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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
第29話
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オスカーが学苑で使用するペンケースの中に入っていた一枚のメモには、
『1.祭りに出かける前に、グレンジャーに髪を染めて貰うこと
2.身元がバレないように仮面は外さないこと
3.ダンカンに勧められたものには絶対に手をつけないこと(媚薬盛られる)』と、3点が記されていた。
多分、物語の記憶が日々失われていくことを恐れたオスカー自身がこれからの自分に、書き残したメモなのだろう。
前世や『乙花』の事を忘れ始めていることをようやく自覚したオスカーにとって『ちょっと前の俺、教えてくれてありがとう』しかない。
現世の事に関しては忘れること等ないので、その指示メモがあれば仮面祭りの夜を乗り切れそうな気がする。
それにしても、1と2はともかくとして。
3の内容が酷い。
兄のダンカンが媚薬を盛ってくるなんて。
5年前にコルテス侯爵家の後継となったオスカーを妬んだ次兄ダンカンは未だに改心せずに、辺境騎士団を脱走してまでオスカーに事を仕掛けてくるつもりらしい。
義父に伝えて、ダンカンを捕らえて貰うことは侯爵家の力を持ってすれば簡単な事だが、もしそうなれば実家であるウェイン家にまで類が及んでしまうかも、とオスカーは恐れた。
よって、他に知られることなく解決しようとして、ひとりでダンカンに会いに行き媚薬を盛られてしまうのだろう。
ダンカンの企みは容易に推察出来る。
媚薬で朦朧としたオスカーに、女性をあてがい。
その盛り上がった時点で現場を誰かに押さえさせる計画だと思われた。
未成年の令息が起こしたスキャンダルによって、名家コルテス侯爵家の威信は地に落ち、汚名をもたらした原因のオスカーは絶縁されるだろう。
最近の王国はランドール第2王子殿下の恥ずべき行状から、全体的に未成年の不純交遊に厳しい処分を求める風潮になってきている。
特にオスカーは『王族に鉄槌を下した男』と、名声が高まっているところに本人の猥褻行為発覚は、どれ程侯爵家に権力があっても揉み消す事は出来ない大きさの、スキャンダルになるのは明白だ。
流石に今さら自分が後継として代わりに入りたいとは思っていないだろうが、憎いオスカーと年若かった自分を過酷な辺境へ送り込んだコルテス侯爵に、ダンカンは逆恨みで復讐するつもりだ。
5年の歳月もダンカンの捻れてしまった心根は矯正出来なかったのだ。
一連の流れを知っていたオスカーは、ダンカン一人だけを潰す方法を、何度も考えていたはずなのに。
指示メモがあるように、それをどこかに隠していないかと持ち物や部屋を探し回ったが、それらしきものは見つからず。
案の定、途中で自分が必死で何を探しているのかも忘れてしまうオスカーだった。
『肝心のプランをどうして残しておかないんだ、俺は』
下手に文書にして誰かに見つかることを以前のオスカーは恐れていたのかも知れないが、今から新しく対策を考えなくてはいけない。
とりあえず、指示メモ通りに
『仮面祭りの夜に髪を染めて欲しい』と、魔法科の友人グレンジャーと約束をする事にした。
◇◇◇
普通科で主に領地経営や国政に関する授業を選択しているオスカーと、魔法省長官の息子グレンジャーとの共通点と言えば『養子であること』その一点のみだが、ふたりは良い友人関係を中等部の頃から続けている。
最初に声をかけたのはオスカーの方だ。
中等部ではまだミシェルは現れないのだが、ウェズリーやその他の攻略対象者は既に学苑生活を始めていた。
グレンジャーも彼等のひとりだった。
紺色の髪に赤い瞳を持つ彼は生粋のルーランド人ではない。
母国で食い詰めて、豊かなルーランド王国に仕事を求めて移住してきた両親に連れられて入国したのは7歳の頃。
程なくして働きづめで体力の低下していた両親は流行病で立て続けに亡くなった。
王国には親族も、両親の友人もいなかったグレンジャーを引き取って育ててくれるような人間はいなかったので、彼は養父のオルコット長官の目に留まるまで、孤児院で身体中を駆け巡る魔力の発動に抗い続けたのだった。
『乙恋』でのグレンジャーはどちらかと言えば、ネガティブなキャラだったのだが、初対面の13歳の彼は明るい少年だった。
友人も口数も少なくて、前髪を伸ばして特徴的な赤い瞳を見せたがらない、いつも下を向いている陰気な魔法使い。
それがグレンジャー・オルコットなのに、実際の彼は良く笑い、自分からクラスメートにどんどん声をかけるようなキャラに豹変していた。
周囲の人間からの注目を避けるように隠している設定の赤い瞳を、アピールするように短くした前髪を更にかきあげて
『他の誰も持ってない赤い瞳だぞ、俺だけのチャームポイントだ、って女の子達も言うしさ』なんて笑うのだった。
ミシェルとは直接言葉を交わしたくないけれど、彼女の情報が欲しいのもあったし、他にも確認したい事もあって。
お喋りなグレンジャーと親交を持っておこうと計算して友達になったのに、彼との時間が楽しすぎてそれだけではなくなっていた。
『1.祭りに出かける前に、グレンジャーに髪を染めて貰うこと
2.身元がバレないように仮面は外さないこと
3.ダンカンに勧められたものには絶対に手をつけないこと(媚薬盛られる)』と、3点が記されていた。
多分、物語の記憶が日々失われていくことを恐れたオスカー自身がこれからの自分に、書き残したメモなのだろう。
前世や『乙花』の事を忘れ始めていることをようやく自覚したオスカーにとって『ちょっと前の俺、教えてくれてありがとう』しかない。
現世の事に関しては忘れること等ないので、その指示メモがあれば仮面祭りの夜を乗り切れそうな気がする。
それにしても、1と2はともかくとして。
3の内容が酷い。
兄のダンカンが媚薬を盛ってくるなんて。
5年前にコルテス侯爵家の後継となったオスカーを妬んだ次兄ダンカンは未だに改心せずに、辺境騎士団を脱走してまでオスカーに事を仕掛けてくるつもりらしい。
義父に伝えて、ダンカンを捕らえて貰うことは侯爵家の力を持ってすれば簡単な事だが、もしそうなれば実家であるウェイン家にまで類が及んでしまうかも、とオスカーは恐れた。
よって、他に知られることなく解決しようとして、ひとりでダンカンに会いに行き媚薬を盛られてしまうのだろう。
ダンカンの企みは容易に推察出来る。
媚薬で朦朧としたオスカーに、女性をあてがい。
その盛り上がった時点で現場を誰かに押さえさせる計画だと思われた。
未成年の令息が起こしたスキャンダルによって、名家コルテス侯爵家の威信は地に落ち、汚名をもたらした原因のオスカーは絶縁されるだろう。
最近の王国はランドール第2王子殿下の恥ずべき行状から、全体的に未成年の不純交遊に厳しい処分を求める風潮になってきている。
特にオスカーは『王族に鉄槌を下した男』と、名声が高まっているところに本人の猥褻行為発覚は、どれ程侯爵家に権力があっても揉み消す事は出来ない大きさの、スキャンダルになるのは明白だ。
流石に今さら自分が後継として代わりに入りたいとは思っていないだろうが、憎いオスカーと年若かった自分を過酷な辺境へ送り込んだコルテス侯爵に、ダンカンは逆恨みで復讐するつもりだ。
5年の歳月もダンカンの捻れてしまった心根は矯正出来なかったのだ。
一連の流れを知っていたオスカーは、ダンカン一人だけを潰す方法を、何度も考えていたはずなのに。
指示メモがあるように、それをどこかに隠していないかと持ち物や部屋を探し回ったが、それらしきものは見つからず。
案の定、途中で自分が必死で何を探しているのかも忘れてしまうオスカーだった。
『肝心のプランをどうして残しておかないんだ、俺は』
下手に文書にして誰かに見つかることを以前のオスカーは恐れていたのかも知れないが、今から新しく対策を考えなくてはいけない。
とりあえず、指示メモ通りに
『仮面祭りの夜に髪を染めて欲しい』と、魔法科の友人グレンジャーと約束をする事にした。
◇◇◇
普通科で主に領地経営や国政に関する授業を選択しているオスカーと、魔法省長官の息子グレンジャーとの共通点と言えば『養子であること』その一点のみだが、ふたりは良い友人関係を中等部の頃から続けている。
最初に声をかけたのはオスカーの方だ。
中等部ではまだミシェルは現れないのだが、ウェズリーやその他の攻略対象者は既に学苑生活を始めていた。
グレンジャーも彼等のひとりだった。
紺色の髪に赤い瞳を持つ彼は生粋のルーランド人ではない。
母国で食い詰めて、豊かなルーランド王国に仕事を求めて移住してきた両親に連れられて入国したのは7歳の頃。
程なくして働きづめで体力の低下していた両親は流行病で立て続けに亡くなった。
王国には親族も、両親の友人もいなかったグレンジャーを引き取って育ててくれるような人間はいなかったので、彼は養父のオルコット長官の目に留まるまで、孤児院で身体中を駆け巡る魔力の発動に抗い続けたのだった。
『乙恋』でのグレンジャーはどちらかと言えば、ネガティブなキャラだったのだが、初対面の13歳の彼は明るい少年だった。
友人も口数も少なくて、前髪を伸ばして特徴的な赤い瞳を見せたがらない、いつも下を向いている陰気な魔法使い。
それがグレンジャー・オルコットなのに、実際の彼は良く笑い、自分からクラスメートにどんどん声をかけるようなキャラに豹変していた。
周囲の人間からの注目を避けるように隠している設定の赤い瞳を、アピールするように短くした前髪を更にかきあげて
『他の誰も持ってない赤い瞳だぞ、俺だけのチャームポイントだ、って女の子達も言うしさ』なんて笑うのだった。
ミシェルとは直接言葉を交わしたくないけれど、彼女の情報が欲しいのもあったし、他にも確認したい事もあって。
お喋りなグレンジャーと親交を持っておこうと計算して友達になったのに、彼との時間が楽しすぎてそれだけではなくなっていた。
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