37 / 78
【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第37話
しおりを挟む
今日はロザリンドに頼まれていた件で下見に来ていたウェズリーだった。
婚約破棄の直後はロザリンドの母親から睨まれていたが、主のランドールに背いてでも、ロザリンドの純潔を守る為に協力しようとしたウェズリーを侯爵夫人は感謝してくれて。
以前と変わりなく両家は(本当に緩い間柄なので) 付き合いを続けていた。
物凄い勢いで周囲の人間を蹴散らして、ランドールに連れ去られたロザリンドを追いかけたオスカーの必死の形相は忘れられない。
あれはシスコンなんていうレベルじゃないよね、とそれからは幼馴染みの兄妹を密かに応援しているウェズリーだ。
今夜の話もロザリンドから詳しく聞かされていないので、それが何の役割かをわからないままに頼まれたのだが、喜んで協力を了承した。
『詳しくは言えないけれど、祭りの夜、20時にホテルバーモントの出来るだけ近くに馬車を停めて待ってて。
体調を崩しているオスカーを連れて行くから、私達をコルテスの裏門まで乗せて欲しいの。
誰にも言わないと誓って?』
祭りの夜なので通常のように、ホテルに馬車を横付けすることは出来ないだろうから、どの辺りに停車出来るかの下見に来た。
そして帰りがけに、ホテルのあるラグー通りを少し歩いた辺りでミシェルを見かけて声をかけたのだ。
「もう王都に居ても、王太子殿下とはどうにもならないのよね……」
「……多分ね」
「愛妾にさえなれないなら、付き合ったって意味なくない?
……ったく、さぁ!
でも、デブの5番目の嫁になんかなりたくないのよ。
貴方、もう一度私と付き合わない?」
ミシェルが流していたはずの涙はいつの間にか止まっていて、彼女は顔を上げ背筋を伸ばして、キラキラした瞳で真正面からウェズリーを見つめた。
「ごめん……それはもういいかな」
今さらミシェルと交際再開は考えられない。
「あそ、わかった。
じゃあ、お金貸してくれない?
王都を出て、何処かへ移るから、まとまったお金を貸してよ。
落ち着いたら返すから、ね?」
絶対返す気の無いまとまった額のお金を要求されて、ウェズリーは彼女のたくましさに呆れ、だが可笑しくて笑ってしまった。
そうだった、ミシェルは何度も俺を笑わせてくれた。
可愛いだけじゃなくて、彼女と居ると俺は楽しかったから惹かれたんだった。
「いいよ、貸してあげるよ。
でも今は手持ちがないから、ウチへ取りに戻ろう。
一緒に来るかい?
君が行く街まで送るように、ウチの御者に申し付けてあげるよ」
自分が振った男に堂々とお金を貸してくれと言う、ふてぶてしさとこの美貌があれば、ミシェルはどこへ行っても何とかやっていけるような気がする。
噴水のへりからミシェルに手を貸して立ち上がらせ、彼女のバッグを持った。
もうエスコートの手は差し出さない。
それに気付いたミシェルが少し寂しげに見えたが、今度は見ていない振りが出来た。
「ウェズリー、あれ……」
歩き始めようとすると、ミシェルが向こうを指差した。
そこには人混みの切れ目から見えたオスカーとロザリンドの姿があった。
「なんだよ、あいつら……カップル?」
忌々しそうにミシェルがふたりを見て呟いた。
彼女の言う通り、楽しそうに笑いながら手を繋いで歩くふたりは、恋人同士以外の何者にも見えなかった。
平民である王都民の祭りに紛れるように、普段よりシンプルな服装のふたりだったが、それでもやはり滲み出る貴族の雰囲気は隠せていなかったので、彼等の周囲にだけ少し間が空いていた。
通りすぎた後も振り返って見ている者達も居る。
良い意味でも悪い意味でも目立ち過ぎる、お互いしか見えていない美しいふたりだった。
夜に体調が悪いはずのオスカーを連れていく、と言われていたが。
遠くからだが、彼はロザリンドと居て絶好調に見えた。
事情が変わってきたのかも?と、ウェズリーは広場を横切ってふたりの方へ歩き始めた。
その時、彼等の後を歩いている男の存在に気付いた。
一定の間隔を空けているのか、ふたりが立ち止まって露店を覗いていると、男の歩みも止まっていた。
男の雰囲気からは祭りを楽しんでいる様子は伺えず、何らかの目的があってコルテス兄妹の後をつけているのが見て取れた。
背が高くがっしりとした体格の、黒髪短髪の男だ。
