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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第37話
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今日はロザリンドに頼まれていた件で下見に来ていたウェズリーだった。
婚約破棄の直後はロザリンドの母親から睨まれていたが、主のランドールに背いてでも、ロザリンドの純潔を守る為に協力しようとしたウェズリーを侯爵夫人は感謝してくれて。
以前と変わりなく両家は(本当に緩い間柄なので) 付き合いを続けていた。
物凄い勢いで周囲の人間を蹴散らして、ランドールに連れ去られたロザリンドを追いかけたオスカーの必死の形相は忘れられない。
あれはシスコンなんていうレベルじゃないよね、とそれからは幼馴染みの兄妹を密かに応援しているウェズリーだ。
今夜の話もロザリンドから詳しく聞かされていないので、それが何の役割かをわからないままに頼まれたのだが、喜んで協力を了承した。
『詳しくは言えないけれど、祭りの夜、20時にホテルバーモントの出来るだけ近くに馬車を停めて待ってて。
体調を崩しているオスカーを連れて行くから、私達をコルテスの裏門まで乗せて欲しいの。
誰にも言わないと誓って?』
祭りの夜なので通常のように、ホテルに馬車を横付けすることは出来ないだろうから、どの辺りに停車出来るかの下見に来た。
そして帰りがけに、ホテルのあるラグー通りを少し歩いた辺りでミシェルを見かけて声をかけたのだ。
「もう王都に居ても、王太子殿下とはどうにもならないのよね……」
「……多分ね」
「愛妾にさえなれないなら、付き合ったって意味なくない?
……ったく、さぁ!
でも、デブの5番目の嫁になんかなりたくないのよ。
貴方、もう一度私と付き合わない?」
ミシェルが流していたはずの涙はいつの間にか止まっていて、彼女は顔を上げ背筋を伸ばして、キラキラした瞳で真正面からウェズリーを見つめた。
「ごめん……それはもういいかな」
今さらミシェルと交際再開は考えられない。
「あそ、わかった。
じゃあ、お金貸してくれない?
王都を出て、何処かへ移るから、まとまったお金を貸してよ。
落ち着いたら返すから、ね?」
絶対返す気の無いまとまった額のお金を要求されて、ウェズリーは彼女のたくましさに呆れ、だが可笑しくて笑ってしまった。
そうだった、ミシェルは何度も俺を笑わせてくれた。
可愛いだけじゃなくて、彼女と居ると俺は楽しかったから惹かれたんだった。
「いいよ、貸してあげるよ。
でも今は手持ちがないから、ウチへ取りに戻ろう。
一緒に来るかい?
君が行く街まで送るように、ウチの御者に申し付けてあげるよ」
自分が振った男に堂々とお金を貸してくれと言う、ふてぶてしさとこの美貌があれば、ミシェルはどこへ行っても何とかやっていけるような気がする。
噴水のへりからミシェルに手を貸して立ち上がらせ、彼女のバッグを持った。
もうエスコートの手は差し出さない。
それに気付いたミシェルが少し寂しげに見えたが、今度は見ていない振りが出来た。
「ウェズリー、あれ……」
歩き始めようとすると、ミシェルが向こうを指差した。
そこには人混みの切れ目から見えたオスカーとロザリンドの姿があった。
「なんだよ、あいつら……カップル?」
忌々しそうにミシェルがふたりを見て呟いた。
彼女の言う通り、楽しそうに笑いながら手を繋いで歩くふたりは、恋人同士以外の何者にも見えなかった。
平民である王都民の祭りに紛れるように、普段よりシンプルな服装のふたりだったが、それでもやはり滲み出る貴族の雰囲気は隠せていなかったので、彼等の周囲にだけ少し間が空いていた。
通りすぎた後も振り返って見ている者達も居る。
良い意味でも悪い意味でも目立ち過ぎる、お互いしか見えていない美しいふたりだった。
夜に体調が悪いはずのオスカーを連れていく、と言われていたが。
遠くからだが、彼はロザリンドと居て絶好調に見えた。
事情が変わってきたのかも?と、ウェズリーは広場を横切ってふたりの方へ歩き始めた。
その時、彼等の後を歩いている男の存在に気付いた。
一定の間隔を空けているのか、ふたりが立ち止まって露店を覗いていると、男の歩みも止まっていた。
男の雰囲気からは祭りを楽しんでいる様子は伺えず、何らかの目的があってコルテス兄妹の後をつけているのが見て取れた。
背が高くがっしりとした体格の、黒髪短髪の男だ。
何故だか良くない予感がした。
婚約破棄の直後はロザリンドの母親から睨まれていたが、主のランドールに背いてでも、ロザリンドの純潔を守る為に協力しようとしたウェズリーを侯爵夫人は感謝してくれて。
以前と変わりなく両家は(本当に緩い間柄なので) 付き合いを続けていた。
物凄い勢いで周囲の人間を蹴散らして、ランドールに連れ去られたロザリンドを追いかけたオスカーの必死の形相は忘れられない。
あれはシスコンなんていうレベルじゃないよね、とそれからは幼馴染みの兄妹を密かに応援しているウェズリーだ。
今夜の話もロザリンドから詳しく聞かされていないので、それが何の役割かをわからないままに頼まれたのだが、喜んで協力を了承した。
『詳しくは言えないけれど、祭りの夜、20時にホテルバーモントの出来るだけ近くに馬車を停めて待ってて。
体調を崩しているオスカーを連れて行くから、私達をコルテスの裏門まで乗せて欲しいの。
誰にも言わないと誓って?』
祭りの夜なので通常のように、ホテルに馬車を横付けすることは出来ないだろうから、どの辺りに停車出来るかの下見に来た。
そして帰りがけに、ホテルのあるラグー通りを少し歩いた辺りでミシェルを見かけて声をかけたのだ。
「もう王都に居ても、王太子殿下とはどうにもならないのよね……」
「……多分ね」
「愛妾にさえなれないなら、付き合ったって意味なくない?
……ったく、さぁ!
でも、デブの5番目の嫁になんかなりたくないのよ。
貴方、もう一度私と付き合わない?」
ミシェルが流していたはずの涙はいつの間にか止まっていて、彼女は顔を上げ背筋を伸ばして、キラキラした瞳で真正面からウェズリーを見つめた。
「ごめん……それはもういいかな」
今さらミシェルと交際再開は考えられない。
「あそ、わかった。
じゃあ、お金貸してくれない?
王都を出て、何処かへ移るから、まとまったお金を貸してよ。
落ち着いたら返すから、ね?」
絶対返す気の無いまとまった額のお金を要求されて、ウェズリーは彼女のたくましさに呆れ、だが可笑しくて笑ってしまった。
そうだった、ミシェルは何度も俺を笑わせてくれた。
可愛いだけじゃなくて、彼女と居ると俺は楽しかったから惹かれたんだった。
「いいよ、貸してあげるよ。
でも今は手持ちがないから、ウチへ取りに戻ろう。
一緒に来るかい?
君が行く街まで送るように、ウチの御者に申し付けてあげるよ」
自分が振った男に堂々とお金を貸してくれと言う、ふてぶてしさとこの美貌があれば、ミシェルはどこへ行っても何とかやっていけるような気がする。
噴水のへりからミシェルに手を貸して立ち上がらせ、彼女のバッグを持った。
もうエスコートの手は差し出さない。
それに気付いたミシェルが少し寂しげに見えたが、今度は見ていない振りが出来た。
「ウェズリー、あれ……」
歩き始めようとすると、ミシェルが向こうを指差した。
そこには人混みの切れ目から見えたオスカーとロザリンドの姿があった。
「なんだよ、あいつら……カップル?」
忌々しそうにミシェルがふたりを見て呟いた。
彼女の言う通り、楽しそうに笑いながら手を繋いで歩くふたりは、恋人同士以外の何者にも見えなかった。
平民である王都民の祭りに紛れるように、普段よりシンプルな服装のふたりだったが、それでもやはり滲み出る貴族の雰囲気は隠せていなかったので、彼等の周囲にだけ少し間が空いていた。
通りすぎた後も振り返って見ている者達も居る。
良い意味でも悪い意味でも目立ち過ぎる、お互いしか見えていない美しいふたりだった。
夜に体調が悪いはずのオスカーを連れていく、と言われていたが。
遠くからだが、彼はロザリンドと居て絶好調に見えた。
事情が変わってきたのかも?と、ウェズリーは広場を横切ってふたりの方へ歩き始めた。
その時、彼等の後を歩いている男の存在に気付いた。
一定の間隔を空けているのか、ふたりが立ち止まって露店を覗いていると、男の歩みも止まっていた。
男の雰囲気からは祭りを楽しんでいる様子は伺えず、何らかの目的があってコルテス兄妹の後をつけているのが見て取れた。
背が高くがっしりとした体格の、黒髪短髪の男だ。
何故だか良くない予感がした。
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