【完結】原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

Mimi

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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第30話

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 高等部に進学してしばらくすると、ヒロインのミシェルと攻略対象者達の交流が始まった。

 グレンジャーも彼女が水を掛けられてびしょ濡れになったところに行き合わせて、風魔法で乾かしてあげてから親しくしていた。
 ストーリー的にはグレンジャーはミシェルを愛しているのだが、彼からはそんな感じは受けず、あくまで友人のようなスタンスだった。


「お前が最近、仲がいいミシェル・フライ嬢はどんなひとなんだ?」

「ミシェルってなぁ、悪い子やないけど……
 思い込みが激しい、ってゆうかな~」


 グレンジャーが話す時々出る生国の訛りは、ミカミの世界での関西弁のそれに近い。
 関西風イントネーションで話す陰気なはずの魔法科優等生は、オスカーの問いに笑いながら答えた。


「やたらと、今まで寂しかったよね?とか、お義父様と一度良く話してみたら?とか、勧めてくるからさぁ。
 なんや、それ、とか結構あるな~」

「グレン、親父殿と良くしゃべってんのにな」

 グレンジャーが義父を『親父殿』と呼んでいるので、二人の会話ではオスカーもそう呼んでいる。

 オルコット長官とはグレンジャーに誘われた彼の邸宅での夕食の際に何回か会っていて、立派な肩書きを持つ彼の義父は大きな声で笑う気のいいおっさんだ。

 生さぬ仲の思春期の息子と父は、つまらない冗談を言い合い、些細な口喧嘩もする本当の親子に見えた。
 それを見てオスカーは、コルテス侯爵と俺の関係とは違うのだと、突きつけられたような気がした。


「貴方の赤い瞳も私は気にしてない、ってゆうけど。
 俺も気にしてない、って~ゆわんけど」

 ミシェルから結構無神経な事を言われても、気のいいグレンジャーは笑っていたのだが、オスカーは
『あー、やっぱり俺はミシェル無理だ……』と彼女を恋人にする未来の事を想像して気持ちが沈んだ。


 ◇◇◇


 記憶が無いなりに色々と考えたのだが、今一つ納得出来るようなプランが浮かぶことなく、とうとう仮面祭りの日を明日に迎えてしまったオスカーだった。

 頭脳明晰と言われているオスカーなのに、何故か考えがまとまらなかった。
 仕方なくもうこうなったら行き当たりばったりで、とにかく指示メモの3点を厳守することにした。


 放課後、オスカーは学舎の待ち合いホールでロザリンドを待っていたところ、学苑の事務担当の女性が『預かっておりました』と、封筒を差し出してきた。
 御礼を言って受け取り、中の便箋を開いてみれば……


『明日の祭りで会いたい
 スワンの泉前で、19時に待っている
 俺はフクロウの仮面をつけている
 俺の知っている店で食事をしよう』と綴られていた。


 ダンカン・ウェイン・マーカス、兄からの呼び出しだった。
 ここまでは想定内なのに、不安になったオスカーはホールを飛び出し、魔法科の教室に駆け込んでグレンジャーを捕まえた。


「明日、18時に!
 お前の家に行ってもいいか?」

「お、おう、オスカー。
 今まで何回約束してんだよ」

 オスカーはグレンジャーに去年から何度も『仮面祭りの日の18時に』と、約束をさせていたらしい。


「……あのさぁ、一番最近は夏休み明けに確認してきただろ?
 それも忘れてんの? お前さぁ~ひとりで夜祭りなんて行って大丈夫なの?」

「……あ、ああ、そうだったよな……大丈夫だ」

「俺がお前んとこへ行ってもいいけどなぁ~?」


 沈着冷静な普段からは想像もつかない、落ち着きの無いオスカーを心配してわざと軽い調子でグレンジャーが尋ねた。
 魔法で髪を染める事を約束していたが、本調子に見えない友人を祭りに1人で行かせていいのか迷う。


 何度も俺も一緒に行こうかな、と明るく誘ってみたが。
 1人で行くから、とオスカーは頑なだった。


 髪を染めて夜の祭りに出かけるなんて、普通は身バレせずにはっちゃける為にする事だろうが、生真面目なオスカーがそんなわけはない、と信じているグレンジャーだ。


 1年前から明日の約束をするぐらいなのだ。
 余程の事情があるだろうに話してくれない事は悔しいが、多分自分を巻き込みたくないのだろう、とは想像がつく。


「いいよ、約束通りに俺が18時にお前のウチへ行くから」

「……わかったよ、待ってるからな」

「すまない、ありがとう」

 オスカーは明日の事で緊張しているのか、顔色が悪かったがグレンジャーに何度も礼を言い、帰っていった。

 その後姿を見つめるグレンジャーの赤い瞳が、暗い光を灯して揺れていた。
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