30 / 78
【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第30話
しおりを挟む
高等部に進学してしばらくすると、ヒロインのミシェルと攻略対象者達の交流が始まった。
グレンジャーも彼女が水を掛けられてびしょ濡れになったところに行き合わせて、風魔法で乾かしてあげてから親しくしていた。
ストーリー的にはグレンジャーはミシェルを愛しているのだが、彼からはそんな感じは受けず、あくまで友人のようなスタンスだった。
「お前が最近、仲がいいミシェル・フライ嬢はどんなひとなんだ?」
「ミシェルってなぁ、悪い子やないけど……
思い込みが激しい、ってゆうかな~」
グレンジャーが話す時々出る生国の訛りは、ミカミの世界での関西弁のそれに近い。
関西風イントネーションで話す陰気なはずの魔法科優等生は、オスカーの問いに笑いながら答えた。
「やたらと、今まで寂しかったよね?とか、お義父様と一度良く話してみたら?とか、勧めてくるからさぁ。
なんや、それ、とか結構あるな~」
「グレン、親父殿と良くしゃべってんのにな」
グレンジャーが義父を『親父殿』と呼んでいるので、二人の会話ではオスカーもそう呼んでいる。
オルコット長官とはグレンジャーに誘われた彼の邸宅での夕食の際に何回か会っていて、立派な肩書きを持つ彼の義父は大きな声で笑う気のいいおっさんだ。
生さぬ仲の思春期の息子と父は、つまらない冗談を言い合い、些細な口喧嘩もする本当の親子に見えた。
それを見てオスカーは、コルテス侯爵と俺の関係とは違うのだと、突きつけられたような気がした。
「貴方の赤い瞳も私は気にしてない、ってゆうけど。
俺も気にしてない、って~ゆわんけど」
ミシェルから結構無神経な事を言われても、気のいいグレンジャーは笑っていたのだが、オスカーは
『あー、やっぱり俺はミシェル無理だ……』と彼女を恋人にする未来の事を想像して気持ちが沈んだ。
◇◇◇
記憶が無いなりに色々と考えたのだが、今一つ納得出来るようなプランが浮かぶことなく、とうとう仮面祭りの日を明日に迎えてしまったオスカーだった。
頭脳明晰と言われているオスカーなのに、何故か考えがまとまらなかった。
仕方なくもうこうなったら行き当たりばったりで、とにかく指示メモの3点を厳守することにした。
放課後、オスカーは学舎の待ち合いホールでロザリンドを待っていたところ、学苑の事務担当の女性が『預かっておりました』と、封筒を差し出してきた。
御礼を言って受け取り、中の便箋を開いてみれば……
『明日の祭りで会いたい
スワンの泉前で、19時に待っている
俺はフクロウの仮面をつけている
俺の知っている店で食事をしよう』と綴られていた。
ダンカン・ウェイン・マーカス、兄からの呼び出しだった。
ここまでは想定内なのに、不安になったオスカーはホールを飛び出し、魔法科の教室に駆け込んでグレンジャーを捕まえた。
「明日、18時に!
お前の家に行ってもいいか?」
「お、おう、オスカー。
今まで何回約束してんだよ」
オスカーはグレンジャーに去年から何度も『仮面祭りの日の18時に』と、約束をさせていたらしい。
「……あのさぁ、一番最近は夏休み明けに確認してきただろ?