何故だか良くない予感がした。
婚約破棄の直後はロザリンドの母親から睨まれていたが、主のランドールに背いてでも、ロザリンドの純潔を守る為に協力しようとしたウェズリーを侯爵夫人は感謝してくれて。
以前と変わりなく両家は(本当に緩い間柄なので) 付き合いを続けていた。
物凄い勢いで周囲の人間を蹴散らして、ランドールに連れ去られたロザリンドを追いかけたオスカーの必死の形相は忘れられない。
あれはシスコンなんていうレベルじゃないよね、とそれからは幼馴染みの兄妹を密かに応援しているウェズリーだ。
今夜の話もロザリンドから詳しく聞かされていないので、それが何の役割かをわからないままに頼まれたのだが、喜んで協力を了承した。
『詳しくは言えないけれど、祭りの夜、20時にホテルバーモントの出来るだけ近くに馬車を停めて待ってて。
体調を崩しているオスカーを連れて行くから、私達をコルテスの裏門まで乗せて欲しいの。
誰にも言わないと誓って?』
祭りの夜なので通常のように、ホテルに馬車を横付けすることは出来ないだろうから、どの辺りに停車出来るかの下見に来た。
そして帰りがけに、ホテルのあるラグー通りを少し歩いた辺りでミシェルを見かけて声をかけたのだ。
「もう王都に居ても、王太子殿下とはどうにもならないのよね……」
「……多分ね」
「愛妾にさえなれないなら、付き合ったって意味なくない?
……ったく、さぁ!
でも、デブの5番目の嫁になんかなりたくないのよ。
貴方、もう一度私と付き合わない?」
ミシェルが流していたはずの涙はいつの間にか止まっていて、彼女は顔を上げ背筋を伸ばして、キラキラした瞳で真正面からウェズリーを見つめた。
「ごめん……それはもういいかな」
今さらミシェルと交際再開は考えられない。
「あそ、わかった。
じゃあ、お金貸してくれない?
王都を出て、何処かへ移るから、まとまったお金を貸してよ。
落ち着いたら返すから、ね?」
絶対返す気の無いまとまった額のお金を要求されて、ウェズリーは彼女のたくましさに呆れ、だが可笑しくて笑ってしまった。
そうだった、ミシェルは何度も俺を笑わせてくれた。
可愛いだけじゃなくて、彼女と居ると俺は楽しかったから惹かれたんだった。
「いいよ、貸してあげるよ。
でも今は手持ちがないから、ウチへ取りに戻ろう。
一緒に来るかい?
君が行く街まで送るように、ウチの御者に申し付けてあげるよ」
自分が振った男に堂々とお金を貸してくれと言う、ふてぶてしさとこの美貌があれば、ミシェルはどこへ行っても何とかやっていけるような気がする。
噴水のへりからミシェルに手を貸して立ち上がらせ、彼女のバッグを持った。
もうエスコートの手は差し出さない。
それに気付いたミシェルが少し寂しげに見えたが、今度は見ていない振りが出来た。
「ウェズリー、あれ……」
歩き始めようとすると、ミシェルが向こうを指差した。
そこには人混みの切れ目から見えたオスカーとロザリンドの姿があった。
「なんだよ、あいつら……カップル?」
忌々しそうにミシェルがふたりを見て呟いた。
彼女の言う通り、楽しそうに笑いながら手を繋いで歩くふたりは、恋人同士以外の何者にも見えなかった。
平民である王都民の祭りに紛れるように、普段よりシンプルな服装のふたりだったが、それでもやはり滲み出る貴族の雰囲気は隠せていなかったので、彼等の周囲にだけ少し間が空いていた。
通りすぎた後も振り返って見ている者達も居る。
良い意味でも悪い意味でも目立ち過ぎる、お互いしか見えていない美しいふたりだった。
夜に体調が悪いはずのオスカーを連れていく、と言われていたが。
遠くからだが、彼はロザリンドと居て絶好調に見えた。
事情が変わってきたのかも?と、ウェズリーは広場を横切ってふたりの方へ歩き始めた。
その時、彼等の後を歩いている男の存在に気付いた。
一定の間隔を空けているのか、ふたりが立ち止まって露店を覗いていると、男の歩みも止まっていた。
男の雰囲気からは祭りを楽しんでいる様子は伺えず、何らかの目的があってコルテス兄妹の後をつけているのが見て取れた。
背が高くがっしりとした体格の、黒髪短髪の男だ。
何故だか良くない予感がした。
30
お気に入りに追加
693
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる