う祭りの雑踏の中で。
オスカーと初めてのキスをした。
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