それも忘れてんの? お前さぁ~ひとりで夜祭りなんて行って大丈夫なの?」
「……あ、ああ、そうだったよな……大丈夫だ」
「俺がお前んとこへ行ってもいいけどなぁ~?」
沈着冷静な普段からは想像もつかない、落ち着きの無いオスカーを心配してわざと軽い調子でグレンジャーが尋ねた。
魔法で髪を染める事を約束していたが、本調子に見えない友人を祭りに1人で行かせていいのか迷う。
何度も俺も一緒に行こうかな、と明るく誘ってみたが。
1人で行くから、とオスカーは頑なだった。
髪を染めて夜の祭りに出かけるなんて、普通は身バレせずにはっちゃける為にする事だろうが、生真面目なオスカーがそんなわけはない、と信じているグレンジャーだ。
1年前から明日の約束をするぐらいなのだ。
余程の事情があるだろうに話してくれない事は悔しいが、多分自分を巻き込みたくないのだろう、とは想像がつく。
「いいよ、約束通りに俺が18時にお前のウチへ行くから」
「……わかったよ、待ってるからな」
「すまない、ありがとう」
オスカーは明日の事で緊張しているのか、顔色が悪かったがグレンジャーに何度も礼を言い、帰っていった。
その後姿を見つめるグレンジャーの赤い瞳が、暗い光を灯して揺れていた。
グレンジャーも彼女が水を掛けられてびしょ濡れになったところに行き合わせて、風魔法で乾かしてあげてから親しくしていた。
ストーリー的にはグレンジャーはミシェルを愛しているのだが、彼からはそんな感じは受けず、あくまで友人のようなスタンスだった。
「お前が最近、仲がいいミシェル・フライ嬢はどんなひとなんだ?」
「ミシェルってなぁ、悪い子やないけど……
思い込みが激しい、ってゆうかな~」
グレンジャーが話す時々出る生国の訛りは、ミカミの世界での関西弁のそれに近い。
関西風イントネーションで話す陰気なはずの魔法科優等生は、オスカーの問いに笑いながら答えた。
「やたらと、今まで寂しかったよね?とか、お義父様と一度良く話してみたら?とか、勧めてくるからさぁ。
なんや、それ、とか結構あるな~」
「グレン、親父殿と良くしゃべってんのにな」
グレンジャーが義父を『親父殿』と呼んでいるので、二人の会話ではオスカーもそう呼んでいる。
オルコット長官とはグレンジャーに誘われた彼の邸宅での夕食の際に何回か会っていて、立派な肩書きを持つ彼の義父は大きな声で笑う気のいいおっさんだ。
生さぬ仲の思春期の息子と父は、つまらない冗談を言い合い、些細な口喧嘩もする本当の親子に見えた。
それを見てオスカーは、コルテス侯爵と俺の関係とは違うのだと、突きつけられたような気がした。
「貴方の赤い瞳も私は気にしてない、ってゆうけど。
俺も気にしてない、って~ゆわんけど」
ミシェルから結構無神経な事を言われても、気のいいグレンジャーは笑っていたのだが、オスカーは
『あー、やっぱり俺はミシェル無理だ……』と彼女を恋人にする未来の事を想像して気持ちが沈んだ。
◇◇◇
記憶が無いなりに色々と考えたのだが、今一つ納得出来るようなプランが浮かぶことなく、とうとう仮面祭りの日を明日に迎えてしまったオスカーだった。
頭脳明晰と言われているオスカーなのに、何故か考えがまとまらなかった。
仕方なくもうこうなったら行き当たりばったりで、とにかく指示メモの3点を厳守することにした。
放課後、オスカーは学舎の待ち合いホールでロザリンドを待っていたところ、学苑の事務担当の女性が『預かっておりました』と、封筒を差し出してきた。
御礼を言って受け取り、中の便箋を開いてみれば……
『明日の祭りで会いたい
スワンの泉前で、19時に待っている
俺はフクロウの仮面をつけている
俺の知っている店で食事をしよう』と綴られていた。
ダンカン・ウェイン・マーカス、兄からの呼び出しだった。
ここまでは想定内なのに、不安になったオスカーはホールを飛び出し、魔法科の教室に駆け込んでグレンジャーを捕まえた。
「明日、18時に!
お前の家に行ってもいいか?」
「お、おう、オスカー。
今まで何回約束してんだよ」
オスカーはグレンジャーに去年から何度も『仮面祭りの日の18時に』と、約束をさせていたらしい。
「……あのさぁ、一番最近は夏休み明けに確認してきただろ?
それも忘れてんの? お前さぁ~ひとりで夜祭りなんて行って大丈夫なの?」
「……あ、ああ、そうだったよな……大丈夫だ」
「俺がお前んとこへ行ってもいいけどなぁ~?」
沈着冷静な普段からは想像もつかない、落ち着きの無いオスカーを心配してわざと軽い調子でグレンジャーが尋ねた。
魔法で髪を染める事を約束していたが、本調子に見えない友人を祭りに1人で行かせていいのか迷う。
何度も俺も一緒に行こうかな、と明るく誘ってみたが。
1人で行くから、とオスカーは頑なだった。
髪を染めて夜の祭りに出かけるなんて、普通は身バレせずにはっちゃける為にする事だろうが、生真面目なオスカーがそんなわけはない、と信じているグレンジャーだ。
1年前から明日の約束をするぐらいなのだ。
余程の事情があるだろうに話してくれない事は悔しいが、多分自分を巻き込みたくないのだろう、とは想像がつく。
「いいよ、約束通りに俺が18時にお前のウチへ行くから」
「……わかったよ、待ってるからな」
「すまない、ありがとう」
オスカーは明日の事で緊張しているのか、顔色が悪かったがグレンジャーに何度も礼を言い、帰っていった。
その後姿を見つめるグレンジャーの赤い瞳が、暗い光を灯して揺れていた。
34
お気に入りに追加
682
あなたにおすすめの小説
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる